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XXVIII 逆さ道化
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「オオオオオオオオオオ!!」
偽神の雄叫びが町中に響き渡る。その偽神は地面に手をついて逆立ちしており、不気味なピエロのメイクのような顔をしていた。目は真っ黒でどこを見ているかもわからず、三日月のような形に笑う口の中には不揃いでそれぞれが全く違う色の牙がびっしりと生えていた。胴体は異常なほどに細く、下半身から生える脚は全体を支える腕の数倍の長さを持っていた。関節がないのか、鞭のようにしなり周りの建物や物を薙ぎ倒していた。
「バカアホマヌケドジムノウヤクタタズアハハハハハ!!」
大声で罵声を上げながら偽神は口を大きく開く。すると、そこから抜け落ちた牙が地面に落ちて突き刺さる。牙が砕けて中から、全身が黒く頭だけが個別に色とりどりの不気味な魔人が姿を現した。
「おなかすいたおなかすいたおなかすいた」
「びーふしちゅー」「えびふらい」
「ぷべっ!」
奇声を上げながら魔人たちがウロウロとしていると、一匹の眉間を飛んできた矢が貫いた。
「不気味な連中ねぇ…あの偽神も、ここから見たら30mはあるわね。」
車から降りて次の矢を構えながら蘭がそう呟いた。続いて一華と息吹、ティナの執事である男性が車から顔を出す。
「全く…お嬢様が気まぐれで日本滞在を伸ばさなければ、こんな気味の悪い怪物を相手にすることもなかったというのに…。」
執事がぼやきながら腕時計を見つめる。
「そんなことより、これ以上の被害を出すわけにはいきません。応援の皆さんが集まるまでに可能な限りダメージを与えておかないと。」
一華は仕舞っていたナイフを取り出し、手首を切りつけて出血させる。
「はぁ…さっさと終わらせましょうか。」
執事は真っ先に歩き出し、執事服の内ポケットから細いナイフを数本取り出して構えた。
「アバババババッ!!」
魔人は不気味な笑顔を浮かべながら執事に向かって走り出した。
「ふんっ。」
執事はナイフを投げつけるが、魔人は首から不気味な音を鳴らしながら首を曲げてナイフを避ける。
「ギッシャァァァ!!」
魔人が口を大きく開き執事に噛みつこうとした。すると執事は表情ひとつ変えず、魔人の足を蹴って体制を崩させた。
「ホゲッ!!」
執事は慣れた手つきで魔人を掴むと、大きく振りかぶり正面に向けて投げた。すると、空中にあったナイフに魔人の頭部が突き刺さった。
「ギャァァッ!!」
「汚らしいよだれを撒き散らしながら街を歩くんじゃない。お嬢様のお気に入りである日本を貴様らの唾液で汚すことは私が許さん。」
執事は地面に落ちている手のひらサイズの瓦礫を数個山なりに投げる。すると、投げた瓦礫が空中で不自然に停止して固定された。執事はその空中で静止した瓦礫を足場に魔人の頭上に立った。
「ギヘ……ッ!」
執事は優しい笑顔で微笑むと、魔人の顔に向けてナイフを5本ほど投げつけた。しかしそのナイフは顔に刺さる寸前で停止した。
「目の前に死が迫る気分はどうだ?」
「シャァァッ!!」
執事が頭部にナイフが刺さってもがく魔人の頭上を歩いて乗り越えると、偽神が生み出した他の魔人が更に走り寄ってきた。
「ふん。」
執事が首を軽くずらす。すると、先ほどまで空中で止まっていた瓦礫が突然動き出し、先ほど投げた軌道のまま迫り来る魔人に向かって放たれた。
「ぷぎゃっ!」
執事が目の前の魔人にさらにナイフを投げつけていると、先ほどの魔人の目の前にあるナイフが突然落ちてきて顔に突き刺さった。
「失礼、忘れてましたね。」
執事が振り向いてそう呟くと、迫ってきた他の魔人に向かって放たれた矢が魔人の額を貫通した。その魔人を一華が飛び蹴りで吹き飛ばす。
