僕らの命は個性的。

秋良 翠

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第一章 命の声

第二話 不穏

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    僕の日常は、人とは違うのかもしれない。

    厨二病、とでも言われてしまえばそれまでなのだが、実際に理解されることは到底ないだろう。たとえこの命を他人に説明したとて、果たして信じる者がいるだろうか。大抵の人は笑って済ませてしまうだろう。僕自身、ときどき全て僕の妄想なのではないかと怖くなるのだから。

   『これが全部妄想だったら、ちょっとキミすごくない?尊敬するよ、まぁ真似したくはないけど 』

    イラッとするが、間違ってはいない。流石にそこまでの想像力は無いだろうと自分では思っている。
    要するに僕は、理解される事を諦めた訳なのだが…しかしこの状況は、どういうことだろう。

    「……お前は、聞こえるんだな?」

   「は…なんの、話ですか」

   目の前には屈強な体格の、いかにも強そうな目付きの鋭い男。黒い髪の毛先が赤く染まり、立っている姿だけで足がすくみそうだ。この男、先程いきなり教室に入ってきたかと思えば迷わず僕の目の前に立ち、じっと見下ろしたまま動かなくなったのだ。幸い放課後の教室で他の生徒がいないことが救いだが、逆にもし喧嘩でも売られたら勝てる気がしないので心細くもある。

   『あはは、キミが喧嘩とか出来るわけないよねぇ?そもそもこんなひょろいもやしっ子に、わざわざ誰が挑むのさ』
   
    いつも一言余計なんだ、こいつは。いつもの事だが少しイラッとしてしまい、それが態度に出てしまったようで、目の前の男が苛立つように見えた。

   「……今。動いたな」

  「え、あ、そうでしたか」

  「……心当たりがあるということか」

  「へっ?いやそういう訳じゃ」

  「……とにかく、来い」

  そう言うなり腕を掴まれる。いよいよ不穏な空気だ、このまま連れて行かれたらどうなるんだ?まず無事では済まないのではないか?頭が混乱したまま抵抗もできずに歩き出した。

  『どうしてそこで抵抗しないのか理解に苦しむね、無事では済まないとかどう考えてもついて行っちゃダメじゃないか。…まぁ、危ないことは無いだろうけど』

   頭ではわかっていても、率直に言ってしまえば怖い。足がすくみそうなのを動かすだけで、最早精一杯だ。というか、危ないことがないなんて何で言える?この恐怖が気のせいだとは思えない。

『いや別にボクには危険ないし?キミが死んだって冥界に帰るだけだからね、面白そうだしそのままでいいよ』

    最低だこいつ。

  「あ、あの!行くって、どこへ…」 

  「……着けば、わかる。きっと、お前も同じだ」

  「同じ?何が…」

  訳が分からない。もう覚悟を決めよう、殴られるなら歯を食い縛ろう。カツアゲなら潔く財布ごと差し出そう。幸い今日は大したものは持っていないし、教科書を盗まれることもないだろう。

  『…ほんっとにヘタレだね、キミは。うーん、覚悟を決めたなら逆に勇敢なのかな?だったら立ち向かえって話だけどね』

  返す言葉も無い。自分でもわかっていたがどうにもいたたまれなくなり、俯いたまま歩き続けた。
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