記録少女狂想曲

食べられたウニの怨念(ウニおん)

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XXIII 同盟

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PM 14:40 閉鎖区域B区


爆発されたビルが轟音が響き渡らせながら倒れていき、周辺に地面の火山灰が勢いよく舞い上がる。
「……。」
物陰にとっさに隠れた碧射達は、火山灰と砂煙が落ち着いてから倒壊したビルを覗き込む。周辺には瓦礫が飛び散り、ビルの下敷きになった建造物は跡形もなく崩壊していた。
(…死んだのだろうか?)
「分かんない、けど…。」
千変万化の問いに空が静かに答える。すると、碧射が志真を床に下ろして座らせた後、ガスマスクをつけて銃を構えながらビルに近づく。
「碧射さん?」
「この中で一番余裕があるのは俺だ。ヤツの亡骸を確認しなければ安心はできない…。お前達は周辺の警戒を。」
碧射がサブマシンガンを構えたまま、ビルの残骸を乗り越えながらゆっくりと近づく。
(頼むからこのまま下敷きになっててくれよ…。)
碧射が更に近づく。するとその瞬間、ビルの瓦礫の中から強烈な突風が起き、碧射を後方に弾き飛ばした。
「ッ!!」
碧射は姿勢を変え安全に着地する。全員が瓦礫の方を見ると、魔神がぐったりとしたまま空中に浮いているのが見えた。鉄骨の一部や瓦礫によってボロボロになっているが、呼吸による微かな動きでまだ生きていることは確認できた。周りの砂煙の動きから、風が不自然に魔神を浮かせているのが分かる。
「アイツ、なんで…!?」
すると、碧射達の前に上空から激しい風と共に何者かが地面に降り立った。
「…お前は。」
その人物がゆっくりと顔を上げる。
その顔は赤と白で半分に色の分かれた仮面をつけており、右の赤の方には白色で薔薇が描かれていた。170cmほどの身長のその人物は修道女シスター衣装を身に纏っていた。腰にはバラの装飾品がついており、そこから腰回りに茨が巻き付いているようにも見える。
「お前は、まさか…。」
碧射がそこまでつぶやいた瞬間、横を通り抜けて凛泉がナイフを構えて走り寄る。
「!」
凛泉の動きを見たシスター服の人物が後ろに飛ぶと、間に割り込むように着地した人物が、腰につけた鞘から小刀を引き抜き受け止めた。凛泉を弾き飛ばしたその人物は、もう片方の鞘から太刀を引き抜き構える。
「ああ…っ!?」
その人物は鬼の牙を模したようなマスクを口元につけ、固定具のようなものが頭の上までついていた。その固定組部分には角のようなものが付属しており、より鬼らしさを強調させていた。服装は何処かの高校の制服のようだった。
「…ねぇ、シスター。キミには安全運転という概念がないのか?空中で人を放り出すのはどうかと思うけど。」
鬼のようなマスクをした人物がシスターをチラリと見る。その人物は鬼面の女性と一切目を合わせていなかった。
「姐様の指示は『貴方と共に閉鎖区域に赴く』こと。貴方を「安全に」送り届けろとは言われていません。それに魔神の方が危険であるならばそちらを優先するのは当然です。」
シスターの淡々とした言葉に鬼面の女性がため息をつく。
「そんなこと言ってると、またリーダーに叱られるぞ。仲間と仲良くしろって。」
ねえ様のお叱り…それも悪くはない。」
シスターが少し笑うような仕草を見せると、鬼面の女性は再びため息をついた。
「おい、テメェら何呑気に話してんだ…?」
凛泉が凝血外殻を最低限手足に纏い剣を構える。
「失礼、貴方達を無視していたわけではありませんが…気に留める意味もありませんでしたので。」
シスター服の人物の発言に凛泉が舌打ちする。
「…お前たち、は…なんだ…?」
魔神の弱々しい声にシスターが振り向く。
「我々は、『薔薇ばら芽神同盟めがみどうめい。』魔神ナンバー05、貴方をお迎えに上がりました。」
「同…盟?」
魔神がそう呟いた瞬間、凛泉が地面を蹴ってシスターに接近した。
「…ふんっ。」
その瞬間強烈な風が発生し、凛泉の眼前に何かが突き刺さった。凛泉は寸前で立ち止まったが、それを見上げて首を傾げた。
「なんだこりゃ…?」
それは、金色に輝く三叉槍トライデントだった。シスターの身長とほとんど同じ長さで、刃の根本から持ち手の途中まで、金色の薔薇と茨の装飾が施されていた。
「我があるじよ、この力を振るうことをお許しください。」
シスター服の人物が両手を合わせ、槍に向けて祈るように頭を下げる。その姿はまさしく祈祷するシスターだった。
「相手の前で呑気に祈ってんじゃねえッ!」
凛泉が剣をさらに形成し斬りかかると、再び風が吹き槍がその剣を弾き飛ばした。
「ッ!!」
明らかに重いその槍は風で浮き上がり、シスターの手に握られた。
「祈りの邪魔をするな、無礼者。」
シスターはその槍を片手で振るい、凛泉と応戦する。
「ッ!」
碧射がもう一人の女性に銃口を構える。その女性は構えたまま碧射をまっすぐ見て、目を合わせた。碧射が弾丸を放つと同時に女性はまっすぐ走り出した。正面からの弾丸を太刀と小刀の二刀流で弾き飛ばし、さらに走り寄る。
「ッ!!」
弾かれた弾丸が操作できるうちに碧射は弾を操作し、隙だらけの背中に…
「っ!」
命中させようとしたが、鬼面の女性は振り向くことなく右に飛んで弾を回避した。
