蒼空のイーグレット

黒陽 光

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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて

第六章:騎士決闘/03

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『フォースゲート・オープン! フォースゲート・オープン!』
 鳴り響く警告音、基地の地下区画を木霊する通告音声。格納庫から出て大きなエレヴェーターに横たわった二機の≪グレイ・ゴースト≫が、上昇していくエレヴェーターと共にゆっくりと地上に向かって上がっていく。
『さあてと、アリサちゃんに翔一! 手加減は一切無用だぜ、全力でやり合おうや!』
『ふふっ……噂に名高い焔の姫君と、その相棒に収まった期待のルーキーがどれほどのものか……お手並み拝見だね、宗悟』
「ハッ! 今から余裕ぶっこいて、後から泣きっ面見たって知らないんだから!」
「そう言う君も、あまり逸りすぎないようにな。ついついアツくなりすぎるのはアリサ、君の悪い癖だから」
「アンタに言われるまでもなく、分かってるつもりよ翔一! ……でもまあ、そんなアタシをどうにかする為にアンタが居るようなモンなんだから。精々上手くコントロールして頂戴な、アタシのこと」
「出来ることなら、君に手綱を握られる方が僕的には好みなんだが……とはいえ、四の五の言っている場合でもないか」
「ほんっとに口が減らないわよね、アンタって」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「はいはい……もう、ホントにアンタってば」
 やれやれと大袈裟に肩を竦める前席のアリサに、フッと小さな微笑みを向けつつ。そうしながら翔一は何気なく、チラリと横に並んだ≪グレイ・ゴースト≫の方を横目に眺めてみた。
 当然だが、そこには宗悟とミレーヌの姿がある。彼らの先行量産型六号機はこちらとは逆で、宗悟が前席で操縦を担当するパイロットのようだ。後席に座るミレーヌは、翔一と同じで前席のサポート役。確かに二人の性格や色んな部分を鑑みれば、ミレーヌが宗悟の手綱を上手く引っ張る役目の方が適しているだろう。
 翔一がそんなことを考えている内にも、二機の≪グレイ・ゴースト≫を載せたエレヴェーターは上昇を終えていて。開いた隔壁の向こう側にはギラついた太陽の光と、清々しいぐらいに真っ青な蒼穹そらが顔を覗かせていた。
 そんなギラつく太陽の下へ、アリサ機を先頭にして二機のゴーストがゆっくりと歩み出て行く。ジリジリと肌を焦がすような太陽光が、二機の漆黒の翼に淡く乱反射し、独特な煌めきを放つ。
『アイランド・タワーよりイーグレット1、イーグレット2。ランウェイへの進入を許可』
 普段のように蓬莱島の管制塔と短い交信を交わし、滑走路への進入許可を取り付けて。二機の≪グレイ・ゴースト≫は誘導路をタキシングしながら、陽炎揺れる滑走路向けて進んでいく。
 そうして滑走路に進入し、一時停止。二機のゴーストがほぼ横並びになった格好で静止すると、二人の前席パイロットはそれぞれ最終確認じみた言葉を管制塔と交わす。
『アイランド・タワーよりイーグレット1、イーグレット2。離陸を許可する』
「了解。イーグレット1、クリアード・フォー・テイクオフ」
『りょーかい! イーグレット2、クリアード・フォー・テイクオフ!! さあて、行くぜ!!』
 離陸の許可が下りると、アリサと宗悟はそれぞれの機体のスロットルをグッと最大状態まで開き、急加速を始めた。
 フルスロットル――――。
 双発のプラズマジェットエンジンを甲高く唸らせ、巨大な漆黒の機影が二つ、同時に滑走を始める。
 やがて滑走速度は離陸の規定値へ。そうすれば二機のパイロット二人は、ほぼ同じタイミングでサイドスティック配置の操縦桿を右手でゆっくりと引き、機体の機首を上げて。そうすれば二機の≪グレイ・ゴースト≫の主脚タイヤは徐々に滑走路から離れ始め、漆黒の翼がギラつく太陽の下、白い雲の浮かぶ大空へと飛び立っていく。
 ギア・アップ。主脚を機体内部に折りたたんで格納。そうすればアリサは例によってスロットルを開いたまま、機首をグッと九〇度近くにまで引き上げて。いつものように急角度での急上昇――――彼女お得意のとんでもないハイレート・クライムで、ぐんぐんと猛烈な勢いのまま高度を急激に上げていく。
『おっ! やっぱアリサちゃんは元気いい飛びっぷりだ!!』
『だったら、僕らも対抗意識を燃やしてみるかい?』
『当然!』
 そうしてアリサがお得意のハイレート・クライムを披露すると、それに触発された宗悟も同じように機首を急角度に上げ、スロットル全開でのハイレート・クライムを敢行してみせる。
 ――――二機の黒翼が、蒼穹そらに舞い上がっていく。
 後に残るのは、遠ざかっていくプラズマジェットエンジンの甲高い唸り声と、尾を引く真っ白い二条の飛行機雲たち。果てしなく、何処までも自由な大空へと……二つの大きな機影が、今まさにその大きな黒翼を広げていた。
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