「呑気してるんじゃないよロリコン羊!」
「蓮見様、私は羊ではありません執事です。そして何よりロリコンではないですお嬢様が特別麗しく愛らしく、それを敬愛しているだけです。」
「いや名前も羊みたいなもんだからおんなじでしょ。てかそういうところがロリコンなんだっつーの。」
「私の「末」はヒツジとは読みません。(本名:末春)あと断じてロリコンではなく私はお嬢様の━」
「二人とも前!危ないからー!」
蘭の言葉と同時に、二人は掴みかかろうとする魔人の腕を回避する。その瞬間末春はポケットからナイフを取り出し魔人の両目に突き刺した。その魔人の胸の皮膚を掴み、他の魔人にぶつけるように一華が投げる。
「ギュギャギャギャギャーッ!」
「ふん。」
末春は懐から細いワイヤーを取り出してまっすぐ横に伸ばす。それを顔の前まで持っていき手を離すと、空中でワイヤーが固定された。
「ルベタェマォー!」
走り寄ってきた魔人を避け、背後に回った末春が魔人を背中から一押しした。すると、空中で固定されたワイヤーによって、魔人の顔が横に引き裂かれた。
「ァァァァイタイイタイタイタァァァ!!」
顔が引き裂かれて痛みでもがき苦しむ魔人の首を一華が踏みつけ、力いっぱい足首を捻る。鈍い音と共に首の骨が取れた魔人はその場で絶命した。
「固定された物質に引き裂かれる気分はどうだ?おかわりはいくらでもありますよ。」
「まだまだ本調子じゃないけど…この程度の相手ならまだ輸血はいらないね。」
その瞬間、偽神が甲高い雄叫びを上げた。抜け落ちた牙から魔人が次々と生まれ、末春たちを集団で睨みつけた。
「二人とも!もっと連携意識しなさーい!」
「失礼しました、喜多見様。」
「こいつが突っ走るから…!」
呆れた様子で、息吹が不機嫌そうな一華の頭を優しく叩く。
「はいはーい、そのイライラは魔人たちにぶつけましょ~ね。」
「子供扱いしないでください!」
「私からしたらみんな子供だっての、ホラ次くるよ!」
全員が前に向き直り魔人の大群を見る。すると、大群の中に何者かが立っているのを見つける。
「…あれは?」
その人物はゆっくりを顔を上げる。顔には鬼のような仮面をつけ、忍装束を彷彿とさせる服に身を包んでいた。腰につけた鞘から長刀を引き抜き、こちらに向けて構える。
「あれは…!」
その瞬間、蘭が弓を構えて矢を放つ。しかし鬼面の人物はその矢を弾き飛ばして走り寄ってくる。
「やれやれ。」
正面から迫るその者に、末春がナイフを投げつける。しかしそのナイフさえも難なく弾きながら迫ってきていた。
「みんな、散るよ!」
蘭の合図に合わせて全員が魔人を倒しながらその場から離れる。
「貴方の相手は私が務めましょうか。」
末春が空中に弾かれたナイフの上に立ち、鬼面の人物を見下ろしていた。
「…私を見下ろすな、不快だ。」
「そう言わないでくださいよ、SLASH様。こうして財閥の前に姿を表すのも久しぶりでしょう?ここ数ヶ月目立った行動もしなかった[同盟]がこうして突然現れた…一体、何が目的で?」
「貴様に応える必要はない。」
SLASHと呼ばれた人物は見下ろしている末春に向けて刀を構える。末春はため息をつきながら、腰につけているポーチからナイフを取り出す。
「良いでしょう、私も今少し気が立っているんですよ。」
そう言いながら末春は空中にナイフを放り投げる。投げたナイフは固定され、さらにポーチからナイフを取り出しては投げて固定する。空中に無数のナイフが設置されていく。
「お嬢様からのお願いといえども年上の女性と組むのは私としては辛いものでして…なにぶん過去のトラウマがぶり返してしまいますから…。」
ナイフを大量に投げて空中に固定した後、まるで階段のようにナイフの峰部分を歩いてSLASHに歩み寄ってくる。その顔は爽やかな笑顔を浮かべていたが、目はどんよりとした暗い雰囲気を纏っていた。
