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第2258話 上手くいかないものだ
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あれ? 手を伸ばしているのに、届かずに俺の左手が空を切る……届くと思っていた所に手が届かなかったのだ。少し遠く見えたが、体の位置などを考えれば届くと思っていたのに、微妙に届かない距離だったのだ。
経験不足で体の体勢を考えていなかったのだろう。そのせいで少しだけ距離が足りてなかったのだ。体勢を整えるために、楽な姿勢が取れる場所へ手を移動させる。
この先のラインを思い出し、飛び移った際に手足をかけられる場所がなかったか思考する。
一度通った道なら間違えずに帰れるのだが、それは道であって壁に存在するラインではない。そもそも一度も通ってないので、覚えようがないのだ。言ってしまえば、俯瞰的に地図を一瞬見て、目的地へ最短距離で間違いなく歩いていけみたいな感じだろう。
一種の特殊能力である、瞬間記憶能力でもない限り覚えるのは不可能だろう。それに、地図のように正しい道がかかれているわけではないので、自分で試行錯誤しないといけない状況なのだ。
それでも大きな突起に見える場所はいくつか覚えていたので、記憶を頼りに周りを探していく。もしそれに掴まれるなら、多少無理をして飛ぶ価値はあるだろう。
その突起を探してミスに気付く。
突起のように見えていたのは、下から見たからであって上からみると手を引っ掻けるところがなかったのだ。ごつごつした壁は、見る位置で表情が全く違う。下から見た時に突起に見えたのは、勝手に自分の頭で見えない部分を補完した所為だったのだ。
初めに移動しようとしていた微妙に手の届かないラインは、無理に左手をかけると右手足を壁から離さないといけなくなる。新しい所へ手を置くにしても、元々左手のあった位置に右手を置いたとしても、かなり無茶なあ体勢になる。
移動したとして、この体勢が本当に正しいのか分からない。
いったん移動して、左手足だけでどれだけ負担があるのか経験しよう。
命がけで登っているわけではないので、気軽に試せるのがいいな。高さは10メートルを超えているから、落ちる時に少し玉ひゅんするけど、この高さなら地面に落ちたところでケガもしないしな。
右手足で軽く壁を蹴り勢いを利用して、左手を目標の位置に移動させる。
結果として移動は上手くいった。だけど思っている以上に、2点で体を支えるのはしんどかった。すぐに無茶な体勢と分かっていても、右手を左手の位置に移動させる。2点での支えのままではあるが、両手になった事で少しだけ体勢が安定する。
右足の置く場所を探してみるが、やはり見当たらない。
左足のある位置に右足を置いて、左足はさらに先にある取っ掛かりに移動するしかないな。左足を置いている位置も良い所ではないのだが、それしか方法がなさそうなので実行に移る。
無茶な体勢で解決しないまま時間だけが過ぎるのが、今の俺には一番危険だ。
すぐに移動を開始する。
左足で軽く蹴り両手に力を込めて、右足を移動させた。反動を使った足の移動なので、しっかりと乗ったのかを判断できなかったが、着地と同時に右足に力を入れて踏ん張れるか確認する。
ズルッ
右足が滑り落ちそうになるが、両手に力を入れていたので何とか落ちることは回避できた。何度か足を置き直し踏ん張りがきくように調整する。
右足が乗った事を確認すると、左足を先に延ばして安定した足場に着地する。
普段体重を支えている足と違って、腕は体重を支えることを目的とした部位ではない。無茶な体勢でたまった腕の疲れをとるために、片腕ずつ手を放してブルブル振ったりして、疲れが少しでも少なくなるようにする。
それから20分程時間をかけて進んでいくが、腕の力より握力が限界に達して2度目のチャレンジも失敗する。ゴールできるとは思っていないけど、疲れが溜まってチャレンジが失敗するとは思ってなかった。
