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第十七話 ひとつ終わってひとつ始まる①
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まただ。
私はまたこの黄昏に染まった夕暮れの小道を歩いてる。何故こんな場所にいるのかは皆目検討もつかず、オレンジ色染め上げられたこの場所で、気づけば私は1人だった。
懐かしいこの場所で1人。
違和感を感じた。
前にこの場所に来た時は1人ではなかった様な……そんな覚えがあった。
そして知っているはずなのにそれを思い返す事のできない気持ち悪さと意識が中途半端に覚醒しているような感覚。
そうやって何もわからず呆然と佇んでいる時だった。
唐突に雷が落ちるような音が背後で鳴り響いた。
驚いてすぐに振り向く。
目に映ったのは穏やかなオレンジ色で染まった正面の空とは正反対の、深く暗い黒い雲と強い風、そして雨と雷が降り注ぐ大嵐だった。
暗雲は段々とオレンジ色の空を蝕んでいき、こちらへと近づいてくる。
それをみて怖くなった私は、嵐から逃げるように夕暮れのほうへ駆け出した。
ひたすらに走る、走る、見慣れた小道を、終わることのない道をひたすらに。
何故だかはわからないが、不思議と走り続けても私の足も心臓も、疲れを知ることはなく私は止まることなく駆け抜けいく。
けれど、私が走る速度よりも嵐が近づくほうがずっと早く、気づけば嵐は私の数メートル先というくらいの場所まで迫っていた。
いくら疲れ知らずでもいつもより足が速いわけではなく、もはや嵐に飲み込まれるのも時間の問題だ。いっそのことあきらめてずぶぬれになってしまってもいいのかもしれない。けれど何故だろう、何故わからないがあの嵐の下に行ってはいけないそんな気がするのだ。本能的に逃げなければならないという体全体に伝わる警報。
だから走る、全力で走る。
けれどそんな必死の足掻きも虚しく嵐はすぐそこまで迫っている。
そんな中、迫る嵐の強風で吹かれた雨粒の一つが手の甲に触れる。その瞬間右腕を鋭い痛みが襲い、痛みに悶え体勢を崩した私はそのまま地面に倒れ込んでしまう。
一粒であの痛み、ならあの雲の下に入った場合はどうなるのか、想像に難くない。
けれど最早立ち上がる事すらままならず私はこの身を嵐の中に差し出す他もはやなく、迫り来る恐怖に目を瞑る以外私には為す術もない。
……。
そうやって眼をふさいでどれくらいたっただろうか。
もうとっくに嵐の中にいるはずなのに、いまだに風に吹かれたり痛みを感じるような感覚はない。
私はそっと体を起こし、震える瞼をゆっくりとあけながら嵐の方向を見る。
そうして目に映ったのは、
私の数メートル手前で夕焼けとせめぎ合うように止まった暗雲と、
私と同じ髪色の一人の女性だった。
よく見れば、嵐が止まっているのは彼女のすぐ後ろ、彼女を境に天候が変わっている。
ああ、思い出した。
前も私は彼女とここにいた。
オレンジ色一色に染まった帰り道を彼女と二人、一緒に歩いていた。
黒と灰色の線が蠢きうねる子供の落書きのような、顔を持つ彼女と。
そんな明らかに人ではない化け物を前にして、私は別段恐怖を感じなかった。
何故、どうして、そんな疑問が頭に浮かぶ。いつもの私なら先ほどのように恐怖に怯え震えていたはずだ。
そんな時だった、ふとそんな彼女がこちらを見た。
何故かわからないが、こちらを見ている事を私は感じることができた。
そんな到底顔とは言えない何かで埋め尽くされた彼女は私をみて
にっこりと、微笑んだ。
-------------------------------------------
はっと目を開けると、そこは見たことのない……いやつい最近見たことのある天井だった。
あたりを見回せば、どれもこれも数日前に見たこのある鏡や棚、家具たち。
そうここはおそらく
「ここ……アメリーの家?」
そう小さくつぶやく。
「お目覚めになりましたか?」
突然声が聞こえ、体を起こし声の聞こえた方向、足元の方向を見る。
そこには椅子に座って本を開いている一人の男性の姿があった。
そう確かこの人は……。
「アルバートさん……?」
「はい、私です。アルバート・カトルですよ。
ところで起きたばかりの時に失礼なのですが、あなたは自分が誰だかわかりますか?」
私が誰か?
