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第997話 どっちが悪い?
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絶望に満ちた死んだ騎士の家族が、引っ張られるように俺たちの前を通り過ぎていく。俺は何とも言えない気分だった。
俺だって同じような事はしてきているが、第三者視点だとこういう風に感じるのかな?
俺達は、家族まで殺したことはあったけど、それは家族全員が悪だと判断したからだけど、今回は違うと思うんだ。
言葉に表せない気持ちになった。
街から連れてこられた住人は、約700人と騎士約100人。人数はともかくとして、住人を拉致していいのか? そんな事をしたら、また聖国が攻めてくるんじゃないか?
そんな事を考えているのが顔に出たのだろう。アントが俺に向かって、
「国の上層部は、騎士の家族にだって興味を示さないわ。特に大国になればなるほどね。連れ去られたという、国の面子を考えて行動は起こすだろうけど、それはポーズだけ。そして、今回の作戦行動にあたって、うちのリーダーが必要だと思ったから連れてきたのよ」
寂しそうな顔をして、俺にそう言ってきた。
しっかりとした理由が何かあるのだろう。後でリリスに聞いてみるか。
俺たちは昨日野営をした場所をこして、更に4キロメートル程離れた位置に到着した。移動は約1時間でここまで来ている。
何故そんなに早く移動ができているのかと言うと、領主館や倉庫、兵士の施設から馬車と馬を頂戴してきているからだ。連れてこられた人が、歩かないという事を考えて、強制的に馬車に乗せ移動したのだ。
野営地の作成をする前に、アントが土魔法を使って壁を作り出した。お願いされたのか、妻たちも魔法で手伝っている。円形に造られた壁のちょうど真ん中にもう1つ壁を作って、半円を2つ作ったような形になった。
その中に馬車を入れ、何処から持ってきたのか、天幕用の布で馬車同士をつなぎ、雨をしのげる空間を作った。
聖国に連れ去られた人の待遇よりずっとましだな。
アントは妻たちに何か聞きながら各半円の中心付近に行き作業をしている。何か囲みを作っているようだな。完成したのか次の魔法を使い始めた。どうやら水魔法で囲いの中に水を入れているみたいだな。連れてきた人に自由に使える水って所かな?
確かに水問題はかなり重要だからな。
壁の高さは3メートル。一般人でもやりようによっては逃げれる高さだ。逃げられることを考えて、壁の外側に男冒険者を配置して脱走防止。壁の入口は、俺たちとリリスたちを配置。女性エリアに新人エリアを作って食事の準備が開始される。
ジェノサイドキャラバンから食料を受け取って調理したり、パンとスープと干し肉を食べるといった感じで別れている。
俺たちは、簡単に作れる屑野菜のスープを800人分作り、パンと一緒に配った。
「俺たちはこんなこと聞いてないぞ? 何で食事を俺達たちつくらせるんだ? 連れてきたなら自分で面倒看ろよ」
隣にいたリリスに文句を言う。
「ここまでの人数を連れてくる予定は無かったのよ。予想でも200人いかないくらいだと思ってたわ。新人たちや男共にこれだけの物は作れないし、女性冒険者だってさすがにね」
「200人は予想していたなら、時間を別けて4回作れば十分足りるだろ? なのに何で俺たちが作ってるんだ?」
「みんなにお願いしたら、やってくれるって言ったからお願いしたのよ」
「追加報酬は? 俺たちの頼まれた仕事の範疇を越してるぞ」
「街に戻ったら、軍と交渉するわ。料理担当だから大した報酬は期待できないだろうけどね」
「じゃぁ、もし報酬が無かったら、お前らの報酬から俺らに払えよ」
「なっ! 何であなたはそこまでお金に執着するの!?」
「別にお金に執着しているわけじゃない。でも仕事でやっているんだから、正当な評価をしろと言っているだけさ。それに、俺たちは高ランク冒険者だ。頼まれたからと言って無償で行えばそれは問題になる」
絶句している様子で、リリスは俺に食って掛かろうとするがマーニャに止められていた。
「リーダー、シュウの言っている事は間違っていない。リーダーが報酬を提示しているのであれば問題はないけど、リーダーはシュウに仕事の範疇外のお願いしたのに、報酬を提示していない。それは間違ってる」
悔しそうな顔をして俺の事を睨んでいる。
「そうだ。1つ聞いていいか? 俺はその場にいなかったから正確な事は分からないが、狂信者と思われる家族も一緒に殺したのは何でだ? そして他の騎士たちの家族は何で助けた?」
「仕方が無かったのよ。相手が聖国でなければここまでする必要は無かったけど、聖国が相手だとどうしてもね。狂信者の家族はほぼ100%の確率で狂信者なの。
だから何を言われようとも殺しておかないと、危険なのよ。わざわざ皆殺しにするほど時間はないけど、判明したなら殺しておかなければ……トルメキアからの依頼なの」
なるほど、狂信者の家族は好きで殺したわけではなさそうだな。今の表情を見ればわかる。
「処刑した騎士たちの家族を連れてきたのは、そのままあの街に置いてくれば処刑が待っているだけだから連れてきたの」
「でも、奴隷にするんだろ? 自分たちで面倒を見きれるわけでも、トルメキアが面倒を見てくれるわけでもないんだろうからさ」
当たっているようで何も言えなくなっている。そりゃそうだよな。この人数を世話するためには、ある程度大きな街でないと無理だもんな。それに恨みがあるトルメキアでは奴隷以外の選択肢はないだろうな。
そもそもお金のない人間を、無償で見てくれる街や国があるはずも無いよな。慈善事業じゃないんだからな。
「最後に1つ。本意でなかったにせよ、無抵抗の狂信者の家族を殺すのは有りで、戦意のある兵士に対して毒を使うのは無し、基準は何だい?」
「それは、毒は国際的に見ても使用する事は非道とされているからだ」
「そっか、それがあんたたちの価値観なら、何も言う事はないな」
確かに入ってくる情報の中に、毒を使ったりするような戦闘は無いけど、反逆者として一族全員が殺されるとかは普通にあったよな。この世界の価値観なのだろうか?
