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XXIV ジュラ

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PM13:30 閉鎖区域管理局

「3人で分かれたほうがいいだろう。2人ではいざという時連絡を取る隙が得られない可能性もある。ジュラ、お前は上空からの探索を頼む。」
「キュイィーッ!!」
(かしこまりました、主人殿あるじどの。行ってまいります!)
碧射から指示を受けた大鷹のジュラが空高く飛び上がり、火山灰が降り注ぐ上空を飛び回る。


PM14:10 閉鎖区域D区(分布:D-1)
(さて、我が主君しゅくんとは逆方向からの魔神プレデターなるものの探索となるわけだが…。)
十分ほど飛行して、ジュラはすでに周辺の光景に異常さを感じていた。
「………。」
ジュラを見て魔人が上げた手が力無く地面に倒れる。
(これは一体…この近辺で何があったのでしょう…。)
ジュラは飛行しながら周辺を見渡す。D区には多くの魔人がいたが、その魔人のほとんどが満身創痍かすでに死亡している状態にあった。
ジュラは一度空中で止まり死体の一つを見下ろす。
(これは…確実に何者かの手で殺害されなければこうはならないだろう。しかし一体何者がこんなことを?例の魔神と呼ばれる者か?)
その死体はひどく凄惨な状態だった。下腹部が引き裂かれ、そこから引き摺り出されたであろう腸が裂けた胴体から伸びて地面に落ちていた。周辺の血の状態を見る限りでは、腸を引っ張ってそのまま死体を引きずった様に見える。
(恐ろしい殺し方だ…凛泉あの者でもここまで惨たらしく死体を扱わないだろうに。)
ジュラは碧射とよく行動するものは記憶していたが、凛泉のことは完全に「猛禽類に近い眼光を持った人物」として認識していた。
(さて…捕食目的でもなければ何が目的ともいえない殺し方だ…楽しむためなのだろうか?)
ジュラは死体のそばにある足跡のやつなものを見つける。地面に降りてそれを見つめると、鳥の足のような特徴を持っていた。さらにそのそばには、黒い羽が一枚落ちていた。
(…鳥?この殺しは鳥が行ったというのか?)
「ギュオオオォォォッ!!」
その瞬間、周辺に奇声が響き渡る。
(む…っ!?)
ジュラは声の方角に飛んでいく。

