ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
上 下
1,194 / 2,518

第1194話 初めての犠牲

しおりを挟む
 俺が目覚めたのは、戦争が始まってから3日目の夜だ。半日程寝ていた事になる。

「「「ご主人様……申し訳ありませんでした!」」」

 俺が目覚めると同時に近くにいた3人……ピーチ、シュリ、アリスが勢いよく頭を下げて謝って来た。

 ボーっとする頭で、何が起きたかを思い出して納得する。

「謝らなくていいよ。君たちが俺にあんな事をするには、何かしらの理由があるんだろ? それを聞かせてくれればそれでいいから、教えてくれないかな?」

 3人はお互いに目を合わせて何かを考えているようだ。

「僭越ながら私から話させていただきます」

 そうすると俺の視界の外から5人目の人の声が聞こえた。その声はよく聞き覚えのある声だ。

「今回の戦争では、私から援軍の要請がない限りは勝手に介入させないようにお願いしておりました。このお願いは私だけではなく、グリエルやガリアからも同じようにお願いしていました。

 ディストピアやミューズはシュウ様の街ですが、シュウ様にすべてを背負い込んでほしくないと思い、何かあれば止めてほしいとピーチさんたちにお願いしたのです」

 どうやらレイリーは、被害が出ても本当に不利にならない限りは、俺に介入をしてほしくなかったようだ。それで、近くにいるピーチたちにお願いしたのだろう。

 おそらくだが、ピーチたちも俺にこんな事をしたくなかったのだろうと思う。そうでなければ俺が意識を手放す前に見た辛そうな……苦しそうな表情はしないと思う。

 不本意だったけど、レイリーたちの言っている事を理解しているので、汚れ役を引き受けたのだと……それにこの娘たちは、本当に俺の事を好いてくれているのは分かっている。

 嫁が何十人もいるのに、呆れて愛想を尽かされるという事もない。自意識過剰という事は無いと思う。

 そんな娘たちが俺を物理的に止めたんだ。俺も理解しないとな……

「わかった。今回の事は気にしない事にする。次があったら、実力行使は最後の手段としてほしいかな……」

 絞め落としに協力した3人も、レイリーも申し訳無さそうな顔をしていた。

 お互い話が終わって気まずい空気になってしまった。話を変えるために、今日の戦争の話を聞いてみた。

 竜騎士たちは、火炎壺と爆弾壺による嫌がらせをしっかりと行ってくれている。

 聖国の兵士には結構な被害がでたそうだ。こちらの軍にも多少被害がでている。レイリーはこの時にいつもと変わらない口調説明してくれたので、そこまでの被害ではなかったのだろうと感じた。

 だけど、話を聞いていくうちにそれが間違いだったと気付かされる。

 ダブルの冒険者から、大斧の攻撃を受けた兵士が手足を無くしたのは、まだいい方だったと……心的には問題はあるが、部位欠損であれば治すことができるのだ。

 そして、あの冒険者のせいで3人の死者がでてしまったそうだ。

 1人は、成人したばかりの兵士だったそうだ。残りの2人は、30代半ばで母子がいたそうだ。

 それを聞いた時、ハンマーで頭を殴られた気がした。

 ディストピアではこれまでに、戦争で兵士を失ったことはない。ゴーストタウンでは、暴れた冒険者を止めようとした兵士が、あたりどころが悪く死んでしまった事はあった。

 その時も辛かったが、今回はその時とは比べ物にならないくらい辛かった。

 俺が前線にでれば防げたかもしれない犠牲だ。奥さんも子どももいる兵士を死なせてしまったのだ。それに、日本で言えば高校1年生と変わらない年の子が、戦争のせいでしんでしまったのだ。

 奥さんや子どもの成長を見ることなく死んだ。俺より若い子が両親より先に死んだ。俺達の意思ではないとはいえ、俺達の都合につき合わせて殺してしまったのだ。

 3人の家族には何て説明すればいいのだろう……

 バチンッ

 急に音がした。何の音か認識する前に、頬が痛くなった。その時に叩かれたことに気付いた。その相手は、レイリーだった。

「シュウ様、今回の戦争で責任をとるべき貴方ではありません。それは、私たちの責任です。グリエル、ガリア、そして私たち3人の責任なのです。シュウ様が背負う必要など無いのです」

