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望まぬ愛
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それから数日経ち、医者の許可が出た頃に部屋を出た。この数日、王允に多少の混乱はあれど、暴れたりする様子は見られなかった。そもそも何かと薬で眠らされていた。
気にも留めなかったが、ここは田舎町にある位の高い療養所であった。貂蝉も見張るように看病をするので王允は何もできず大人しくしていた。
貂蝉はずっと男装したままだ。遠くへ行くと言っていたので女と老人がいるより安全ではある。
なので王允は特に気にも留めなかった。
「……貂蝉、馬が一頭しかおらぬようだが?」
怪我人に馬か、というのはこの際置いておこう。贅沢を言う気はない。貂蝉は馬の後方へ王允を乗せ、手綱を握る。そして当然のように布で出来た紐を取り出し、後方にいる王允と貂蝉の身体を結んだ。
「貂蝉、この紐は何だ」
「お義父様がうっかり落馬しないようにするためのものです」
そう貂蝉は悪びれもせず平然と言い放った。
「儂が落馬する前提で話をするな」
不機嫌になる王允に、貂蝉は言い訳をする。
「私が馬に慣れていないのです。揺らしてしまいますので、しっかり掴まっていて下さいお義父様」
王允の返事を待たず貂蝉は馬を走らせたので、王允は黙って従った。
その後も貂蝉に隙はなく、今夜泊まる町に付けば買い出しに付き合わされ、厠にも付いてくる。
「貂蝉、何だこの紐は!?」
夜も更け眠ろうとした王允の右手首を捕まえた貂蝉は、自身の左手首とくっつけ、ぐるぐる巻きにして結んだ。
「お義父様が眠っている間に出て行かぬように」
貂蝉はそう平然と答えるので、王允は怒りはしたが貂蝉の意思が固い。仕方なく手首を結んだまま寝床へ入ったが、王允はいつまでたっても寝付けなかった。
直に触れ合う肌に、先日の行為を思い起こされ、離そうと手を動かすが、紐で繋がれているのでついてくる。
疲れているのか貂蝉は横になりすぐ寝息を立てていた。
儂も董卓殿がおれば、今頃行為に疲れて眠っておるところだな。王允にある感情が芽生えた。衝動的に無理でも紐を解こうとするが、上手く外れない。
外れぬ、外れぬ、外れぬ! 儂は、貂蝉の手にすら触れる資格もないのだ、なのに儂は……今何を考えておるのだ?
大した動きをしていないにも拘らず王允の息が上がる。
違う、願ってなどおらぬ。貂蝉に抱かれたいなどと、どうして願えよう。どうして!
最後に抱かれてからの日数を思い出す。怪我の為、昼夜問わず眠っていた所為か記憶がおぼろげだ。
確か七日から十日ほどになる……董卓殿は儂をこんなにも放置なさらなかった。だから、だから手ごろな貂蝉を?
……儂は万死に値する!!
舌を噛み切ろうと歯で挟むが、ここまで心配してくれる貂蝉を想うと隣では死ねなかった。結び目も解けるようなものではない。
王允は冷静になろうとし、そっと深呼吸をする。
馬を走らせている貂蝉は疲れたのかまだぐっすりと眠っているようだ。
もし唇を重ね、上へと跨れば貂蝉、お前はきっと。
おかしな妄想に、身体が疼く。本当に後戻りできない身体になってしまったのだと、情けなさと自分への怒りでいっぱいになる。
腹の傷が治っても、身体はやはり男で感じるのか。
少し期待していた。腹を刺したのだから何かの弾みで治りはしないかと。完治さえすれば、男で感じずに済むのではないかと。
こんなことなら首を刺すべきであったと王允は後悔する。
「もう貂蝉に会えたのだ……呂将軍、助けておくれ」
きっと相手は誰でも良いのだ。
呂布のことを思い出した王允は、呂布に抱かれながらも結局は貂蝉を想うのだろうと、そんなことを考える。
だが貂蝉はもう汚したくはなかった。
再び結び目を見れば、繋がれた貂蝉の手に口付けを落としたくなり、利き手でもない左手で懸命に紐を解こうとする。