(これは…。)
ジュラは地面に折り立ち、音の発生源と思われる場所を遠くから見つめる。
「ギュロロロ……ッ」
不気味な唸り声を上げながら、は魔人を殺していた。死体の下腹部を引き裂き、そこから腸を引きずり出して空を飛びながら、笑い声にも聞こえる鳴き声を上げながら死体を引きずっていた。
(アレは…カラスか!?)
そのカラスは全長60cmほどあり、見た目はハシブトガラスの特徴を持っていた。眼光は鋭く、遠目から見ただけでも殺意に満たされていた。
(わたくしはあそこまでおぞましい目をしたカラスなど、見たことがない…。)
ジュラが見つめていると、カラスは死体を引きずるのをやめて腸を地面に投げ捨てる。そのまま下に降り立ち、じっと死体の顔を見つめていた。
(…なんだ?)
「ギャォォッ!!」
すると、カラスは甲高い鳴き声を上げて魔人の眼球に嘴を突き刺した。
(…ッ!?) 
そのカラスは魔人の目玉を抉り出すと、足で押さえながら鋭い嘴でついばみ始めた。
(あのカラス…捕食目的でもなんでもない、ただ死体を弄んでいる…!?)
現にカラスは、啄んだ肉を飲み込まずに周りに吐き捨て、退屈そうな目をしながら眼球を弄んでいた。
(私自身のが…。が…私の脳に、全身に直接語りかけている…っ!!)
ジュラは物陰から姿を現し、カラスを睨みつける。
「…?」
カラスは気配殺気を察知しジュラの方を振り向いた。嘴と足は血に濡れ、面倒そうに翼で嘴の血を軽く拭っていた。
(コイツは殺さねばならぬと!殺さねば私たちにとっての脅威もなると!全身が感じている!)
「ギュロロロ……。」
カラスはジュラを目視するなり、笑い声にも聞こえる唸り声を漏らす。新たな獲物を見つけて喜んでいるのだろうか。
「キュイィィッ!」
ジュラが甲高い鳴き声を上げると、ジュラの体が急激に膨張する。
「…ッ!!」
カラスはその姿を見て、短い舌を出して舌なめずりした。
(質問です。あなたは一体何者か?この区域にいる時点で普通の鳥とは思えませんが…。)
ジュラがカラスに語りかける。ジュラは高い知能を持っているため、他の鳥たちと多少の会話が可能だったが…。
「キュァァァァッ!!」
会話という行為は、そのカラスにとって不要なものであると言わんばかりに甲高い鳴き声を上げる。一瞬で地面から浮き地面スレスレを滑空してジュラに迫る。
(やはり会話をする気はないか!)
ジュラが高く飛び上がりカラスの突進を回避する。カラスはそのまま上昇し、空中で再びジュラと向き合う。
「ギャァァァァっ!!」
「キュァァァァッ!!」
お互いに雄叫びを上げて2匹がぶつかり合う。爪と嘴を使いぶつかり合い、互いに一歩も譲らぬ攻防戦を行う。
「ギュイイッ!」
カラスが一度離れ再び突進する。
(そのような単調な動き…っ!)
ジュラが上昇し回避しようとする。
(…ぬっ!?)
ジュラは確かに羽ばたき上昇しようとしている。しかし、ジュラ自身も自覚できるほどに羽ばたく翼の動きが鈍く…いや、なっていた。
(なんだと…っ!?)
カラスが寸前まで迫った瞬間、そのどんよりとした動きは解除された。しかし十分にかわす距離は取れず、カラスの嘴はジュラの脇腹に正面から突き刺さるさった。
「キュイイイイッ!!」
ジュラが痛みのあまりに鳴き声を上げる。ジュラには一瞬、カラスの目がニヤリと笑ったように見えた。カラスが嘴をジュラの脇腹から引き抜こうとする。
「ンギュ…ッ!?」
しかし、ジュラの強い力で嘴は固定されていた。ジュラはカラスのガラ空きの胴体を掴み、その場で旋回して勢いよく放り投げた。廃アパートの屋上にカラスは背中から叩きつけられた。
「ガハ…ッ!」
カラスの呼吸が一瞬止まる。ジュラは腹部に力を込めて出血を弱めながらカラスを睨みつける。
(やつは何をした…。先ほど私の動きが鈍ったような感覚があった…。)
カラスが立ち上がりジュラを見上げる。その目には強い殺意が宿っていた。
「キュルルルァァァァァァッ!!」
カラスが甲高い鳴き声と共に飛び上がりジュラに突進する。ジュラは正面からまっすぐカラスを見る。
(避けるな…避けずにやつのやることを見るのだ!)
するとその瞬間、ジュラの目の前の空中が微かに歪んだ。
(なん…だ!?)
その空間はよく目を凝らさねばわからぬ程の微かな歪みだったが、球形であることは微かに認識できた。
「…ッ!」
その歪んだ空間にカラスが入った瞬間、カラスの体が空間内で急激に速度を増した。ジュラは羽ばたくのをやめて翼で正面を守る。
(ぐううぅ……っ!!)
「…ッ!」
カラスの嘴は翼に突き刺さったが、貫通することなく翼の表面で停止した。
(ぬあぁっ!)
ジュラが翼を勢いよく開きカラスを弾き飛ばす。翼に顔を叩かれるようにカラスは弾かれ、空中で姿勢を整える。
(今のは…確実に、加速した…!先ほどは私の動きが鈍くなり、今度は奴が加速した!)
ジュラは周りを見渡し、カラスを無視して別の場所に降り立つ。そこは公園のような場所で、高い時計があった。
(この時計は…動いている!太陽光で発電を行う時計…火山灰が晴れた日にかろうじて発電できたというわけか。)
ジュラがじっと時計の針を見つめる。
(…1…2…3。確実に1秒ずつ動いている。ならばコレを使えば!)
ジュラは時計の上に降り立ちカラスのいる方角を見る。
「ギュイィィィ…ッ。」
カラスが唸り声を上げながらジュラを見つめる。
「キュイッ。」(…来いよ。)
「ギュルルルルァァァァァァァァァッ!!」
カラスが雄叫びを上げてジュラに迫る。ジュラはカラスが近づいた時点で自身の周りが球形に歪んだことを確認し、時計を見る。その時計は先ほどよりも
(やはり…!!)
カラスが目前まで迫る。その瞬間、ジュラは嘴を勢いよく開いてカラスの嘴を挟み込んだ。
「ギュ…ッ!?」
「キュウゥゥゥッ!!」
ジュラは翼を勢いよく振るいカラスの体を殴りつけた。ジュラの翼は魔法により強化されており、カラスの肉体からメキメキと鈍い音を立てた。
「ガ…ッ!!」
ジュラはカラスを地面に投げ捨て、飛び上がる。カラスは起き上がりジュラを睨みつける。
「ギイイィィィィ…ッ。」
ジュラは闘争心をむき出しにしてカラスと睨み合う。
「ギャロロロロロロ……ッ!」
カラスが敵意をむき出しに威嚇の声を漏らす。
(やつの魔法は歪ませた空間内をさせる魔法…。私の動きが鈍くなったことや時計の時間が遅くなったこと、やつが空中で急激に加速されたこと。時間が変化していたのであれば全て納得がいく。しかし野生動物でありながら恐ろしい魔法を持つモノだ……。)
カラスは一切こちらから目を逸らさない。一瞬でも動けばお前を殺すという意思が、視線からヒシヒシと伝わってきていた。
(奴をここで逃せば確実に主人殿やそのご友人に危機が及ぶ…!しかしコイツは強い…体格差はあれど確実に仕留めるのは至難…!!)
ジュラは時計から上空に飛び上がり、ビルの隙間を縫うように飛び去っていく。
「キュアアァァァァッ!!」
カラスは甲高い鳴き声をあげ、高く飛び上がりジュラを追跡する。ジュラは背後から迫るカラスの気配を感じながら正面を見て飛行する。
「ガァアアアア!」
カラスの目の前の空間が歪み、そこに入った一瞬だけカラスの速度が増していく。
(一時的に自身を加速…!なかなか応用の効く能力のようだ…!)
カラスは目の前を球状に歪ませ、それを団子のように3つ繋げて歪ませる。そこを通過し切った先はピッタリとジュラの背後が取れる位置となっていた。
「キュイィィィッ!!」
カラスが加速を繰り返しジュラに迫る。
「ッ!」
しかし、寸前でジュラは羽ばたくのをやめ、一瞬だけその場で降下した。カラスは加速を止めず、ジュラの頭上を通過する。
(やはり、同時に発動できる数には限界があるようですね!そして急な停止は…不可能!)
ジュラは大きく羽ばたいて自身の背中をカラスに叩きつける。カラスは怯み体制を崩した。
「キュアァァァァッ!!」
ジュラがその場で旋回し、怯んだカラスの腹を鉤爪で横一線に引き裂いた。カラスの傷口から血が噴き出し、カラスは落下していく。
(はあ、はあ…!)
ジュラは落下していくカラスの目を見た。その目から闘争心は一切消えておらず、更に増した憎悪のm視線を向けたまま落ちていった。ジュラはカラスを無視して飛び去っていく。
(あの出血であれば、あのカラスは時期に死ぬだろう…しかし私もヤツから受けた傷は深い…合流次第傷の手当てを頼まねば…!)

