ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
1,240 / 2,518

第1240話 思ったより……

しおりを挟む
 レイリーが連れて来た人材は、何か見覚えがあると思ったら、つい最近街の中で被害を気にせずに魔法をぶちかましていた不届き者だ。

「そう言う事か。確か魔法が得意だったよな。それに、そいつが相手なら遠慮や手加減は気にする必要が無いって事か?」

「そうですね。こいつは街で魔法を使ったバカなので、奴隷に落として戦闘訓練の相手や戦闘奴隷として有用な人材として便利に扱えそうです」

 確かにこちらの兵士を、格下の前衛を使って完封していただけあって、魔法の使い方や動き方が上手いのだろう。盗めるものがあるなら、ガッツリと盗んでやろう。

「おぃ、本当にこいつに勝てたら、待遇を良くしてくれるのか?」

「口の利き方には気をつけろよ。待遇が良くなっても、兵士に殴り殺されるぞ。初めは、魔法だけで戦うと思うけど、負けそうになれば近接戦も仕掛けてくると思うから、せいぜい死なないように気をつけろよ」

 レイリーは、そう魔法使いに言うと俺の方に来て「こんな感じですので、負けないように頑張ってください。ルールは何でもありで相手に負けを認めさせればいいです」と耳打ちしてくれた。

 う~む、魔法での模擬戦ではあるけど、接近戦をしてはいけない……というわけでは無いって事か。暗に負けるなと言われているような気がする。

「魔法使いにしては、筋肉の付き方が前衛っぽいな。そんな奴が、俺と魔法を中心に戦闘だと? 俺は舐められているのか? 魔法剣士だったとしても、純粋な魔法使いに魔法中心の戦闘で勝てるわけないだろ」

「あ~ぐちぐちうるさい。シュウ様の準備ができているのに、どうでもいい事を言わないでさっさと構えろ」

 こめかみに十字の血管が浮き出そうな程、怒っている様子が分かる。舐められている上に、レイリーにぞんざいに扱われたらああなるか?

「くれぐれも気を抜いてすぐ負けるんじゃないぞ。ではシュウ様、存分に楽しんでください」

 そう言って、戦闘開始の合図を出した。

 ブチ切れている相手は、色々考えるのが面倒だと言わんばかりに、サンドストームを使って来た。

 サンドストームは、技量の低い人間が使うとただの目くらましになるのだが、技量の高い人間が使うとサンドブラストのように、対象を削るような効果を出す。目が開けられなくなり、高速で砂が叩きつけられる。

 剥き出しになっている手や顔にも当たるが、俺の耐久力を考えれば大した効果は無いが、視界が確保できない状況では迂闊に動けないな。

 魔法の兆候は感覚で分かっているが、発動される魔法までは判断しにくくなっている。サンドストームがジャマーのような効果になっているため、判断しにくい感じだ。

 範囲魔法にはこういった使い方があるのか、新しい事実だな。それが分かったといって状況が良くなるわけでもない。さてどうするべきか? 俺だったらこの状況で次に取る行動は?

 追撃だよな。って事は、守る事を優先するべきか? いや違うな。今回は何かあればレイリーが介入してくれる。戦闘が始まってもこの場に残っている事を考えれば、俺の身を案じているのが分かる。

 なら色々試してもいいかもしれない。この範囲攻撃のジャマーみたいな効果は、あの魔法使いの魔力がそんな効果になっているのであれば、俺の魔力で書き換えたら何か変わるんじゃないか?

 そう考えた俺は、対抗する魔法を構築する。

 サンドストームの属性は土……魔法の優位性は、土⇒風⇒水⇒火⇒土と言うのが基本的な相性で、左が右の優位になる感じだ。上位属性の雷や複数の属性魔法だと話は変わってくるが、今回使用された魔法は属性そのままだ。

 サンドストームと言うと、土と風の複合だと思われがちだが、攻撃するサンド、砂を高速で移動させているだけなので、風属性は全く関係ないとなれば、火魔法で焼き払う感じか? それとも、魔力をそのまま放出する無属性の魔法で、あいつの魔法を上回るくらいか?

