恋は秘めて

青伽

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かわいい訪問者

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自宅の縁側にて着物を着て座っていると、
小学一年生の孫、『柊 春真ひいらぎ はるま』が『柊 贈悟ひいらぎ ぞうご』を呼んだ。
「おじいちゃん!」
「おかえり」
 学校帰りに、いつも家へ寄って来てくれる。
 六十過ぎの独り暮らしには、喜ばしい存在だ。
 庭へ降り立ち、門の所にいる春真の友人『篠崎 悠斗しのざき ゆうと』にも声かける。
「悠斗君、こんにちは」
「こんにちはぞうごさーん! まいはにー!」
 『マイハニー』と言いたいらしい。
 悠斗は小さな両腕を広げ足もとまで走り、贈悟の身体へ飛びこんだ。
 悠斗は背が足りていないので、贈悟の腰あたりを抱きしめている。
 返答に困り「はいはい」と言って、悠斗の頭を撫でた。
 春真は遊びたいらしく、悠斗を呼んだ。
「ゆーと、キャッチボールする?」
「あっうんする!」
 二人は背負っていたランドセルを縁側に放って、グローブをしまっている倉庫へ走って行った。
 広い庭ではないが、長方形の庭は簡単なサッカー等も出来るようだ。
「さて、と」
 疲れた頃を見計らって、お茶でも出してあげよう。
 そう思い台所へと向かった。
 空の急須を手に取り、玄米茶の入った茶筒を取り出した。
 小さな二人の為にするこの作業が、贈悟は好きだった。
「麦茶の方がいいのかな……?」
 独りごとを言うと、首を横に振る。
 定年過ぎた独り暮らしの男が、
孫の為に普段飲まない麦茶を用意することぐらい……よくある話だ。
 何もおかしなことはない。
 本来ならその筈だ。
 過敏になっている原因は、悠斗にある。
 冗談なのか何なのか、気が付いた頃からいつも贈悟に言い寄ってくる。
 ついこの間までは、可愛いと思っていた。

『贈悟さん』
 そう呼ぶのはこの間まで、亡くなった妻、綾子だけだった。
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