突然何を言い出すのだろうか、私はもちろん……。
「エーナ、エーナ・フェス……ラヴァトーラ」
その答えを聞いて、一瞬アルバートさんは少し訝しんだような顔をしたが
すぐに先ほどと同じような笑顔に戻っていた。
「そうです、エーナ様。
あなたはエーナ様です。よかった、ちゃんと自分の事も覚えていたようですね」
「そりゃ、自分の事くらい覚えてますよ。私まだそんなにボケてなんか……、あのところでなんで私ここにいるんですか?」
突っ込みをみれようと思ったが、それよりも先に現状の謎が頭に浮かんだ。
何故私はアメリーの家の、それもまたアメリーのベッドに寝ているのだろうか。
「確かにそれを説明したいのですが……。
申し訳ございません、また先にエーナ様に質問なのですエーナ様が寝て起きる前の最後の記憶はどうなっていますか?」
最後の記憶。
私が起きる前の最後の記憶を思い返す。
確か私は、ウルに魔法で動けなくされているところをアルバートさんに助けられて
その後、魔法を悪い事に使っているウルを止めるために情報を聞き出すためにウルと対面して……、そう対面して……。
「そうだ私、ウルを止めるために話をしてそしてウルの事を説得してその後……」
そう、ウルを説得して彼女に抱き着いた後、その後からの記憶がない。
「なるほど、そこまでは記憶は残っているのですね。やはりその後の記憶だけが抜け落ちていました」
なるほどなるほど、と一人で納得したようにアルバートさんは頷く。
「あの、確かウルと一緒にいたはずなんですけど、どうしてアメリーの家のベットに寝てるんですか?それにウルは、ウルはどうなったんですか?」
「安心してください、彼女は無事ですよ。エーナ様より先に目覚めて既に回復しています。既に事情聴取の方も済んで昨日先に王都の方へ戻られました」
「そっか、よかった……って目覚めて回復したってウルに何かあったんですか!?」
「本当に覚えていないのですねエーナ様。そうですね……、あの場所、エーナ様がウル様を説得した後何があったか説明致しましょう」
アルバートさんは改めて私の方へと向き直った。
「エーナ様がウル様を説得したすぐ後、ウル様の持っていた魔装具が突如暴走を起こしました。その結果、魔装具とウル様にかけられていた記憶操作の魔法も暴走。そしてお二人はそれに巻き込まれたのです」
私はまたこの黄昏に染まった夕暮れの小道を歩いてる。何故こんな場所にいるのかは皆目検討もつかず、オレンジ色染め上げられたこの場所で、気づけば私は1人だった。
懐かしいこの場所で1人。
違和感を感じた。
前にこの場所に来た時は1人ではなかった様な……そんな覚えがあった。
そして知っているはずなのにそれを思い返す事のできない気持ち悪さと意識が中途半端に覚醒しているような感覚。
そうやって何もわからず呆然と佇んでいる時だった。
唐突に雷が落ちるような音が背後で鳴り響いた。
驚いてすぐに振り向く。
目に映ったのは穏やかなオレンジ色で染まった正面の空とは正反対の、深く暗い黒い雲と強い風、そして雨と雷が降り注ぐ大嵐だった。
暗雲は段々とオレンジ色の空を蝕んでいき、こちらへと近づいてくる。
それをみて怖くなった私は、嵐から逃げるように夕暮れのほうへ駆け出した。
ひたすらに走る、走る、見慣れた小道を、終わることのない道をひたすらに。
何故だかはわからないが、不思議と走り続けても私の足も心臓も、疲れを知ることはなく私は止まることなく駆け抜けいく。
けれど、私が走る速度よりも嵐が近づくほうがずっと早く、気づけば嵐は私の数メートル先というくらいの場所まで迫っていた。
いくら疲れ知らずでもいつもより足が速いわけではなく、もはや嵐に飲み込まれるのも時間の問題だ。いっそのことあきらめてずぶぬれになってしまってもいいのかもしれない。けれど何故だろう、何故わからないがあの嵐の下に行ってはいけないそんな気がするのだ。本能的に逃げなければならないという体全体に伝わる警報。
だから走る、全力で走る。
けれどそんな必死の足掻きも虚しく嵐はすぐそこまで迫っている。
そんな中、迫る嵐の強風で吹かれた雨粒の一つが手の甲に触れる。その瞬間右腕を鋭い痛みが襲い、痛みに悶え体勢を崩した私はそのまま地面に倒れ込んでしまう。
一粒であの痛み、ならあの雲の下に入った場合はどうなるのか、想像に難くない。
けれど最早立ち上がる事すらままならず私はこの身を嵐の中に差し出す他もはやなく、迫り来る恐怖に目を瞑る以外私には為す術もない。
