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Sortie-01:黒翼の舞う空
第九章:ファルコンクロウ/02
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「アリサちゃーん、言われた通りに機体、出しといたぜ」
「ん、ありがと南」
そうして辿り着いた蓬莱島、地上の滑走路近くにあるエプロンの一角。ギラつく太陽が照り付ける中、パイロット・スーツに着替えた翔一とアリサの二人を出迎えたのは、相変わらずのオレンジ色をしたツナギ姿の南と……そして、翔一にとってはもう乗り慣れた機体だった。
――――GIS‐12F≪ミーティア≫。
初めて蓬莱島に来た時、彼の上を低空で過ぎ去っていった空間戦闘機とほぼ同型の機体だ。イスラエルのクフィールによく似たクローズカップルド・デルタ翼の機体形状も同じで、施されている灰色の制空迷彩も同じ。あの時に見た≪ミーティア≫、E型と違う点を挙げるとすれば……単座の機体ではなく、コクピットが縦に二つ並んだ複座機であることだった。
複座機である理由は、訓練用途に用いる為だ。実戦用の単座機と同じタイプの複座機を用意し、運用の効率化を図り。同時に、万が一の際には訓練用でも無改造で実戦に投入させられる……と、同じ機種で単座と複座の二タイプが存在する理由はこの辺だろうか。この辺りは表世界にあるジェット戦闘機、F‐15DやF‐16D、F‐2Bなんかの複座機にも共通する発想だ。
だから、今二人の前にあるF型≪ミーティア≫は、性能面ではあの時に見た単座のE型と全く同じだ。強いて言えば、複座化したせいで単座機のE型より若干重くなっていることぐらいか。
「……それにしても、このスーツ。暑そうに見えて意外と涼しいんだな」
と、アリサがそんな≪ミーティア≫の周囲をぐるりと歩き、機体を軽く目視で点検している最中。翔一は自分が身に纏うパイロット・スーツを見下ろしながら、何気なくそんなことを呟いていた。
それに傍らの南が「ま、見た目は確かに暑苦しいよな」と、ニタニタとした笑みを顔に張り付かせながらで頷き、同意を示す。
「んでもまあ、技術的には表の世界にあるのとは比べものにならねえほど高度なテクノロジーが使われてっからよ。薄っぺらくても、内側の快適性は抜群なんだ。空間戦闘機のスーツなんだから当然なんだけどよ、ヘルメットさえ被っちまえば、そのまんま宇宙服にもなるんだぜ?」
ま、アリサちゃんみたいに殆どのESPは、ヘルメットなんざ被りたがらねえんだけどよ――――。
続けて南がボヤくようなことを口にする横で、翔一が「凄い話だ、本当にSF小説の世界に迷い込んだみたいだよ」と感心する。
「全くだ。……ああそうそう、ちなみにお前さんらESPのパイロット・スーツは専用品でな。ディーンドライヴなんかとお前らさんらの能力が上手く同調するように調整されてるんだ。だからまあ、そんな全身タイツみたいな格好になっちまってるワケだが」
…………今まさに翔一が着ているパイロット・スーツは、それこそ身体にピッタリと張り付くボディスーツめいた代物なのだが。そんな珍妙な見た目の理由は、今まさに南が口走った通りだ。
――――空間戦闘機、特にESP能力者が操縦する場合には、如何に機体と同調するかが鍵になる。
前にレーアの座学でも教わったが、空間戦闘機をフルスペック・モードで動かす為にはESP能力を用い、機体と……特に重力制御装置のディーンドライヴと極限まで同調する必要があるのだ。どうやらこの珍妙な格好のパイロット・スーツは、その為にこんな見てくれをしているらしい。
とはいえ、身体に張り付くボディスーツの上から、肩や腰などのあちこちにゴテゴテとした装備類で固めている見た目は、何というか……着ていると凄く微妙な気分になる。
まあ、その辺りは慣れだろう。現に翔一だって、この奇妙なESP専用のパイロット・スーツにも大分慣れてきているのだ。もう少しもしない内に、全く気にしなくなるのだろう。