「……何をなさっておられるのですか」
流石に貂蝉が起きてしまった。大急ぎで解こうと紐を掴むが多少緩んだだけで左手を貂蝉に掴まれる。
「お止めください、私でも解けないように結んだのですよ」
「一人にしておくれ貂蝉。頼む」
貂蝉の目を見る事も出来なかった。
「眠れないのならお薬を飲みになりますか? きっと良く眠れます」
明日になれば収まっているかもしれない。王允はそう安易に考え薬を飲んだ。
ひと眠りし、目を覚ました王允は落胆する。身体は火照り男を求めている。
「貂蝉! 起きろ、もう朝だ外しておくれ」
ぐっすり眠っていた貂蝉は眠気眼に返事をする。
「まだ、薄暗いですよ」
「朝は朝であろう。外してくれぬのか?」
傍にいる資格がない、ましてや貂蝉と直に触れた状態など、大臣としての王允が許しはしない。
「もう少し眠りましょう」
腕を胴に回され寝かそうとするので、その腕を払った。
「触れるでない! 儂はっ」
「私のお義父様です」
……ああ、お前は。
「そうで、あったな……」
市場で買い付け、幼いころから育ててきた。儂の、大切な娘。
「……何故、儂を抱いた?」
わかっている。わかっていたが聞かずにおられない。貂蝉は抱擁し王允の背を擦りながら話す。
「既にご存知でしょう? 中に出せず申し訳ありません、お義父様」
身体を癒して、赦して、女に相手をさせる事で男の汚れを一時的に白紙に戻したか。
「儂の相手など、他の女でもよかったろうに」
「私以外にお義父様の相手は出来ないでしょう」
王允が黙っていると小さく笑われる。
「落ち込んでいますか? 他の女を探しましょうか?」
小さな笑顔に心を奪われる。今呂布の元へ行っても長く生きてはいけないと王允は確信する。
儂は、お前がいいのか。
「それは今更だな」
我慢できなくなり、貂蝉を抱き締め返した。
いくら役目を終えようが、身体は理解しないようだ。
求めた相手があれ程会いたかった貂蝉である事に、恐怖を覚える。
「儂は……董卓を葬ったが、この卑しい身体ではもう政界には戻れぬ。
既に儂の役目は終えたのだ……もうよいであろう貂蝉。儂を楽にしておくれ」
貂蝉は王允の背中で、白い髪を指にくるくると巻いて遊んでいる。
「私がお嫁に行くまで生きていて下さいなお義父様」
「……側室の父などおらぬ方がよいであろう」
もっともなことを返したつもりだった。
「どこの馬の骨でも、いないよりは良いのです」
馬の骨とまで言われると、王允は腹が立ったが、実際はその通りだったので耐えた。
「お怒りですか? お義父様」
「……何を言ってもお前には理解できぬようだ」
そんなやり取りをしている間も、身体の火照りは引く様子もない。後、貂蝉に髪を巻かれて時折痛い。
王允は情けなさと意味のわからない痛みに苛立ちながら、口にする。
「ならば、代わりに生きる為の条件を出そう。もう一度だけ、儂を抱いておくれ貂蝉」
「条件は、それだけでよろしいのですか?」
もう少し嫌がると思っていたが、笑みさえ見せる貂蝉に王允は呆気に取られる。
「お義父様、そのようなお顔をなさらないでください。私が拒絶するとでも思われたのですか」
貂蝉は王允の頭部や顔を猫でも可愛がるようにあやした。その貂蝉が妖艶に見え王允は期待で更に身体を熱くする。
「じっとしていて下さい、紐を切りますね」
剣を取り、貂蝉は手首に繋がる紐を切る。王允は目の前にある刃物に釘づけになる。
「貂蝉、殺してくれぬか」
身体に迸る欲情と、死への渇望に王允の息が上がってくる。
「お前に殺されたいのだ。本当はお前に、貂蝉に男の真似をさせとうない……こんな色に狂った老いぼれの相手など、お前にさせとうないのだ!」
身体は意に反し熱が尻の穴に集まる。貂蝉を男として認識し王允の身体は女として求め疼いていた。あまりの浅ましい欲情に、王允は悔し涙を止める気力もない。貂蝉は王允の首元に音を立て接吻する。
「あっ……」
触れられた柔らかい唇にそそられ、王允は大人しくなる。
