すべてはおわったことである

青伽

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美女終了

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 嘆き悲しむ娘婿から、娘の遺体を無理に引き取った。
 娘の部屋へ台を置き、その台の上へ冷たくなった娘を寝かせた。
 老人はじっと冷たくなった娘を見下ろす。
 娘婿は『何故死んだのかわからない』と言っていた。しかし義父である老人には、娘が何を考えて亡くなったか、容易に想像できた。
 せめて、一声かけていれば、死なずに済んだであろうか。
 何故会いに行かなかったのか、と聞かれたならば、時間がなかったから、と答えるだろう。
 だが、無理をすれば会うこともできた。
 合わせる顔などなかったが。
「お前は、実の娘ではないから、儂が非情な頼みをしたと考えておるようだが、それは断じて違う。儂はーー」
 言葉に詰まり、涙を流す。
「お前が、実の娘であっても、同じ目に遭わせたのだっ」
 なんの言い訳にもならない。
 要するに娘が想像するよりも、人でなしだと、言っているだけだ。
 もしも、もしもお前が望むのであれば
「来世では、儂はお前の腹から生まれよう。さすれば間違いなく血を分けた親子であろう」
 老人は携えた短刀で腕を斬り、誓いを立てる。
 娘の腹にかけた血が、身体を伝い寝台を濡らす。まるで、拒否されているように感じる。
「いやか、ふむ? いや、か……」
 その場に崩れるように膝を付く。涙は止めどなく溢れる。
「わしはッおまえが、よい。が」
 返事をする者は既になく、時間だけが過ぎて行った。
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