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Chapter-03『BLACK EXECUTER』
第四章:とある平穏な幕間に/06
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運ばれてきたのは、当然ながら全てがとんかつだ。
専門店だから当たり前のことだが、四人ともメニューは全てとんかつ。かといって全員が同じというワケではなく、それぞれがそれぞれの好みでチョイスしたものだ。
始めに遥とセラだが、彼女たちはジューシーなロースとんかつだ。しかも普通より量の多いジャンボサイズ。食べ盛りの男子高校生が喜びそうなメニューを二人はチョイスしていた。
遥もセラも、どちらも凄く背が高くてスタイル抜群の凄まじい美女だ。そんな体格だけあって、何だかんだと二人ともお腹が空くのだろう。こういう綺麗な娘が美味しそうに食べている姿というのは、見ている側からしても幸せになる光景というものだ。
また、戒斗とアンジェはヒレカツだったりする。どちらもジャンボではなく、レギュラーサイズだ。
アンジェは分かるが、どうしてまた戒斗が……という話になるが。彼曰く「脂身が苦手」だそうだ。だからこその比較的脂身が少ないヒレカツのチョイス、ということらしい。
ちなみに定食メニューで、主役のとんかつの他に白米と味噌汁、それに日替わりのお漬物が付いてきているのは四人全員が共通。胡麻が入ったすり鉢が付属しているのも同じだ。すりこぎ棒も付いていて、これで摺った胡麻でとんかつを頂くためのものだったりする。
「さあさあ、皆さんいっぱい食べてくださいね♪」
「でも……遥さん、ご馳走になっちゃって本当に良いのかな?」
「そうね。今更だけど……流石に悪い気がするわ」
「寧ろ俺が持つつもりだったんだがな、全員分」
「いいんです、こういう時ぐらいしかお世話になっている皆さんにお礼が出来ませんから♪ 折角お給金を頂いても、私には遣うところがあまりないので……こういう時ぐらいしか遣うタイミングがないんです。ですから、どうか皆さん遠慮なさらずに」
戸惑う三人を前に、遥が柔らかな微笑みを浮かべながらそう言う。
――――実を言うと遥、今日のお昼は全員分を自分が奢りたいらしい。
しかも戒斗やアンジェだけじゃない、途中で合流してきたセラの分もだ。だからこそ流石に悪いと思って、三人の恐縮気味なこの反応なのだが……遥曰く、そういうことのようだ。
店をよく手伝ってくれている遥に対し、戒斗の両親はタダ働きでは悪いからと毎月アルバイト代を渡している。実際幾らほどなのかは知らないが……結構な額らしい。
とはいえ、遥に遊び歩いている暇はあまりない。店や家事の手伝いで忙しいというのもあるが、それ以上に彼女は過酷な戦いの宿命を背負っているのだ。人知れずバンディットと日夜戦い、誰かの笑顔を守るという……彼女自身の為すべきことが。
だからこそ、バイト代を貰ったところで遣うところは実際あまりないのだ。強いて言うならバイクのメンテ費用とガソリン代ぐらいなものだが……裏を返せば、それだけだ。
故に遥は思ったのだろう。折角こうして連れて来て貰ったことだし、日々の感謝の意味も込めて……今日ぐらいは、皆にご馳走しようかなと。
「まあ……アンタがそう言うのなら、アタシは素直にご馳走になっちゃうけど」
「遥さん、本当に良いの?」
「はい。アンジェさんも戒斗さんも、どうかご遠慮なさらず」
「……気持ち、か。遥がそう言うなら、今日はありがたくご馳走になるか」
「そうだね。遥さん、ありがと」
そんな遥の気持ちが何となく察せられたから、セラはスッと遥の好意を受け入れ。戒斗とアンジェも同様に、今日は素直に遥の好意に甘えることにした。
「……うん、美味いな」
「だね、美味しいねカイト」
「ホントに美味しいわね……なにこれ、想像以上よ」
「偶然でしたけれど、このお店を選んで正解だったみたいですね」
というワケで、四人で揃って実食。
まずはソースやら何も付けないままでひと囓り。高品質な黒豚のみを使っているのが店のウリだけあって、ちょっと囓っただけでも旨味が口の中に染み渡ってくる。
衣はカリッと、中はふんわりといった感じだ。ジュワリと染み出してくる肉汁は火傷しそうなぐらいに熱いが……だからこそ、美味い。
遥の言う通り、偶然だとしてもこの店を選んで正解だったようだ。セラとバッタリ出逢えたことといい、今日は本当に良い偶然がよく続いている気がする。
「さてと、じゃあここからが本番だ……」
とまあ、そのまま頂くのはこの辺りにしておいて。戒斗は独り言を呟きつつ箸を取ると、次に摺った胡麻に付けて頂くことにした。
――――ああ、これも美味い。