分かり合えないと思った。
様子を見るためにダマとハク、ニコ、バッハを連れて聖国の人間のエリアに入っていく。
「父ちゃんを返せ!」
突然近付いてきた男の子に足をけられた。防具を身に着けていた状態なので、特に何も感じなかった。
「君の立場ならそう思うよな。でもな、君たちの国は隣国トルメキアの人間を6万人も攫おうとしてたんだぞ。聖戦という言葉を使って、君たちの街で死んだ人たちの何倍もの人間を殺している。死んだ中には君みたいな子どもを持つ人たちだっていたんだ。その事に対して何か思う事は無いのか?」
「そんなもん知るもんか! 父ちゃんを返せ!」
俺は何も分からない子どもに対して、何語ってるのやら……
「恨むなら、略奪戦争を起こした聖国を恨むんだな。トルメキアの報復なんだからな。まわりに人間も聞いていると思うから言っておくが、正直君たちは何も悪くない。
トルメキアを一方的に邪教だと言って、略奪戦争を起こした聖国がすべて悪い。考えて考えて、それでも俺たちの事が許せないというなら殺しに来い。せめて苦しまないように殺してやる」
おそらく誰もかかってこないだろうな。ここにいるのは、ただの人なんだからな……
俺だって同じような事はしてきているが、第三者視点だとこういう風に感じるのかな?
俺達は、家族まで殺したことはあったけど、それは家族全員が悪だと判断したからだけど、今回は違うと思うんだ。
言葉に表せない気持ちになった。
街から連れてこられた住人は、約700人と騎士約100人。人数はともかくとして、住人を拉致していいのか? そんな事をしたら、また聖国が攻めてくるんじゃないか?
そんな事を考えているのが顔に出たのだろう。アントが俺に向かって、
「国の上層部は、騎士の家族にだって興味を示さないわ。特に大国になればなるほどね。連れ去られたという、国の面子を考えて行動は起こすだろうけど、それはポーズだけ。そして、今回の作戦行動にあたって、うちのリーダーが必要だと思ったから連れてきたのよ」
寂しそうな顔をして、俺にそう言ってきた。
しっかりとした理由が何かあるのだろう。後でリリスに聞いてみるか。
俺たちは昨日野営をした場所をこして、更に4キロメートル程離れた位置に到着した。移動は約1時間でここまで来ている。
何故そんなに早く移動ができているのかと言うと、領主館や倉庫、兵士の施設から馬車と馬を頂戴してきているからだ。連れてこられた人が、歩かないという事を考えて、強制的に馬車に乗せ移動したのだ。
野営地の作成をする前に、アントが土魔法を使って壁を作り出した。お願いされたのか、妻たちも魔法で手伝っている。円形に造られた壁のちょうど真ん中にもう1つ壁を作って、半円を2つ作ったような形になった。
その中に馬車を入れ、何処から持ってきたのか、天幕用の布で馬車同士をつなぎ、雨をしのげる空間を作った。
聖国に連れ去られた人の待遇よりずっとましだな。
アントは妻たちに何か聞きながら各半円の中心付近に行き作業をしている。何か囲みを作っているようだな。完成したのか次の魔法を使い始めた。どうやら水魔法で囲いの中に水を入れているみたいだな。連れてきた人に自由に使える水って所かな?