「貴方には、私のストレス発散にお付き合い頂きましょうかね?」
末春は不気味な笑顔のままポーチに両手を突っ込んでナイフを取り出す。先ほどからナイフを大量に取り出しているが、そのポーチのサイズではナイフは2本がやっとと言ったところのサイズだった。明らかに手に握られているナイフは数十本、ポーチに入り切るものでないのは確かだった。
特級【封魔武具】[複製小袋]
「ストレス発散ショーの開始です。」
───────────────────
「あははははははははははははははひっはははははははははっ!!」
偽神が甲高い笑い声をあげ、鞭のように脚を振り回して周辺の建造物を破壊する。手でゆっくりと前に進みながら、手元の自動車などは踏み潰していた。
「うるっせぇなぁぁっ!!」
一華は[失血強化]で出血しながら肉体を強化し続けて魔人を薙ぎ倒していく。
「全く、凛泉がいないならいないで別の暴走機関車が動き出すんだからうちの組織はストッパーが欠かせないよねぇ。」
現在凛泉と空は治療に専念し動けず、碧射はジュラを襲った存在を調べるために閉鎖区域に残っていた。
「ま、戦力的には不足ってほどでもないし良いんだけど……。」
息吹はタバコの煙を勢いよく吐き出す。煙は目の前で壁のように形作られ、目の前から襲ってきた黒い銃弾を防いだ。そこには黒い仮面をつけた緑希が立っていた。
「……。」
「同盟らが追加で現れなきゃね。」
「あ、アレは…[薔薇の芽神同盟]!?」
蘭が声を上げると、背後からイバラのついた鞭が迫ってきた。蘭は鞭を避けると、背後から仮面をつけた楓が姿を現す。
「貴方達…!」
「こんにちわぁ、ご機嫌いかがかしら?イザード財閥の皆様。」
「今、最悪の機嫌だよ。厄介な敵が目の前に現れてんだから。」
息吹は緑希と楓を交互に見つめる。
(SHADOWにQUEEN…他にもいると考えると、偽神を叩くには人数不足…火力担当(一華)は突っ走ってっちゃうしよぉ…。)
「貴方達はここで捕獲します!」
「生ぬるいわよSHADOW。私たちがするのは捕獲じゃないわ…殺戮よ!」
そう叫んだQUEENが鞭を振るい上げる。息吹はタバコの煙を壁にしてその鞭を防いだ。
「はぁっ!」
その瞬間SHADOWが両手を前に突き出す。すると、両掌から光が放たれてタバコの煙によってできた壁に息吹の影が映り込んだ。
「しま…っ!」
煙の壁に映った息吹の影が立体となって飛び出し、息吹の首を掴みかかった。
「く…っ!」
「息吹さん!」
蘭が後ろに下がりながら弓を引き、息吹の影のこめかみを矢で貫いた。解放された息吹は崩れて元の影になっていく自分の影を見てバツの悪そうな顔を見せる。
「自分と同じ形の影が崩れるのって、なんか気分の良いもんじゃないねぇ。」
「ごめんなさいねー、でもそんな呑気に構えてられないわ!」
蘭にQUEENの鞭が迫り来るが、蘭は頭を下げて鞭を回避した上でその鞭に向けて矢を放ち、鞭を貫きちぎり飛ばした。
「ちぃっ!」
魔人が奇声を上げながら蘭に襲いかかるが、息吹がタバコの煙を槍状に変形させ魔人のこめかみを貫いた。
「油断大敵!」
SHADOWが白い紙に光を当てると、そこに描かれた黒い鳥が具現化し、息吹たちに襲いかかる。
「っ!」
その瞬間、発砲音と共に数匹の影の鳥が撃ち落とされた。鳥は地面に落ちると霧散して消え去った。銃声がした方向を見ると、ライフルを構えたはじめが建物から顔を出していた。
「あ~…だるい、早く終わらせて帰りたいのに。」
「ナァイスはじめちゃん!」
息吹は煙を足場にしてSHADOWに迫り、腹部に蹴りを入れる。
「ぐ…は…っ!」
「お姉さんたちを侮っちゃいけないよ?ボウヤ。」
楓は鞭を振るい、不快そうに舌打ちをした。
「実に愉快だ。」
