ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1195話 悩み

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 目が覚めたのは、次の日の朝だった。3日目の夜は、継続的に続けられている竜騎士たちの爆撃以外は、特に何もなかったようだ。

 そういえば、昨日は起きた時に妻たちに囲まれていたけど、今日はそんなことはなった。部屋に1人きりで目が覚めて、隣の部屋に行くとみんなが揃っていたので、なんか安心した自分がいたけどね。

 朝食を食べた後、妻たちが全員集まって俺をある部屋に連れて行った。会議室として用意されていた部屋だ。

 みんな普段と違い硬い表情をしているのは、気のせいではないだろう。

 俺の予想は間違っておらず、昨日の事をみんなで考えていたそうだ。硬い表情をしているのは、寝不足もあるようだった。

 兵士の死を知った時の様子を考えて、今回の戦争はこの辺で街に戻ることを提案してきたのだ。もしもの時のための戦力である俺たちが、ディストピアに戻ることはリスクが高いと俺は主張した。

 だが、もしもの戦力の時のために、シェリル・イリア・ネルの3人と、餌付けをされたバッハとリバイアサンが、この場に残るから問題ないと言われてしまった……

 確かに3人はともかく、バッハとリバイアサンが本気を出せば敵を全滅させることは容易い。本当の意味で最終手段となる攻撃だ。

 妻たちも色々考えてくれている。でも、俺はすぐに決断できなかった。なので、

「しばらく、ここで考えていいかな?」

「すぐに決断できる問題でもないですね。ゆっくりと考えてもいいですが、1つだけ約束してください。考えている間は、マップ先生を見るのをやめていただきたいです。マップ先生を見れば、戦況が分かりきちんとした判断ができなくなるかもしれません」

 できる限り情報を遮断して、考えさせようとしているのだろうか? 確かに状況が分かれば色々違う事を考えてしまうかもしれない。俺は、ピーチの提案を聞き入れて、1人で考える事にした。

 できれば何かをしながら考えたかったが、部屋から出るのもよくないとの事で、行動範囲は制限されている。

 俺が今いる場所は、野戦病院として作られた建物の一番高い位置だ。俺たちが留まる場所として使うために土木組が丁寧に作ってくれた場所だ。

 俺達がいなくなった後は、兵士が待機出来たり治療師が休んだりできるように、考えられている作りになっている。

 この階に上がってくる階段の前には兵士が待機いており、この階に上ってくるためには外から直接ここまで飛び込んでこない限りは、妻たち以外に俺に合う事はできないだろう。

 行動が制限されているとはいえ、外に出れないという事は無い。バルコニーのような場所にも行けるが、見える方向はミューズの街の方だけだ。いる位置が高いので、はるか遠くにだがミューズの壁を確認できるな。

 部屋の中だと閉塞感が今は嫌だったので、バルコニーに気に入っている椅子を置いて、空を眺めながら考え事をする。

 近くにはダマとシエル、グレンが待機しており俺がマップ先生を見ない様に監視している。ダマたちがいなくても見るという事はしないが、俺1人にしたくないという嫁達の思いだろう。ダマは特に毛並みがいいのでなでていると落ち着くからいいんだよね。

 ブラシを手にもって膝の上に乗せてブラッシングをしながら考え事を始める。

 まず頭に浮かんだのは、ゴーストタウンで冒険者の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった兵士の事だ。

 あの時は明らかなミスが俺にあった。冒険者たちが武器を使っているのに、大きな怪我をさせずに取り押さえる事を推奨していたからだ。

 そういう風に相手を捕らえるためには、かなりの実力差が必要になってくる。俺は、ダンジョンで鍛えている兵士であれば問題ないと考えていたが、相手も冒険者……ダンジョンで生計を立てるためにゴーストタウンに来た者だったのだ。

 効率よくレベルを上げているとはいえ、訓練と実践は天と地ほども差があるのを理解できていなかったのだ。そのため失われてしまった命があった……

 その時を境に兵士も積極的に武器を使って制圧する事になった。他の街では当たり前の事を、大切な命が失われてから導入したのだ。

 その時に亡くなった兵士のご両親に謝りに行った時、責められることは無かった。むしろ、辛い顔をいていた俺の事を気遣わせてしまったのだ。息子が無くなった親に心配させてしまうなんて、と思い情けなかったな。

 その後、両親は息子の働きはどうだったのか聞かれたため、上司である隊長が亡くなった時の状況を細かに説明してくれた。息子はしっかり働いていたんですね……と涙ながらに喜んでいたのだ。

 息子が死んだのに悲しみと喜びが入り混じった感情になるのは、俺には理解できなかった。それでも両親は息子の姿に喜んでいた。

 帰る間際に

「息子はゴーストタウンのために働けることを、誇りに思っていました。死ぬしかなかった自分たち親子に、新しく住む場所と仕事をくれたシュウ様に恩返しができるように……新しくできた妹にも誇れるように勤めを果たすんだ! と……本当にありがとうございました」

 直接俺がどうこうしたわけではないが、俺の行いによって助けられた人たちのだったのだろう。その恩返しをさせてくれてありがとうって……

 あの時は何とも言えない気持ちだったな。職務中に殉職、しかも俺のミスによって失われた命だったので、遺族に払われる規定より多めにお金を出しているが、初めは受け取ってもらえなかった。俺によって救われた命を、俺のために使っただけだと。

 でも、それはこの街に住む事で救われた命に対する責任は果たしている。だから、これを受け取らないという事は、息子の仕事を否定することだと説得して受け取ってもらっている。お金で解決したかったわけではないが、それ以外に方法がなかったのだ。

 今は割り切れたけど、当時は大変だったな。

 そして今回は……俺のせいではないと言われているが、聖国への対応をもっと厳しい物にしておけば、違った結果になったかもしれない。対応が甘かったと言わざるを得ないと思う。

『主殿、聖国に厳しい対応をしたところで、国を……正確には、教皇と対立している幹部をどうにかしない限りは、同じことが起こるに決まっています。だから、主殿のせいではないです』

『そうですね。今回の戦争は、遅かれ早かれ起きる事になっていたました。かもしれない……と可能性の論議は意味がありません。なので、主殿のせいではないのです』

 ブラッシングしていたダマが俺にそういってくる。それに同意したシエルも念話で考えを伝えてきた。あれ? 言葉に出してたか?

「どうすることが正解だったのかな?」

『正解なんてないですよ。戦争は最も非効率な政治の手段です。政治には正解はありません。なので、何が正解か論じるのは、未来の人間に任せればいいんです。主殿は、今できる精一杯の事をすればいいのです』

 シエルが俺の質問に答えてくれた。亀なのに何で人の営みについてこんなに詳しいのだろうか? 疑問に思う事はあるが、正解が無いのであれば今できる精一杯の事をする。これが俺の道なのだと感じた。
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