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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて
第十一章:オペレーション・ダイダロス/07
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『……先鋒はクロウ隊に任せよう。僕らは彼らの右翼側に、アリサたちは左翼側から食らい付くのがベストだ』
「僕もミレーヌに賛成だ。クロウ隊の数と腕前なら、中央はどうにかこうにか抑えきれる」
「分かったわ。……イーグレット2、そっちは任せる。アタシたちは左翼を!」
『りょーかい! よっしゃ、行くぜ行くぜ行くぜェッ!!』
目の前のキャリアー・タイプから飛び出してきた敵の直援機たちに対し、先んじて飛びかかったファルコンクロウ隊の数機に向かって正面の守りを任せて。アリサたちイーグレット隊はミレーヌの提案通りに散開し、アリサ機は向かって左側に、宗悟機は右側にそれぞれ別れていく。
『コスモアイより突入部隊へ。敵直援機の総数は現在測定中です、もう暫くお待ちを』
『イーグレット2よりコスモアイ、敵は全部で三九機だ。いや……今三八機に減った』
『……了解しました。情報提供に感謝します、イーグレット2』
『ふっ、お安い御用さ。細かい数ならいつでも僕に聞いてくれ。多分センサーを走らせるよりもずっと早いだろうから』
その間にも、レーアとミレーヌの間ではそんなやり取りが交わされていた。
これも、彼女の広域空間把握能力によるものだ。流石にミレーヌのそれは凄まじいとしか言いようがない。AWACSのレーダーが捉え、判定するよりも早く、パッと敵の詳細な数をリアルタイムで把握してしまうとは…………。
まあとにかく、彼女のお陰で具体的な数字で敵の数を知ることが出来た。多いことは多いが……しかしさっきの制空戦闘を思えば、別に大した数ではない。イーグレット隊とクロウ隊で十分に対応出来る数だ。
「数が数だ、囲まれたらキツい! 一撃離脱で行こう、アリサ!」
「言われなくても! ……どれから真っ先に仕留めれば!?」
「少し待ってくれ――よし、視えた……! 優先ターゲットに指定する!」
「把握したわ! ……シーカー・オープン! イーグレット1、FOX2!!」
翔一が未来予知の能力を用い、数秒後に最も撃墜しやすい位置に移動してくる敵機を捉えると。彼の操作でパッとキャノピーに映し出されたソイツに対し、アリサはAAM‐01の短距離ミサイルをロックオン。ジジジジ……という蝉の声によく似た電子音が響く中、敵機を示す緑色のターゲット・ボックスが赤色に切り替わり。ロックオン完了を示した瞬間に、アリサは操縦桿のウェポンレリース・ボタンを押し込んだ。
そうすれば、彼女の≪グレイ・ゴースト≫が主翼の下に吊していたランチャーからミサイルが発射される。ロケットモーターの瞬きで小さな軌跡を描きながら、撃ち放たれたミサイルは宇宙空間を飛翔し……そして逃げ惑う敵機を追いかけ回して、その末に直撃。花火のように派手な爆炎を上げれば、紙飛行機のように簡単な形状をしたモスキート・タイプをまた一機、宇宙の塵に変えてしまう。
「出し惜しみはナシだ! 全部乗せでぶちかませ!」
「無論よ! ……よし、捉えた! イーグレット1、FOX2!!」
『ふふっ……僕らも負けていられないね。宗悟、すれ違いざまに三機は仕留められる。やれるかい?』
『あたぼうよ! ――――そらそら、逃げんなよお嬢さんッ!!』
アリサ機が残った三発のAAM‐01を発射して、三機を同時に撃墜。その傍らで右翼に展開した宗悟機といえば、すれ違いざまにレーザーガンポッドの機銃掃射で以て……こちらも三機だ。三機のモスキート・タイプを一気に叩き落としていた。
『燎、俺たちで敵の注意を引き付ける。やれるか?』
『バッカ朔也、誰に言ってると思ってるわけよ』
『……そうだったな。お前相手にわざわざ確認するまでもない、か』
『そそ、その通り。俺と朔也の間にそういうさ、面倒なあれこれって不要なのよ。……そんで、どうするよ?』