――――ちなみに、これは余談だが。今まさに機体の目視チェックを終え、翔一たちの方に近づいてきているアリサのパイロット・スーツは少々特殊で。今翔一が着ているようにグレー系の色を基調とした没個性的な物ではなく、黒ベースに赤色を織り交ぜたような色合いの、派手な見てくれの物だった。
前に南から聞いた話だと、どうやらエース・パイロット用の特別誂えらしい。あの色合いが、彼女のパーソナル・カラーのようだ。
「まー、ンな格好してんのはお前らESPパイロットだけだよ。普通の空間戦闘機用のスーツはもっとゴテゴテして……っと、丁度良いトコに実例が帰ってきたぜ」
「ん……?」
滑走路の方に振り向き、ニヤリとしている南を不思議に思い、翔一もそちらの方に振り向いてみると。すると――――丁度、数機の≪ミーティア≫が滑走路に着陸する光景が、彼の眼に飛び込んできた。
降りてくるのは、全て単座機のE型だ。灰色の制空迷彩に……尾翼には、隼を模ったエンブレムが施されている。
「アレは……」
「308スコードロン、ファルコンクロウ隊のお帰りだ。丁度さっきまでACM訓練だったからな。あんちゃんたちとは入れ違いだったんだよ」
下ろした主脚を滑走路に触れさせ、キュッという音とともに主脚のタイヤから軽く煙を吹かせ。そうして着陸した数機の≪ミーティア≫が、翔一たちの居るエプロンの方までゆっくりとタキシングしてくる。
そうした光景を南と二人で眺めていれば、帰ってきたその≪ミーティア≫の群れは彼らの傍に機体を停め。待ち構えていた整備兵たちが群がる中……キャノピーがクッと開き、機体に掛けられたラダー(はしご)を伝って、一番先頭に居た機体からパイロットが降りてくる。
「……確かに、僕らのパイロット・スーツとは少し違うな」
先頭の≪ミーティア≫から降りてきたパイロットの格好は、確かに南が言っていた通り、翔一らESPパイロットの着用するそれとはまるで違う格好のパイロット・スーツだった。
何というか、ゴテゴテしている。パッと見は普通の……それこそ、表世界にあるジェット戦闘機の耐Gスーツのようでもあるが。しかし宇宙空間での使用を想定してか、機密性が普通の耐Gスーツとは段違いのようだった。
それに、ヘルメットも普通の戦闘機用とは異なっていた。それこそバイク用のフルフェイス・ヘルメットをもっとゴツく、鋭角的にしたような……そんな感じだ。この辺りは翔一たちESP用のスーツにも似たような物が付属しているが、彼の被っている物の方がよりゴツい。
「…………」
先頭の≪ミーティア≫から降りてきた、そんなパイロット。彼は機体から降りると、何故か翔一たちの方に歩み寄ってくる。
何かと思って、翔一が近づいてくる彼をじっと眺めていれば――――その彼は翔一の目の前に来て、漸く被っていたヘルメットを脱いだ。
「――――へえ、君が例の」
とすれば、その向こうから現れるのは男の顔。パーマを掛けた黒髪に、猛禽類のようにギラつく双眸。左の目尻には、縦に走る一条の刀傷めいた傷跡がうっすらと浮かんでいる。そんな顔に浮かぶのは、仏頂面という喩えが相応しいぐらいに固く強張った表情。低い声で告げてくる彼が漂わせる風格は、明らかに歴戦のファイター・パイロットのそれだった。
「おう、お帰りもっつぁん」
「南、そのもっつぁんとかいう呼び方はやめてくれと何度。……左のカナードの動きが鈍い。見ておいてくれ」
「あらま、マジで? んじゃあ後で見とくわ」
「……もっつぁん?」
南とその彼とが交わす会話に翔一が首を傾げていると、すると彼は「ああ、名乗るのが遅れたな」と言って、やっとこさ翔一に対し名乗ってみせた。
「榎本朔也大尉だ。H‐Rアイランド所属、第308空間飛行隊『ファルコンクロウ』の飛行隊長をしている。
――――君が噂の新入りか。思っていたよりも面構えは悪くないな」
大した笑みも見せぬまま、彼――――榎本朔也はそう名乗り、翔一に対し握手を求めてくる。翔一は差し出された榎本の手を握り返し、握手を交わしながら「桐山翔一……准尉です」と、彼に名乗り返す。