「何!?」
碧射に女性が斬りかかるが、碧射は剣をすんでの所で回避し、携帯していたナイフで小刀をギリギリ弾く。
「く…っ!」
「碧射くん!」
志真の剣二本が鬼面の女性に迫るが、女性は冷静に二本の刀剣を弾き落とす。
「ぐ…っ!」
志真は立ち上がり右手で剣を構えるが、左手は腹部からの出血を抑えていた。
「志真!動くな!それ以上の出血は…!」
「でも…アイツを逃すわけには、いかない…!」
志真の目を見ながら鬼面の女性はため息をつく。
「そんな状態で私たちを倒せると思うな。」
「はぁっ!!」
三叉槍を振るい、凛泉をシスターが飛ばす。そこにさらに突風が吹き荒れ、凛泉を瓦礫の山に叩きつけた。
「か…はっ。」
凛泉は背中を強く打ち付け、凝血外殻が解除され瓦礫の上にぐったりと力なく倒れる。
「貴方たちがどれほど強かろうと、疲弊した身体で私たちを倒せるという判断はいささか傲慢では?」
「凛泉ちゃん!!」
ふらつきながらも立ち上がって来た空が、千変万化を鞭のように変形させ振るい、5つほどの鉄の鞭で攻撃する。しかしシスターの周りに振り下ろされただけで、シスターが微動だにせずとも鞭は当たらなかった。
「狙いが正確ではありませんね。」
シスターが武器を構えようとすると、鞭の上を何かが素早く移動して迫って来ていた。
「っ!!」
それは杏奈だった。魔法により小さくなった体で、空の鉄の鞭を足場にして接近しシスターの下腹部に向けて勢いよく飛び蹴りを放つ。シスターはギリギリで三叉槍を使い攻撃を防ぐが、強い衝撃に耐えきれず後方に吹っ飛ばされた。
「ぐ…っ!」
シスターの周りで風が吹き、シスターが地面に安全に着地する。すると、足元の瓦礫の影から突然紫音が現れた。
「何…っ!」
「はぁぁっ!」
影から冥月を具現化させシスターに攻撃するが、シスターは後ろに倒れ込むようにして回避する。その際に風が吹き荒れ、シスターはさらに移動する。
「多対一は厄介ですね…貴方達全員を相手していては、埒が明きません。よって…。」
シスターが指を鳴らすと、更に突風が吹き荒れる。全員が身構えると、倒れていた凛泉の右手首から勢いよく血が吹き出した。
「っ!?」
「凛泉ちゃん!?」
空が気絶している凛泉に走り寄る。手首からは血が溢れて止まらなくなっており、現状では止血する術がない。
「私を狙えばその人は死ぬ。私を逃せばその人は助かる。簡単な問いではありませんか?」
紫音と杏奈はシスターを睨みつけるが、シスターは目の色ひとつ変えずただこちらを見つめ判断を仰いでいた。
「く…っ!」
紫音が凛泉の方へ振り向き、杏奈がシスターに迫る。
「ほう、そう判断しますか。」
紫音が影で仮の包帯を作り出し、凛泉の傷口に巻きつき強く締めて一時的に止血する。
「はぁっ!」
杏奈がシスターに向けて攻撃を放とうと飛ぶが、シスターの周りを竜巻のように風が舞い杏奈を弾き飛ばす。
「ぐ…っ!」
すると、鬼面の女性も共に風を纏い上空に引っ張られた。
「なんだ、もう撤退するのか?」
「魔神の回収は済ませました。であればもうここに用はありません。我々の目的は魔神であり彼女らではありませんから。」
「…ふん。」
鬼面の女性が不服そうな顔をしながら刀を鞘にしまう。シスターが頭を下げ指を鳴らすと、二人と魔神は勢いよく上空に向けて飛んでいった。一瞬で辺りが静まり返る。
「逃げ…られた…。」
志真が息を切らせながら、壁に寄りかかり空を見上げていた。
「…今は怪我人を回収して治療するのが最優先だ。志真、キミも含めてな。」
「…ええ、そうね…少し、無理をしすぎた…わね…。」
ふらついた志真を碧射が支える。杏奈はシスター達の飛び去った方角を見つめたまま無言だった。紫音は凛泉の止血に集中し、空は泣きそうな顔で凛泉を心配そうに見つめていた。
「ん…?」
碧射が何か物音に気づき、後方に振り向く。遠くからトラックが走ってくるのが見えた。
「お、迎えが来たか…。」
「シャァァァ…ッ!」
気絶している凛泉以外のその場にいた全員が顔を見上げる。崩れた瓦礫の向こうや戦いの過程で壊れた建物の近くから、複数の魔人達がこちらを見つめていた。
「…そりゃ、住処でこんなドンパチやってりゃあ集まってくるよな…。」
「シャアアアアッ!!」
魔人が数体、奇声を上げながら空たちの元へ走り寄ってくる。すると、トラックの荷台の扉が勢いよく開き人が飛び出す。その人物はガスマスクをつけて顔はわからなかった。
「お前らはお呼びじゃねえんだよ!」
車から飛び出した人物が叫ぶ。その人物は手首に傷があり、そこから血を流しながら勢いよく拳を振るい魔人を殴り飛ばした。
「がぎゃっ!?」
「お前。一華か!?」
「そうですよ!早く車に乗ってください!」
凛泉を紫音が背負いあげ、全員が満身創痍ながら車に向かう。しかし大人しく魔人が見逃してくれるはずもなく、数体が目の前に立ちはだかる。
「く…っ!」
魔人の中の一匹が、大口を開けて飛びかかろうとする。
「ボギュェッ!」
その瞬間、トラックの助手席から顔を出してる人物から、矢が放たれて魔人の頭部を貫いた。その人物は弓を引き次々と矢を放った。
「みんな、早く乗って!!」
助手席から体を乗り出していた緑髪の女性が叫ぶ。一華が開いたままにしていた扉に全員が入り、一華が飛び乗ったところで車を再び走らせる。魔人達が唸り声を上げながら追いかけるが、車に追いつける魔人はいなかった。

