恋は秘めて

青伽

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それから(中学生×お爺さん)

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 そう決心してから随分と年月が過ぎた。
「贈悟さん」
 小学校を卒業し、後半年もすれば中学も卒業する。
 中学生三年生の悠斗は一人でもよく家へ来ていた。
 春真が受験の為、塾の時間が長くなってしまい時間が合わなくなったようだ。
「この間部活で実習があってさ……」 
 手に布袋を持っている。
「料理部、続いているんだね」
 春真はともかく、悠斗まで料理部を選ぶのは意外だったが、
結局三年間続いているのなら、きっと楽しいのだろう。
「うん。今日家でも作ってきたんだ、贈悟さんに食べてもらいたくて」
「ありがとう」
 袋を受け取り、中を見ると半透明のタッパーが入っている。
 中身は何だろう? 白菜とお肉が見える。
 考えていると悠斗が話出す。
「白菜とシイタケの牛筋煮込み、は食べにくいと思って牛筋をバラ肉にしてみたんだ」
 ……これは、料理名はもう当てられないな。
 贈悟は観念する。
「昔はオムライスとか簡単にわかるものだったのにね」
「っ! オムライスの方がよかった? 今度作ってくる」
 慌てる顔も可愛らしい。慌てさせたのは贈悟だったが。
「そうじゃないよ、悠斗君も随分料理がうまくなったなって」
 そう否定すると悠斗は「あっ」と気づいて照れて俯いた。
「今日はどうする?」
 いつもは学校帰りに寄って勉強をしたり、挨拶だけで帰っていく事もあった。
 今日は時間があるように思えた。
「おかずだけ貰って返すわけにはいかないね。宿題でも手伝おうか?」
 といっても中三の宿題でわかるのは国語と社会くらいなものだ。
「勉強よりこの間掃除した時に見つけたゲームしたいな」
「UNOか。なら、しようか」
 倉庫を掃除してくれた時に見つけていた。
 小学生の頃にやったのが最後だ。
「それで、負けたら言う事を一つだけ聞く」
 罰ゲーム、やったことはなかったが、
中学生ともなるとそれくらいしないと楽しめないのだろう。
「いいよ。ただしあまり高い物は買えないよ?」
「じゃあ俺が負けたら、贈悟さんの欲しい物絶対に買うよ! お金足りるかな……」
 お金がかかるものを頼むつもりは毛頭ないが、
そう思わせていた方が楽しんでくれるような気もする。
 悠斗はカードを配り準備し始めた。
「じゃあ始めようか」

「ウノ!」
 そう声を上げたのは
「勝ったっ!」
 悠斗だ。
「負けたか」
 とても喜んでいるようだ。楽しめたのならそれでいい。
「贈悟さん! えと、罰ゲームなんだけどさ」
 高い物は買えない、とは言ったが五千円くらいまでなら買ってもいいかと思っている。
 よくおかずを持ってきてくれるお礼だと言えばご両親も納得するだろう。
「俺、贈悟さんにごはん食べさせたい」
「……料理を作ってくれるという事かい?」
 罰ゲームにならない気がした。
「贈悟さんの為なら何度でも作るよ! それを俺が箸で贈悟さんに食べさせるんだ」
 確かにそれは罰ゲームだ!
「構わないが、それ、君にとって何の得が……」
「俺贈悟さんの介護するのが夢だから」
 介護、そんな年か、私は。
 ショックを受けつつ、拒否するほどの内容でもないので承諾する。
 早速持ってきた白菜とシイタケの牛筋……バラ肉煮込み、を温めて食べることにした。
「……悠斗君」
 悠斗が用意すると、茶碗に米と小皿に黄色いたくあんが出て来た。
 米はあらかじめ炊いてあったものだ。
 たくあんに至っては市販の普通にある半月切りのものを買っておいたはずだが、
ご丁寧に細切りになっている。
「贈悟さん、あーん」
 箸で白菜を摘まみ、口へと運ぶ。
 少々抵抗感があるが、渋々口を開けた。
 ぎこちなく、口へ入れる。
「おいしい……」
 普通に食べたかった。とはいえず。悠斗は満足そうに笑顔になっている。
「次はたくあん? それともお米にする?」
「どちらでも」
 悠斗が喜んでいるなら……仕方ない。
 それに、何だか恋人同士のじゃれ合いみたいだ。
 そんなことを考え、まだ悠斗へ恋心を残している事に気付く。
「贈悟さん、あーん」
 そう思うと途端に恥ずかしくなるが、悟られぬよう口を開ける。
 口の中に入った料理をかみ砕く。
「贈悟さん、好きだよ」
「!?」
 喉に詰まらせ咳込んだ。
「贈悟さんっ大丈夫?」
 頼むから、そんなこと言わないでくれ。
「き、みは」
 恋心が消えないじゃないか。
「……冗談もほどほどにしなさい」
「冗談なんかじゃないよ」
 あどけない表情で、覗き込んでくる。
 そんな事を言っていると……本気にしたらどうするんだい?
 そんな言葉を食事と共に飲み込んだ。
 全て食べきるまで、罰ゲームは続いた。
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