「このように狂った老いぼれを相手に、お前は慰めてくれるのか? すまぬ貂蝉」
理性が溶けてゆく。今から行う一時の快楽へ、これからの人生全てを捧げようと王允は誓った。
気にも留めなかったが、ここは田舎町にある位の高い療養所であった。貂蝉も見張るように看病をするので王允は何もできず大人しくしていた。
貂蝉はずっと男装したままだ。遠くへ行くと言っていたので女と老人がいるより安全ではある。
なので王允は特に気にも留めなかった。
「……貂蝉、馬が一頭しかおらぬようだが?」
怪我人に馬か、というのはこの際置いておこう。贅沢を言う気はない。貂蝉は馬の後方へ王允を乗せ、手綱を握る。そして当然のように布で出来た紐を取り出し、後方にいる王允と貂蝉の身体を結んだ。
「貂蝉、この紐は何だ」
「お義父様がうっかり落馬しないようにするためのものです」
そう貂蝉は悪びれもせず平然と言い放った。
「儂が落馬する前提で話をするな」
不機嫌になる王允に、貂蝉は言い訳をする。
「私が馬に慣れていないのです。揺らしてしまいますので、しっかり掴まっていて下さいお義父様」
王允の返事を待たず貂蝉は馬を走らせたので、王允は黙って従った。
その後も貂蝉に隙はなく、今夜泊まる町に付けば買い出しに付き合わされ、厠にも付いてくる。
「貂蝉、何だこの紐は!?」
夜も更け眠ろうとした王允の右手首を捕まえた貂蝉は、自身の左手首とくっつけ、ぐるぐる巻きにして結んだ。
「お義父様が眠っている間に出て行かぬように」
貂蝉はそう平然と答えるので、王允は怒りはしたが貂蝉の意思が固い。仕方なく手首を結んだまま寝床へ入ったが、王允はいつまでたっても寝付けなかった。
直に触れ合う肌に、先日の行為を思い起こされ、離そうと手を動かすが、紐で繋がれているのでついてくる。
疲れているのか貂蝉は横になりすぐ寝息を立てていた。
儂も董卓殿がおれば、今頃行為に疲れて眠っておるところだな。王允にある感情が芽生えた。衝動的に無理でも紐を解こうとするが、上手く外れない。
外れぬ、外れぬ、外れぬ! 儂は、貂蝉の手にすら触れる資格もないのだ、なのに儂は……今何を考えておるのだ?
大した動きをしていないにも拘らず王允の息が上がる。
違う、願ってなどおらぬ。貂蝉に抱かれたいなどと、どうして願えよう。どうして!
最後に抱かれてからの日数を思い出す。怪我の為、昼夜問わず眠っていた所為か記憶がおぼろげだ。
確か七日から十日ほどになる……董卓殿は儂をこんなにも放置なさらなかった。だから、だから手ごろな貂蝉を?
……儂は万死に値する!!
舌を噛み切ろうと歯で挟むが、ここまで心配してくれる貂蝉を想うと隣では死ねなかった。結び目も解けるようなものではない。
王允は冷静になろうとし、そっと深呼吸をする。
馬を走らせている貂蝉は疲れたのかまだぐっすりと眠っているようだ。
もし唇を重ね、上へと跨れば貂蝉、お前はきっと。
おかしな妄想に、身体が疼く。本当に後戻りできない身体になってしまったのだと、情けなさと自分への怒りでいっぱいになる。
腹の傷が治っても、身体はやはり男で感じるのか。
少し期待していた。腹を刺したのだから何かの弾みで治りはしないかと。完治さえすれば、男で感じずに済むのではないかと。
こんなことなら首を刺すべきであったと王允は後悔する。
「もう貂蝉に会えたのだ……呂将軍、助けておくれ」
きっと相手は誰でも良いのだ。
呂布のことを思い出した王允は、呂布に抱かれながらも結局は貂蝉を想うのだろうと、そんなことを考える。
だが貂蝉はもう汚したくはなかった。
再び結び目を見れば、繋がれた貂蝉の手に口付けを落としたくなり、利き手でもない左手で懸命に紐を解こうとする。
「……何をなさっておられるのですか」
流石に貂蝉が起きてしまった。大急ぎで解こうと紐を掴むが多少緩んだだけで左手を貂蝉に掴まれる。
「お止めください、私でも解けないように結んだのですよ」
