ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第987話 油断はしていないつもりだった

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「お~、必死に追いかけてきてるな」

「それはそうでしょう。大きな食糧保管場所から、根こそぎ持ってきましたからね。小さな場所は放置していますが、馬車も目に付くもの全部いただいてきましたし」

 馬車がなければ、これだけの人間を食べさせる食糧も運べないからな。

「それにしても、普通の馬車ってこんなに揺れるものなのか?」

 魔改造した馬車以外ほとんど乗らないから忘れていたけど、普通の馬車には揺れを緩和する装置が付いてないからな……

「乗り物には強いはずなんだけど、こんなに揺れると気持ち悪くなる」

 細かい揺れが俺の体力をゴリゴリ削っていくのだ。は、吐きそう……うっ!

 よく、みんな平気だな。しかも年少組はこんなに細かく揺れているなかで、マップ先生を見て状況を報告してるよ。

 俺たちが今向かっているのは、森? 林? 違いがよく分かってないけど、木が密集してある程度はえている場所だ。中央に湧き水で出来たと思われる池がある。

 ここを選んだ理由は、馬車でも通れる道があったからだ。ここに逃げ込めば、敵の行動が限定されるので、ここを抜ける前に馬車を先に行かせて、騎馬をここで足留めをする予定だ。

 後ろから追ってくる歩兵をのんびりと待ち、追い付いたらここから離脱。ここから逃げられないように10メートル程の幅と深さの溝で周囲を囲む。

 年少組の報告では、どうやら4分の3程の数、1500人位が俺たちを追ってきている。

 予想より多いが少ないよりはましなので、特に問題はない。

「ご主人様! 追ってきてる盗賊たちが、全員森に入りました」

 マップ先生で監視していた年少組からの報告が入る。それにしても、全員が森に入ってくるのか? 罠を警戒し無いのかな?

 ついでに言うと、年少組もこいつ等のことを盗賊呼びしている。

「よし、みんな、馬車を追うよ。全力疾走!」

 俺たちは全員革装備で、武器を収納の腕輪にしまっているので、重さを気にせずに走れる。全身金属製の鎧でも、レベル差で追い付けない速度で走れるけどね。

 それなのに革装備で武器すら持っていない俺たちに、盗賊如きが追い付けるわけもない。

 更に追い付けないように、馬は全部、後衛の弓で潰しているので、追い付く方法は無いだろう。

 追撃を振り切り森の外へ脱出した。

 俺達が時間稼ぎをしている間に、魔法組が盗賊達の目の届かない場所の森を囲うように溝を作っていたので、最後の仕上げだ!

 最後の魔法を使おうとした時、

「ご主人様! 危ない!」

 近くで俺の作業を見ていたネルが、敵の魔法攻撃に気付き結界を張ってくれたが、矢も飛んできており、とっさにネルが矢をはじいた時に少し怪我をしていまっていた。

 準備をしていた魔法を発動し、溝を繋げるが、攻撃してきた20人程は溝を越えてきていた。

 クソが! ネルが怪我をした事にも怒っていたが、それ以上に不意打ちに気付けなかった自分に怒っていた。

 俺たちに追い付けないと思って、油断していたのが原因だ。

 装備を確認すると、金属製の鎧が多かった一団のなかで、革装備をしている部隊のようだ。追跡部隊?

 動きもさっきの奴等とは違うな。これは、しっかりとレベルを確認してなかった俺の落ち度か……

 だからと言って、怒りが収まる訳もなく、目の前の敵に怒りが集中する。

「お前ら、人の物を盗むとはいい度胸だな。俺たちの国では、人の物を盗むと最悪死罪もありえる。特に今回お前等が盗んだ物は、聖戦で使われたものだ。死でも生ぬるい地獄を味わう事になるだろう。ん? 後ろの女共は、美人ばかりだな。そっちは地獄じゃなくて天国かもしれないけどな」

 年少組と年中組の一部は、意味が分かってなかったが、他は言いたいことを理解して、怒っているのが分かる。

 そう感じた途端に俺は、一気に冷静になった。怒っていながら冷静になる、矛盾した状態は不思議な感覚だ。

 する事は変わらないのだ。まずはあいつ等を倒そう。

「人の物を盗むと死罪もありえるのか……じゃ、お前等も死罪だな。他国の人間を奴隷にするために連れ帰る。人の物じゃなくて、人そのものを盗んでるんだからな」

「邪教に組する奴等は人間ではない。なら、そいつ等をどうしようか私たちの勝手だろ? なのに死罪とは意味が分からぬ」

「あ~、お前等も話が通じないタイプだったか? これだから狂信者は面倒くさい!」

「ご主人様! 合図をしたら、フラッシュを使います。回避行動をお願いします」

 この世界では、フラッシュという言葉は存在しないため大きな声でやり取りをしていてもバレない。

 そして、回避行動という言葉を聞いた盗賊は、いつでも動ける様にしていた。フラッシュを使うと言ったイリアの行動を見逃さないように凝視している。思うつぼだな。

 夜、暗い中で放たれる真っ白い閃光、瞳孔が開ききっている状態での強い光を浴びた盗賊は揃って

「目が~」

 と、空を飛んでいる城で、大佐が言っていたようなセリフを吐いていた。

 戦闘能力を奪われた盗賊は、哀れ捕らわれの身となった。

「こいつ等の身体能力なら、10メートル位簡単に飛び越えられそうだから、足にアダマン繊維を編み込んだワイヤーをまきつけておいてくれ。後でとれないようにクリエイトゴーレムでくっつけておくから」

 みんなに指示を出して、攻撃されて悶絶している盗賊共を縛り上げる。

 縛り上げた後は、外されないようにクリエイトゴーレムで、結び目を無くしてはずせないようにする。

 この状態になると、俺でもこの縄から抜けるのは無理だ。千切れないアダマンタイトの繊維が使われている、結び目もつなぎ目もないワイヤーなど切れるわけがない。

 力自慢ならワンチャンあるかもしれないが、五体満足でいられるかと言えば、無理だろう。

 こいつ等は、野営地にいた盗賊に比べれば、不潔では無かったので、運ぶのをみんなも手伝ってくれた。

 引き摺られて運ばれていると、覚醒した奴が騒ぎ出す。

「しゃべってると舌噛むぞっと!」

 そう言って、次々と溝の内側の孤島に投げ込む。でも、この状態だと出られそうなやつがいそうなので、孤島の部分も一緒に10メートル程下げておく。

 魔法でやるには範囲が広すぎたので、ダンマスのスキルで掘り下げている。溝の底から地上までは、20メートル程。さすがに人を落とすとなると助からない高さかもしれないので、深さ5メートル程の水を入れておく。

「よし、野営地に残っている賊共を捕まえにいこうか。そいつ等を運ぶのに使うから馬車は持ってくよ」

 野営地には、1つ目と同じ様に21人の士官らしき人物がいるようなので、一応とられて尋問しよう。
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