チルアカ

藍色綿菓子

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真相・後編

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 失われていく自由。塞がれていく逃げ道。いつの間にか私は、彼の愛人のような地位にいた。
 夜が来るのが怖かった。向けられる笑顔が、重すぎる贈り物の中身が怖かった。私の悪口を言ったらしい使用人の首が庭に飾られた……。
 庭があんなに美しいのも、全て私のためだった。退屈しないようにとアルバートが命令して造ったものだ。私は日がな一日庭で過ごした。アルバートの仕事が終わると、彼が迎えに来る。まるで人形になってしまったかのような日々だった。
 そんなある日、転機が訪れた。
 拘束された人間がアルバートの前に引き連れられてきた。反発心旺盛で、暴力を受けたあとがあった。なんでも、領土内に無断で立ち入った人間だから連れてきたらしい。その着ている衣服が薄汚れてはいたものの、私の学校制服と同じだった。顔見知りの男の子。名前はカケル君。
 私はたいそう喜んだ。アルバートの横にいる私を見たカケル君は、驚きつつも嬉しそうだった。よくわからない世界で会えた同級生。嬉しいに決まってる。
 アルバートは私を凝視した。久々に笑った顔を見た、とこぼす。切ない声で私を呼んだ。ぎこちなく返事をした。アルバートは嫌そうにしながらもカケル君の滞在を許した。私は頻繁にカケル君に会いに行き、元の世界について話に花を咲かせた。
 カケル君はアルバートの屋敷に流れてくる前に、各地を転々としていたらしい。聞いた話によると、外はとても物騒なようだ。外に出なくて良かったかもしれない。
 機転を利かせて危機を脱した話などは、非常に楽しく聞くことができた。彼には知恵と運がある。
 私とカケル君が仲良く雑談するのが面白くないらしい……アルバートはカケル君を領地の外側の警備に当たらせた。たまに帰ってくる彼と話をする。時空のゆがみ、と呼ばれる物が外にはあることを知った。この世界ではない世界と繋がっている、入り口。思い切って飛び込めばもしかしたら元の世界に戻れるかもしれない。
 その話を聞いて、いてもたってもいられなくなった。
「帰らせてください」
 思い切ってアルバートに話した。こんなことを言って、どんな被害が出るか予想も付かなかった。私は土下座でもするつもりで言った。少し傲慢だったかもしれない。わかってくれるだろう? 故郷に帰りたい気持ちは誰にでもあるはず。そんな風に思っていた。
 アルバートは酷く荒れた。穏やかに激昂していた。
「大丈夫、諸悪の根源はわかってる」
 そんなことを言って、ある日見せられたのはカケル君の死体。凄惨な様子だった。各種拷問を受けた痕があった。「君が私から離れようとするから」涙が止まらなかった。
 積み重なるプレゼントの山も怖くて仕方ない。とうとう私は逃亡を図った。視界の悪い雨の日に飛び出した。売り払うつもりで持った貰い物の貴金属。……呆気なく捕まって、アルバートと過ごしたベッドの中へ逆戻り。彼は泣いていた。私も泣いていた。
 そうだ、記憶を消してしまおう。やり直すんだ。アルバートはそんな風なことを言っていた。そして二度目の「はじめまして」がやってきた。
 彼が記憶について尋ねていたのは、私がきちんと忘れていることを確認するためのものだった。ああ……。
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