「一人にしておくれ貂蝉。頼む」
貂蝉の目を見る事も出来なかった。
「眠れないのならお薬を飲みになりますか? きっと良く眠れます」
明日になれば収まっているかもしれない。王允はそう安易に考え薬を飲んだ。
ひと眠りし、目を覚ました王允は落胆する。身体は火照り男を求めている。
「貂蝉! 起きろ、もう朝だ外しておくれ」
ぐっすり眠っていた貂蝉は眠気眼に返事をする。
「まだ、薄暗いですよ」
「朝は朝であろう。外してくれぬのか?」
傍にいる資格がない、ましてや貂蝉と直に触れた状態など、大臣としての王允が許しはしない。
「もう少し眠りましょう」
腕を胴に回され寝かそうとするので、その腕を払った。
「触れるでない! 儂はっ」
「私のお義父様です」
……ああ、お前は。
「そうで、あったな……」
市場で買い付け、幼いころから育ててきた。儂の、大切な娘。
「……何故、儂を抱いた?」
わかっている。わかっていたが聞かずにおられない。貂蝉は抱擁し王允の背を擦りながら話す。
「既にご存知でしょう? 中に出せず申し訳ありません、お義父様」
身体を癒して、赦して、女に相手をさせる事で男の汚れを一時的に白紙に戻したか。
「儂の相手など、他の女でもよかったろうに」
「私以外にお義父様の相手は出来ないでしょう」
王允が黙っていると小さく笑われる。
「落ち込んでいますか? 他の女を探しましょうか?」
小さな笑顔に心を奪われる。今呂布の元へ行っても長く生きてはいけないと王允は確信する。
儂は、お前がいいのか。
「それは今更だな」
我慢できなくなり、貂蝉を抱き締め返した。
いくら役目を終えようが、身体は理解しないようだ。
求めた相手があれ程会いたかった貂蝉である事に、恐怖を覚える。
「儂は……董卓を葬ったが、この卑しい身体ではもう政界には戻れぬ。
既に儂の役目は終えたのだ……もうよいであろう貂蝉。儂を楽にしておくれ」
貂蝉は王允の背中で、白い髪を指にくるくると巻いて遊んでいる。
「私がお嫁に行くまで生きていて下さいなお義父様」
「……側室の父などおらぬ方がよいであろう」
もっともなことを返したつもりだった。
「どこの馬の骨でも、いないよりは良いのです」
馬の骨とまで言われると、王允は腹が立ったが、実際はその通りだったので耐えた。
「お怒りですか? お義父様」
「……何を言ってもお前には理解できぬようだ」
そんなやり取りをしている間も、身体の火照りは引く様子もない。後、貂蝉に髪を巻かれて時折痛い。
王允は情けなさと意味のわからない痛みに苛立ちながら、口にする。
「ならば、代わりに生きる為の条件を出そう。もう一度だけ、儂を抱いておくれ貂蝉」
「条件は、それだけでよろしいのですか?」
もう少し嫌がると思っていたが、笑みさえ見せる貂蝉に王允は呆気に取られる。
「お義父様、そのようなお顔をなさらないでください。私が拒絶するとでも思われたのですか」
貂蝉は王允の頭部や顔を猫でも可愛がるようにあやした。その貂蝉が妖艶に見え王允は期待で更に身体を熱くする。
「じっとしていて下さい、紐を切りますね」
剣を取り、貂蝉は手首に繋がる紐を切る。王允は目の前にある刃物に釘づけになる。
「貂蝉、殺してくれぬか」
身体に迸る欲情と、死への渇望に王允の息が上がってくる。
「お前に殺されたいのだ。本当はお前に、貂蝉に男の真似をさせとうない……こんな色に狂った老いぼれの相手など、お前にさせとうないのだ!」
身体は意に反し熱が尻の穴に集まる。貂蝉を男として認識し王允の身体は女として求め疼いていた。あまりの浅ましい欲情に、王允は悔し涙を止める気力もない。貂蝉は王允の首元に音を立て接吻する。
「あっ……」
触れられた柔らかい唇にそそられ、王允は大人しくなる。
「このように狂った老いぼれを相手に、お前は慰めてくれるのか? すまぬ貂蝉」
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