 言われていることは、理解できるようで出来なかった。

「分からない、と言った顔をされていますが、今回の作戦を立てたのは、私たちです。シュウ様に前に出ないようにお願いしたのも私たちです。責任の全ては私たちにあるのです。そして、今回の戦争では死人がでる事を理解して皆が参加しているのです」

 防げた悲劇を防げなかったのだ。俺だったら止められると考えるのは傲慢もしれないけど、防ぎたかった。

 その後もレイリーから、今回の戦争の責任の所在は自分たちにあると、シュウ様を止めていただきたいとお願いしたことを含めて……シュウ様は、しっかりとした街として歩き始めたディストピアを温かい目で見守ってほしいと。

 死人がでたことにより、俺の思考は空回りをしていた。今回の戦争の責任者が、戦争の被害者は必要な犠牲だったと言われた。

 その時、感情的に暴れ出しそうになって、両隣に座っていたシュリとアリスに強制的に止められた。

 万全の状態であればこうはならなかったが、起きたばかりで思考が空回りして感情で、暴れそうになった俺であれば簡単に止められてはしまった。

 暴れてもどうにかなる訳でもないのにな……

 身動きのとれなくなっている俺に、レイリーは何度も同じ言葉をかけてきた。

 貴方には責任がない。責められるのは私たち3人だ! と。

 直接死んだ瞬間を見たわけでもなく、人数的には3人。数だけ見れば、相手はその100倍は死んでいる。

 頭では、被害が少なかったことは理解できているのだが、心が理解を拒んでいる。それで、思考が空回りをしている……

 俺の精神が耐えられずに、俺は意識を失った。

 次に起きたのは、3時間後。

 起きた時には、母親の3人を含む妻たちが全員揃っていて、俺が起きるのを看病をしながら待ってくれていた。

 そこでリンドに「シュウは、人の死について深く考えすぎだ!」と言われた。

 戦争が起きれば人は死ぬ。そんな事は、子どもでも知っていることだ。それなのに貴方はその死の責任を感じている。それが悪いこととは言わないけど、上に立つ者は時として非情な判断を下さねばならないことがある。私にも経験があるよ。

 と、話してくれた。

 戦争が起きたのはシュウのせいではない。悪いのは戦争を起こした聖国だ。兵士や冒険者たちは、自分の街を守るために自分の意志で戦っている。そこで死ぬこともあると理解した上でだ。

 ここで、俺が死んだ人についてこんな事を考えているのは、死んだ人たちに対して失礼だ! とか……

 感情を制御仕切れていないが、優しさに包まれて落ち着いてきた。だけど、精神が疲れているので、微睡みの中に沈んでいった。遠のく意識の中で、

「悪であれば、相手が死のうが喚こうが気にする人では無かったので大丈夫だと思っていたのですが、自分の身内と考えている人の死には敏感ですね。ゴーストタウンの兵士が巻き込まれて死んだ時の事を考えれば、分かる事だったのに……」

「それは、私たちも同じです。このまま戦場にいるのはお止めした方がいいかもしれませんね」

 その後も、何か話していたが、微睡んでいる俺には、言葉が聞こえても理解できなかった。
しおりを挟む
感想 316

あなたにおすすめの小説

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶
ファンタジー
 岡山県の南、海の側に住んでいる高校二年生の響が、夜遅く家を飛び出し一人浜辺を歩いていると『我をおさめよ、されば導かれん』の声がする。  その声の先には一つのリングが輝いていた。リングを指にはめてみると、目の前にスタイル抜群のサキュバスが現れる。  そのサキュバスが言うには、秘宝を解放するために九つのリングを集め、魔王様と魔族の世界を造るとの事。  そのために、お前を魔族の仲間に引き入れ、秘宝を手に入れる手助けをさせると、連れ去られそうになった時、サキュバスに雷が落ちて難を逃れ、サキュバスが彼の下僕となる。しかしサキュバスの魔封じのクリスタルで、何の力も持たない響は連れ去られてしまう。  しかし、おっちょこちょいなサキュバスのおかげで、現代から未来世界に渡り。未来世界の力を得た響が、その後異世界に渡り、リングを探す事になる。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...