 高速で思考が走っており、ここまでで魔法を放たれてから2秒ほどしか経っていない。

 そこで選択したのは魔力を属性変換せずにそのまま放出した。火で焼き払うとなると自分まで焼くハメになるので、魔力を余計に使う気がしたのでこちらを選択した。

 魔力の噴き出す圧力でサンドストームを押し返す。

 周囲1メートル程であれば、多少魔力があれば行う事の出来る技術であるが、レベルも上がり体を作り変えた俺がやると、

 周囲50メートルが無の状態になる。俺の魔力以外が存在する事ができなくなったのだ。

「おぉ~魔力の放出ってこんな風になるのか!」

 俺は模擬戦の最中なのに、この場に起きた事に声を出してしまった。

「な、なんだ、これは!」

 相手の魔法使いは、この場に起きた事を理解できずに俺とは違う驚きを口にしていた。

 おいおい、模擬戦みたいなものとはいえ油断しすぎというか、動きを止めたらいかんだろ。

 それにしても、自分の魔力が空間に満たされていると、いろんな事が分かるんだな。何となく、ダンジョンマスターの能力の1つであるマップ先生はこの技術の応用ではないか? みたいな事を考えていた。

 隙をさらしているのであれば攻撃するか。最近よく使う俺の魔法と言えば、バレット系の属性変換した魔力を弾丸状にして撃ち出すタイプだ。

 今回選択したのは、火力を下げる代わりに発動速度と弾丸の速度に秀でた、風属性のエアバレットだ。空気を固めて撃ち出しただけの、強い殺傷能力は無いが不可視の空気の弾が相手に殺到する。

 魔法の兆候に気付いた相手の魔法使いは、防御魔法を発動しようとして失敗している。その間にも着弾している俺のエアバレットに耐えながら、次の手段を準備していた。

 呆けていたとはいえ、シングルの実力がある魔法使いだと感じる動きだ。

 おぉ! 放出するタイプの魔法が使い難い事を失敗した経験から理解したようだ。次に取った手段が、肉体を直接強化する付与魔法を行っていた。しかも、属性的には優位にある土付与を行っていた。

 付与って珍しい魔法だけど、こいつ普通に使っているな。魔法に特化したタイプって事か?

「それにしても、肉体が強い気がするな」

「バカにしているのか! どう考えてもお前の方がおかしいだろうが! 結構魔力を込めたサンドストームを、防御魔法も無しに無傷でしのいでいるではないか! 魔法使いだってここまで強くなるためには、体を鍛える必要があるんだよ! お前は異常だろうが!」

 俺はそもそも魔法使いというよりは、魔法剣士に近いからな。しかも肉体の強度に関しては、タンクをメインにしているAランクの冒険者ですら裸足で逃げ出す程の強度がある。

 魔法使いは、魔法だけ使っていればいいのではないって事だな。拠点防衛ならそれでも問題ないのだろうが、冒険者をするのであれば他の冒険者のように移動しなければいけないのだ。ならばある程度は体を鍛えなければいけないって事だな。

 あっ! 俺が周りに放出した魔力が薄まって来た。

 それに気付いた相手が、俺を攻撃するためにファイアボールを複数放って来た。

 着弾と同時に爆発するファイアボールの対処は、何かをぶつければいい。属性的に優位になる水でウォーターボールを発動して腕を振り抜きファイアボールを迎撃する。

 込める魔力は少なくても問題ない。

 迎撃される事を前提に動いていた相手は、次の魔法を構築して発動……出来なかった。そいつの肩や太ももにナイフが刺さっている。

 俺がウォーターボールを撃ち出した際に、腕を振り抜きナイフを中に隠して投げていたのだ。ウォーターボールの中に入れていたので、迎撃した際の影響はほとんど受けずに相手に刺さっていた。

「まぁこんなもんかな。面白い発見もできたし、魔法だけの戦闘だとやっぱり本気になりにくいな。レイリー、またやりたいからそいつを死なない程度に鍛えてくれ」

 そう言い残して訓練場を出て行く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...