ラストスパート

ひゅん

文字の大きさ
上 下
26 / 27

本番

しおりを挟む
 マラソン大会の当日、小学三年の本番前。ウォーミングアップをしながら藤波は緊張していた。マラソン自体は嫌いではなかったが、この本番前の緊張感だけは好きではなかった。
 藤波は、後ろの星崎をチラッと見たとき、身軽にぴょんぴょん飛び跳ねていた。身体能力が明らかに以前とは違う。星崎は本当に軽々と体を宙に浮かせて気持ち良さそうに何度もジャンプしていた。
 この日のために努力してきたんだ、と藤波は思った。一年間、星崎といて彼が、純粋に何かを掴もうとしてきたことが藤波にはとてもよくわかった。藤波のなかにある何かを星崎は見ていたのだ。それは言葉で言い表すことは難しいけど、ごつごつとした藤波の力強い心の襞だった。それを星崎は見ていてくれたのだ。藤波はそのことを思い感動をすら覚えた。そして今日は心のある部分で繋がっていた藤波と星崎の本番の日だった。
 誰にも負けたくはない。昨年と同じように藤波はスタート前にそれを思った。昨年以上に藤波は強い気持ちを抱いた。今年は星崎というライバルがいる。
 パンっというスターターピストルの音と共に藤波は一番前へ飛び出した。学年一速い小川という男よりも初め藤波は前に出たが、四百メートルくらいのところで藤波は後ろに置かれた。
 その後中盤辺りまで全体の三位を保っていた藤浪だが、終盤に差し掛かったところでペースが落ちた。ペース配分がいつもより先に出すぎて終盤に順位を落とした。
 終盤に十位前後のところに付けていた藤波を追い抜く者たち。その一人に星崎がいた。やはりいた、藤波は思った。今、星崎は藤波のライバルだった。藤波はそれをみて血の味がするくらい無理にまたペースを上げた。途中、星崎を追い越したのだけは確かだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

青空墓標

みとみと
青春
若者の有り余る熱情の暴走の果て。

瑠璃色たまご 短編集

佑佳
青春
 企画に寄稿した作品がきっかけで、機に乗じて短編を作り続けていたら、短編集になってきました。  時系列順になってます。  ちょっとえっちもあります。  蟬時雨あさぎさん主催『第一回ゆるプロット交換会』『第二回ゆるプロット交換会』参加作品です。南雲 皋さま、企画主・蟬時雨あさぎさまのゆるプロットを元に執筆した作品たちです。 『ゆるプロット交換会』について詳しくは以下リンク▽から。 https://kakuyomu.jp/works/16816927860507898558 ©️佑佳 2016-2023

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

あまやどり

奈那美
青春
さだまさしさんの超名曲。 彼氏さんの視点からの物語にしてみました。 ただ…あの曲の世界観とは違う部分があると思います。 イメージを壊したくない方にはお勧めできないかもです。 曲そのものの時代(昭和!)に即しているので、今の時代とは合わない部分があるとは思いますが、ご了承ください。

私の話を聞いて頂けませんか?

鈴音いりす
青春
 風見優也は、小学校卒業と同時に誰にも言わずに美風町を去った。それから何の連絡もせずに過ごしてきた俺だけど、美風町に戻ることになった。  幼馴染や姉は俺のことを覚えてくれているのか、嫌われていないか……不安なことを考えればキリがないけれど、もう引き返すことは出来ない。  そんなことを思いながら、美風町へ行くバスに乗り込んだ。

信仰の国のアリス

初田ハツ
青春
記憶を失った女の子と、失われた記憶の期間に友達になったと名乗る女の子。 これは女の子たちの冒険の話であり、愛の話であり、とある町の話。

半ばでその役目を終えたスタンプカード

仙 岳美
青春
青年は装甲電車から降りると、少し苦い昔の出来事を思い出す。

処理中です...