ラストスパート

三

冬の到来

冬のマラソン大会、本番は二月であり、年が明けたくらいから生徒たちは大会を意識する。この時期、毎朝各クラスで朝練が行われる。毎週火曜日と金曜日は、藤波と星崎のクラスである三年一組の朝練の日である。
  金曜日の朝、星崎はいつもより三十分早い午前六時半に藤波の家に訪れた。藤波と星崎がいつものように重いランドセルを背負って駆け出すと、強い北風に乗って空から風花が舞っているのがわかった。風が急に強くなる瞬間は、白い雪が乱舞しているかのようであった。藤波は帽子を抑えながら「寒いね」と星崎に向かって呟くように言った。
「そうだね。マラソン大会近いね。藤波君の目標は何位以内？」星崎はランドセルを窮屈そうに持ち直して言った。星崎はいつも冬の通学の時は厚手の黒いダウンジャケットを着ていた。藤波はそれをみていつも星崎君は大人びている、と思った。テカテカのダウンジャケットに気を取られた藤波だったが、星崎が返事を待っていることに気づいてはっとした。