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4、輝きの大樹

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 12月にもなれば町中がクリスマス一色。どこの家でも店でもクリスマスツリーが飾られる。なのに男の子の家ではいつも、クリスマスツリーは飾らなかった。
「ねえ、おばあちゃん。今年もうちにはクリスマスツリーがないの?」
「そうだねえ。町に行けばたくさんあるから、好きなだけ楽しんでおいで」
「どうして飾っちゃダメなの?」
 申し訳なさそうに笑うお祖母さんに、彼は納得がいかないながらも口を噤んだ。母に聞いても父に聞いてもごめんねと言うだけで、何も教えてもらえない。
 とはいえツリーを飾らないだけで、クリスマスパーティーはしてくれる。プレゼントもくれるし、クリスマスソングを歌っても怒られない。なのにツリーだけはだめなんて。
 毎年のことながら、男の子はやりきれない気持ちを、不満を漏らすことでやりすごす。学校から帰ってきた時にきらびやかなクリスマスツリーが見えると、きっともっと嬉しくなるのに。
 窓の外を眺めれば、雪をかぶった木がたくさん。地面もただ真っ白で、色鮮やかな装飾はどこにもない。
 この森の中の小さな家には、お祖母さんと両親と男の子の四人で住んでいる。折角のクリスマスだというのに、家の中にはなにひとつクリスマスらしいものは飾っていない。クリスマスの雰囲気を楽しむためには、やはり町に行かなければならなかった。町には歩いて一時間もかからないけれど、家の中から町の様子は見ることが出来ないのが残念だ。
「ぼうや、今日は一緒に森の中をお散歩しようか」
 唐突なお祖母さんの申し出に、寝ころんで漫画を読んでいた男の子は、身体を起こした。
「森の中? 町じゃなくて? どうせなら僕は町に行きたいんだけど」
「そうだね。それはまた今度にしよう。今日は天気もいいし、お散歩に付き合っておくれ」
 両親は共働きで、男の子は普段、お祖母さんと一緒にいることが多かった。一緒に町に買い物に行くのは好きだが、今日は森の中。小さなため息をもらしながらも、男の子はお祖母さんの提案を受け入れた。
 冬眠前の動物達に気をつけながら、二人は雪道をさくりさくりと歩いた。彼らの何倍の高さもある木から、ときどき風に揺られて雪が落ちてくる。
 しばらく進むと、少し後ろを歩くお祖母さんから、クリスマスソングのハミングが聞こえた。
「この歌は知っているかい?」
「知ってるよ。有名なクリスマスの歌だもん。みんな知ってるよ」
「そうかい。じゃあ一緒に歌っておくれ」
 男の子はお祖母さんと一緒に歌いながら歩いた。家の周りの森をぐるぐるしているだけなので、迷子になる心配もない。ふと、お祖母さんが一本の木の前で立ち止まった。
「どうしたの、おばあちゃん」
「おいで。ここで一緒に歌っておくれ」
 言われた通り、お祖母さんの隣で歌い始めた。お祖母さんは顔を上げて何かを見ているようだった。
「どうしたの」
「なんでもないよ。きれいだと思ってね」
「普通の木でしょ」
「そうだね」
 お祖母さんはじっと木を見上げている。男の子も見上げてみたが、普通の周囲にある木と何も違いはないように見える。
「今日はもう冷えてきたから、家に戻ろうか」
 散歩を終えた二人は、温かい自宅へと戻っていった。



 男の子が友達と家の前で雪遊びをしていると、家の中からお祖母さんが出てきた。
「みんな、おいで。クッキーを焼いたよ」
 お祖母さんのクッキーは大好きだ。けれど家の中に友達が入るのは、少しいやだった。何故なら。
「ねえ、どうしてここにはクリスマスツリーがないの?」
 そう聞かれるのがわかっていたから。
「僕の家にはこーんな大きいのがあるよ」
 友人のひとりが大きく両手を広げて大きさを説明した。
「私の家にもあるわ。きらきらしたプリンセスのお人形が飾ってあるの」
「俺の家にもでっかいのがあるぜ」
 男の子は俯いた。美味しいはずのクッキーも、今は味気ない。
「それはね。大きすぎて、家の中には入らないからさ」
 突然の返答に、男の子は驚いてお祖母さんの顔を見た。
「昔おじいさんが張り切ってしまったせいで、家の中に入らないからどうしようという話になってね。結局外に置くことにしたんだよ」