その声を聞き、全員が振り向く。先ほどまでこちらに迫ってきていたピエロの魔人達が、ほとんどが体を真っ二つにちぎられて殺されていた。
「この戦いで私の存在意義を、君たちのボスを名乗る者に見せなければならないというのであれば…全力で舞わせてもらおう。」
「魔神…!!」
魔神は指の関節を鳴らしながら首を回して準備運動を始める。
「始めようか、同盟とやらの入団試験を。」
───────────────────
「こいつは…魔神!?」
監視カメラの映像を見ていたアイが声を荒げる。映像の魔神は監視カメラを見つめ、静かにウィンクした。こちらの声が聞こえているはずもないが、それはこちらを挑発しているように見えた。
「…増援に行きます。」
アイの後ろでモニターを見ていた紫音が出口に向かいながらそう呟いた。
「待ちなさい紫音!アンタまだ傷治りきってないのに無理は…!」
紫音は足元の影から[冥月]を具現化させ腰に携える。
「空さんや凛泉さん、志真さんも治療で動けず、碧射さんや杏奈さんは閉鎖区域に残り…魔神と遭遇した中で財閥から動けるのは私だけです。一刻も早くあの怪物を討伐しなければ…。」
紫音が歩き出そうとすると、目の前に何かが放り投げられた。それを紫音が咄嗟に受け止める。
「…?」
すると、その小さな小箱が開いて勢いよく小さな人形が紙吹雪と共に飛び出した。
「わ…っ!?」
紫音が驚いて後ろに倒れそうになるのを、箱を投げた幽子が即座に後ろ回り込み支えた。
「紫音~?ボクを置いて一人で行くなんて許さないぞ!キミが無理をする時はボクがそばにいるって決めてんだから!」
幽子は人形を拾いながら紫音に無邪気な笑顔を向ける。
「幽子…。ありがとうございます。では行きましょう。」
「ガッテンだ!」
二人は目を合わせて微笑むと、共に司令室を飛び出していった。二人が立ち去っていった後、呆れたようにため息をついた後に床を見てアイが眉間に皺を寄せる。
「…せめて片付けていきなさいよ!」
偽神の雄叫びが町中に響き渡る。その偽神は地面に手をついて逆立ちしており、不気味なピエロのメイクのような顔をしていた。目は真っ黒でどこを見ているかもわからず、三日月のような形に笑う口の中には不揃いでそれぞれが全く違う色の牙がびっしりと生えていた。胴体は異常なほどに細く、下半身から生える脚は全体を支える腕の数倍の長さを持っていた。関節がないのか、鞭のようにしなり周りの建物や物を薙ぎ倒していた。
「バカアホマヌケドジムノウヤクタタズアハハハハハ!!」
大声で罵声を上げながら偽神は口を大きく開く。すると、そこから抜け落ちた牙が地面に落ちて突き刺さる。牙が砕けて中から、全身が黒く頭だけが個別に色とりどりの不気味な魔人が姿を現した。
「おなかすいたおなかすいたおなかすいた」
「びーふしちゅー」「えびふらい」
「ぷべっ!」
奇声を上げながら魔人たちがウロウロとしていると、一匹の眉間を飛んできた矢が貫いた。
「不気味な連中ねぇ…あの偽神も、ここから見たら30mはあるわね。」
車から降りて次の矢を構えながら蘭がそう呟いた。続いて一華と息吹、ティナの執事である男性が車から顔を出す。
「全く…お嬢様が気まぐれで日本滞在を伸ばさなければ、こんな気味の悪い怪物を相手にすることもなかったというのに…。」
執事がぼやきながら腕時計を見つめる。
「そんなことより、これ以上の被害を出すわけにはいきません。応援の皆さんが集まるまでに可能な限りダメージを与えておかないと。」
一華は仕舞っていたナイフを取り出し、手首を切りつけて出血させる。
「はぁ…さっさと終わらせましょうか。」
執事は真っ先に歩き出し、執事服の内ポケットから細いナイフを数本取り出して構えた。
「アバババババッ!!」
魔人は不気味な笑顔を浮かべながら執事に向かって走り出した。
「ふんっ。」
