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第1話(B)
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ポラリスとスピカが居るのは、町の海沿いにある小さなビーチ。
海沿いにいくつかあるビーチよりは小さな浜辺だが、青い海が目の前に広がり、砂浜に波が打ち寄せては引いてを小さく繰り返す。
2人はマルフィクの町を歩いて回り、お昼から時間も経ち、最初に出会った南部の漁港付近まで戻って来ていた。
散歩も終わりの雰囲気、もうさよならだ。
行商人は王国各地を回って旅する職業だ、
またこうやって会えるのは、いつになるのか
分からない。
出会いは一期一会、お別れしてしまう前に
ポラリスには訊きたいことがあった。
スピカは静かな海を見つめて一言呟く。
「海が綺麗ね」
「あのっ……」
声を上げたポラリスにスピカが顔を向けて返事をする。
「何かしら?」
するとポラリスが真剣な表情で唐突に訊きたいことを投げ掛ける。
「スピカさんの夢って何ですか?」
その問い掛けに目を丸くさせたスピカは、右手で顎に青いネイルの人差し指を当てながら考える素振りを見せて、惚けて答える。
「……夢? 大きなイチゴサンドに乗っていて、空からもイチゴサンドが山盛りに降ってくる夢かしら?」
スピカの惚けた答えにポラリスが鋤かさずツッコミを入れる。
「じゃなくて、目標のことです!」
「そうね……お話してもいいかしら?」
隣に居るポラリスよりも数歩前に出ると、波打ち際で黒いストラップシューズの足元を見て、それから目の前の青い海と遠くの空を見つめるスピカ。
「はい」
ポラリスは返事をすると、視界に見える波打ち際のスピカの後ろ姿は、どこか寂しさを語っている。
そしてポラリスからの問い掛けの答えを、スピカはゆっくりと話し始めた。
「わたくしの夢は、美しい景色を見ながら
旅をすること。
生まれて間もなくわたくしは視力が無くて、変わりに膨大なリュミエールを持って
いましたわ。
目が見えない理由には、そのせいもあり
ましたけれど、生きていく為には身体から
リュミエールを解放させなければならなくて、自らを守る力を失ってもわたくしは、
生きて彩りある景色が見たかったのですわ」
ポラリスは、スピカが自らを守る術である星法が扱えないと知ると驚いて、目を大きくさせる。
遠く、空と海の境界線を見つめる寂しげな
スピカは、少し後ろに居るポラリスに話しを続ける。
「自分がどんな姿なのか、家族の顔も周り
の景色も何も見えなくて、ただ目を閉じて
同じ毎日を過ごしていたわたくしに、色は
ありませんでしたわ。
空が何色なのか、青い海はどんな色なの
かもわからないまま、想像さえも叶わない
光景は凄く無力で、孤独でしたわ……」
ポラリスは表情を曇らせて、スピカの話を静かに傍で訊いている。
「希望の無いそんな幼い頃のわたくしに、
お母様が言ってくれましたの。
あなたの夢は何かしらって、わたくしは、
目が見えるようになったら、色んな場所を
お散歩したいと答えたわ」
ポラリスが声を出しスピカに問い掛ける。
「その時に見えるようになったんですか?」
波打ち際のスピカは振り返って、ポラリスに顔を向けると答える。
「目を治したのはお母様ではないわ。
リュミエールを大地に還せると言う星導師の
星法で、わたくしは視力を得ましたわ」
ポラリスも数歩前に出て波打ち際のスピカの隣に並んで話す。
「見えるようになって、夢を叶えられたん
ですね」
海沿いにいくつかあるビーチよりは小さな浜辺だが、青い海が目の前に広がり、砂浜に波が打ち寄せては引いてを小さく繰り返す。
2人はマルフィクの町を歩いて回り、お昼から時間も経ち、最初に出会った南部の漁港付近まで戻って来ていた。
散歩も終わりの雰囲気、もうさよならだ。
行商人は王国各地を回って旅する職業だ、
またこうやって会えるのは、いつになるのか
分からない。
出会いは一期一会、お別れしてしまう前に
ポラリスには訊きたいことがあった。
スピカは静かな海を見つめて一言呟く。
「海が綺麗ね」
「あのっ……」
声を上げたポラリスにスピカが顔を向けて返事をする。
「何かしら?」
するとポラリスが真剣な表情で唐突に訊きたいことを投げ掛ける。
「スピカさんの夢って何ですか?」
その問い掛けに目を丸くさせたスピカは、右手で顎に青いネイルの人差し指を当てながら考える素振りを見せて、惚けて答える。
「……夢? 大きなイチゴサンドに乗っていて、空からもイチゴサンドが山盛りに降ってくる夢かしら?」
スピカの惚けた答えにポラリスが鋤かさずツッコミを入れる。
「じゃなくて、目標のことです!」
「そうね……お話してもいいかしら?」
隣に居るポラリスよりも数歩前に出ると、波打ち際で黒いストラップシューズの足元を見て、それから目の前の青い海と遠くの空を見つめるスピカ。
「はい」
ポラリスは返事をすると、視界に見える波打ち際のスピカの後ろ姿は、どこか寂しさを語っている。
そしてポラリスからの問い掛けの答えを、スピカはゆっくりと話し始めた。
「わたくしの夢は、美しい景色を見ながら
旅をすること。
生まれて間もなくわたくしは視力が無くて、変わりに膨大なリュミエールを持って
いましたわ。
目が見えない理由には、そのせいもあり
ましたけれど、生きていく為には身体から
リュミエールを解放させなければならなくて、自らを守る力を失ってもわたくしは、
生きて彩りある景色が見たかったのですわ」
ポラリスは、スピカが自らを守る術である星法が扱えないと知ると驚いて、目を大きくさせる。
遠く、空と海の境界線を見つめる寂しげな
スピカは、少し後ろに居るポラリスに話しを続ける。
「自分がどんな姿なのか、家族の顔も周り
の景色も何も見えなくて、ただ目を閉じて
同じ毎日を過ごしていたわたくしに、色は
ありませんでしたわ。
空が何色なのか、青い海はどんな色なの
かもわからないまま、想像さえも叶わない
光景は凄く無力で、孤独でしたわ……」
ポラリスは表情を曇らせて、スピカの話を静かに傍で訊いている。
「希望の無いそんな幼い頃のわたくしに、
お母様が言ってくれましたの。
あなたの夢は何かしらって、わたくしは、
目が見えるようになったら、色んな場所を
お散歩したいと答えたわ」
ポラリスが声を出しスピカに問い掛ける。
「その時に見えるようになったんですか?」
波打ち際のスピカは振り返って、ポラリスに顔を向けると答える。
「目を治したのはお母様ではないわ。
リュミエールを大地に還せると言う星導師の
星法で、わたくしは視力を得ましたわ」
ポラリスも数歩前に出て波打ち際のスピカの隣に並んで話す。
「見えるようになって、夢を叶えられたん
ですね」
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