――――榎本朔也。
彼の身体から滲み出る、アリサや要とはまた違う歴戦の風格。寡黙な彼を前に、翔一はただただその圧倒的な雰囲気に気圧されていた。
「ん、ありがと南」
そうして辿り着いた蓬莱島、地上の滑走路近くにあるエプロンの一角。ギラつく太陽が照り付ける中、パイロット・スーツに着替えた翔一とアリサの二人を出迎えたのは、相変わらずのオレンジ色をしたツナギ姿の南と……そして、翔一にとってはもう乗り慣れた機体だった。
――――GIS‐12F≪ミーティア≫。
初めて蓬莱島に来た時、彼の上を低空で過ぎ去っていった空間戦闘機とほぼ同型の機体だ。イスラエルのクフィールによく似たクローズカップルド・デルタ翼の機体形状も同じで、施されている灰色の制空迷彩も同じ。あの時に見た≪ミーティア≫、E型と違う点を挙げるとすれば……単座の機体ではなく、コクピットが縦に二つ並んだ複座機であることだった。
複座機である理由は、訓練用途に用いる為だ。実戦用の単座機と同じタイプの複座機を用意し、運用の効率化を図り。同時に、万が一の際には訓練用でも無改造で実戦に投入させられる……と、同じ機種で単座と複座の二タイプが存在する理由はこの辺だろうか。この辺りは表世界にあるジェット戦闘機、F‐15DやF‐16D、F‐2Bなんかの複座機にも共通する発想だ。
だから、今二人の前にあるF型≪ミーティア≫は、性能面ではあの時に見た単座のE型と全く同じだ。強いて言えば、複座化したせいで単座機のE型より若干重くなっていることぐらいか。
「……それにしても、このスーツ。暑そうに見えて意外と涼しいんだな」
と、アリサがそんな≪ミーティア≫の周囲をぐるりと歩き、機体を軽く目視で点検している最中。翔一は自分が身に纏うパイロット・スーツを見下ろしながら、何気なくそんなことを呟いていた。
それに傍らの南が「ま、見た目は確かに暑苦しいよな」と、ニタニタとした笑みを顔に張り付かせながらで頷き、同意を示す。
「んでもまあ、技術的には表の世界にあるのとは比べものにならねえほど高度なテクノロジーが使われてっからよ。薄っぺらくても、内側の快適性は抜群なんだ。空間戦闘機のスーツなんだから当然なんだけどよ、ヘルメットさえ被っちまえば、そのまんま宇宙服にもなるんだぜ?」
ま、アリサちゃんみたいに殆どのESPは、ヘルメットなんざ被りたがらねえんだけどよ――――。
続けて南がボヤくようなことを口にする横で、翔一が「凄い話だ、本当にSF小説の世界に迷い込んだみたいだよ」と感心する。
「全くだ。……ああそうそう、ちなみにお前さんらESPのパイロット・スーツは専用品でな。ディーンドライヴなんかとお前らさんらの能力が上手く同調するように調整されてるんだ。だからまあ、そんな全身タイツみたいな格好になっちまってるワケだが」
…………今まさに翔一が着ているパイロット・スーツは、それこそ身体にピッタリと張り付くボディスーツめいた代物なのだが。そんな珍妙な見た目の理由は、今まさに南が口走った通りだ。
――――空間戦闘機、特にESP能力者が操縦する場合には、如何に機体と同調するかが鍵になる。
前にレーアの座学でも教わったが、空間戦闘機をフルスペック・モードで動かす為にはESP能力を用い、機体と……特に重力制御装置のディーンドライヴと極限まで同調する必要があるのだ。どうやらこの珍妙な格好のパイロット・スーツは、その為にこんな見てくれをしているらしい。
とはいえ、身体に張り付くボディスーツの上から、肩や腰などのあちこちにゴテゴテとした装備類で固めている見た目は、何というか……着ていると凄く微妙な気分になる。
まあ、その辺りは慣れだろう。現に翔一だって、この奇妙なESP専用のパイロット・スーツにも大分慣れてきているのだ。もう少しもしない内に、全く気にしなくなるのだろう。
――――ちなみに、これは余談だが。今まさに機体の目視チェックを終え、翔一たちの方に近づいてきているアリサのパイロット・スーツは少々特殊で。今翔一が着ているようにグレー系の色を基調とした没個性的な物ではなく、黒ベースに赤色を織り交ぜたような色合いの、派手な見てくれの物だった。
