恋は秘めて

青伽

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祖父と孫

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「おじいちゃん!」
 身体を揺すられ春真の声で目が覚めた。
「おじいちゃん、よかったっ」
 昨日は普段通り布団で眠っていたようだ。
「どうしたんだい? なんで家に」
「おじいちゃん今日行くって言ったよ。今まで寝てたの?」
 時計を見ればもう昼すぎだ。そういえば、そんな事を娘が言っていたような気がする。
「おじいちゃん、苦しくない?」
「え?」
「唸ってたから」
 意識が覚醒してくると、汗をかいている事に気付く。
「少し暑かった、かな」
 夢のせいだ、それしかない。
 春真の頭を撫でて安心させる。
「着替えるから、部屋でテレビでも見てて」
 返事をすると春真は寝室から出て戸を閉めた。
 よいしょ、と口癖のように言い起き上がる。
 和箪笥の取ってを引いた。
「……」
 昔、綾子が見立てた着物を引っ張りだす。
 普段着だが、何度か解れてしまい最後に直した後、着なくなったものだ。
 袖を通すと女性好みの小さな花模様が薄紫色で敷き詰められている。
 何の花かは知らないが、綾子も多分知らなかっただろう。
 着替えて仏間へ行く。
 仏壇の前には綾子の写真が飾ってある。
 なんて夢を見たんだ……
 自己嫌悪に襲われる。
 置いてある数珠を持ち、手を合わせる。
「綾子、君はわしに」
 悠斗を受け入れろと言うのか。
「綾子……死んだらまた一緒になってくれるかい?」
 そこにいるように、話しかける。
「わしが、死んだら……悠斗は、悲しんでくれるかな」
 問いかけに返事はない。
「その時まで、悠斗がいてくれると、君は本気で」
 思っているんだな。
「綾子……そうだとしても、わしには」
 障子が開く音がする。
 振り返ると春真がいた。
「あ、おじいちゃん。大丈夫だった?」
 様子を見に来たようだ。
 聞かれていなかったか不安になるが、春真の様子を見るに安心してよさそうだ。
「……心配かけてしまったね」
「うん、寝てなくていいの?」
 贈悟は数珠を置いて立ちあがった。
「平気だよ」
 納得がいかなそうな顔をしている。
「ホントに?」
 真実を当てられそうで、贈悟はそっと目線を外した。
「ああ、大丈夫だから」
 頭を撫でようとしたら、軽く避けられた。
「僕もっとここに来るようにするよ」
「春真は心配性だな」
「母さんほどじゃないよ」
 確かに。
 その割には娘自身はあまり家に来ないが、代わりに春真を寄こしてくる。
「学校は忙しいかい?」
 学業に妨げになっていないか気になった。
「そんなに。そういえば悠斗は? 来てるの?」
 夢を思い出し、一瞬反応が遅れる。
「……よく来てくれるよ」
「変なことしてこない?」
 予想外の質問に動揺する。
「へ、ヘンなこと? な、なに?」
「ない?」
「ないない、とてもいい子だよ。おかず持ってきてくれたり」
 いぶかしげに贈悟を見るが、納得したようだ。
「どうしたんだい急に、悠斗君と喧嘩でもしたかい?」
「悠斗さーおじいちゃんの介護したいんだって」
 そういえば、そんなことを言っていた。
「わしは、別にかまわないが」
「僕は、うんおじいちゃんがそれでいいなら」
 一人納得しているようだ。
「悠斗がいてくれるなら安心だね」
 時折向ける春真の無邪気な顔が、綾子に似ている。
「ッ……そうだね」
 介護、それでもいいか。悠斗がそこにいるなら。
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