「どこにあるの?」
「どれくらい大きいの?」
「オーナメントはたくさんある?」
「てっぺんのお星さまはどうやってつけるの?」
 友人たちは興味津々。男の子は嬉しくもハラハラした。お祖母さんの話が本当かどうかわからないからだ。
「今はまだ飾りつけ出来てないんだよ。大きくて大変だからね。てっぺんのお星さまは自分達じゃつけられなくて、森の妖精さんに手伝ってもらっていたんだよ」
「えー、そうなの?」
「嘘だあ」
「私、妖精さんみたことない」
「そんなの嘘に決まってるだろ」
「どうして嘘なのよ」
「森の妖精は、クリスマスツリーの飾りつけなんて手伝ってくれないもん」
「そうなの?」
「自分たちのクリスマスツリー飾るのに忙しいんだって」
「そうだったんだ」
「でもそれだけ大きかったら、手伝ってくれるんじゃない?」
 口々に話す友人たちに、男の子は口を挟めなかった。お祖母さんの嘘かもしれないし、それでもお祖母さんを悪く言われたくはない。
「じゃあクリスマスの日にここに来れば、大きなツリーが見られる?」
 友人の発言にどきりとした。そんなことになってしまえば、お祖母さんが嘘つき呼ばわりされてしまう。
「どうだろうねえ。大きすぎて飾り付けが大変だからねえ。飾りをつけおえたら、てっぺんのお星さまは妖精さんが手伝ってくれるだろうけど」
「だったら私達も手伝うわ」
「そうだよ。僕たちも手伝うよ」
 全員が賛同したところで、友人たちを見ていた目は、お祖母さんに戻った。どうしよう、なんとかしておばあちゃん。
「そうかい、それは助かるね。じゃあさっそく頼もうかね」
「おばあちゃん」
「じゃあさっそくクッキーを食べ終わったら、お手伝いをお願いしてもいいかい?」
 暴走するお祖母さんを止めたくて、控えめに呼びかけたが、声が小さすぎたのか聞こえなかったらしい。
「うん、わかった。じゃあ早く食べちゃおう」
「ゆっくり食べていいよ。まだ明るいからね」
 男の子は恐々とする。びくびくしながらひとり、笑顔の友人たちとお祖母さんに囲まれながら、美味しいはずのクッキーをまったく味わえずにかじっていた。


 クッキーを食べ終えると、お祖母さんは男の子と友人たちをあの木の周りに集めた。先日一緒に散歩をしたとき、お祖母さんが見上げていた木だ。
「何をするの?」
「私たち、飾るもの何も持ってきてないわ」
「僕も」
「俺もない」
「いいんだよ。今日は手伝ってくれる妖精さんにお願いする儀式だから」
「ぎしき?」
「ぎしきってなあに?」
「お願いをする行為のことだよ。さ、私はこれを持ってきたからね」
 お祖母さんが、かばんから取り出したのはタンバリン。
「あなたたちの分もあるよ」
 更に何故か人数分の鈴が出てきた。どこにあったのそれ。男の子は疑問を瞳に込めてお祖母さんを見た。
「このまえ物置で見つけたんだよ。どこかにあったはずだと思い出してね。見つけて取り出しておいたのさ」
 何故。と思ったが口には出さず、差し出された鈴を受け取った。
「古いものだけどね。音が可愛いだろう。みんなでリズムを刻みながら歌いましょう」
 また歌うのか。お祖母さんはそんなに歌が好きだっただろうか。
「笑顔で楽しくね。私たちが楽しそうにしていれば、妖精さんたちも集まってきてくれるから」
「ホント? 妖精さん見える?」
「今日はどうだろうねえ。クリスマスの準備で忙しいかもしれないし」
「そっかあ」
「でも気づいてくれれば、きっときてくれるさ。クリスマスまでにはきっと」
「本当? じゃあ毎日きてもいい?」
 なんてことだ。男の子は瞳を大きく見開いた。その顔には不安がありありと表れている。
「ああ、おいで」
 え、と。お祖母さんの発言にも驚かされて、男の子の胸はずっとハラハラドキドキしっぱなし。けれど友人たちの前で、どういうつもりなのかと聞くことは出来そうにない。男の子は引きつった作り笑顔を浮かべながら、お祖母さんの誘導に従ってしぶしぶ歌い始める。
 タンバリンを叩くお祖母さん、鈴を鳴らす友人たち、そして皆で大きな木を囲んで一緒にクリスマスソングを歌っている状況に、なんだかおかしくなってきた。何より皆が笑顔なのだ。お祖母さんも友人たちも楽しそう。
 自分だけがびくびくしているのは、なんだか変だ。これが場違いというものかもしれない。最近覚えた、父が使っていた言葉だ。
