ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第340話 戦術的撤退

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「お前! ここにいたのか! ここにいたなら初めから教えとけよ、ボケが!」

 聖国に行った時は見つけられればいいなってくらいだったのだが、いざ目の前に、しかもディストピアのすぐ近くにいることが分かったら、叫ばずにはいられなかった。

 ノーライフキングからすれば、理不尽な言いがかりであるが、結構手間をかけたシュウからすればそんなことは関係なかった。ただただムカつくといった感じだろう。

「このままここで戦うのは不利だ、みんな引くぞ! ライム! レミー! ジュリエット! 前方左右に最大火力で何でもいいから魔法を! 魔法を撃ったら入り口付近まで退却!」

 ライムは前方に向かって超巨大火球のフレアを放ち、街の中心部だと思われる大きな屋敷ごとノーライフキングを焼き払った。左右には可能な限り魔力を圧縮したエアロボムをレミーとジュリエットが放っており、着弾したところから俺たちとは反対側に爆風が駆け巡った。

 相性の問題でライムの放ったフレアに巻き込まれたレギオンに召喚された雑魚はくたばったが、ノーライフキングは弱点の属性にも関わらず、魔法耐性が高いのかほとんどダメージは与えられていなかった。

 エアロボムが放たれた左右は、爆風によってうまれた瓦礫などが体に当たり、三割ほどの雑魚が倒せたが、他の雑魚は吹き飛ばされただけで、たいしたダメージになっていなかった。死んだほとんどがゾンビ系の雑魚だった。

 範囲魔法で大量の敵を巻き込んでの攻撃は初めてか? 予想以上に数を減らせていないうえに、大量の魔力を使って魔法組が若干疲れている。

 戦闘では大魔法より、小魔法に魔力を込めて威力を上げて使っているので、ここまで大量に消費したのは初めての可能性も高い。俺はアダマンタイトを最初に加工した時に魔力が欠乏しかけたけどな、あれは気持ち悪かった。

 後ろにいた雑魚は人造ゴーレムと新人組が減らしてくれていたので、問題なく撤退することができた。

「アルファとベータチームのみんな、さすがにノーライフキングが出てきたから、一旦ディストピアまで引いてくれ。四大精霊と光・闇精霊に入り口付近まで来るように伝言お願い。外にいるオオカミたちを使っていいからできる限り早く伝えてくれ」

 俺からの伝言を受け取ると、全力疾走でディストピアへ走っていく。

「さて俺たちは、ノーライフキングとスカルレギオン、ゾンビレギオンの相手しようか。大魔法は控えるようにしよう、予想より負担が大きいみたいだから、違う方法を考えよう。

 ただレギオンニ体の本体がどこにいるか分からないから、持久戦になると圧倒的に不利だな。ノーライフキングの死霊魔法で復活した奴らなら、ここの住人と墓の人数倒せば打ち止めになるはずだけど、レギオンはきりがないからな、早めに倒しておきたいな」

 ミリーたちのレクチャーから学んだ事を口に出して、みんなで状況を共有する。おそらくノーライフキングがここのボスで、レギオンのニ体は取り巻きという形だろう。

 ノーライフキングは立ち位置にすれば、アンデッドの最上級と言っても過言ではない存在で、レギオン系の魔物でも今回はスカルとゾンビ、両方ともアンデッドなのだ。Sランクとは言われているが存在の格が違うのだから、指示に従うのは普通の成り行きだろう。

「シュウ、ちょっと気になる事があったんだけど、あのノーライフキング普通にしゃべってたよね? シュウが召喚する鬼人族が普通にしゃべるから忘れてたけど、普通の魔物はしゃべれないんだよね。

 おそらくアンデッドでしゃべれるって事は、元人間って事なんだと思う。初めは魔力の強い人間が死んでリッチになって、時間が経つうちにエルダーリッチになって、何かしらの条件を満たしてノーライフキングになった可能性が高いわ。人間の知識を持った魔物は厄介だよ」

 そういえば、アンデッドだけは人間からなる可能性があるんだったよな。レギオンだけでも面倒くさいのにニ体いるし、人間からノーライフキングになった可能性のあるやつか!

「さっきから敵の数が減ってないから、近くにレギオンニ体がいるぞ。後衛組! 怪しいのがいたらドンドン撃ち抜いてくれ、出し惜しみ無しで行くから聖銀の鏃の矢を大量に出しておくよ。本体には聖銀は通じるから多分分かるんじゃないかな? ノーライフキングも狙えそうなら狙っていいよ」

 聖銀の鏃は準備したけど、スカルレギオンやゾンビレギオン、ノーライフキングにどこまで通じるんだろうな? 念のためさっき五発分のロックオンの弾を準備したので、効きそうなら遠慮なくぶち込んでやろう。

 入口に戻ってきてからおよそ四時間が経っている。その間ずっと戦い続けているため、全員で倒した雑魚の撃破数だけで言えば軽く五桁は超えている。

 雑魚とはいえ、さすがに四時間も動きっぱなしで攻撃し続けているのだ、疲れが溜まってきている。交代で休もうにも敵の数が多いうえに、普通は連携を取らないと言われているレギオンの召喚体たちが、拙いながらにも連携をとるからさらに厄介なのだ。

「ご主人様、このままだとジリ貧ですけどどういたしますか?」

 ピーチが冷静に? 現状を把握してどうするかの意見を求めてきた。どうするも、このまま続けるか引くかしかないんだよな。さてどうするか?

「ゾンビレギオンの本体らしい奴がいました。狙いましたが周りに肉壁のような雑魚もおおいですし、察知されているためか矢を当てるのは難しいですね」

 まず攻撃が仕掛けられない物量で押し込まれてるのが厳しいよな。いったん引くにしても、穴を塞がないとこいつらが出てくるよな? 撤退するなら、一度大魔法で周辺を吹っ飛ばしてから、蓋して外に出てダンマスのスキルで通路を塞ぐしかないかな? 疲れ切る前に撤退しないと最悪俺たちの命も危ないよな。

「後衛組に、アリスも手伝って、前衛は指示があるまで全力で守りを固めてくれ。最大火力の魔法をみんなで使ってくれ。使うのは火か風のどっちかでお願い、逃げる力以外は全部注ぎ込むつもりで撃つぞ!」

 魔法使う後衛人は全力で魔法を構築していく。

「行くよ! みんな後退! 魔法、放て!」

 火と風の魔法が炸裂する、一気に周囲の温度が上昇する。俺は準備していた断熱結界を張ってその場から退避する。通路に入ったらクリエイトゴーレムで蓋をして、手持ちで一番高価なAランクの魔石で作った魔核で、修復機能を強化させた。

 無理をさせてしまったライムをお姫様抱っこをして外まで走る。外に出たら通路を塞いでおく。

「ご主人様、大丈夫ですか?」

 風精霊のメイが訪ねてきたので、今までの状況を説明し外に出てきた時の対処を考えてもらう。

 俺は周囲につながっている通路がないか把握するために、ディストピアの周囲一〇〇キロメートル程のエリアを掌握するが、それらしき穴は無かったので掘って出てこない限りは、すぐに攻められることはないだろう。

 一応ディストピアには注意喚起を出し、冒険者活動は停止してもらい、食料はただで放出するように行政府に命令しておいた。足りなかったらシルキーたちに言えば問題ない事も一緒に伝えておく。

「どうするかな……」
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