22 / 22
エピローグ
しおりを挟む
部屋の隅に色とりどりの箱が多数ある。一々リボンを巻かれたそれらは、おぞましいことになんと全て私への贈り物らしい。開けることもなく放置している。日が経つにつれ量が増えていく。
あなたといるのが辛い。再三訴えた言葉だ。彼は私の言葉を無視するのが酷く上手で、毎夜部屋を訪れる。窓に鉄格子の張られたこんな部屋にようこそ。
好きだった。その気持ちが大きな杭になって過去に突き刺さる。外へは出してくれない。日差しの射し込む気持ちのいい部屋で、ベッドに横になって日がな一日眠って過ごす。彼が訪れたときに目を覚まして、人形のように好き放題されて、それでまた眠る。食べて洗われて寝る。まるで人形そのもの。アルバートなんて人形遊びがしたいだけの大きな子供だ。
私は徐々に憔悴してしまった。拘束具が重くて、動くのも辛い。この世は辛いことだらけだ。
過去がぐるぐると頭を回る。それから逃れようと眠りにつく。夢の中で私は、逃げ切れなかった過去に糾弾されるか、アルバートに抱かれている。大体二択。
酷い死に様だったカケル君。普通に死ぬこともできないなんて、と恨み言を呟きながら近付いてくる。彼が近付くと、それに伴って私の体も変質していく。皮が剥がれていく。釘が突き刺される。火であぶられて破片が落ちる。仕方ないな、カケル君の味わった痛みだものな。ただ夢の中だから、痛覚が伝わらないのが我ながら不公平だと思う。
マリア。助けてくれると、言っていた。アルバートがどういう人なのか知っていたんだ。簡単に死んでしまう程度の力で、アルバートに逆らってまで、私を連れ出そうとしてくれた。ぽたぽたと顔に血が落ちてくる夢を何度も見る。
夢は覚めてしまえばただの夢だ。ただ、夢の中でアルバートに抱かれると、高確率で夢から覚めても抱かれているのだ。何の冗談だ。夢だけど夢じゃなかった。
繰り返し行われる行為。終わりのない生活。疲れてしまった。自害しようにも、拘束された手足では難しい、道具もない。舌をかみ切って喉に詰まらせる? そこまで気合い入ったことする度胸もないんだわ。
荒れることのない水辺のように静かに息をしていたら、食事の匂いが妙に気持ち悪くて吐き戻してしまった。どうしたんだろう。ただの穀物だったのに。
慌ただしい周囲に気付かず、ぼーっと過ごし続けていたら、ゆっくりと腹部が歪に膨らみ始めた。アルバートが愛おしげにそれを撫でる。乱暴なことは何もしなくなって、拘束も随分緩くなっていた。時々腹の中で何かが動くんだ。
涙は涸れた。もうどこへも行けない。
「ずっと欲しかったんだ。ありがとう……」
アルバートは私に寄り添って離れることがない。仕事も疎かにし始めたらしい。町の人々は大丈夫なんだろうか。いや、町の人々の心配をする余裕はない。
私は大きなお腹を撫でる。チャラにならないだろうか。私は幸せにならなくても、この子が幸せになればそれで、なんかチャラになったりしないだろうか。そんな期待を込めて、産まれる時を心待ちにする。彼が欲しがっていた家族だ。
産まれる子の首を絞める自分を想像する。どうせ、できない。一矢報いるなんて考えない方がいい。全て諦めよう。それが一番マシなんだから。
心が渇いている。彼は幸せそうだ。私も、笑った。
あなたといるのが辛い。再三訴えた言葉だ。彼は私の言葉を無視するのが酷く上手で、毎夜部屋を訪れる。窓に鉄格子の張られたこんな部屋にようこそ。
好きだった。その気持ちが大きな杭になって過去に突き刺さる。外へは出してくれない。日差しの射し込む気持ちのいい部屋で、ベッドに横になって日がな一日眠って過ごす。彼が訪れたときに目を覚まして、人形のように好き放題されて、それでまた眠る。食べて洗われて寝る。まるで人形そのもの。アルバートなんて人形遊びがしたいだけの大きな子供だ。
私は徐々に憔悴してしまった。拘束具が重くて、動くのも辛い。この世は辛いことだらけだ。
過去がぐるぐると頭を回る。それから逃れようと眠りにつく。夢の中で私は、逃げ切れなかった過去に糾弾されるか、アルバートに抱かれている。大体二択。
酷い死に様だったカケル君。普通に死ぬこともできないなんて、と恨み言を呟きながら近付いてくる。彼が近付くと、それに伴って私の体も変質していく。皮が剥がれていく。釘が突き刺される。火であぶられて破片が落ちる。仕方ないな、カケル君の味わった痛みだものな。ただ夢の中だから、痛覚が伝わらないのが我ながら不公平だと思う。
マリア。助けてくれると、言っていた。アルバートがどういう人なのか知っていたんだ。簡単に死んでしまう程度の力で、アルバートに逆らってまで、私を連れ出そうとしてくれた。ぽたぽたと顔に血が落ちてくる夢を何度も見る。
夢は覚めてしまえばただの夢だ。ただ、夢の中でアルバートに抱かれると、高確率で夢から覚めても抱かれているのだ。何の冗談だ。夢だけど夢じゃなかった。
繰り返し行われる行為。終わりのない生活。疲れてしまった。自害しようにも、拘束された手足では難しい、道具もない。舌をかみ切って喉に詰まらせる? そこまで気合い入ったことする度胸もないんだわ。
