ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第813話 『魔熱病』

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「シュウ様、夜分遅くにすいません。緊急事態でしたのでこちらに来ていただきました」

 予想していたよりも、グリエルの表情が硬い。

「グリエル、何があったか説明してくれ」

 俺がそういうと、グリエルが話し出した。

「先ほど、フレデリクで伝染病が確認されました。マップ先生で確認した所『魔熱病』という伝染病でした。感染しても致死率は高くないですが……」

 グリエルは話し辛そうに、言葉に詰まっていた。でも、聞かないと話が進まないので、説明を続けるように促す。

「はい、『魔熱病』は感染しても人間の致死率はかなり低いです。ですが、ありとあらゆる生物に感染して、人間以外の生物が感染すると、ほぼ100パーセントの確率で死にます。そして『魔熱病』の恐ろしいのは、植物にも感染してその土地一帯を枯らしてしまうそうです」

「はぁ? なにそれ……」

「『魔熱病』の恐ろしいのは、集団感染後の復興が難しい点にあります。『魔熱病』が発生すると、その地域は人の流入がなくなり、食料不足に陥ってしまうのです。感染して死ななくても、その後の食糧不足で人が大勢死にます」

 俺は、グリエルの話を聞いて頭を抱えた。

「マジか。感染症による死亡者より、その後の飢餓で多くの人間が死ぬって、感染症を防ぐために人の出入りの制限がかかって、食料不足かどうすんだよそれ……」

「感染自体も問題なのですが、それ以上に問題なのが『魔熱病』は、自然界にもともと存在しない病気なんです」

「バイオテロ……? えっ! もしかして、人の手によって『魔熱病』が広められたって事?」

「そういう事になります」

 なんてこった。中立地域の都市でやられなかっただけましなのか? 樹海周辺の都市でやられたら、地下通路で繋がってるから、ジャルジャン、グレッグ、ミューズ、ヴローツマイン、ゴーストタウン、そしてディストピアにも一気に感染しただろうな。だからと言って、何の気休めにもならんな……

「対応策はあるのか?」

「人間を媒介しないと、他には感染しません。人が感染しても1週間ほどで熱は下がります。感染率は、ほぼ100パーセントだったかと。都市を中心に、約10キロメートル程が感染エリアになりますので、その範囲内に近付かず、半年程すれば病原菌は死滅するそうです。

 昔、飢えに苦しんだ民が他の街に行ってしまい、それが負の連鎖を起こして、小国が滅びたという話もあります」

「半年か……フレデリクにある備蓄した食料でどれだけもつんだ?」

「だいたい、2ヶ月程かと……切り詰めても3ヶ月という所でしょうか?」

「魔物も感染したら死ぬか?」

「いえ、そう言った報告は聞いた事がありません」

「とりあえず、4ヶ月分の食料があれば問題ないんだな?」

「出来るなら半年分はあったほうがいいかと。ディストピアの生産量であれば、問題ないので食糧自体はどうにでもなります。ですが、どうやってそれを送り届ければいいのか」

「ゴーレムやリビングアーマーを使えば、食料を届けるのは問題ない……だけど、半年も隔離と言う状況がまずいな。とりあえず、バザールと綾乃も呼ぼう」

 グリエルの同意を得て、2人を呼んだ。

「『魔熱病』ですか……よりにもよって、その感染病とまた遭遇するなんて」

 到着した2人に同じ話をすると、バザールがいつもの口調ではなく、何やらまじめな雰囲気でつぶやいていた。『魔熱病』を知っている様子なので、理由を聞いてみると……

 今はゴーストタウンと呼ばれている町が、『魔熱病』によって滅びたのだと。

 もともとあそこで自給自足ができるように設計されていたので、食料を育てられなくなり、ダンジョンからの食材では立ち行かなくなって、1年程で全滅してしまったそうだ。他国のスパイが複数侵入していたみたいで、どうにもならなかったようだ。

 ダンマスの力で何とかできなかったのか聞いた所、死亡率の低い『魔熱病』で運悪くバザールが死んでしまったそうだ。それで、復活した時には全滅した後だったらしい。大体1年程とわかったのは、最後まで生き延びていた集団の日記を見つけたからだそうだ。

「そうだったのか……で、バザールは『魔熱病』の対策について何かあるか?」

「植物については、焼き払った方がいいと思うでござる。理由としては、植物が『魔熱病』で腐ると、違う病原菌も発生してたみたいなのでござる。でござるが……感染拡大を止めるには、どうすればいいか見当もつかないでござる」

「ちょっといいかな? 『魔熱病』って病気扱いで、状態異常に表示されてるんだよね?」

「そうですね」

「だったら、万能薬で何とかなるんじゃないの?」

「万能薬で何とかなるなら……でも、半年は病原菌が生きてられるから、持続的に飲ませる必要があるか? もうすでにフレデリクの街で感染が広がってるから、結構難しい対応になるな」

「あんたたち……考えすぎじゃない? 方法はともかく、大量に万能薬を準備できるなら、街の人に飲んでもらうのは当たり前として、方法は後で考えるとして空中散布でもすればいいでしょ? 万能薬は、液体に解毒なりなんなりの作用があるから、空中に散布して『魔熱病』の病原体を殺せばいいんじゃない?」

「へ? 魔法薬ってそんな使い方もできるのか?」

「確か、空中に散布すると効果が弱くなるけど、それでも万能薬の効果は残るのよ。確かダンジョンで毒部屋トラップみたいなのは、解毒剤や万能薬を散布して中和する事もあったはずよ。全員に飲ませるより、散布した方が必要数が少ないならその方法をとるらしいわよ」

「そうだったのか。何でお前がそんなこと知っているかは知らんが……植物系は焼き払って、栄養にでもなってもらうか。で、街の住人には万能薬を飲んでもらって、同時に空中散布って所か?」

「あと、どのランクの万能薬から効果を発揮するか、調べないといけないでござるな!」

「グリエル、今から準備する万能薬を届ける手配をしてくれ、先行して、各ランク10本ずつ準備するから、フレデリクにいる商会の人間に使って、どのランクから効果があるか調べてくれ。結果が分かったら俺達に伝えてくれ。綾乃、バザール、アイテム還元でDPを稼ぐから手伝ってくれ」

「もしかして、DP結構厳しいの?」

「わからん。散布にどれだけの量が必要になるかわからんから何とも言えないけど、最低でも10万本は準備したい。もしAランクが必要になった場合、1本10万DP……100億DPが必要になる。

 その位はあるけど、もし次に必要になった時に足りなくなる可能性があるから、クリエイトゴーレムを使って、アダマンタイト製の装備を大量に作って還元したいんだ。だから手伝ってくれ」

 2人の了解を得て、俺の工房へ急ぐ。
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