とんかつそのものの旨味に胡麻の風味がプラスされ、凄く上品な味わいだ。ずっとこれだけで食べていたいところだが……生憎と胡麻の量はそんなにないから、すぐに別の味に移行することになる。
「すまんセラ、そこの醤油取ってくれ」
「醤油? アンタ結構変わった趣味してるのね……」
「アンジェにもよく言われるよ。俺はどうにもソースってのが好きになれなくてな」
戒斗はセラに取って貰った醤油瓶を受け取ると、盆に載っていた小皿の上に醤油を注ぎ……今度はそれにとんかつを付けて頂くことにした。
理由は今まさに本人が口にした通りだ。戒斗はどちらかといえばソースより醤油派で、それはとんかつでも同じこと。アンジェやセラが普通にソースを掛けて頂いている横で、戒斗は独り醤油を付けたとんかつを口に運んでいる。
とんかつに醤油なんて、と思うかも知れないが……これが結構合うのだ。ご飯が進む味わいというか、すぐに白米のお代わりを戒斗が店員に要求したぐらいにはご飯と相性が良い。
ちなみにこの店、白米のお代わりは何度でも自由だから安心だ。
「あはは、まあカイトって変わってるところあるからねー。僕はもう慣れちゃったけれど」
「というか、セラもいやに馴染んでるな。醤油とかあんま馴染みがないんじゃないのか?」
「アタシも何だかんだと日本は長いのよ。だからもう慣れちゃったわ、色んなことにね」
「あれ? セラってこっち来たばっかりじゃなかったっけ?」
「……色々とあんのよ、事情がね」
そんな風にセラが話の流れで思わずポロッとボロを出しそうになっていた横で、戒斗は小皿に醤油をつぎ足しつつ。何気ない調子で「そういえば、遥はどういう食べ方が好みだ?」と言いながら、対面に座る遥の方に視線を流してみる。
すると――――――。
「えっと、私ですか?」
きょとんとする遥は……意外や意外、塩でとんかつを頂いていた。
どうやら遥、かなり玄人好みな食べ方が好きらしい。てっきり普通にソースで頂いていると思っていただけに、戒斗はぽかんと拍子抜けしたような顔になって彼女を見つめてしまう。
「やるな……遥」
「これが一番、お肉の味が生きていると思うんです。あっ、でも他の食べ方も好きですよ?」
「どんなだ?」
「えっと……わさび醤油とか」
「マジかよ」
「もしかして、私って変ですか?」
問うてくる対面の遥に、戒斗は「いいや」小さく首を横に振って否定し。その後で戒斗は箸を片手に、目の前の遥をじっと見つめながら……ただ一言、低い声で彼女に称賛の言葉を呟いた。
「………………良いセンスだ」
専門店だから当たり前のことだが、四人ともメニューは全てとんかつ。かといって全員が同じというワケではなく、それぞれがそれぞれの好みでチョイスしたものだ。
始めに遥とセラだが、彼女たちはジューシーなロースとんかつだ。しかも普通より量の多いジャンボサイズ。食べ盛りの男子高校生が喜びそうなメニューを二人はチョイスしていた。
遥もセラも、どちらも凄く背が高くてスタイル抜群の凄まじい美女だ。そんな体格だけあって、何だかんだと二人ともお腹が空くのだろう。こういう綺麗な娘が美味しそうに食べている姿というのは、見ている側からしても幸せになる光景というものだ。
また、戒斗とアンジェはヒレカツだったりする。どちらもジャンボではなく、レギュラーサイズだ。
アンジェは分かるが、どうしてまた戒斗が……という話になるが。彼曰く「脂身が苦手」だそうだ。だからこその比較的脂身が少ないヒレカツのチョイス、ということらしい。
ちなみに定食メニューで、主役のとんかつの他に白米と味噌汁、それに日替わりのお漬物が付いてきているのは四人全員が共通。胡麻が入ったすり鉢が付属しているのも同じだ。すりこぎ棒も付いていて、これで摺った胡麻でとんかつを頂くためのものだったりする。
「さあさあ、皆さんいっぱい食べてくださいね♪」
「でも……遥さん、ご馳走になっちゃって本当に良いのかな?」
「そうね。今更だけど……流石に悪い気がするわ」
「寧ろ俺が持つつもりだったんだがな、全員分」
「いいんです、こういう時ぐらいしかお世話になっている皆さんにお礼が出来ませんから♪ 折角お給金を頂いても、私には遣うところがあまりないので……こういう時ぐらいしか遣うタイミングがないんです。ですから、どうか皆さん遠慮なさらずに」
戸惑う三人を前に、遥が柔らかな微笑みを浮かべながらそう言う。
――――実を言うと遥、今日のお昼は全員分を自分が奢りたいらしい。
しかも戒斗やアンジェだけじゃない、途中で合流してきたセラの分もだ。だからこそ流石に悪いと思って、三人の恐縮気味なこの反応なのだが……遥曰く、そういうことのようだ。
店をよく手伝ってくれている遥に対し、戒斗の両親はタダ働きでは悪いからと毎月アルバイト代を渡している。実際幾らほどなのかは知らないが……結構な額らしい。
