上 下
30 / 57
穴蔵の底へ

これが俺の新マシーンだッ!

しおりを挟む
やれ模型コンテスト用のパーツだ、マイナのお気にのソシャゲグッズだと大量に買い漁り、ついでに何キロクラスのカレーを食べて、マイナ宅へと戻ってきた。
マイナは久々にカラオケも堪能し、アルコールこそ入らなかったが満腹・満足で上機嫌である。
買ってきた荷物を片付けながら、ダンジョン探索用のドローンの箱を取り出す。
そこそこ値が張ったが、カメラなんかもいい感じだったのでこれに決めた。
うまく操縦さえ出来れば、高さを気にせず探索に打ち込める…なおかつ命の心配を全くしなくても良いのだから偵察機としての意味合いはかなり大きい。
動画撮影してしまえばマッピング作業はリアルタイムでしなくて済む…なんだったら探索としての作業はよほど広大だとでも言わない限りは丸一日ドローン飛ばせば済むのかも知れない…
ダンジョン探索もVRで済ませてしまう時代が来ちゃったかあ…
試しに飛ばしてみようと、セッティングを終えてマイナ宅の外…陵墓内に出る。
通路、というか屋内だが高さがあるので、三メートル程度上まで上げればガーディアン辺りの攻撃は避けられるだろう。コントローラを操り、ドローンを上へ上げる…下向きの照明を点け、カメラをオンにする。
映像は思ったより鮮明だった。いいじゃん!イケるじゃん!
…この新鮮な感動は電波が届かなくなってドローンが落ち、回収に行かざるを得ない事実を知るまでの三十分程度は続いたのであった…。
「このドローンはお前のか!てめー、いきなりこんなとこで使ってんじゃねー!電波法舐めてんのか!…俺は大アルカナ二十二衆が一人、タワーのシヴァ!貴様の安寧な旅はここで終わry…」
黄金籠手ちゃん抜剣速度はやすぎんよ~わたしのキングオブソーズは既に塔の男の眉間を割り、鋭い突きが一瞬で勝負を決めていた。
良かった、ドローンは無事だ。
タワー男が膝から崩れ落ち、ドローンを取り落す瞬間、黄金籠手はその胸元からドローンを引ったくり、無事にわたしの手元に戻る。
まったく心配かけやがってコイツ…
出費額的に寿命が縮むわ…
やはり電波が届く距離がネックになるか…なんだシケてんなこいつ自分で言ってたタワーのカードしか持って無いのか…?
思索を巡らせながらの追い剥ぎ行為を終え、わたしは悄然とマイナ宅への帰路に就いた。
自室へ戻り、ドローン映像を見直しながら策を練る。
この階層のようにだだっ広いフロアならそこそこ飛ばせるが、当然限界はあるし、ましてや柱や壁が多いフロアでは即探索断念となるだろう。
危険なところへ仮偵察機として飛ばして様子だけ見るなら、そもそも高級機は必要無かった…
「要は高いオモチャか…」
「あら、計画失敗しちゃったんですか?」
マイナがお茶を淹れてくれたようだ。
「こんな遅い時間に突発的に追い剥ぎしたくなっただけじゃ無かったんですね」
「もう完全に思考が犯罪者のソレだよね」
「でも剥いだんでしょう?」
「まあ…抵抗されたし…」
なんだろう、わたしが強盗か何かかみたいな気になってきたがハハハそんな筈はない…
「もう大分遅いし今日は寝たらどうですか…今日は色々ありましたし」
「確かに。寝てリセットしたいとこだわね」
疲れていたのか、わたしはベッドに入るとすぐに寝入った。
ぼんやりと、薄らぐ意識に寄り添う気配。
「はーいログボ。今日は週に一度のガチャチケ配布日だよー誰だー☆3製造機とかガタガタ抜かしてんのはー。自分の運の無さをどいつもこいつも棚に上げやがってー」
ひらり、とわたしの前に紙片が舞い降りる。金ピカだ。いわゆる「○○以上確定!」とかじゃない系のガチャチケだなコレ。
「いや、わたしはそんなこと言わないよ。ありがと神さま」
わたしはサンラプンラに礼を述べた。
目の前に急にはっきりと姿を現したサンラプンラは、笑顔だった。
「流石、良い心掛けだねー。きっと良い引きするよー保証は付けないけどー」
「ん。」
わたしも笑う。まあガチャなんてものは引くまで、演出見るまでが楽しいものなのかも知れない。結果は結果でしかない。
そもそも手持ちの装備は既にそれなり以上、戦えば必ず勝つ状態なのだからあと何を引かなきゃならないとかは特にないのだ。
…まあその割には今置かれている状況はなんとも言い難い感じだが。
この微妙に便利だったり楽しかったりもしながらも、死後の世界感をどこか漂わせる不気味な世界。
地上のファンタジー世界の方が、まだしも真っ当な世界なのだろう。
そこへ戻る…のが目的のはずなのだが。
マイナの姿が頭をよぎる。
あの子をひとりここに置き去りにしていいものなのか…
「思ってたよりずっとお人好しだわあなた。敵は迷わず殺すのにね」
サンラプンラの言葉に、
「そりゃそーでしょ。黙ってたらこっちが殺されるんなら先にやるわ。そういう基本的な事だけは間違いなく、この世界に来た時点で刷り込まれてた…気がするよ?神さま?」
わたしは口の端を吊り上げ、笑う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

処理中です...