執事はナイフを投げつけるが、魔人は首から不気味な音を鳴らしながら首を曲げてナイフを避ける。
「ギッシャァァァ!!」
魔人が口を大きく開き執事に噛みつこうとした。すると執事は表情ひとつ変えず、魔人の足を蹴って体制を崩させた。
「ホゲッ!!」
執事は慣れた手つきで魔人を掴むと、大きく振りかぶり正面に向けて投げた。すると、空中にあったナイフに魔人の頭部が突き刺さった。
「ギャァァッ!!」
「汚らしいよだれを撒き散らしながら街を歩くんじゃない。お嬢様のお気に入りである日本を貴様らの唾液で汚すことは私が許さん。」
執事は地面に落ちている手のひらサイズの瓦礫を数個山なりに投げる。すると、投げた瓦礫が空中で不自然に停止して固定された。執事はその空中で静止した瓦礫を足場に魔人の頭上に立った。
「ギヘ……ッ!」
執事は優しい笑顔で微笑むと、魔人の顔に向けてナイフを5本ほど投げつけた。しかしそのナイフは顔に刺さる寸前で停止した。
「目の前に死が迫る気分はどうだ?」
「シャァァッ!!」
執事が頭部にナイフが刺さってもがく魔人の頭上を歩いて乗り越えると、偽神が生み出した他の魔人が更に走り寄ってきた。
「ふん。」
執事が首を軽くずらす。すると、先ほどまで空中で止まっていた瓦礫が突然動き出し、先ほど投げた軌道のまま迫り来る魔人に向かって放たれた。
「ぷぎゃっ!」
執事が目の前の魔人にさらにナイフを投げつけていると、先ほどの魔人の目の前にあるナイフが突然落ちてきて顔に突き刺さった。
「失礼、忘れてましたね。」
執事が振り向いてそう呟くと、迫ってきた他の魔人に向かって放たれた矢が魔人の額を貫通した。その魔人を一華が飛び蹴りで吹き飛ばす。
「呑気してるんじゃないよロリコン羊!」
「蓮見様、私は羊ではありません執事です。そして何よりロリコンではないですお嬢様が特別麗しく愛らしく、それを敬愛しているだけです。」
「いや名前も羊みたいなもんだからおんなじでしょ。てかそういうところがロリコンなんだっつーの。」
「私の「末」はヒツジとは読みません。(本名:末春)あと断じてロリコンではなく私はお嬢様の━」
「二人とも前!危ないからー!」
蘭の言葉と同時に、二人は掴みかかろうとする魔人の腕を回避する。その瞬間末春はポケットからナイフを取り出し魔人の両目に突き刺した。その魔人の胸の皮膚を掴み、他の魔人にぶつけるように一華が投げる。
「ギュギャギャギャギャーッ!」
「ふん。」
末春は懐から細いワイヤーを取り出してまっすぐ横に伸ばす。それを顔の前まで持っていき手を離すと、空中でワイヤーが固定された。
「ルベタェマォー!」
走り寄ってきた魔人を避け、背後に回った末春が魔人を背中から一押しした。すると、空中で固定されたワイヤーによって、魔人の顔が横に引き裂かれた。
「ァァァァイタイイタイタイタァァァ!!」
顔が引き裂かれて痛みでもがき苦しむ魔人の首を一華が踏みつけ、力いっぱい足首を捻る。鈍い音と共に首の骨が取れた魔人はその場で絶命した。
「固定された物質に引き裂かれる気分はどうだ?おかわりはいくらでもありますよ。」
「まだまだ本調子じゃないけど…この程度の相手ならまだ輸血はいらないね。」
その瞬間、偽神が甲高い雄叫びを上げた。抜け落ちた牙から魔人が次々と生まれ、末春たちを集団で睨みつけた。
「二人とも!もっと連携意識しなさーい!」
「失礼しました、喜多見様。」
「こいつが突っ走るから…!」
呆れた様子で、息吹が不機嫌そうな一華の頭を優しく叩く。
「はいはーい、そのイライラは魔人たちにぶつけましょ~ね。」
「子供扱いしないでください!」
「私からしたらみんな子供だっての、ホラ次くるよ!」
全員が前に向き直り魔人の大群を見る。すると、大群の中に何者かが立っているのを見つける。
「…あれは?」