確かに水問題はかなり重要だからな。
壁の高さは3メートル。一般人でもやりようによっては逃げれる高さだ。逃げられることを考えて、壁の外側に男冒険者を配置して脱走防止。壁の入口は、俺たちとリリスたちを配置。女性エリアに新人エリアを作って食事の準備が開始される。
ジェノサイドキャラバンから食料を受け取って調理したり、パンとスープと干し肉を食べるといった感じで別れている。
俺たちは、簡単に作れる屑野菜のスープを800人分作り、パンと一緒に配った。
「俺たちはこんなこと聞いてないぞ? 何で食事を俺達たちつくらせるんだ? 連れてきたなら自分で面倒看ろよ」
隣にいたリリスに文句を言う。
「ここまでの人数を連れてくる予定は無かったのよ。予想でも200人いかないくらいだと思ってたわ。新人たちや男共にこれだけの物は作れないし、女性冒険者だってさすがにね」
「200人は予想していたなら、時間を別けて4回作れば十分足りるだろ? なのに何で俺たちが作ってるんだ?」
「みんなにお願いしたら、やってくれるって言ったからお願いしたのよ」
「追加報酬は? 俺たちの頼まれた仕事の範疇を越してるぞ」
「街に戻ったら、軍と交渉するわ。料理担当だから大した報酬は期待できないだろうけどね」
「じゃぁ、もし報酬が無かったら、お前らの報酬から俺らに払えよ」
「なっ! 何であなたはそこまでお金に執着するの!?」
「別にお金に執着しているわけじゃない。でも仕事でやっているんだから、正当な評価をしろと言っているだけさ。それに、俺たちは高ランク冒険者だ。頼まれたからと言って無償で行えばそれは問題になる」
絶句している様子で、リリスは俺に食って掛かろうとするがマーニャに止められていた。
「リーダー、シュウの言っている事は間違っていない。リーダーが報酬を提示しているのであれば問題はないけど、リーダーはシュウに仕事の範疇外のお願いしたのに、報酬を提示していない。それは間違ってる」
悔しそうな顔をして俺の事を睨んでいる。
「そうだ。1つ聞いていいか? 俺はその場にいなかったから正確な事は分からないが、狂信者と思われる家族も一緒に殺したのは何でだ? そして他の騎士たちの家族は何で助けた?」
「仕方が無かったのよ。相手が聖国でなければここまでする必要は無かったけど、聖国が相手だとどうしてもね。狂信者の家族はほぼ100%の確率で狂信者なの。
だから何を言われようとも殺しておかないと、危険なのよ。わざわざ皆殺しにするほど時間はないけど、判明したなら殺しておかなければ……トルメキアからの依頼なの」
なるほど、狂信者の家族は好きで殺したわけではなさそうだな。今の表情を見ればわかる。
「処刑した騎士たちの家族を連れてきたのは、そのままあの街に置いてくれば処刑が待っているだけだから連れてきたの」
「でも、奴隷にするんだろ? 自分たちで面倒を見きれるわけでも、トルメキアが面倒を見てくれるわけでもないんだろうからさ」
当たっているようで何も言えなくなっている。そりゃそうだよな。この人数を世話するためには、ある程度大きな街でないと無理だもんな。それに恨みがあるトルメキアでは奴隷以外の選択肢はないだろうな。
そもそもお金のない人間を、無償で見てくれる街や国があるはずも無いよな。慈善事業じゃないんだからな。
「最後に1つ。本意でなかったにせよ、無抵抗の狂信者の家族を殺すのは有りで、戦意のある兵士に対して毒を使うのは無し、基準は何だい?」
「それは、毒は国際的に見ても使用する事は非道とされているからだ」
「そっか、それがあんたたちの価値観なら、何も言う事はないな」
確かに入ってくる情報の中に、毒を使ったりするような戦闘は無いけど、反逆者として一族全員が殺されるとかは普通にあったよな。この世界の価値観なのだろうか?
分かり合えないと思った。
様子を見るためにダマとハク、ニコ、バッハを連れて聖国の人間のエリアに入っていく。
「父ちゃんを返せ!」
突然近付いてきた男の子に足をけられた。防具を身に着けていた状態なので、特に何も感じなかった。
「君の立場ならそう思うよな。でもな、君たちの国は隣国トルメキアの人間を6万人も攫おうとしてたんだぞ。聖戦という言葉を使って、君たちの街で死んだ人たちの何倍もの人間を殺している。死んだ中には君みたいな子どもを持つ人たちだっていたんだ。その事に対して何か思う事は無いのか?」
「そんなもん知るもんか! 父ちゃんを返せ!」
俺は何も分からない子どもに対して、何語ってるのやら……
「恨むなら、略奪戦争を起こした聖国を恨むんだな。トルメキアの報復なんだからな。まわりに人間も聞いていると思うから言っておくが、正直君たちは何も悪くない。
トルメキアを一方的に邪教だと言って、略奪戦争を起こした聖国がすべて悪い。考えて考えて、それでも俺たちの事が許せないというなら殺しに来い。せめて苦しまないように殺してやる」
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