『突っ込んで、暴れ回る。お前好みの単純明快さだろう?』
『違えねーや。ついでに本丸の対空砲も幾つか潰しとくか。その方がゴリラ連中も多少はノックしやすくなるだろうよ』
『ああ、賛成だ。……さてと、やるぞ燎』
『おうよ、任されて』
そうして、イーグレット隊の≪グレイ・ゴースト≫二機が両翼に展開した敵機の相手をしている最中。真っ正面に突出していたファルコンクロウ隊……の中でも、更に榎本と生駒、隊長機と副隊長機の二機が飛び出していて。まるで敵の懐へと自ら飛び込んでいくかのように、一気に敵の喉元へと食らい付いていく。
その意図は今まさに二人が通信で話していた通り、敵の注意を自分たちに引き付けることにあった。敵モスキートたちの注意が少しでも引けられたら、その分だけ後方のキャスター隊……強襲揚陸艇の安全が確保出来る。そう思い、榎本と生駒は自ら囮役を買って出たのだ。
『スパイラル戦法で行く。合わせろ、燎』
『おうよ』
懐に飛び込んだ榎本機と生駒機は、榎本の合図とともに二機が背中合わせになるようになる。
…………そういう喩えだと微妙に分かりにくいが、つまりは両機が互いの背中を見せ合う形だ。互いの垂直尾翼がぶつかりそうでぶつからない、そんな極至近距離で二機の≪ミーティア≫が向かい合う。ちょっと上を見上げれば、互いの顔がキャノピー越しにハッキリと認められるぐらいの距離だ。
そんな風に奇妙な態勢を取ると、二機はそのままぐるぐると急激な旋回を始めた。
互いに背中合わせになったままぐるぐると高速で旋回し、ミサイルとガンを撃ちまくりながら、一気に敵機の群れの中を突き抜けていく。黒と黄色のラインが走った派手な塗装の榎本機と、機首に鮫の眼と牙を模った凶暴なシャークティースのノーズアートをあしらった生駒機。旋回しながら撃ちまくるそんな二機の、プラズマジェットエンジンが残す二条の青白い軌跡は……まるで、遺伝子構造のような螺旋を宇宙空間の黒いキャンバスに描いていた。
そんな彼らの周囲では、次々と爆炎が瞬いている。そのひとつひとつが全て、彼らに撃墜されたモスキート・タイプの放った最期の瞬きで。そんな閃光がひとつ瞬く度に、彼ら二人の撃墜数、キルカウントが増えていく。
そうして敵陣を貫いた二機は、そのまま敵キャリアー・タイプに肉薄したかと思えば、行きがけの駄賃と言わんばかりに甲板上の対空砲を幾つかガンで撃ち抜き、これもまた無力化してしまっていた。ほんの一瞬の急接近、僅か一秒にも満たない機銃掃射で以てだ。
――――確かな信頼関係にあるからこそ、出来る技。
榎本朔也と生駒燎、ファルコンクロウ隊の隊長と副隊長。彼ら二人の間に絶対的な信頼関係があるからこそ出来る芸当だ、今彼らが見せた背中合わせの突撃戦法――――二人曰く『スパイラル戦法』という奴は。
これは、彼ら二人が長い時間を掛けて編み出した戦技。長年を榎本の僚機として連れ添ってきた生駒とだからこそ出来る、そんな突撃戦法だった。
「へえ、やるじゃないの!」
そんな両機の戦いぶりを遠くにチラリと見て、思わずアリサが素直な称賛の言葉を口走る。彼女に続けて宗悟も『ヒューッ……H‐Rアイランドの308スコードロン。そこの隊長に副隊長……噂にゃ聞いてたけど、マジでスゲえんだな……』と、感嘆に満ちた声で呟いていた。
榎本と生駒があの突撃戦法を仕掛けた結果、実際敵の注意は彼ら二機の方に向きつつある。母艦まで直接攻撃されたのだから、当然といえば当然だ。
加えて、あの二機の活躍や……中央で応戦している他のクロウ隊の連中の活躍もあって、制圧すべき目標である目の前のキャリアー・タイプから発進した直援のモスキートの数はかなり減っていた。この分ならもうじき殲滅が完了、あのキャリアーは丸裸になる。他に注意すべきは対空砲だが……それも榎本と生駒がちまちまと潰して回っているから、キャスター隊が肉薄する頃にはそこまでの脅威ではなくなるだろう。
これにて一安心だと、アリサはまた更なる一機をレーザーガンポッドで撃ち落としながら、内心で小さく安堵していたのだが――――。
『――――コスモアイより突入部隊へ緊急連絡……! 作戦エリアに敵の、敵の新たな超空間ゲートが出現しました……!』
