ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第830話 お店始めは! 順調

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 カレリアについて1週間が経過した。綾乃に頼んでいるダンジョンマスターに関しては、やはり発見はできなかった。この街にいない可能性の方が高いのでしょうがないだろう。

 商人が魔熱病の魔法薬を手に入れた時は、たまたま来ていた可能性が高い。そのタイミングで、ダンジョンマスターにあっていた事を考えると、とんでもない確率だったのだろう。

 ちなみに、ダンジョンマスターが何か企んでいる事が前提なので、こういう考え方になっている。魔熱病の魔法薬が出回った事が、それを確信に変えているからな。何かしらの形でかかわっているのは、間違いないと思っている。

 国王の話を聞く分には、このダンジョンのダンジョンマスターとは交流はないとの事だ。となると、出口が他にもあるか、そもそもダンジョンの中には居座っていない可能性のどっちかだろう。

 この1週間で分かった事というか、進んだことは商会の支店関係だろう。3日前には1階の生鮮食品を扱うエリアが開放となって、近くの奥様が買い物に来てくれている。ここができる前は、買い物に行くのに20分位歩かないといけない位置にしか、買い物できる場所がなかったから助かるとの事だ。

 なんでそんな位置にしか商店が無かったのかと言えば、昔ここの商会がここら辺一帯を中心に商売をしていたらしく、潰れてからは買い物が不便になったそうだ。特に阿漕な商売をしていたわけでは無く、真っ当な商売をしていて、ここまで大きな建物を建てたそうなのだが、突然潰れてしまったそうだ。

 この街の領主は、王国の貴族にしては真面目なタイプで、邪魔だからと言って冤罪を押し付けるようなタイプではないし、他の貴族を自分の領地でのさばらせるタイプでもないので、何が起こったのかと話題になった位だと、買い物に来ていたおば様が話していた。

 その店が潰れてしまい、買い物が不便になっていた所に、俺らが来たので助かっているとの事だった。その噂を聞いて、昨日には食品売りの行商人や街の近くの町から、農家さんが商品を売りに来ていた。

 ディストピアの食材と比べれば、微妙な品が多いがそれはしょうがないだろう。それでも、この地域で精いっぱい育てられた、美味しい食材が多かったので、他の店より高く買い取っている。売る時には、ほとんど利益の無い位の薄利多売で売り出しているようだ。

 この支店のコンセプトは『近隣住人に愛される事』である。1階の食品エリアは、とにかく安く売る事で利益を基本的に考えない事だ。利益は、2~3階で稼げばいいのだ。

 武器防具に関しては、高品質でまわりよりは高値だが、ドワーフ達の暇つぶしや弟子達の修行で作られたものを展示しているので、仕入れ値はほぼタダ。素材を無料でお酒も一緒に渡しているので、実質お酒の値段で作ってくれている武器だ。

 量産品は、鍛造ではなく鋳造が基本なので品質には限界があるのだ。切れ味も鈍りやすいし、手入れにも限界がすぐ来てしまうらしい。鍛造で作られたドワーフの武器は、手入れもしやすく長持ちするとの事だ。でも武器がなんで長持ちするかは分からないが、この世界のルールが存在するのだろう。

 ドワーフの作った武器が5本も売れれば、1ヶ月分で予定している利益を稼げるらしい。アフターサービスではないが、手入れ、整備に関しても有料で行うとの事。

 鍛造に比べて、手入れはスキルがあれば簡単に習得できるようで、補佐に付けた2人が行えるとの事だ。武器をある程度売れば、整備費だけで利益を出す事だって可能だと。

 それに治療院の建設も始まっており、後1ヶ月もすれば建物は完成する急ピッチだそうだ。2週間くらいで人材を探して、残りの2週間で訓練する予定だ。

 初めは、他の街で余裕のある所から指導という名目で派遣もするので、オープンもスムーズにいくだろう。派遣で来てもらう人には、もちろん出張手当を出すので、選考が大変だったとゼニスが言っていた。

 父親がいなくなって、苦労した時間が長い人程、お金の大切さを分かっているので、稼げる時に稼いでおきたいと考えていると思う。独り立ちできるレベルの技術は手に入れているのだが、お金以上に自分の身の安全を確保できないので、治療院に守ってもらっている者も多い。恩という面も大きいが。

 最近、治療院でめでたい話があったと報告がきたな。

 何でも、怪我をして治療に来ていた街の若い職人が、一目惚れをして熱烈なアタックをされていて、押しに負けた形でお付き合いしていた従業員の女性が、結婚する事になったと報告があったのだ。貴重な治療師なので身の安全を考えて、治療院の近くの家を買い取って、貸し与えているらしい。

 その女性は31歳で、職人の男は21歳、子供は12歳の女の子と9歳の男の子の2人だそうだ。好きになった女性より、子供の方が年齢が近いという驚きの事実だった。

 結婚と出産が早ければあり得る再婚とはいえ、びっくりだね! 幸せそうで、今女性のお腹の中には3人目の子供がいるらしい。生まれる時には、同じ治療院で働いているみんなも駆けつけてくれるそうなので、母子の安全は大きく確保されている。

 1階しかオープンしていないので、利益はほとんどない状態だが、治療院ができる1ヶ月後を目途にオープンさせていく予定らしい。この街が栄えているのは、フレデリクみたいに魔物の領域が近くに存在しているのも大きい。冒険者がいつく街でなければ、このサイズの支店は難しかっただろう。

 支店のできている街の多くは、近くにダンジョンがあるか魔物の領域があるだ。そうしないと治療院だけで利益を出さないといけなくなる。だけど、冒険者が少ないと、怪我をする人も少なくて利益になりにくいのだ。

 ただ例外的に、商業の中心地となる貿易都市には、買取り専門の支店も存在している。劣化しない収納の箱があるアドバンテージを、上手く使って商売をしているようだ。

 色々考えていると、

「シュウ、今日もそれらしき人物は見つからなかったけど、まだ続けるの?」

 と、早くも街の散策に飽きてきたのか、綾乃がダルそうに俺に訪ねてきた。

「午前午後の合わせて3~4時間の散策だろ? しばらくは続けてくれよ。まだここに来て1週間しか経ってないぞ。飽きるのが早いって!」

「だって、同じ景色を見ながら歩くのも苦痛なんだよ?」

「それが今回の仕事なんだから……」

 俺が言葉に困っていると、

「綾乃様。ご主人様を困らせるのはやめてください。これ以上続けるのなら」

 ミドリが言葉を止め時間をかけていると、綾乃からゴクリと唾を飲む音が聞こえた。

「仕事をしない綾乃様の食事だけ、携帯食にしますよ?」

 『仕事をしない』という所を強調して、ミドリが会心の一撃を放つ。それを受けた綾乃は、無駄に洗練された無駄のない動きで、土下座をしてミドリに謝っていた。

 1つの問題は解決したが、ダンジョンマスターの存在が確認できていない。ダンジョンをさっさと攻略して掌握してしまうしかないか?
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