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Sortie-01:黒翼の舞う空
エピローグ:十センチ差の比翼連理/01
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エピローグ:十センチ差の比翼連理
カーテンの隙間から差し込んでくる朝の日差しに誘われて、桐山翔一は深い眠りから目覚めた。
まだ半分眠っている身体をよっこいしょと起こし、眠い眼を擦りながら薄明るい自室を見渡してみると……少しばかり乱れたベッドの上には、もう彼女の姿は無かった。先に起きていたのだろうか。だったら、起こしてくれたっていいものを。
本当ならもう少し……具体的には五時間ぐらいは惰眠を貪っていたい気分だったが、しかし今日は平日。学生の身分たる翔一は、どうあっても学院に行かねばならない運命にある。サボりたい気持ちもあるにはあったが……まあ、仕方ないから行くとしよう。
翔一は布団から起き上がり、煎餅みたくペッタペタになった……元は来客用の予備だったそれを手早く畳み、部屋の隅へ。そして大きく伸びをして、大きく欠伸もしてから軽く首を回し、身体を捻り。まだ寝起きで固まった関節をコキコキと小さく鳴らしつつ、ふわふわとした足取りで自室から出る。
「ふわーあ……」
また欠伸をしながら階段を降りて、一階へ。多分、家の何処かに居るのだろうと思っていたのだが……しかしリビングにもキッチンにも、彼女の姿は見当たらない。ついさっきまでいたような雰囲気と気配が漂っている辺り、彼女が翔一より先に起き出したのは間違いないが。とはいえこの場に居ないということは、翔一を置いてもう先に学院に行ってしまったのか…………?
一瞬そう考えてしまった翔一だったが、しかしぶんぶんと首を横に振って即座にそれを否定する。彼女に限ってそれはない。そこまで薄情なことは絶対にしないはずだ、彼女は。
だとしたら、まあ家の何処かには居るのだろう。今の寝ぼけた自分を見たら、きっと彼女は寝ぼすけさんだとか、そんな風に言ってくるのだろうな……。
ボーッとした頭で何の気無しに思いながら、翔一はひとまず顔を洗おうと洗面所――――正確に言えば、浴室の脱衣所も兼ねているそこに向かう。
まだ寝ぼけているから、よろよろとした覚束ない足取りで廊下を歩き。そして洗面所か脱衣所か。まあどっちでも構わないが、そこの扉をガラッと開く。
すると――――――。
「えっ? ちょっ…………うぇぇえっ!? しょっ、翔一ぃっ!?」
「んあ……? ああ、アリサか。おはよ……なんだ、シャワー浴びてたのか…………」
扉を開けた先、寝ぼけた翔一の視界に飛び込んできたのは……他ならぬ彼女、アリサ・メイヤードの姿だった。
まあ、ボケーッとした彼の気の抜けた台詞からも分かる通り、今のアリサは風呂上がりだ。きっとシャワーで寝汗でも流していたのだろう。今のアリサは完全に一糸纏わぬ姿で、白い肌も真っ赤な髪もまだ仄かな水気を帯びている。
こういう場面に出くわしたならば、普通あたふたするべきなのだろうが。しかし翔一も何だかんだと彼女と結構長いこと同居している。風呂上がりに何も着ず全裸のままそこら辺を歩き回るわ、ベッドに潜って眠る前も脱ぐわ。そんな大変ストロングなスタイルの彼女に、その習慣に慣れてしまっていたから……今の翔一はもう、そんな初心な反応は出来なくなっていた。
抗体が出来た、というと変な言い方になるが。とにかく彼女と暮らし始めて暫くもしない内に、彼もまたアリサのそんな大変な生活習慣を段々と気にしなくなってしまっていたのだ。アリサ本人がまるで気にしていない様子だし、こちらばかりが気にしていたって仕方のない話。そう思っている内に、翔一も慣れてしまって……今ではこの有様。ベタにも程があるありがちなシーンに出くわしたところで、寝ぼけた顔を一切崩さないぐらいに、彼はもう慣れきってしまったのだ。
「うぅ……っ」
だが――――今日のアリサは、なんだか様子が変だ。
今までなら、こんな場面に翔一が出くわしても「丁度良かった、バスタオル取ってよ」だとか「ボディソープ、買い置きのラスト一個使っちゃったわよ。忘れないように補充しないとね」とか。前を一切隠そうともせず、平然とした顔で日常会話なんか交わしていたのだが。
しかし……今日のアリサは、とことん変だった。
頬は真っ赤にしているし、手にしたバスタオルを身体に当てて、前をどうにか隠そうとしているし。それに身体も軽く捻って、出来るだけ翔一から見えないように逸らしたりなんかしているのだ。揺れる金色の瞳は、今日も綺麗な色だ……じゃなくて。なんだか恥ずかしがっているというか、そんな風な感じだ。
とにかく、奇妙だ。奇妙にも程がある。一体全体、アリサはどうしてしまったというのか。
「ん……?」
そういったアリサの仕草や色々が不思議で、寝ぼけた顔の……死んだ魚の目みたいな眼付きをした翔一はきょとんと首を傾げる。
そんな彼に、アリサは真っ赤な顔で「な、なんかアタシに言うことないのっ!?」と、上擦ったというか裏返ったような声で捲し立てるが。しかしボーッとした、今にも白目を剥きそうな顔の翔一はといえば…………。
「あー……早起きなんだな、今日は」
そんな風な、アリサからすれば斜め上も良いところな答えなものだから。間延びした声の彼に、アリサは「んもうっ……」と真っ赤な顔のまま小さく呆れる。
「ほへ……?」
アリサの反応が不思議すぎて、翔一がぽかーんと阿呆みたいに大口を開けていると。アリサは彼からスッと目を逸らし、真っ赤な顔で小さく呟いた。
「…………察しなさいよ、この馬鹿」
カーテンの隙間から差し込んでくる朝の日差しに誘われて、桐山翔一は深い眠りから目覚めた。
まだ半分眠っている身体をよっこいしょと起こし、眠い眼を擦りながら薄明るい自室を見渡してみると……少しばかり乱れたベッドの上には、もう彼女の姿は無かった。先に起きていたのだろうか。だったら、起こしてくれたっていいものを。
本当ならもう少し……具体的には五時間ぐらいは惰眠を貪っていたい気分だったが、しかし今日は平日。学生の身分たる翔一は、どうあっても学院に行かねばならない運命にある。サボりたい気持ちもあるにはあったが……まあ、仕方ないから行くとしよう。
翔一は布団から起き上がり、煎餅みたくペッタペタになった……元は来客用の予備だったそれを手早く畳み、部屋の隅へ。そして大きく伸びをして、大きく欠伸もしてから軽く首を回し、身体を捻り。まだ寝起きで固まった関節をコキコキと小さく鳴らしつつ、ふわふわとした足取りで自室から出る。
「ふわーあ……」
また欠伸をしながら階段を降りて、一階へ。多分、家の何処かに居るのだろうと思っていたのだが……しかしリビングにもキッチンにも、彼女の姿は見当たらない。ついさっきまでいたような雰囲気と気配が漂っている辺り、彼女が翔一より先に起き出したのは間違いないが。とはいえこの場に居ないということは、翔一を置いてもう先に学院に行ってしまったのか…………?