唐突に通信回線に割り込んできた、珍しく焦り気味なレーアの声が知らせたのは――――そんな、最悪の想定外だった。
(第十一章『オペレーション・ダイダロス』了)
「僕もミレーヌに賛成だ。クロウ隊の数と腕前なら、中央はどうにかこうにか抑えきれる」
「分かったわ。……イーグレット2、そっちは任せる。アタシたちは左翼を!」
『りょーかい! よっしゃ、行くぜ行くぜ行くぜェッ!!』
目の前のキャリアー・タイプから飛び出してきた敵の直援機たちに対し、先んじて飛びかかったファルコンクロウ隊の数機に向かって正面の守りを任せて。アリサたちイーグレット隊はミレーヌの提案通りに散開し、アリサ機は向かって左側に、宗悟機は右側にそれぞれ別れていく。
『コスモアイより突入部隊へ。敵直援機の総数は現在測定中です、もう暫くお待ちを』
『イーグレット2よりコスモアイ、敵は全部で三九機だ。いや……今三八機に減った』
『……了解しました。情報提供に感謝します、イーグレット2』
『ふっ、お安い御用さ。細かい数ならいつでも僕に聞いてくれ。多分センサーを走らせるよりもずっと早いだろうから』
その間にも、レーアとミレーヌの間ではそんなやり取りが交わされていた。
これも、彼女の広域空間把握能力によるものだ。流石にミレーヌのそれは凄まじいとしか言いようがない。AWACSのレーダーが捉え、判定するよりも早く、パッと敵の詳細な数をリアルタイムで把握してしまうとは…………。
まあとにかく、彼女のお陰で具体的な数字で敵の数を知ることが出来た。多いことは多いが……しかしさっきの制空戦闘を思えば、別に大した数ではない。イーグレット隊とクロウ隊で十分に対応出来る数だ。
「数が数だ、囲まれたらキツい! 一撃離脱で行こう、アリサ!」
「言われなくても! ……どれから真っ先に仕留めれば!?」
「少し待ってくれ――よし、視えた……! 優先ターゲットに指定する!」
「把握したわ! ……シーカー・オープン! イーグレット1、FOX2!!」
翔一が未来予知の能力を用い、数秒後に最も撃墜しやすい位置に移動してくる敵機を捉えると。彼の操作でパッとキャノピーに映し出されたソイツに対し、アリサはAAM‐01の短距離ミサイルをロックオン。ジジジジ……という蝉の声によく似た電子音が響く中、敵機を示す緑色のターゲット・ボックスが赤色に切り替わり。ロックオン完了を示した瞬間に、アリサは操縦桿のウェポンレリース・ボタンを押し込んだ。
そうすれば、彼女の≪グレイ・ゴースト≫が主翼の下に吊していたランチャーからミサイルが発射される。ロケットモーターの瞬きで小さな軌跡を描きながら、撃ち放たれたミサイルは宇宙空間を飛翔し……そして逃げ惑う敵機を追いかけ回して、その末に直撃。花火のように派手な爆炎を上げれば、紙飛行機のように簡単な形状をしたモスキート・タイプをまた一機、宇宙の塵に変えてしまう。
「出し惜しみはナシだ! 全部乗せでぶちかませ!」
「無論よ! ……よし、捉えた! イーグレット1、FOX2!!」
『ふふっ……僕らも負けていられないね。宗悟、すれ違いざまに三機は仕留められる。やれるかい?』
『あたぼうよ! ――――そらそら、逃げんなよお嬢さんッ!!』
アリサ機が残った三発のAAM‐01を発射して、三機を同時に撃墜。その傍らで右翼に展開した宗悟機といえば、すれ違いざまにレーザーガンポッドの機銃掃射で以て……こちらも三機だ。三機のモスキート・タイプを一気に叩き落としていた。
『燎、俺たちで敵の注意を引き付ける。やれるか?』
『バッカ朔也、誰に言ってると思ってるわけよ』
『……そうだったな。お前相手にわざわざ確認するまでもない、か』
『そそ、その通り。俺と朔也の間にそういうさ、面倒なあれこれって不要なのよ。……そんで、どうするよ?』
『突っ込んで、暴れ回る。お前好みの単純明快さだろう?』
『違えねーや。ついでに本丸の対空砲も幾つか潰しとくか。その方がゴリラ連中も多少はノックしやすくなるだろうよ』
『ああ、賛成だ。……さてと、やるぞ燎』
『おうよ、任されて』