その人物はゆっくりを顔を上げる。顔には鬼のような仮面をつけ、忍装束を彷彿とさせる服に身を包んでいた。腰につけた鞘から長刀を引き抜き、こちらに向けて構える。
「あれは…!」
その瞬間、蘭が弓を構えて矢を放つ。しかし鬼面の人物はその矢を弾き飛ばして走り寄ってくる。
「やれやれ。」
正面から迫るその者に、末春がナイフを投げつける。しかしそのナイフさえも難なく弾きながら迫ってきていた。
「みんな、散るよ!」
蘭の合図に合わせて全員が魔人を倒しながらその場から離れる。
「貴方の相手は私が務めましょうか。」
末春が空中に弾かれたナイフの上に立ち、鬼面の人物を見下ろしていた。
「…私を見下ろすな、不快だ。」
「そう言わないでくださいよ、SLASH様。こうして財閥の前に姿を表すのも久しぶりでしょう?ここ数ヶ月目立った行動もしなかった[同盟]がこうして突然現れた…一体、何が目的で?」
「貴様に応える必要はない。」
SLASHと呼ばれた人物は見下ろしている末春に向けて刀を構える。末春はため息をつきながら、腰につけているポーチからナイフを取り出す。
「良いでしょう、私も今少し気が立っているんですよ。」
そう言いながら末春は空中にナイフを放り投げる。投げたナイフは固定され、さらにポーチからナイフを取り出しては投げて固定する。空中に無数のナイフが設置されていく。
「お嬢様からのお願いといえども年上の女性と組むのは私としては辛いものでして…なにぶん過去のトラウマがぶり返してしまいますから…。」
ナイフを大量に投げて空中に固定した後、まるで階段のようにナイフの峰部分を歩いてSLASHに歩み寄ってくる。その顔は爽やかな笑顔を浮かべていたが、目はどんよりとした暗い雰囲気を纏っていた。
「貴方には、私のストレス発散にお付き合い頂きましょうかね?」
末春は不気味な笑顔のままポーチに両手を突っ込んでナイフを取り出す。先ほどからナイフを大量に取り出しているが、そのポーチのサイズではナイフは2本がやっとと言ったところのサイズだった。明らかに手に握られているナイフは数十本、ポーチに入り切るものでないのは確かだった。
特級【封魔武具】[複製小袋]
「ストレス発散ショーの開始です。」
───────────────────
「あははははははははははははははひっはははははははははっ!!」
偽神が甲高い笑い声をあげ、鞭のように脚を振り回して周辺の建造物を破壊する。手でゆっくりと前に進みながら、手元の自動車などは踏み潰していた。
「うるっせぇなぁぁっ!!」
一華は[失血強化]で出血しながら肉体を強化し続けて魔人を薙ぎ倒していく。
「全く、凛泉がいないならいないで別の暴走機関車が動き出すんだからうちの組織はストッパーが欠かせないよねぇ。」
現在凛泉と空は治療に専念し動けず、碧射はジュラを襲った存在を調べるために閉鎖区域に残っていた。
「ま、戦力的には不足ってほどでもないし良いんだけど……。」
息吹はタバコの煙を勢いよく吐き出す。煙は目の前で壁のように形作られ、目の前から襲ってきた黒い銃弾を防いだ。そこには黒い仮面をつけた緑希が立っていた。
「……。」
「同盟らが追加で現れなきゃね。」
「あ、アレは…[薔薇の芽神同盟]!?」
蘭が声を上げると、背後からイバラのついた鞭が迫ってきた。蘭は鞭を避けると、背後から仮面をつけた楓が姿を現す。
「貴方達…!」
「こんにちわぁ、ご機嫌いかがかしら?イザード財閥の皆様。」
「今、最悪の機嫌だよ。厄介な敵が目の前に現れてんだから。」
息吹は緑希と楓を交互に見つめる。
(SHADOWにQUEEN…他にもいると考えると、偽神を叩くには人数不足…火力担当(一華)は突っ走ってっちゃうしよぉ…。)
「貴方達はここで捕獲します!」
「生ぬるいわよSHADOW。私たちがするのは捕獲じゃないわ…殺戮よ!」
