愛老連環の計

青伽

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家族二人へ戻る【最終話】

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 目の前に寝転んでいる貂蝉がいる。
 貂蝉の手にでもなったか? それとも儂はお前の眼で、鏡でも見ておるのか?
 まどろみながら王允は意識を取り戻した。余韻に恍惚とし、隣で王允を見ている貂蝉は、自分の身体だと信じて疑わなかった。しかし残念ながら思考が少しずつ回復していく。
 そうか儂は、喰い残しか……。
 それでもよい。
 貂蝉とは繋がっておる。
 貂蝉の胸元へ抱き付き、頬を擦り寄せた。
 自分を抱いた身体を腕と頬で感じ貂蝉の下腹部へと移動した。
 余韻が切れ始め、王允は貂蝉の腰を抱いたまま、嗤った。
「……お義父様? どうなさったのですか?」
 狂ったように嗤い、涙を流す。
 困惑している貂蝉の顔を見る事が出来ず、腰を見ながら会話する。
「貂蝉、儂はもう、お前の知る父ではない。
お前を市場で買い、育ててやった恩を感じておるのだろうが、気にすることはない。儂は――」
 股の間にある装着された物を着物越しに触れる。
「これさえあればよい、お前のこれさえあれば、生きていけそうだ」
 裾を捲りあげ、直接物を口に咥える。軽く吸いつき、物へ頬を寄せた。
「お義父様そのように、ご自分を卑下しないで下さい。一体どうしたというのですか」
 王允の身体を擦り、なだめている。
 まだ、わかってくれぬのか。
「お前に触れて欲情しておったのだ……まるで犬、いやそれ以下ではないか。
そうだろう? なぁ貂蝉よ。娘に抱いてくれと懇願する犬はどこを探してもおらぬだろう」
「お義父様、私……!」
 貂蝉の迷いを感じた王允は少し安堵した。王允はうっすらと嗤い貂蝉の物へ頬ずりする。
「死にはせぬ。お前が望むのだ、約束しよう。ただこれだけは置いて行ってはくれぬか。
お前を想いながら、これで身体を慰めたいのだ」
「お止め下さい、そのような……私、なんて……事を……!」
 貂蝉の様子がおかしい。
 王允が顔を上げると両手で顔を押さえた貂蝉が震えていた。
「貂蝉? 何故お前がそのように悲しんでおるのだ。お前はただこの儂の求めに応じ、慰めてくれただけではないか」
 王允は貂蝉を宥めようとするが、貂蝉へ自分が触れてもいいものか躊躇し、自然に落ち着くのを待った。
「申し訳、ございませんお義父様……私が、私が」
「……何の話だ? のぅ貂蝉、儂は今お前の話を聞けるだけで心地よいのだ。
怒ることはないから安心して話しておくれ」
 幸せ、だった。
 少しの間父親に戻れたような、そんな錯覚ができた。
「私、お義父様の、食事に……精力剤を」
 幸せがあっという間に終了した。
「………………はっ!? …………何故っ」
 辛うじて絞り出した言葉はそれだけだった。
「お義父様が、私を求めるようになればずっと傍にいてくれると考えたのです……
お義父様がそのようにお悩みになるとは思わず、申し訳ございません」
 顔を袖で拭いながらそう説明した。
「儂のような狂った老いぼれを傍に置いてどうするのだ。何の役にも立たぬぞ。
それどころかお前の婚期を逃すことにもなろう。今からでも良い縁談を探そう」
「上等な絹の着物より、愛着のあるボロの着物の方が、時に価値があるのです。お義父様」
 王允は言い返す言葉を探すが見つからない。どこか、貂蝉に仕組まれているようなそんな気持ちになる、しかし。
 ……お前が望んだ事なら、よいか。
 と思うと同時に、薬の所為と知っていればあんなみっともない真似をせずに済んだと後悔しない訳でもなかったが、気にしない事とする。
「もうよい泣くな。お前も、考えての事だろう?」
 貂蝉は袖で顔を拭きながら頷いた。
「お義父様は頑固で、融通がきかず、人の忠告も聞かずに死に急ごうとなさるので、これしかないと」
「お前は儂を知り過ぎだな……」
 小さな頃から可愛がってきたのだから、当然といえば当然だ。
「貂蝉、お前の好きなようにしてくれ。儂は従おう……」
 せめてもの贖罪だ。
 傍にいて欲しいと望むなら、過去に耐え、恥を忍び傍にいよう。
「本当、ですか? ……それならば、その」
 言い淀む貂蝉に、何か自分にもできる事があるのだと悟る。
 中々続きを言わないので、自嘲を含めながら話した。
「もし金に困っておるなら、董卓の側室だと言えば儂でも少しくらい客を取れよう」
 貂蝉の手を取り、甲へ口付けをし、誘ってみせる。貂蝉は顔を赤くして俯いた。
 想像していた反応と違ったが、少年少女のような行動に王允は満足した。
「お義父様……私っは…そのような」
「ならば他に儂に出来る事は何だ?」
 とても賢い子だ。
 自分では考えてもいない役割を与えてくれるはずだ。
 従っていよう、貂蝉を悲しませない為にも。
 貂蝉は息を飲み、答えた。
「私の、妻となって下さい!」
 目を瞑り、頭を一度白紙にする。そして冗談か本気かを考えた。王允は瞬きを何度もした後、質問を返した。
「それは……貂蝉お前、まさか男として生きるつもりなのか?」
 貂蝉は覚悟を決めた様子で頷いた。
「お義父様の為なら。お義父様が、手に入るのなら私男になります」
 貂蝉は王允の手を取り、両手で包みそう宣言する。貂蝉に気圧されながらも反論する。
「女としての幸せを捨てる事になるのだぞ!?」
「構いませんっそんな物、連環計をする際に覚悟しておりました。
捨てさせようとしたのは、お義父様ではありませんか」
 王允は返す言葉もない。
「私では、不足でしょうか」
 寂しそうな貂蝉に心が動く。
「そのような筈がなかろう! 儂は……」
 従えば、いいのか。
 貂蝉の事を想えば、断りたい。
 悩んで、咄嗟に答えた。
「お前の側室になら、なろう」
「ならば妻の席は永遠に開けておきますね、お義父様……」
 貂蝉は両手で顔を隠し、泣き始めた。
「私……男になっても、一生妻を娶れないのですね」
 慌てた王允は貂蝉の肩を掴み、焦りながら否定する。
「すまぬ貂蝉っそういう意味ではない! そうだな、お前に従うと申したのに」
 顔を上げず、ぐずりながら貂蝉は問う。
「私の妻に、なって頂けるのですか……?」
「ああ、妻でも何でもお前の好きなようにしておくれ」
 貂蝉は顔を上げると満面の笑みで王允へ抱きついた。
「お義父様!」
 王允は貂蝉の目の下を指でなぞり、深いため息をついた。
「貂蝉、お前……涙がまっったく出ておらぬようだ。
ずっと気にせぬようにしておったが、何度儂をからかえば気が済むのだ」
 呆れて再度ため息をつくと、貂蝉はにこやかに笑って見せた。
「これからはずっとからかって差し上げますので覚悟なさってくださいな、お義父様」
「貂蝉、ああ、お前という奴は仕方のない娘だ」
 二人ともに微笑んだ後、息を吸うように互いを求め唇を重ねた。
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