───────────────────
PM 14:50 閉鎖区域A区 移動中のトラック内
緑色の髪を三つ編みにまとめた女性が、空の手を優しく握る。すると、体に大きな変化はないが少しずつ感じていた気だるさがなくなっていくのを感じた。全員に行ったところで、女性は手を合わせて微笑む。。
「…はい、オッケー。これでみんなここを出るまでガスマスクなしでも問題なく動けるはずよ。怪我してて呼吸が荒い状態でのマスクは苦しいものね。」
「あ、ありがとうございます。えっと…。」
空が何と呼ぶか悩んでいると、女性は「あー」と声を漏らす。
「そういえば君は初めましてよね。私は喜多見きたみらん。別の場所でお仕事をしていたのだけれど、終わった途端にここに呼び出されちゃって!」
「む、結空です、ありがとうございます!でもこれは一体…?」
空が楽になった体を見渡す。見た目などに変化はないが、先ほどまでの体のだるさなどはなくなっていた。
「ああ、それは私の『環境適応』の力ね。火山灰の毒素に体を一時的に適応するようにしたから、もう毒素の心配は大丈夫よ~。」
「す、すごいです…!」
「うふふ、ありがとう。」
すると、急にトラックが停止する。荷台に座っていた全員が揺れに負けて倒れ込む。
「わぷっ」
勢い余って空は蘭の胸元に顔を埋める。
「わっ!す、すいませんっ!」
「あらあら、大丈夫よ~。」
「おい、何があった?」
碧射が荷台から降りる。運転していたイプシロンが、トラックの前に倒れている生き物を抱き抱えていた。
「ノツミチ・アオイ。この子は…。」
「ッ!?ジュラ!!」
碧射がイプシロンからジュラを受け取る。ジュラは体のところどころが傷だらけで、弱々しい呼吸を繰り返していた。
「んっ!?」
碧射が何かの気配を感じ空を見上げると、上では一匹のカラスが旋回していた。カラスの腹部には横一線に傷がつけられており、血を流しながらこちらを見下ろしていた。
「キュウ…ッ。」
「…イプシロン。可能な限り早く管理局に戻ってくれ。ジュラも含めて全員が満身創痍だ。俺は助手席に乗ってジュラを抱えててもいいか?」
「了解しました。助手席へどうぞ、急いで管理局に向かいます。」
碧射はカラスをちらりと見上げたが、すぐに助手席に乗り込んだ。
「キュルル…ッ」
カラスはトラックが走り去るのを見送った後、不気味な唸り声をあげて飛び去っていった。
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