 皆につられ、男の子も大きな声で一緒に歌う。お祖母さんもゆっくりとだがくるくる回りはじめ、友人たちも跳んだりはねたり、回ったりし始めた。さっきまでの不安はどこへやら、すっかり楽しくなってきて、気づけばすっかり日は落ちていた。
「さあさ、みんな今日は帰ろうね。そろそろ暗くなってきたからね」
「今日は妖精さん見えなかったね」
「そうね。彼女たちもいそがしいのよ」
「え、妖精さんって女の人なの?」
「そうに決まってるだろ」
「僕は男の人だと思ってた」
「どっちもいるんじゃない?」
「そうだねえ。私が見たのは女性だったけど、男の人もいるかもしれないね」
 また現れた新たなお祖母さんの証言だったが、男の子はもう驚けなくなっていた。
「あとはとても小さくて、声をかけられるまですぐそばにいても気づかないこともあるのよ」
 驚きはしなかったが、男の子はお祖母さんの顔を少しだけ睨んだ。もうやめてくれないだろうか。
「そうなの? じゃあ歌ってる時にそばに来てたかもしれないね」
「そうだねえ。様子を見に来てたかもしれないよ」
 喜ぶ友人たちの横で、男の子は静かに俯いた。彼らが帰って家の中に入ると、どっと疲れて、ふうと長い息をついて肩をおろした。
「楽しかったかい?」
 そう問われ、考えてみる。お祖母さんがいろいろ話してくれて、鈴やタンバリンを持ってきてくれて、怖かったり、びっくりしたり、ハラハラしたり。けれどみんなで木を囲んで歌って踊った時は、たしかにとても楽しかった。
「うん。楽しかったよ」
「そうかい。それは良かった」
「でもおばあちゃん。明日ホントにみんな来ちゃったらどうしよう」
「いいじゃないか。みんなでまた歌って踊れば。ああそうだ、クッキーを焼いておかないと。材料も買っておかないといけないね」
「そんなのいいよ。それより妖精さんの話、みんなに嘘だってバレちゃったらどうするの」
「おや、嘘だと思っているのかい?」
「だってそうでしょ。妖精さんがクリスマスツリーの飾りつけ手伝ってくれるなんて、聞いたことないよ。でっかいツリーだってないし」
「そうかい。まあ、明日また見てみればいいさ」
 お祖母さんは微笑んでいた。窓の外を眺めてのんびりしている。なんだか今年のクリスマスはいつもより楽しそう。
 そう思ったのは自分だけではなかった。暫くして帰ってきた男の子の母親が言った。なんだか楽しそうねお母さん、と。
「ええ、今日は孫の友達とクリスマスツリーの話になってね」
「……そう」
「外の大きなクリスマスツリーの飾りつけを、手伝ってもらうことになったんだよ。それでみんなで一緒に歌ったんだ。孫たちと一緒にね。私もタンバリン持って踊ったよ」
 母親は話を聞くと、数回瞬いて無言になった。男の子の顔を見て、説明を求めている。
「そうだよ。みんなで木の前で歌って踊ったんだ。楽しかったよ。明日も来るかも」
「妖精さんを見にね」
 お祖母さんが付け加えた。母親は微妙な笑みを浮かべていた。
「まあ、楽しかったのなら良かったわ」


「みてごらん」
 翌朝。見ると、見上げるほどのあの木に、音符の飾りがついていた。
「どうしたの、あれ」
「歌ったから、妖精さんが飾り付けを手伝ってくれたんだよ」
 何を言ってるのお祖母ちゃん。男の子の顔には、そう思っていることがありありと伝わる表情があった。
 そしてやってきた友人たちは、音符の飾りを見て驚いた。
「あれは何?」
「音符だよ」
「どうやって飾ったの? あんな高いところまで」
「妖精さんが手伝ってくれたのさ」
「私見えなかったのに!」
「私も見えてなかったねえ。夜のうちにやってくれたのかもしれないねえ」
 まさかお祖母ちゃんが夜中にこっそり? 男の子はそう思ったけれど口にはしなかった。
「今日もみんなで歌おうか」
 え、今日も? とは思ったが、友人たちからは楽しそうな賛同の声が上がったので、男の子もしぶしぶついて行く。そうして一緒に歌って踊ると、やっぱり結局楽しかった。そしてお祖母さんのタンバリンは、何故か二つに増えていた。聞くところによると、物置の中にまだあったらしい。昨日の夜中に探したのだろうか。
 それからは毎日友人たちが来て、歌って踊る日々が続いた。訪れる友人たちも増えていき、二週間もすると友人の家族までがやってきた。何故ならその間に彼らが囲んだ木は、どんどん飾り付けが増えていったから。
「これどうやってるの?」
「森の妖精さんだよ」