一瞬そう考えてしまった翔一だったが、しかしぶんぶんと首を横に振って即座にそれを否定する。彼女に限ってそれはない。そこまで薄情なことは絶対にしないはずだ、彼女は。
だとしたら、まあ家の何処かには居るのだろう。今の寝ぼけた自分を見たら、きっと彼女は寝ぼすけさんだとか、そんな風に言ってくるのだろうな……。
ボーッとした頭で何の気無しに思いながら、翔一はひとまず顔を洗おうと洗面所――――正確に言えば、浴室の脱衣所も兼ねているそこに向かう。
まだ寝ぼけているから、よろよろとした覚束ない足取りで廊下を歩き。そして洗面所か脱衣所か。まあどっちでも構わないが、そこの扉をガラッと開く。
すると――――――。
「えっ? ちょっ…………うぇぇえっ!? しょっ、翔一ぃっ!?」
「んあ……? ああ、アリサか。おはよ……なんだ、シャワー浴びてたのか…………」
扉を開けた先、寝ぼけた翔一の視界に飛び込んできたのは……他ならぬ彼女、アリサ・メイヤードの姿だった。
まあ、ボケーッとした彼の気の抜けた台詞からも分かる通り、今のアリサは風呂上がりだ。きっとシャワーで寝汗でも流していたのだろう。今のアリサは完全に一糸纏わぬ姿で、白い肌も真っ赤な髪もまだ仄かな水気を帯びている。
こういう場面に出くわしたならば、普通あたふたするべきなのだろうが。しかし翔一も何だかんだと彼女と結構長いこと同居している。風呂上がりに何も着ず全裸のままそこら辺を歩き回るわ、ベッドに潜って眠る前も脱ぐわ。そんな大変ストロングなスタイルの彼女に、その習慣に慣れてしまっていたから……今の翔一はもう、そんな初心な反応は出来なくなっていた。
抗体が出来た、というと変な言い方になるが。とにかく彼女と暮らし始めて暫くもしない内に、彼もまたアリサのそんな大変な生活習慣を段々と気にしなくなってしまっていたのだ。アリサ本人がまるで気にしていない様子だし、こちらばかりが気にしていたって仕方のない話。そう思っている内に、翔一も慣れてしまって……今ではこの有様。ベタにも程があるありがちなシーンに出くわしたところで、寝ぼけた顔を一切崩さないぐらいに、彼はもう慣れきってしまったのだ。
「うぅ……っ」
だが――――今日のアリサは、なんだか様子が変だ。
今までなら、こんな場面に翔一が出くわしても「丁度良かった、バスタオル取ってよ」だとか「ボディソープ、買い置きのラスト一個使っちゃったわよ。忘れないように補充しないとね」とか。前を一切隠そうともせず、平然とした顔で日常会話なんか交わしていたのだが。
しかし……今日のアリサは、とことん変だった。
頬は真っ赤にしているし、手にしたバスタオルを身体に当てて、前をどうにか隠そうとしているし。それに身体も軽く捻って、出来るだけ翔一から見えないように逸らしたりなんかしているのだ。揺れる金色の瞳は、今日も綺麗な色だ……じゃなくて。なんだか恥ずかしがっているというか、そんな風な感じだ。
とにかく、奇妙だ。奇妙にも程がある。一体全体、アリサはどうしてしまったというのか。
「ん……?」
そういったアリサの仕草や色々が不思議で、寝ぼけた顔の……死んだ魚の目みたいな眼付きをした翔一はきょとんと首を傾げる。
そんな彼に、アリサは真っ赤な顔で「な、なんかアタシに言うことないのっ!?」と、上擦ったというか裏返ったような声で捲し立てるが。しかしボーッとした、今にも白目を剥きそうな顔の翔一はといえば…………。
「あー……早起きなんだな、今日は」
そんな風な、アリサからすれば斜め上も良いところな答えなものだから。間延びした声の彼に、アリサは「んもうっ……」と真っ赤な顔のまま小さく呆れる。
「ほへ……?」
アリサの反応が不思議すぎて、翔一がぽかーんと阿呆みたいに大口を開けていると。アリサは彼からスッと目を逸らし、真っ赤な顔で小さく呟いた。
「…………察しなさいよ、この馬鹿」
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