とはいえ、遥に遊び歩いている暇はあまりない。店や家事の手伝いで忙しいというのもあるが、それ以上に彼女は過酷な戦いの宿命を背負っているのだ。人知れずバンディットと日夜戦い、誰かの笑顔を守るという……彼女自身の為すべきことが。
だからこそ、バイト代を貰ったところで遣うところは実際あまりないのだ。強いて言うならバイクのメンテ費用とガソリン代ぐらいなものだが……裏を返せば、それだけだ。
故に遥は思ったのだろう。折角こうして連れて来て貰ったことだし、日々の感謝の意味も込めて……今日ぐらいは、皆にご馳走しようかなと。
「まあ……アンタがそう言うのなら、アタシは素直にご馳走になっちゃうけど」
「遥さん、本当に良いの?」
「はい。アンジェさんも戒斗さんも、どうかご遠慮なさらず」
「……気持ち、か。遥がそう言うなら、今日はありがたくご馳走になるか」
「そうだね。遥さん、ありがと」
そんな遥の気持ちが何となく察せられたから、セラはスッと遥の好意を受け入れ。戒斗とアンジェも同様に、今日は素直に遥の好意に甘えることにした。
「……うん、美味いな」
「だね、美味しいねカイト」
「ホントに美味しいわね……なにこれ、想像以上よ」
「偶然でしたけれど、このお店を選んで正解だったみたいですね」
というワケで、四人で揃って実食。
まずはソースやら何も付けないままでひと囓り。高品質な黒豚のみを使っているのが店のウリだけあって、ちょっと囓っただけでも旨味が口の中に染み渡ってくる。
衣はカリッと、中はふんわりといった感じだ。ジュワリと染み出してくる肉汁は火傷しそうなぐらいに熱いが……だからこそ、美味い。
遥の言う通り、偶然だとしてもこの店を選んで正解だったようだ。セラとバッタリ出逢えたことといい、今日は本当に良い偶然がよく続いている気がする。
「さてと、じゃあここからが本番だ……」
とまあ、そのまま頂くのはこの辺りにしておいて。戒斗は独り言を呟きつつ箸を取ると、次に摺った胡麻に付けて頂くことにした。
――――ああ、これも美味い。
とんかつそのものの旨味に胡麻の風味がプラスされ、凄く上品な味わいだ。ずっとこれだけで食べていたいところだが……生憎と胡麻の量はそんなにないから、すぐに別の味に移行することになる。
「すまんセラ、そこの醤油取ってくれ」
「醤油? アンタ結構変わった趣味してるのね……」
「アンジェにもよく言われるよ。俺はどうにもソースってのが好きになれなくてな」
戒斗はセラに取って貰った醤油瓶を受け取ると、盆に載っていた小皿の上に醤油を注ぎ……今度はそれにとんかつを付けて頂くことにした。
理由は今まさに本人が口にした通りだ。戒斗はどちらかといえばソースより醤油派で、それはとんかつでも同じこと。アンジェやセラが普通にソースを掛けて頂いている横で、戒斗は独り醤油を付けたとんかつを口に運んでいる。
とんかつに醤油なんて、と思うかも知れないが……これが結構合うのだ。ご飯が進む味わいというか、すぐに白米のお代わりを戒斗が店員に要求したぐらいにはご飯と相性が良い。
ちなみにこの店、白米のお代わりは何度でも自由だから安心だ。
「あはは、まあカイトって変わってるところあるからねー。僕はもう慣れちゃったけれど」
「というか、セラもいやに馴染んでるな。醤油とかあんま馴染みがないんじゃないのか?」
「アタシも何だかんだと日本は長いのよ。だからもう慣れちゃったわ、色んなことにね」
「あれ? セラってこっち来たばっかりじゃなかったっけ?」
「……色々とあんのよ、事情がね」
そんな風にセラが話の流れで思わずポロッとボロを出しそうになっていた横で、戒斗は小皿に醤油をつぎ足しつつ。何気ない調子で「そういえば、遥はどういう食べ方が好みだ?」と言いながら、対面に座る遥の方に視線を流してみる。
すると――――――。
「えっと、私ですか?」
きょとんとする遥は……意外や意外、塩でとんかつを頂いていた。
どうやら遥、かなり玄人好みな食べ方が好きらしい。てっきり普通にソースで頂いていると思っていただけに、戒斗はぽかんと拍子抜けしたような顔になって彼女を見つめてしまう。
「やるな……遥」
「これが一番、お肉の味が生きていると思うんです。あっ、でも他の食べ方も好きですよ?」
「どんなだ?」
「えっと……わさび醤油とか」
「マジかよ」
「もしかして、私って変ですか?」
問うてくる対面の遥に、戒斗は「いいや」小さく首を横に振って否定し。その後で戒斗は箸を片手に、目の前の遥をじっと見つめながら……ただ一言、低い声で彼女に称賛の言葉を呟いた。
「………………良いセンスだ」
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