 お祖母さんはそう言うばかりで教えてくれない。飾りつけは寝ている間にせっせと誰かがやっているのだろうか。確認したいけれど、夜は眠くて起きていられない。
「あれ? この飾り、さっきはあった?」
 ある日の夕方、みんなでいつものようにその木を囲み、歌って踊っていると、誰かが言った。
「さっき見たときは、あそこには何もなかったと思うんだけど」
 あれは誰かのお父さんだ。人が増えすぎて、もう誰が誰の家族だかわからない。
「じゃあ妖精さんだね」
「妖精さんだわ!」
 お祖母さんの返答に、友人のひとりがはしゃいだ声をあげた。
「妖精さんは見えなかったけど、飾りつけ手伝ってくれてるのよ」
「いやいや、おいおい、嘘だろう?」
 他の大人たちも驚いている。中には最初からあったのでは、という声も聞こえた。
「じゃあ明日もまた見に来るといいよ。どれくらい飾りが増えているかは知らないけどね」
 お祖母さんの発言により、また人が増えるらしいことが窺える。どういうことだろう。
 男の子は、前より自信満々に見えるお祖母さんを、不思議そうに見つめた。



「おばあちゃん。妖精さんは本当にいるの?」
「ああ、いるさ」
 ある日の夕食の時、男の子は思いきって聞いてみた。
「でも見えないよ」
「ああ、見えないね。でもいつか見えるようになるかもしれないよ」
 男の子は唇を尖らせる。いるなら見たいのに。
「そろそろ許してくれたみたいでね。この子と一緒に歌ってみたら光っていたから、もしかしてと思って試してみたけど、正解だったようだよ」
 お祖母さんの視線は、母親に向いている。母親は父親を見つめ、男の子以外の三人は、何か知っているのか、穏やかな表情で頷いている。
「どういうこと?」
「昔の話だよ。私が子供の頃の話でね」
 お祖母さんは話し始めた。あるとき子供たちがある木の前で歌を歌うと、木が光を纏い出したという。歌が好きなのだろうと思って、歌って踊ると、次の日には音符や小さな粒の飾りがついていた。その木の前で子供たちが遊ぶと、その遊んだ子供たちの形を模したような飾りがぶら下がっていた。雪遊びをしている子供、そりで遊んでいる子供、歌を歌っている子供。こどもたちの間で有名になり、大人たちの間でも有名になった。
 クリスマスには、いつの間にか、その木のてっぺんに大きな星の飾りがつけられ、クリスマスが終わると星はなくなった。クリスマスには毎年、町の人がその木の周りに集まり、楽しんでいた。そんな出来事が何年も続いていたらしい。
 そんな不思議な木は一本だけだった。あるとき町の人は、その木の枝を切ってみんなで分けようと言い出した。そうして数年は毎年分けていたのだが、ある年の冬、その木の一番近くに住んでいた人が、木を切るのは良くないと言い出し、分けるのをやめた。そうしたら、木は光らなくなったらしい。
「その木の一番近くに住んでいたというのが、私のおじいさんでね。お前からすると、ひいひいじいさんだね。おじいさんはただ木を大切にしたいと思ったのかもしれないけれど、木を独り占めしたい気持ちもあったのかもしれない。分けることを止めさせたから、木は悲しくなってしまったのかもしれないね」
 お祖母さんはお茶を一口啜った。男の子は初めて聞いた話に、ただただ聞き入っていた。
「それからは反省をして、うちではクリスマスツリーは飾ってはいけないということになっていたんだよ。お前には悲しい思いをさせてしまったね」
「いいのよ、母さん」
 お祖母さんは自分の娘である、男の子の母親に言った。毎年クリスマスパーティーもやるしプレゼントもくれるのに、ツリーだけがないのはそういうことだったのか。
「お前にもだね、ぼうや。そしてお前のおかげで、あの木はもう一度チャンスをくれたんだ」
「僕のおかげ?」
「ああ。一緒に歌ってくれただろう。お前の優しい思いが通じたんだよきっと。町の人も昔のことは忘れているだろうし、丁度タイミングも良かったのかもしれないね」
「そうね。これでまた、母さんの子供の頃のように、人が毎年たくさん集まってくるようになるかもしれないわ」
 母親の言葉に、男の子は、はっとする。
「待って。それじゃあまた有名になったら、枝を分けるようになるってこと?」
「そうかもしれない。だが今回は枝が無くなろうとも、みんなに分けることを優先しよう」
「それっていいの? 切った枝はどうなったの? 大丈夫だったの?」