ステータスは身体能力の強化以外にも、回復速度もある程度は上がっているのに、掴める場所が無くて終了ではなく、限界が来るとは思っていなかったのだ。
状況が違うにしても、武器などを3時間近く振り続けることだってあるのに、1時間足らずで手に限界が来たことに自分でも驚いている。
体を支えたりはしていないけど、武器だって軽いものではない。俺がメインで使っている大薙刀は、武器としてはかなりの重量があり、全体で40キログラムほどある。
刃の幅が広く厚く、振り回した時の力にも耐えられるように、持ち手の部分にも金属を使っているので、普通の薙刀の数倍は重たく作られている。
訓練ではそんな武器を振り回し続けているのに、今回は1時間もしないで限界が来てしまったのだ。
手の使い方が違うにしても、ここまで差があるとは思っていなかった。
それもそのはずで、シュウは気付いていなかったが、訓練をしていても戦闘をしていても、その時間中ずっと力を入れ続けているわけではない。無意識のうちに手をグーパーしたり、疲れが抜けるように動かしているのだ。
体を魔法で乾かしてから、再び壁を見る。
移動するラインは間違っていなかったと思う。ただ、ここから見るのと、壁に張り付いてみるのでは、思っている以上にラインに差があったということだ。
そのおかげで、無茶な体勢になったり時間を無為に失って、握力が先に限界を迎えて落ちてしまった。
ステータスの無い世界で、命綱を使っていてもこんな壁を登っている、地球の人たちって本当にすげえな。身体能力もさることながら、バランスの良い肉体をしているんだろうな。
動画をいくつか見ていたけど、小柄というか俺とは違って細身なんだよな。俺はトレーニングをしているせいか、細マッチョから若干マッチョ寄りに近付いてしまったので、多少ごっつくなっている。そんな俺から見ると動画の中の人は細身なので、身長の割に小さく見える人が多い気がする。
クライミングにおいて俺のような筋肉は、無駄なのかもしれないな。クライミングに特化するなかで、肉体が適応して無駄な重さを取り除いていっているのだろう。
使っている筋肉の場所も違うのか、他のスポーツ選手と筋肉の付き方が違う気がするんだよな。
肉体の神秘だな。
経験不足で体の体勢を考えていなかったのだろう。そのせいで少しだけ距離が足りてなかったのだ。体勢を整えるために、楽な姿勢が取れる場所へ手を移動させる。
この先のラインを思い出し、飛び移った際に手足をかけられる場所がなかったか思考する。
一度通った道なら間違えずに帰れるのだが、それは道であって壁に存在するラインではない。そもそも一度も通ってないので、覚えようがないのだ。言ってしまえば、俯瞰的に地図を一瞬見て、目的地へ最短距離で間違いなく歩いていけみたいな感じだろう。
一種の特殊能力である、瞬間記憶能力でもない限り覚えるのは不可能だろう。それに、地図のように正しい道がかかれているわけではないので、自分で試行錯誤しないといけない状況なのだ。
それでも大きな突起に見える場所はいくつか覚えていたので、記憶を頼りに周りを探していく。もしそれに掴まれるなら、多少無理をして飛ぶ価値はあるだろう。
その突起を探してミスに気付く。
突起のように見えていたのは、下から見たからであって上からみると手を引っ掻けるところがなかったのだ。ごつごつした壁は、見る位置で表情が全く違う。下から見た時に突起に見えたのは、勝手に自分の頭で見えない部分を補完した所為だったのだ。
初めに移動しようとしていた微妙に手の届かないラインは、無理に左手をかけると右手足を壁から離さないといけなくなる。新しい所へ手を置くにしても、元々左手のあった位置に右手を置いたとしても、かなり無茶なあ体勢になる。
移動したとして、この体勢が本当に正しいのか分からない。
いったん移動して、左手足だけでどれだけ負担があるのか経験しよう。
命がけで登っているわけではないので、気軽に試せるのがいいな。高さは10メートルを超えているから、落ちる時に少し玉ひゅんするけど、この高さなら地面に落ちたところでケガもしないしな。
