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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて
第八章:This monent, we own it./05
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とまあ、そんな多少のあれこれはあったものの……ひとまず全員に入場券が行き渡れば、それを手に四人は水族館のゲートを潜っていく。
この水族館は大きく分けて北館と南館に別れていて、翔一たちは北館の方から回ることにしていた。北館は二階フロアから回ることになるのだが、一階は最初から存在していないようなので問題はない。
「うひょお、デケえし広いなオイ」
「ふふっ、宗悟は本当に子供みたいだね」
「良いじゃねえのよ、こういう時ぐらいはしゃいでも」
「はいはい。何なら、はぐれないように手でも繋いでいくかい?」
「んだなあ。混んでるっちゃあ混んでるし、一理あるかもだ」
「あっ……」
「んあ? どしたよミレーヌ、ぽかーんとしちゃって」
「な、何でもないっ! …………君って奴は、本当に」
「んんー?」
「何でもないったら、何でもないっ!」
入り口から水族館の中に入っていくと、まず最初に目に飛び込んでくるのはシャチやらイルカやら、後はベルーガ――――シロイルカのことだ。そんな主役級のデカい連中が収まった、これまたとびきり大きな水槽だ。右を見ても左を見ても愛くるしく、それでいて図体のデカい水族館のアイドル的な彼らが愛想を振りまく中……子供みたいにはしゃいで先を行く宗悟と、それに付いていくミレーヌといえばこんな具合だ。
ミレーヌとしてはいつもの皮肉というか、軽い冗談のつもりだったのだろう。だが言葉をそのままマトモに受け取った宗悟は、無防備だった彼女の手を言われるがままにサッと何の気無しに握ると、ミレーヌの手を引いて奥へと歩いて行ってしまっている。
そんな二人は、傍から見ていると……本当に小さな子供とそれに連れられる母親みたいに見えなくもない。
見えなくもないのだが……しかしミレーヌ本人は、まさか本当に彼が手を握ってくるとは思わなかったらしく。照れくさそうというか、恥ずかしそうというか……そんな感情がしどろもどろな言葉の節々から漏れ出していた。
ミレーヌは言葉もそうだし、その表情も必死にポーカー・フェイスを気取ってはいるものの……やはり、彼女は恥ずかしそうに頬を朱に染めていて。でも同時に、何処か嬉しそうな感じでもあった。
「へえ……思ってた以上に大きいわね」
「広さ自体は日本一らしい。設備や色んなモノも含めると、此処に並ぶ水族館は他に数えるほどしかないんじゃあないか?」
「ふうん、そうなんだ。意外に詳しいじゃない、翔一」
「…………まあ、さっき貰ったパンフレットに全部書いてあったからな」
「だろうと思ったわ」
先を行くミレーヌたちの、そんな風な様子を少し離れた後方から眺めながら。あの二人はやっぱりお似合いだと思いつつも、でも互いの好意に何故だか気付いていない二人に、もどかしさのようなものもも感じていると――――。すると、そんな彼の傍らで大きく辺りを見渡していたアリサがボソリと呟くものだから、翔一が彼女に対し注釈めいたことを口にする。
とはいえ、今まさに彼本人が白状した通りに……その注釈は全部、チケット販売の窓口で入場券と一緒に貰ったパンフレットに書いてあったことだ。完全に受け売りもいいところ。しかしそれも初めから分かっていたようで、翔一が白状してもアリサの反応は軽いものだった。
「へえ、これがベルーガってのなんだ」
「アリサは初めて見るのか?」
そうしてゆっくりと、小さな歩幅で薄暗い水族館の中を歩きつつ。ベルーガの水槽の前で立ち止まったアリサが何気なく呟いた言葉に、すぐ傍に立つ翔一が問いかけてみると。するとアリサは目の前の大きな水槽を軽く見上げつつ「まあね」と小さく頷く。
