ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
1,201 / 2,518

第1201話 ライガの事情

しおりを挟む
 レイリーと一緒に獣人の少年が一緒に来た。遠目で見ていたが、この子がライガかな?

「シュウ様、御呼びという事で参上しました。おそらく、ライガの事が聞きたいと思い呼ばれたと判断して、勝手にライガも連れてきました。説明するだけでしたら私だけでも良かったのですが、ライガも自分の言葉でシュウ様に説明したいと言っています」

 レイリーだけの言葉では伝わらない事もあるだろう。そう考えると、ライガが来た事は事情を知るいい機会という事だな。自分の言葉で話させれば、何を考えているかも理解できるかもしれないな。

 レイリーの説明はこうだ。

 半年程前にゼニスが重要な商談があったので、キャラバンを率いてその街に出向いた際に、ライガを発見したそうだ。ライガには、病気の母と食事があまり食べられずに今にも死にそうな妹がいた。その母と妹のために、金を持っていそうなゼニスに目をつけて自分を売り込んだそうだ。

 自分はどうなっても構わないから、母と妹を助けてほしい……と。当時ガリガリに痩せていたのに、自分の稼ぎを母と妹のために使っていたそうだ。それでも、妹は死にそうな程飢えていたそうだ。

 普段なら無視をしただろうが、その時ゼニスは何かを感じて話を聞いたのだとか。その際に、力には自信があるといい、ガリガリに痩せていたのに力があるとか馬鹿にしているのか? と通りがかった冒険者がバカにしたそうだ。

 腕相撲をして買った方に金貨1枚をやると言って、ライガとバカにした冒険者とで腕相撲をさせたのだ。

 結果は、ライガが瞬殺。恥をかかされたと思った冒険者が剣を抜いてライガを殺そうとした所を、ゼニスの護衛が止めたのだと。見た目とは違う強さには何かあると思い、ライガの申し出を受けてディストピアに連れ帰った。

 という事らしい。ライガは学がなく力仕事しかできないけど、家族のために頑張るから! と言い、どうにかして働きたいと頭を下げてきたので、条件付きでグリエルに紹介してそこからレイリーに話がいったのだとか。

 本当であれば、10歳にも満たない子どもを働かせるわけにはいかないが、母親も病気で妹も食事を思う様に取れず死にかけている……働けるのはライガだけだった。全部負担しても良かったが、ライガがそれでは何かあった時に困ると言って、どうにか働かせてほしいと土下座までされたと。

 ゼニスは、グリエルを紹介する条件として、この街では子どもは勉強をしなければならないから、勉強をしながら働くという事を提示した。これは、この街の領主、つまり俺が決めたルールなので従わないのであれば、この街で生活する事は出来ないと伝えて了解を得たらしい。

 グリエルが話を聞いて、色々調べた所、シュリと同じ病気というよりは、呪いに近い体質だという事が分かった。それを聞いたライガが、力が役に立つなら戦う! と言ったため、レイリーに鍛えさせることにしたのだとか。

 鍛えた結果が、今日の戦果という事だろう。

「なるほどな。で、ライガ君。君に聞きたいんだけど、レイリーの言っている事に間違いはないかな?」

「ない!」

 簡潔に答えたライガは、隣にいたレイリーに拳骨を頭に落とされていた。口の利き方がイマイチうまくないので注意しているが、なかなかなれないそうだ。

「君から、俺に伝えたい事は何かあったりするかい?」

 俺がそう言うと、ライガが急に立ってテーブルの横に膝をついて土下座をした。

「シュウさん! 俺たちを救ってくれてありがと! イダイ!」

 また殴られた。どうやら、シュウさんと呼んだ事にレイリーが怒ったようだ。

「レイリー、子供にそれはないだろ。呼び捨てじゃないんだから、そこまで怒る必要はないと思うぞ。それとライガ、土下座なんてしなくていい。ゼニスに認められたのは、君の観察眼と誠意……少しの運のおかげだ。胸を張るといい。だけど、本当に軍人でいいのか?」

「俺は何もできない。だけど、お母さんと妹を救ってくれたシュウさんに恩返しがしたい。グリエルさんから聞いた話で、特異体質が戦闘に役に立つと言われたから、戦う仕事をしたい! 軍人であれば、もし死んでも残った家族に、多額のお金を残す事ができると聞いた。だから、俺は戦う!」

 それを聞いた俺は、白い目でレイリーを見た。苦笑をしているレイリーが、

「確かにお金の心配をしなくていいと話しました。ライガが常に心配しているのは、家族の事です。軍人であれば死ぬ事もあると説明して、死んで家族を残していいのか聞きました。死にたくはないけど、自分には戦う事しかできない……と心が折れることなく言われてしまい、軍の説明をしたのです」

 その時に、もし死んだ時の事も話したのだとか……それでも10歳にも満たない子どもに話す内容じゃないな。

「シュウさん! レイリーを責めないで! 俺がお願いしたんだ! この力を使ってみんなを護るって! だから痛いって!」

 呼び捨てにされたレイリーが、また拳骨を落としている。

 偶然に偶然が重なって、ライガはここに来たのか。

「ライガ……君が決めた事なら、これ以上は何も言わない。でも、母親や妹を悲しませてはいけないよ。軍人として生きるなら、死んでも生き残る覚悟をしてほしい。本当なら、もっと大きくなるまで全面的に支援したいけど、君はそれを望んでいないんだよね? だから、約束してほしい。必ず生きると」

 ライガはよく分かっていないようでポカーンとした顔をしているが、家族のために生きる努力をしてほしい、と言い換えると……わかった! と返事をしてくれた。

 家族の話を聞くと、元気になったようで昔よりいい生活が出来ているのだとか。ちなみに、ライガがもらっている給金は、レイリーと同じ位なのだとか、かなりの高給取りだ。ただ、秘密兵器……戦略級の戦闘力を持っているので、問題ないと思う。

 でも可能な限りライガには出番がないといいな。せめて後5年。この世界での成人までは……

 ライガを先に帰してレイリーと向き合う。その後、出来る限り出番のないように話を進めていく。

 年少組をフレデリクの戦争に担ぎ出した人間のセリフとは思えませんが、とレイリーに突っ込まれた時は、苦笑してしまった。

 レイリーの下にいるが自分の意思で参加しているライガと、俺が奴隷として買った娘たちを鍛えて戦争に担ぎ出した。妻たちも自分の意思で戦ってくれてたけど、どう考えても俺の方が悪人っぽいな。

 とはいえ、被害を少なくするためには、ライガを前線に出す必要が出てくるので、戦況次第ではライガに出陣してもらうとレイリーが。それに、ライガが戦況に焦れて自分から出て行く可能性も捨てきれないとか……子どもだもんな。

 とりあえず、俺はできる事をしよう。特別扱いになるけど、ライガに生きて帰る様に言ったからには、全力で支援しないとな。老ドワーフと綾乃に連絡をして、専用装備の準備をお願いした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

処理中です...