……。
そうやって眼をふさいでどれくらいたっただろうか。
もうとっくに嵐の中にいるはずなのに、いまだに風に吹かれたり痛みを感じるような感覚はない。
私はそっと体を起こし、震える瞼をゆっくりとあけながら嵐の方向を見る。
そうして目に映ったのは、
私の数メートル手前で夕焼けとせめぎ合うように止まった暗雲と、
私と同じ髪色の一人の女性だった。
よく見れば、嵐が止まっているのは彼女のすぐ後ろ、彼女を境に天候が変わっている。
ああ、思い出した。
前も私は彼女とここにいた。
オレンジ色一色に染まった帰り道を彼女と二人、一緒に歩いていた。
黒と灰色の線が蠢きうねる子供の落書きのような、顔を持つ彼女と。
そんな明らかに人ではない化け物を前にして、私は別段恐怖を感じなかった。
何故、どうして、そんな疑問が頭に浮かぶ。いつもの私なら先ほどのように恐怖に怯え震えていたはずだ。
そんな時だった、ふとそんな彼女がこちらを見た。
何故かわからないが、こちらを見ている事を私は感じることができた。
そんな到底顔とは言えない何かで埋め尽くされた彼女は私をみて
にっこりと、微笑んだ。
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はっと目を開けると、そこは見たことのない……いやつい最近見たことのある天井だった。
あたりを見回せば、どれもこれも数日前に見たこのある鏡や棚、家具たち。
そうここはおそらく
「ここ……アメリーの家?」
そう小さくつぶやく。
「お目覚めになりましたか?」
突然声が聞こえ、体を起こし声の聞こえた方向、足元の方向を見る。
そこには椅子に座って本を開いている一人の男性の姿があった。
そう確かこの人は……。
「アルバートさん……?」
「はい、私です。アルバート・カトルですよ。
ところで起きたばかりの時に失礼なのですが、あなたは自分が誰だかわかりますか?」
私が誰か?
突然何を言い出すのだろうか、私はもちろん……。
「エーナ、エーナ・フェス……ラヴァトーラ」
その答えを聞いて、一瞬アルバートさんは少し訝しんだような顔をしたが
すぐに先ほどと同じような笑顔に戻っていた。
「そうです、エーナ様。
あなたはエーナ様です。よかった、ちゃんと自分の事も覚えていたようですね」
「そりゃ、自分の事くらい覚えてますよ。私まだそんなにボケてなんか……、あのところでなんで私ここにいるんですか?」
突っ込みをみれようと思ったが、それよりも先に現状の謎が頭に浮かんだ。
何故私はアメリーの家の、それもまたアメリーのベッドに寝ているのだろうか。
「確かにそれを説明したいのですが……。
申し訳ございません、また先にエーナ様に質問なのですエーナ様が寝て起きる前の最後の記憶はどうなっていますか?」
最後の記憶。
私が起きる前の最後の記憶を思い返す。
確か私は、ウルに魔法で動けなくされているところをアルバートさんに助けられて
その後、魔法を悪い事に使っているウルを止めるために情報を聞き出すためにウルと対面して……、そう対面して……。
「そうだ私、ウルを止めるために話をしてそしてウルの事を説得してその後……」
そう、ウルを説得して彼女に抱き着いた後、その後からの記憶がない。
「なるほど、そこまでは記憶は残っているのですね。やはりその後の記憶だけが抜け落ちていました」
なるほどなるほど、と一人で納得したようにアルバートさんは頷く。
「あの、確かウルと一緒にいたはずなんですけど、どうしてアメリーの家のベットに寝てるんですか?それにウルは、ウルはどうなったんですか?」
「安心してください、彼女は無事ですよ。エーナ様より先に目覚めて既に回復しています。既に事情聴取の方も済んで昨日先に王都の方へ戻られました」
「そっか、よかった……って目覚めて回復したってウルに何かあったんですか!?」
「本当に覚えていないのですねエーナ様。そうですね……、あの場所、エーナ様がウル様を説得した後何があったか説明致しましょう」
アルバートさんは改めて私の方へと向き直った。
「エーナ様がウル様を説得したすぐ後、ウル様の持っていた魔装具が突如暴走を起こしました。その結果、魔装具とウル様にかけられていた記憶操作の魔法も暴走。そしてお二人はそれに巻き込まれたのです」
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