「水族館自体、あんまり来た覚えがないのよ。でも初めてじゃないわ。小さかった頃、パパに何度か連れて行って貰った覚えはある。でも……その時行ったところに、この子たちみたいなのは居なかったわ」
「そうか」
「にしても、結構可愛いわね……」
ふわふわと泳ぎながら、こちらに近づいてくるベルーガたちを眺めるアリサが呟く。
今のはきっと、本心がそのまま口に出てしまった感じだろう。水槽の中をゆったりと泳ぐベルーガを眺めるアリサの横顔は無邪気そのもので、まるで図体の大きい子供みたいだと、そんなことを一瞬だけ思ってしまうぐらい。それぐらいに、眼を輝かせる今のアリサの横顔は無邪気そのものだった。
「ああ、そうだね」
このまま、アリサと寄り添ってずっと此処に立ち止まり、二人で眺めていたい気分だ。
かといって――――気分的にはそうであっも、実際そうはいかない。
どうやら宗悟とミレーヌは、いつの間にかずっと先に進んでいってしまったようで、もう此処からだと二人の姿は見えない。見失ったところで、後で携帯電話を使って連絡を取れば良いのだが……折角四人で来たのだ、やっぱり皆一緒に回った方が楽しいに決まっている。
それに、今日という一日の時間は有限なのだ。翔一としては此処で彼女と一緒に、ずっと穏やかなひとときを過ごしていたい気持ちだったのだが……ひとまず、先に進んでおくべきだろう。
そう思った翔一は、彼女を連れてベルーガの水槽の前から離れることにした。
ゆっくりとした足取りで、目に付いたところで頻繁に立ち止まりながら、翔一はアリサと横並びになって水族館の中を歩いて行く。
こうして歩いていれば、ミレーヌたちもそのうち見つけられるだろう。先に行っているといえ、宗悟はともかくミレーヌの方があの調子だ。あれでは、早足でズンズン奥へ奥へと進んでいくのはちょっと厳しいだろう。ペースがゆっくりなのはきっと向こうも同じ。だったら、そこまで焦ることはないはずだ。
とにかく、今は彼女との時間を楽しむとしよう。自分の隣を歩く、真っ赤な髪の彼女とともに。
そんなことを思いつつ、翔一はアリサと横並びになって薄暗い水族館の中を歩いて行く。お互い何気なく合わせる狭い歩幅で、ゆっくりと。
この水族館は大きく分けて北館と南館に別れていて、翔一たちは北館の方から回ることにしていた。北館は二階フロアから回ることになるのだが、一階は最初から存在していないようなので問題はない。
「うひょお、デケえし広いなオイ」
「ふふっ、宗悟は本当に子供みたいだね」
「良いじゃねえのよ、こういう時ぐらいはしゃいでも」
「はいはい。何なら、はぐれないように手でも繋いでいくかい?」
「んだなあ。混んでるっちゃあ混んでるし、一理あるかもだ」
「あっ……」
「んあ? どしたよミレーヌ、ぽかーんとしちゃって」
「な、何でもないっ! …………君って奴は、本当に」
「んんー?」
「何でもないったら、何でもないっ!」
入り口から水族館の中に入っていくと、まず最初に目に飛び込んでくるのはシャチやらイルカやら、後はベルーガ――――シロイルカのことだ。そんな主役級のデカい連中が収まった、これまたとびきり大きな水槽だ。右を見ても左を見ても愛くるしく、それでいて図体のデカい水族館のアイドル的な彼らが愛想を振りまく中……子供みたいにはしゃいで先を行く宗悟と、それに付いていくミレーヌといえばこんな具合だ。
ミレーヌとしてはいつもの皮肉というか、軽い冗談のつもりだったのだろう。だが言葉をそのままマトモに受け取った宗悟は、無防備だった彼女の手を言われるがままにサッと何の気無しに握ると、ミレーヌの手を引いて奥へと歩いて行ってしまっている。
そんな二人は、傍から見ていると……本当に小さな子供とそれに連れられる母親みたいに見えなくもない。
見えなくもないのだが……しかしミレーヌ本人は、まさか本当に彼が手を握ってくるとは思わなかったらしく。照れくさそうというか、恥ずかしそうというか……そんな感情がしどろもどろな言葉の節々から漏れ出していた。