前に南から聞いた話だと、どうやらエース・パイロット用の特別誂えらしい。あの色合いが、彼女のパーソナル・カラーのようだ。
「まー、ンな格好してんのはお前らESPパイロットだけだよ。普通の空間戦闘機用のスーツはもっとゴテゴテして……っと、丁度良いトコに実例が帰ってきたぜ」
「ん……?」
滑走路の方に振り向き、ニヤリとしている南を不思議に思い、翔一もそちらの方に振り向いてみると。すると――――丁度、数機の≪ミーティア≫が滑走路に着陸する光景が、彼の眼に飛び込んできた。
降りてくるのは、全て単座機のE型だ。灰色の制空迷彩に……尾翼には、隼を模ったエンブレムが施されている。
「アレは……」
「308スコードロン、ファルコンクロウ隊のお帰りだ。丁度さっきまでACM訓練だったからな。あんちゃんたちとは入れ違いだったんだよ」
下ろした主脚を滑走路に触れさせ、キュッという音とともに主脚のタイヤから軽く煙を吹かせ。そうして着陸した数機の≪ミーティア≫が、翔一たちの居るエプロンの方までゆっくりとタキシングしてくる。
そうした光景を南と二人で眺めていれば、帰ってきたその≪ミーティア≫の群れは彼らの傍に機体を停め。待ち構えていた整備兵たちが群がる中……キャノピーがクッと開き、機体に掛けられたラダー(はしご)を伝って、一番先頭に居た機体からパイロットが降りてくる。
「……確かに、僕らのパイロット・スーツとは少し違うな」
先頭の≪ミーティア≫から降りてきたパイロットの格好は、確かに南が言っていた通り、翔一らESPパイロットの着用するそれとはまるで違う格好のパイロット・スーツだった。
何というか、ゴテゴテしている。パッと見は普通の……それこそ、表世界にあるジェット戦闘機の耐Gスーツのようでもあるが。しかし宇宙空間での使用を想定してか、機密性が普通の耐Gスーツとは段違いのようだった。
それに、ヘルメットも普通の戦闘機用とは異なっていた。それこそバイク用のフルフェイス・ヘルメットをもっとゴツく、鋭角的にしたような……そんな感じだ。この辺りは翔一たちESP用のスーツにも似たような物が付属しているが、彼の被っている物の方がよりゴツい。
「…………」
先頭の≪ミーティア≫から降りてきた、そんなパイロット。彼は機体から降りると、何故か翔一たちの方に歩み寄ってくる。
何かと思って、翔一が近づいてくる彼をじっと眺めていれば――――その彼は翔一の目の前に来て、漸く被っていたヘルメットを脱いだ。
「――――へえ、君が例の」
とすれば、その向こうから現れるのは男の顔。パーマを掛けた黒髪に、猛禽類のようにギラつく双眸。左の目尻には、縦に走る一条の刀傷めいた傷跡がうっすらと浮かんでいる。そんな顔に浮かぶのは、仏頂面という喩えが相応しいぐらいに固く強張った表情。低い声で告げてくる彼が漂わせる風格は、明らかに歴戦のファイター・パイロットのそれだった。
「おう、お帰りもっつぁん」
「南、そのもっつぁんとかいう呼び方はやめてくれと何度。……左のカナードの動きが鈍い。見ておいてくれ」
「あらま、マジで? んじゃあ後で見とくわ」
「……もっつぁん?」
南とその彼とが交わす会話に翔一が首を傾げていると、すると彼は「ああ、名乗るのが遅れたな」と言って、やっとこさ翔一に対し名乗ってみせた。
「榎本朔也大尉だ。H‐Rアイランド所属、第308空間飛行隊『ファルコンクロウ』の飛行隊長をしている。
――――君が噂の新入りか。思っていたよりも面構えは悪くないな」
大した笑みも見せぬまま、彼――――榎本朔也はそう名乗り、翔一に対し握手を求めてくる。翔一は差し出された榎本の手を握り返し、握手を交わしながら「桐山翔一……准尉です」と、彼に名乗り返す。
――――榎本朔也。
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