蒼空のイーグレット

黒陽 光

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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて

第十四章:BELIEVE YOURSELF/01

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 第十四章:BELIEVE YOURSELF


「不発なんて……!? そんなことって!」
『あり得ない話でもないよ、アリサちゃん』
 ――――AAM‐03、不発。
 その現実を受け止めきれず、困惑し狼狽するアリサに対し、椿姫があくまで冷静を保った声で通信越しに囁きかける。
『AAMシリーズは知っての通り、本来は空対空用途のミサイルだしねー。当然だけど対艦戦闘なんて最初から想定していない。不発になる可能性だって十分にあるよ』
「だったら、どうすれば……!」
『こうなってしまってはどうしようもない! 攻撃は失敗だ……! アリサくん、ソニアくん! それに他の皆も、作戦は中止だ! 一刻も早くその宙域から離脱するんだ!』
(…………いいや、離脱は出来ない)
 撤退命令を下す要の張り上げた声を聴きながら、翔一はあくまで冷静さを保ったままで独り、内心でそう思っていた。
 明らかに、この場から逃げ切ることなんて不可能だ。規格外のパワーを誇るESP専用機、自分たちの≪グレイ・ゴースト≫なら……或いは、エンジンが吹き飛ぶのを覚悟でリミッター解除の緊急出力を絞り出せば、この場から逃げ延びられる可能性もある。
 だが、それ以外の連中は絶対に不可能だ。特にソニア機は逃げ切れない。
 それに……後ろで別のキャリアー・タイプと戦っている榎本らファルコンクロウ隊の面々と、それにキャスター隊……と、彼らが乗せてきた歩兵部隊。現状、それら全員が逃げ切ることなんて絶対に無理だ。いいや……下手をすれば、イーグレット隊以外は確実に全滅の道を辿るかもしれない。
「……援軍の到着は?」
 ――――でも、援軍さえ間に合ってくれれば。
 今の一連の攻撃で、多少なりとも時間は稼いだ。ひょっとすると、援軍が間に合ってくれる可能性もある…………。
『…………作戦エリアS‐1より急行中のキングダム隊、及びエタンダール隊の到着まで、残りおよそ三〇〇秒。……とても間に合いません』
 そう思い、翔一は問うてみたのだが。しかしレーアの口から返ってきたのはそんな、絶望的な現実を告げる言葉だった。
「まあ、だろうね……」
 予想できていたことだけに、翔一の反応はただ肩を落とすだけの薄いものだった。
 ただ、残念には思う。藁にも縋る思いで問いかけただけに……救援の到着も間に合わないと告げられると、やはり少し辛いものがある。
『逆転の芽は潰えた……か』
 そんな風に翔一が肩を落としていると、ミレーヌもまたそんな独り言を呟いていた。平静を装いながらも、何処か苦虫を噛み潰したような声にも聞こえるのは……きっと、彼女とて同じ心境であるが故のことだろう。
『――――いいや、まだ可能性はひとつだけ残ってるよん』
 が、次に聞こえてきたのは椿姫のそんな、突拍子もない一言だった。
「可能性、ですって?」とアリサが怪訝そうに訊き返す。すると椿姫はうんと頷き、こう言葉を続けた。
『ソニアちゃんが撃ってくれたミサイル、多分キャリアー・タイプの壁に弾体が丸々突き刺さってるみたいな感じだと思う。確かアリサちゃんたちって、三〇ミリのレーザーガンポッド積んでたよね?』
「え、ええ……。でも、今更ガンポッド如きでどうこうなる相手じゃあ」
 呟くアリサの声を遮るように、椿姫が『どうにかなるよ』と言った。
『GLU‐42/Aの火力なら、ミサイルぐらい十分に撃ち抜けるはずだからさ』
「……! そうか、誘爆させれば!」
『にしし、気付いたねアリサちゃん。そういうことだよ。外壁に突き刺さったままになっているAAM‐03を撃って誘爆させれば、今からでもどうにかなるかもしれないんだ』
『…………しかし、プロフェッサー。そのプランを実行するのならば、幾つかの問題点が生じます』
『ん、何かなレーアちゃん』
『まずひとつ、この敵防空網を現状の戦力で突破することは不可能であること。二つ目に、仮に飛び込めたとしても手動照準になります。針に糸を通すような真似、現実的とは思えません。
 そして、最後に――――仮にレーザーガンポッドでの狙撃に成功し、起爆に成功したとしても。その後で機体がキャリアー・タイプの爆発に巻き込まれる確率が非常に高い点です』
『…………うん、分かってるよ』
 レーアの指摘に、椿姫は少しだけ沈めた声のトーンで頷き返す。まるで、全て分かった上で言っていると言いたげな調子の声で彼女は頷き返していた。
 ―――――特攻。
 もう、それしかないのか。他の大多数を助ける為に、イーグレット隊のどちらか一機が犠牲になるしかないのか。
 レーアの言葉と、椿姫の反応から翔一は、そしてアリサら他の面々も同様にそう思っていたのだが――――しかし次に椿姫が紡ぎ出した言葉は、決してそんな絶望的で最低最悪の打開策を告げるものではなかった。
 いいや、彼女の口から飛び出してきたのは、寧ろその真逆だ。椿姫は通信回線の向こう側でニッと八重歯を見せて小さく笑むと、皆に対しこう告げたのだった。
『やり方はあるよ。皆が無事に助かる可能性が、その方法がひとつだけ』
「方法……どういうこと椿姫、勿体ぶらずに教えて頂戴」
『それはね、アリサちゃん。この中でたった一人だけに出来ることなんだ。彼にだけ、彼になら出来るかもしれないこと』
『彼って……っ!? まさか、まさか椿姫っ……!?」
『そう、その通りだよアリサちゃん。
 ――――――翔ちゃんなら、未来予知が出来る翔ちゃんになら、出来るかもしれないんだ』
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