ミレーヌは言葉もそうだし、その表情も必死にポーカー・フェイスを気取ってはいるものの……やはり、彼女は恥ずかしそうに頬を朱に染めていて。でも同時に、何処か嬉しそうな感じでもあった。
「へえ……思ってた以上に大きいわね」
「広さ自体は日本一らしい。設備や色んなモノも含めると、此処に並ぶ水族館は他に数えるほどしかないんじゃあないか?」
「ふうん、そうなんだ。意外に詳しいじゃない、翔一」
「…………まあ、さっき貰ったパンフレットに全部書いてあったからな」
「だろうと思ったわ」
先を行くミレーヌたちの、そんな風な様子を少し離れた後方から眺めながら。あの二人はやっぱりお似合いだと思いつつも、でも互いの好意に何故だか気付いていない二人に、もどかしさのようなものもも感じていると――――。すると、そんな彼の傍らで大きく辺りを見渡していたアリサがボソリと呟くものだから、翔一が彼女に対し注釈めいたことを口にする。
とはいえ、今まさに彼本人が白状した通りに……その注釈は全部、チケット販売の窓口で入場券と一緒に貰ったパンフレットに書いてあったことだ。完全に受け売りもいいところ。しかしそれも初めから分かっていたようで、翔一が白状してもアリサの反応は軽いものだった。
「へえ、これがベルーガってのなんだ」
「アリサは初めて見るのか?」
そうしてゆっくりと、小さな歩幅で薄暗い水族館の中を歩きつつ。ベルーガの水槽の前で立ち止まったアリサが何気なく呟いた言葉に、すぐ傍に立つ翔一が問いかけてみると。するとアリサは目の前の大きな水槽を軽く見上げつつ「まあね」と小さく頷く。
「水族館自体、あんまり来た覚えがないのよ。でも初めてじゃないわ。小さかった頃、パパに何度か連れて行って貰った覚えはある。でも……その時行ったところに、この子たちみたいなのは居なかったわ」
「そうか」
「にしても、結構可愛いわね……」
ふわふわと泳ぎながら、こちらに近づいてくるベルーガたちを眺めるアリサが呟く。
今のはきっと、本心がそのまま口に出てしまった感じだろう。水槽の中をゆったりと泳ぐベルーガを眺めるアリサの横顔は無邪気そのもので、まるで図体の大きい子供みたいだと、そんなことを一瞬だけ思ってしまうぐらい。それぐらいに、眼を輝かせる今のアリサの横顔は無邪気そのものだった。
「ああ、そうだね」
このまま、アリサと寄り添ってずっと此処に立ち止まり、二人で眺めていたい気分だ。
かといって――――気分的にはそうであっも、実際そうはいかない。
どうやら宗悟とミレーヌは、いつの間にかずっと先に進んでいってしまったようで、もう此処からだと二人の姿は見えない。見失ったところで、後で携帯電話を使って連絡を取れば良いのだが……折角四人で来たのだ、やっぱり皆一緒に回った方が楽しいに決まっている。
それに、今日という一日の時間は有限なのだ。翔一としては此処で彼女と一緒に、ずっと穏やかなひとときを過ごしていたい気持ちだったのだが……ひとまず、先に進んでおくべきだろう。
そう思った翔一は、彼女を連れてベルーガの水槽の前から離れることにした。
ゆっくりとした足取りで、目に付いたところで頻繁に立ち止まりながら、翔一はアリサと横並びになって水族館の中を歩いて行く。
こうして歩いていれば、ミレーヌたちもそのうち見つけられるだろう。先に行っているといえ、宗悟はともかくミレーヌの方があの調子だ。あれでは、早足でズンズン奥へ奥へと進んでいくのはちょっと厳しいだろう。ペースがゆっくりなのはきっと向こうも同じ。だったら、そこまで焦ることはないはずだ。
とにかく、今は彼女との時間を楽しむとしよう。自分の隣を歩く、真っ赤な髪の彼女とともに。
そんなことを思いつつ、翔一はアリサと横並びになって薄暗い水族館の中を歩いて行く。お互い何気なく合わせる狭い歩幅で、ゆっくりと。
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