───────────────────

PM14:20 閉鎖区域B区
(ふう…ここで一度羽を休めよう…。)
C区を超えてB区まで飛んだジュラは、ビルの一角に降りて羽を休めていた。羽を休めると同時に魔法の効力を抑え、肉体が縮小する。元のサイズでもジュラは充分に大きな体を持った大鷹だった。
(とてもではないがこれ以上怪我を負っては命が危険だ。しかし同時に…奴を倒したことの確信を得なければならないという考えもある。どうしたものか…。)
「シャァァァァァァァァッ!!」
「ッ!」
ジュラは謎の悲鳴を聞き立ち上がる。ビルから下を見下ろすと、トカゲの形をした魔人が同種の魔人の首を掴んで引きずっていた。
(…仲間割れ、か?)
ジュラがじっと見ていると、その魔人を引きずっていた魔人がこちらを振り向く。距離から見てこちらは見えていないと考えられるが、その者はしっかりとジュラと目が合っていた。
(…魔神!!)
ジュラは本能的にソレを魔神であると。魔神はすぐにジュラのいる方向から目を逸らし、同族を引きずって歩く。魔人の方はまだ息があり、手足をバタつかせ抵抗しようとしていた。
「…。」
魔神は何かを話そうともせず、引きずっていた魔人を持ち上げたかと思えば、目の前にあった鉄骨に生きたまま突き刺した。
(…なんとむごい。)
ジュラがその凄惨な現場から目を逸らす。すると、視界の先で見覚えのある人影を発見する。
(あれは…主人殿!まずい!)
このままでは魔神と接触すると判断したジュラは、加勢に入るためにビルから飛ぼうと翼を広げる。
「ギウゥゥゥゥゥ…ッ。」
しかしそれは、背後から聞こえる唸り声によって止められた。
(…貴方も、大人しくしてはいられない様ですね。)
背後では先ほどのカラスが、殺意で目を光らせながらジュラを見つめていた。
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