右手足で軽く壁を蹴り勢いを利用して、左手を目標の位置に移動させる。
結果として移動は上手くいった。だけど思っている以上に、2点で体を支えるのはしんどかった。すぐに無茶な体勢と分かっていても、右手を左手の位置に移動させる。2点での支えのままではあるが、両手になった事で少しだけ体勢が安定する。
右足の置く場所を探してみるが、やはり見当たらない。
左足のある位置に右足を置いて、左足はさらに先にある取っ掛かりに移動するしかないな。左足を置いている位置も良い所ではないのだが、それしか方法がなさそうなので実行に移る。
無茶な体勢で解決しないまま時間だけが過ぎるのが、今の俺には一番危険だ。
すぐに移動を開始する。
左足で軽く蹴り両手に力を込めて、右足を移動させた。反動を使った足の移動なので、しっかりと乗ったのかを判断できなかったが、着地と同時に右足に力を入れて踏ん張れるか確認する。
ズルッ
右足が滑り落ちそうになるが、両手に力を入れていたので何とか落ちることは回避できた。何度か足を置き直し踏ん張りがきくように調整する。
右足が乗った事を確認すると、左足を先に延ばして安定した足場に着地する。
普段体重を支えている足と違って、腕は体重を支えることを目的とした部位ではない。無茶な体勢でたまった腕の疲れをとるために、片腕ずつ手を放してブルブル振ったりして、疲れが少しでも少なくなるようにする。
それから20分程時間をかけて進んでいくが、腕の力より握力が限界に達して2度目のチャレンジも失敗する。ゴールできるとは思っていないけど、疲れが溜まってチャレンジが失敗するとは思ってなかった。
ステータスは身体能力の強化以外にも、回復速度もある程度は上がっているのに、掴める場所が無くて終了ではなく、限界が来るとは思っていなかったのだ。
状況が違うにしても、武器などを3時間近く振り続けることだってあるのに、1時間足らずで手に限界が来たことに自分でも驚いている。
体を支えたりはしていないけど、武器だって軽いものではない。俺がメインで使っている大薙刀は、武器としてはかなりの重量があり、全体で40キログラムほどある。
刃の幅が広く厚く、振り回した時の力にも耐えられるように、持ち手の部分にも金属を使っているので、普通の薙刀の数倍は重たく作られている。
訓練ではそんな武器を振り回し続けているのに、今回は1時間もしないで限界が来てしまったのだ。
手の使い方が違うにしても、ここまで差があるとは思っていなかった。
それもそのはずで、シュウは気付いていなかったが、訓練をしていても戦闘をしていても、その時間中ずっと力を入れ続けているわけではない。無意識のうちに手をグーパーしたり、疲れが抜けるように動かしているのだ。
体を魔法で乾かしてから、再び壁を見る。
移動するラインは間違っていなかったと思う。ただ、ここから見るのと、壁に張り付いてみるのでは、思っている以上にラインに差があったということだ。
そのおかげで、無茶な体勢になったり時間を無為に失って、握力が先に限界を迎えて落ちてしまった。
ステータスの無い世界で、命綱を使っていてもこんな壁を登っている、地球の人たちって本当にすげえな。身体能力もさることながら、バランスの良い肉体をしているんだろうな。
動画をいくつか見ていたけど、小柄というか俺とは違って細身なんだよな。俺はトレーニングをしているせいか、細マッチョから若干マッチョ寄りに近付いてしまったので、多少ごっつくなっている。そんな俺から見ると動画の中の人は細身なので、身長の割に小さく見える人が多い気がする。
クライミングにおいて俺のような筋肉は、無駄なのかもしれないな。クライミングに特化するなかで、肉体が適応して無駄な重さを取り除いていっているのだろう。
使っている筋肉の場所も違うのか、他のスポーツ選手と筋肉の付き方が違う気がするんだよな。
肉体の神秘だな。
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