そうして、イーグレット隊の≪グレイ・ゴースト≫二機が両翼に展開した敵機の相手をしている最中。真っ正面に突出していたファルコンクロウ隊……の中でも、更に榎本と生駒、隊長機と副隊長機の二機が飛び出していて。まるで敵の懐へと自ら飛び込んでいくかのように、一気に敵の喉元へと食らい付いていく。
その意図は今まさに二人が通信で話していた通り、敵の注意を自分たちに引き付けることにあった。敵モスキートたちの注意が少しでも引けられたら、その分だけ後方のキャスター隊……強襲揚陸艇の安全が確保出来る。そう思い、榎本と生駒は自ら囮役を買って出たのだ。
『スパイラル戦法で行く。合わせろ、燎』
『おうよ』
懐に飛び込んだ榎本機と生駒機は、榎本の合図とともに二機が背中合わせになるようになる。
…………そういう喩えだと微妙に分かりにくいが、つまりは両機が互いの背中を見せ合う形だ。互いの垂直尾翼がぶつかりそうでぶつからない、そんな極至近距離で二機の≪ミーティア≫が向かい合う。ちょっと上を見上げれば、互いの顔がキャノピー越しにハッキリと認められるぐらいの距離だ。
そんな風に奇妙な態勢を取ると、二機はそのままぐるぐると急激な旋回を始めた。
互いに背中合わせになったままぐるぐると高速で旋回し、ミサイルとガンを撃ちまくりながら、一気に敵機の群れの中を突き抜けていく。黒と黄色のラインが走った派手な塗装の榎本機と、機首に鮫の眼と牙を模った凶暴なシャークティースのノーズアートをあしらった生駒機。旋回しながら撃ちまくるそんな二機の、プラズマジェットエンジンが残す二条の青白い軌跡は……まるで、遺伝子構造のような螺旋を宇宙空間の黒いキャンバスに描いていた。
そんな彼らの周囲では、次々と爆炎が瞬いている。そのひとつひとつが全て、彼らに撃墜されたモスキート・タイプの放った最期の瞬きで。そんな閃光がひとつ瞬く度に、彼ら二人の撃墜数、キルカウントが増えていく。
そうして敵陣を貫いた二機は、そのまま敵キャリアー・タイプに肉薄したかと思えば、行きがけの駄賃と言わんばかりに甲板上の対空砲を幾つかガンで撃ち抜き、これもまた無力化してしまっていた。ほんの一瞬の急接近、僅か一秒にも満たない機銃掃射で以てだ。
――――確かな信頼関係にあるからこそ、出来る技。
榎本朔也と生駒燎、ファルコンクロウ隊の隊長と副隊長。彼ら二人の間に絶対的な信頼関係があるからこそ出来る芸当だ、今彼らが見せた背中合わせの突撃戦法――――二人曰く『スパイラル戦法』という奴は。
これは、彼ら二人が長い時間を掛けて編み出した戦技。長年を榎本の僚機として連れ添ってきた生駒とだからこそ出来る、そんな突撃戦法だった。
「へえ、やるじゃないの!」
そんな両機の戦いぶりを遠くにチラリと見て、思わずアリサが素直な称賛の言葉を口走る。彼女に続けて宗悟も『ヒューッ……H‐Rアイランドの308スコードロン。そこの隊長に副隊長……噂にゃ聞いてたけど、マジでスゲえんだな……』と、感嘆に満ちた声で呟いていた。
榎本と生駒があの突撃戦法を仕掛けた結果、実際敵の注意は彼ら二機の方に向きつつある。母艦まで直接攻撃されたのだから、当然といえば当然だ。
加えて、あの二機の活躍や……中央で応戦している他のクロウ隊の連中の活躍もあって、制圧すべき目標である目の前のキャリアー・タイプから発進した直援のモスキートの数はかなり減っていた。この分ならもうじき殲滅が完了、あのキャリアーは丸裸になる。他に注意すべきは対空砲だが……それも榎本と生駒がちまちまと潰して回っているから、キャスター隊が肉薄する頃にはそこまでの脅威ではなくなるだろう。
これにて一安心だと、アリサはまた更なる一機をレーザーガンポッドで撃ち落としながら、内心で小さく安堵していたのだが――――。
『――――コスモアイより突入部隊へ緊急連絡……! 作戦エリアに敵の、敵の新たな超空間ゲートが出現しました……!』
唐突に通信回線に割り込んできた、珍しく焦り気味なレーアの声が知らせたのは――――そんな、最悪の想定外だった。
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