荒れることのない水辺のように静かに息をしていたら、食事の匂いが妙に気持ち悪くて吐き戻してしまった。どうしたんだろう。ただの穀物だったのに。
慌ただしい周囲に気付かず、ぼーっと過ごし続けていたら、ゆっくりと腹部が歪に膨らみ始めた。アルバートが愛おしげにそれを撫でる。乱暴なことは何もしなくなって、拘束も随分緩くなっていた。時々腹の中で何かが動くんだ。
涙は涸れた。もうどこへも行けない。
「ずっと欲しかったんだ。ありがとう……」
アルバートは私に寄り添って離れることがない。仕事も疎かにし始めたらしい。町の人々は大丈夫なんだろうか。いや、町の人々の心配をする余裕はない。
私は大きなお腹を撫でる。チャラにならないだろうか。私は幸せにならなくても、この子が幸せになればそれで、なんかチャラになったりしないだろうか。そんな期待を込めて、産まれる時を心待ちにする。彼が欲しがっていた家族だ。
産まれる子の首を絞める自分を想像する。どうせ、できない。一矢報いるなんて考えない方がいい。全て諦めよう。それが一番マシなんだから。
心が渇いている。彼は幸せそうだ。私も、笑った。
0
お気に入りに追加
21
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
人狼さんの封印といた
ぼたにかる
恋愛
現代日本の女子高生視点
異世界の人間によって足の腱を切られて歩行不能に(すぐに移動手段2種確保)されたけど、助けてくれた人狼さんにとろとろに愛されて嫁化、思考も人外よりになっていく系のお話。
注意:冒頭に残酷描写あります。
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
絶倫獣人は溺愛幼なじみを懐柔したい
なかな悠桃
恋愛
前作、“静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ”のヒーロー視点になってます。そちらも読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。
※誤字脱字等確認しておりますが見落としなどあると思います。ご了承ください。
皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~
一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。
だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。
そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます
スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!?
「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!!
『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。
・R18描写のある話には※を付けています。
・別サイトにも掲載しています。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
【R18】竜王宮での禁忌の秘閨 -双子の王子と竜姫と寵姫-
猫まんじゅう
恋愛
双子の兄(竜王子)の妹(竜姫)に対する狂愛。
竜姫と彼女の寵姫クレハの歪んでいく愛情と性癖。
四人の愛が交差する時、境界線すらも消し去りぐちゃぐちゃに混ざり合う。四人の愛は、”異常”。
獣人の住む竜王の統べる国、ドラファルト。ここは竜王の統べる弱肉強食、男尊女卑の顕著な国。
雄や高位の者の言う事が絶対であり、独自の淫習を持ち男性(雄)が優位に立つそんな国だ。
その国の第一王女として生を受けた竜姫リューイには寵愛を捧げる相手がいた。
自身の専属メイドのクレハである。
ある日、リューイは自身も知らなかった秘密を知ってしまう。
それは夜、彼女が眠りにつくと行われる、閨での禁断の秘め事。
兄である双子の王子からの常軌を逸したものだった。
─── この獣欲の渦に呑み込まれた四人の辿り着く先に、光はあるのか?
これは竜姫リューイが、最愛の恋人クレハとの未来を夢見て希望を持ち続ける儚い恋物語。
***注意書き***
・主人公の女性二人は恋人です。GL描写があります。
・双子は異母兄弟ですが、禁断の愛です。本小説は近親相姦を勧めるものではありません。
・獣人族の話です。雄、雌表現があります。独自の単語があります。
・無理矢理・レイプ描写があります。スライム姦あり。
・結末のないダークエンドですが、女性主人公はいずれ別で投稿中の本編にてハッピーエンドを迎えます。ご安心下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる