ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第899話 完成

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 船内に仕掛けられた罠……もとい、綾乃が自分で仕掛けた、摩擦軽減の魔核を書き換えていく。

「えらい目にあった。何で昔の私は、甲板や船内にまで摩擦軽減の付与までしたんだろ」

「俺はそれより、どうやって転ばずに船体全部に、摩擦軽減を付与したのか疑問だよ」

 自分で間違った所に付与したつもりが無いのだから、どれだけの確率で踏まずに付与できたのかが本当に疑問である。

「まぁまぁ。落ち着くでござるよ。せっかく船が完成したのでござるから、水の上を走らせようでござる!」

 バザールに止められて、船を出す事にした。

「1つ疑問に思ってる事があるでござるが、船の舵はどうなってるでござるか? 通常時は良いとしても、あの魔導具を使った際の高速航行時には普通の舵だと、たいして曲がれないでござらんか?」

「あ~そこね。一応対策は考えてるよ。仮にも高速移動を売りにするんだから、小回りが利かないなんてありえないよ。

 摩擦軽減を船体にかけてるから、更に曲がりにくくなっている可能性も考えて、高速航行時には船尾についている舵に連動するように隠し舵が出るようになってる。それで完璧かと言われれば厳しいけど、それ以上は走らせてから考えようと思ってるよ」

「船尾以外にも、船首側にもついてると言う事でござるか?」

「そうだな。それ以外にもクリエイトゴーレムを使って、船の中ほどにも色々仕掛けをしてあるよ。もしこれでだめなら、物を送る魔導具をスタビライザーみたいに使おうかと思ってる」

 バザールはそれを聞いて納得してくれたようだ。

「じゃぁ出発してみるか。発進!」

 スクリューの方の魔導具を動かして、船を走らせる。船は問題なく進みだした。そして、予想しているより船の進む速度が速かった。

「この船の動力って、リンドやカエデが作ってる船と一緒よね? それにしては、あっちの船より速くない? 昨日向こうの船に乗せてもらった時に比べて、体感できるくらいには速いんだけど」

「動力は、同じだな。自分でも作ったから分かると思うけど、元々は俺の持ってる大きい方の船につかわれてる動力だから、大きくする必要がないんだよ。

 コンパクトにするより、出力を下げて動かす方が楽だからね。それにしても、摩擦軽減の付与ってすごいな。銃弾だって風の抵抗で遅くなる事を考えれば、それより抵抗値の大きい水がどれだけ力を奪っているか分かるね」

 準備していた普通の動力だけで、予定していた速度を大幅に上回っていた。最高速度は計測していないので分からないが、およそ時速80キロメートル位は出ていた。普通の自動車位のスピードが出ていたようだ。

 これがクリエイトゴーレムのおかげで、劣化しないしメンテナンスもほぼしなくても問題ない。維持費にほとんど金がかからない! すごい船だな。

 次にボタンを操作して、水上にある物を送り出す魔導具、そろそろ名前がほしいな。仮名で、アクセルムーブとでもしておこう。

 水上のアクセルムーブを起動して速度を上げる。

「おぉ! 時速120キロメートル位は出てるかな?」

「速度計では、そうなっているでござるな」

「多少舵が重い感じがするが、問題なさそうだな。それじゃあ、水中のアクセルムーブも起動していくか」

「「???」」

 綾乃とバザールが、聞きなれない名称を聞いて首をかしげていたので、仮名として魔導具に付けた名前だと説明すると、名前を付けるのを忘れてたと笑った。

 起動する前に、船の周りに何もない事を確認する。マップ先生で浅瀬や岩礁が無い事も確認してから、アクセルムーブの起動スイッチを2つ押す。これによって4基のアクセルムーブが作動した。

 なぜボタン2つなのに4つ起動したかと言えば、1つのボタンで一対二基の魔導具が作動するようになっているからだ。間違えて、片方作動していなかった! という事を避けるための機能だ。

 船の速度が一気に上がった。おそらく時速250キロメートル以上出ていると思われる。船の周囲にはまだ問題がないので、更に3つのボタンを操作して、すべてのアクセルムーブを起動した。

「あれ? 速度ほとんど上がってなくね?」

「そうでござるな、アクセルムーブが4つ起動していた時は時速260キロメートル出てたようでござるが、10個起動させても、時速300キロメートル位にしかなっていないでござるな」

「それでも船でこの速度って、やばいんじゃない? 確か乗り物を何でも乗りこなす特殊技能を持った子が主人公のマンガで、ブレーキの無い水上のF1とか言われてるパワーボートでも時速200キロメートル位だって話よ。それもバカみたいにすごいエンジンを積んだ奴がね」

「そう考えると確かにおかしいけど、10基起動したのにこの速度はおかしくないか? もっと出てもよさそうなんだが、スクリューの方の魔導具の出力上げてみるか」

 そうすると時速350キロメートル程まで加速した。そこまでいかなくても、時速200キロメートルを超えたあたりから、船の舵をとると遠心力で船がひっくり返りそうになるのだ。限界まで舵を切ったらおそらく船がひっくり返る。

 いったんアクセルムーブの起動を止める。スクリューだけの出力で時速120キロメートルを超えているので、かなりの速度だ。

「魔導具の力の限界かな? 時速300キロメートル以上の速度で物を送り出せない、とかそんな感じか? それ以上の速度で物が入ってくれば、魔導具が作動していても効果がない? とか……それより、遠心力で船がひっくり返りそうになるやつをどうにかしないといけないな。

 魔導具起動時は、飛行機のフラップみたいな装置が必要かもな。水中に仕込んどけば、抵抗力は風より強いし何とかなるっしょ。アダマンタイトで作ればそれくらいで歪む事も無いしな」

 俺は、ひとまずの解決法を思いついたので船を造船所へ戻す事にした。

 造船所に戻って30分で収納可能な魔導具、アクアフラップを作成して取り付けた。

 ただ、これには大きな問題があった。アクアフラップは抵抗力が大きいため、調整や動作のプログラムを魔核に書き込む改良をするのに1週間もかかってしまった。

 速度によってもアクアフラップの角度を変えたり、曲がる角度を考えたりと色々しなくてはいけなくなり、大変だったのだ。

 まぁ一番の問題だったのは、調整が上手くいかずに船がかなり揺れたりする事による、船酔いが作業のスピードを一番遅らせた原因になっている。

 そして、俺たちの船が武装以外完成した頃には、リンドたちの船はもう全部完成しており、細かい調整や内装も完璧に作られていた。それに荷物の積み込みも終わっており、兵士の準備もできていたため俺たちの船が完成するのを待っていたようだ……すまぬ。
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