そう叫んだQUEENが鞭を振るい上げる。息吹はタバコの煙を壁にしてその鞭を防いだ。
「はぁっ!」
その瞬間SHADOWが両手を前に突き出す。すると、両掌から光が放たれてタバコの煙によってできた壁に息吹の影が映り込んだ。
「しま…っ!」
煙の壁に映った息吹の影が立体となって飛び出し、息吹の首を掴みかかった。
「く…っ!」
「息吹さん!」
蘭が後ろに下がりながら弓を引き、息吹の影のこめかみを矢で貫いた。解放された息吹は崩れて元の影になっていく自分の影を見てバツの悪そうな顔を見せる。
「自分と同じ形の影が崩れるのって、なんか気分の良いもんじゃないねぇ。」
「ごめんなさいねー、でもそんな呑気に構えてられないわ!」
蘭にQUEENの鞭が迫り来るが、蘭は頭を下げて鞭を回避した上でその鞭に向けて矢を放ち、鞭を貫きちぎり飛ばした。
「ちぃっ!」
魔人が奇声を上げながら蘭に襲いかかるが、息吹がタバコの煙を槍状に変形させ魔人のこめかみを貫いた。
「油断大敵!」
SHADOWが白い紙に光を当てると、そこに描かれた黒い鳥が具現化し、息吹たちに襲いかかる。
「っ!」
その瞬間、発砲音と共に数匹の影の鳥が撃ち落とされた。鳥は地面に落ちると霧散して消え去った。銃声がした方向を見ると、ライフルを構えたはじめが建物から顔を出していた。
「あ~…だるい、早く終わらせて帰りたいのに。」
「ナァイスはじめちゃん!」
息吹は煙を足場にしてSHADOWに迫り、腹部に蹴りを入れる。
「ぐ…は…っ!」
「お姉さんたちを侮っちゃいけないよ?ボウヤ。」
楓は鞭を振るい、不快そうに舌打ちをした。
「実に愉快だ。」
その声を聞き、全員が振り向く。先ほどまでこちらに迫ってきていたピエロの魔人達が、ほとんどが体を真っ二つにちぎられて殺されていた。
「この戦いで私の存在意義を、君たちのボスを名乗る者に見せなければならないというのであれば…全力で舞わせてもらおう。」
「魔神…!!」
魔神は指の関節を鳴らしながら首を回して準備運動を始める。
「始めようか、同盟とやらの入団試験を。」
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「こいつは…魔神!?」
監視カメラの映像を見ていたアイが声を荒げる。映像の魔神は監視カメラを見つめ、静かにウィンクした。こちらの声が聞こえているはずもないが、それはこちらを挑発しているように見えた。
「…増援に行きます。」
アイの後ろでモニターを見ていた紫音が出口に向かいながらそう呟いた。
「待ちなさい紫音!アンタまだ傷治りきってないのに無理は…!」
紫音は足元の影から[冥月]を具現化させ腰に携える。
「空さんや凛泉さん、志真さんも治療で動けず、碧射さんや杏奈さんは閉鎖区域に残り…魔神と遭遇した中で財閥から動けるのは私だけです。一刻も早くあの怪物を討伐しなければ…。」
紫音が歩き出そうとすると、目の前に何かが放り投げられた。それを紫音が咄嗟に受け止める。
「…?」
すると、その小さな小箱が開いて勢いよく小さな人形が紙吹雪と共に飛び出した。
「わ…っ!?」
紫音が驚いて後ろに倒れそうになるのを、箱を投げた幽子が即座に後ろ回り込み支えた。
「紫音~?ボクを置いて一人で行くなんて許さないぞ!キミが無理をする時はボクがそばにいるって決めてんだから!」
幽子は人形を拾いながら紫音に無邪気な笑顔を向ける。
「幽子…。ありがとうございます。では行きましょう。」
「ガッテンだ!」
二人は目を合わせて微笑むと、共に司令室を飛び出していった。二人が立ち去っていった後、呆れたようにため息をついた後に床を見てアイが眉間に皺を寄せる。
「…せめて片付けていきなさいよ!」
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