「当時は切った枝はずっと光っていたんだよ。ほのかに光り続けて、飾っておくと毎年淡い光が周囲を照らしていたんだ。だから幹だけは切らないようにして、枝は分け合っていいんだよ」
「そうなんだ」
「私のおじいさんは考え方は良かったのかもしれないけど、やり方を間違えたのかもしれないね」
「でもおじいちゃんは間違ってないんじゃないかな。僕も誰かが木を切ろうとしたら止めると思う」
「そうだね。私も木を切る話だけを聞いたら、そう思うかもしれない。でもね、私が間違っていたと思うのは、結果を見たからなんだよ。光らなくなったという結果をね。木があのままずっと光っていたなら、きっとおじいさんは正しかった。でも違ったから光らなくなった。私はそう思っているんだよ。あの木はきっと、いろんな人に輝きを分けたかったと思うんだ。だから今度は、分けることを優先してみようと考えているんだよ」
「そうね。私もそれがいいと思うわ。幹は切らずに枝だけを分け与えるなら、賛成よ」
 母親が賛同し、父親も笑顔で頷いている。これからどうなるかはわからないけれど、今までのことを踏まえてると、それがいいのかもしれない。
「そっか。じゃあ誰かが枝を欲しいって言ったら、手伝ってあげればいいんだね」
「ああ。それと幹は切らないように見張っておこう」
 父親の提案に、男の子は頷いた。
「でも、どうして妖精さんが飾り付けを手伝ってくれてるってわかったの?」
「見たからさ」
「妖精さんを?」
「ああ。言っただろう。とても小さくて、すぐそばにいても気づかないこともあるって。彼らが飾ってくれているのを見たことがあるんだよ。ちらっとだけだけどね」
 男の子は半信半疑だったけれど、何も言わずにおいた。



 クリスマス当日。音符が付いた大きな木には、カラフルな光の粒や、子供たちの姿を模した飾りがぶら下がっていた。雪を投げている子供、雪だるまを作る子供、スキーをする子供、歌っている子供などの形があった。
「どうやったのこれ」
 飾りは上の方までたくさんあった。男の子の友人たちは、大いに驚いてはしゃいだ声をあげている。木に近づくと、木そのものが光っているのがわかった。
「妖精さんが手伝ってくれたんだよ」
 男の子の言葉に、友人の女の子は不満を漏らした。
「ずるい。私、見えなかったのに」
「実は僕も見てはいないけど。でも誰もあんな高いところには登れないからさ」
 男の子が指さしたのは、木のてっぺん。そこには確かに光り輝く大きな星があった。
 飾られた瞬間を見たわけではないし、妖精の姿をみたわけでもないが、男の子はお祖母さんの言うことを信じることにした。見るたびに増えていく木の飾りに、もうきっとそうなのだと受け入れるしかないと思った。そうでなければ、朝目が覚めて最初に目にしたこの状態の木を、どう説明すればいいのかわからない。
「そうだよな。じゃあれはやっぱ妖精さんなのか」
「やっぱりこれだけ大きいと、手伝ってくれるんだよ」
 他の友人たちも納得している。男の子は安堵の表情を浮かべた。やっと心からクリスマスを楽しむことが出来た。
「なあ、あの光ってるのなんだ?」
「虫か何かじゃないのか?」
「それにしては大きくないか? いや、鳥か?」
 大人たちの声に、彼らが指さす方に視線を向ける。そこには光り輝く何かが、木の周りを浮遊していた。ある光はゆっくり、ある光は俊敏に、上下左右を飛び回っている。
「妖精さんだ! きっとあれが妖精さんだよ!」
 子供の声に、周囲の大人たちからも歓声があがった。家の前にいるお祖母さんを見てみると、嬉しそうに頬をほころばせていた。
「あれがそうなのね。私昔お祖母ちゃんに聞いたことがあるのよ」
「実は俺も祖父さんから聞いたことがあるんだ。あの時はどの木のことかわからなかったし、ホラ話だと思っていたけど」
 覚えがある大人たちもいたらしい。彼らの周りに「なになに、どういうこと?」と人がどんどん集まっていく。
 男の子はお祖母さんの話を思い出す。そうして思った。自分はこの木の幹を守らなきゃ、と。

 数年後、この町の住人の家には、みんな光り輝く木の枝が飾られていた。そして毎年クリスマスが近くなると、その枝を切った木の周りに集まって、歌ったり踊ったりするようになった。その木はずっとそれからも、光り続けている。
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