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Chapter-03『BLACK EXECUTER』
第二章:LONELY HEART/01
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第二章:LONELY HEART
「――――アンジェ!!」
それから数時間後。遥の報せを受けて自宅に飛んで帰ってきた戒斗が、二階の自室の扉を蹴破るような勢いで激しく開けながら、血相を変えた顔で住み慣れた部屋の中へと飛び込んでいく。
「……戒斗さん」
すると、日没後の薄暗い部屋の中に飛び込んで来た戒斗を、遥が神妙な面持ちで出迎えてくれて。そんな彼女のすぐ傍ら、普段戒斗が使っているベッドには……アンジェが静かに横たわっていた。
「遥、アンジェの具合は……!?」
「今は眠っているだけです。生命に別状はありません」
「そうか……」
血相を変えて部屋に飛び込んだ戒斗は、そのままアンジェの眠るベッドの傍にしゃがみ込んで。どうしたものかとオロオロしていた彼だったが……しかし生命に別状はないという遥の言葉を聞くと、少しだけ安堵した様子でふぅ、と息をつく。
「それで……遥、何があった?」
そうしてひとまず落ち着いた後で、しかし戒斗はシリアスな表情を崩そうとしないまま、チラリと横目の視線を向けながら遥に問いかける。
すると遥は「話せば長くなってしまいますが」と前置きをしてから、さっきのことを――――バンディットとの交戦、赤と黒の神姫の乱入と、アンジェが自分を抱えて逃がしてくれたことを戒斗に説明した。
「そんなことが……」
「はい。アンジェさんは私をあの方と戦わせないために、慣れない超加速を使って……私のために、無理をさせてしまいました」
「いいや……きっと、遥のせいじゃない。アンジェらしいよ。アンジェは優しいから……多分、遥とその神姫が争うのを見たくなかったんだ」
「……アンジェさんが仰っていました、神姫同士でいがみ合う理由なんてどこにもないって。私も……そう思います。出来ることなら、あの方と争いたくない。
でも、私は戦ってしまう。降りかかる火の粉を払うように、向こうがその気で来てしまえば……私は、戦ってしまうんです。
だからアンジェさんは、きっと私より心が強いんだと思います。もし仮に私がアンジェさんと同じ立場だったとして、きっと私には……あんな風に割って入って止めること、できっこない」
「…………」
どこか自嘲じみた調子で呟く遥の声を聴きながら、戒斗は至極複雑そうな顔で傍らのベッドで眠るアンジェの顔を見た。
すぅすぅと寝息を立てて眠る彼女は、一見すると安らかな寝顔のようにも思えたが……しかし、隠しきれない疲労の色がそこかしこに滲み出ている。慣れない領域での超加速を無理に行使したから、今のアンジェは言ってしまえば過労状態のようなものなのだ。
どうしてそんな無理をしたのか。理由は簡単だ。
――――遥とその神姫が戦うところを、見たくなかったから。
遥は現れたその神姫のことを、悪いヒトのようには見えなかったと言っていた。きっとアンジェの眼にも同じように映っていたのだろう。その赤と黒の神姫……ガーネット・フェニックスが悪人でないことを、彼女もまた見抜いていたのだ。
だからこそ、アンジェは遥たちを戦わせたくはないと思った。
その時の状況を聞く限り、あのままいけば二人の再戦は避けられなかっただろう。遥のことだ、上手く切り抜けてガーネット・フェニックスを撒くつもりだったのだろうが……アンジェはそれすらも拒んだのだ。
戦わせたくない、神姫同士でいがみ合う姿なんて見たくない。
だから――――アンジェは自分の特性、誰も追いつけない神速を最大限に生かせるヴァーミリオンフォームの超加速の力を行使したのだ。刃を交えぬままに場を収める為に、遥とガーネット・フェニックスを戦わせない為に…………。
そんなアンジェの気持ちは、遥の話と……そして何よりも、今目の前にある彼女の寝顔が物語っていた。
「……アンジェ」
故に戒斗は、これほどまでに複雑そうな表情を浮かべている。彼女がどこまでも真っ直ぐだからこそ……それを蚊帳の外から見ていることしか出来ない戒斗は、心配と悔しさと無力感を織り交ぜた、そんな複雑そうな顔をしているのだ。
――――分からない。
どうしていいのか、自分がどうしたいのか。何もかもが分からない。
「っ……!」
頭の中がぐちゃぐちゃになって、戒斗は思わず眠るアンジェの顔からクッと目を逸らし。すると彼はおもむろに立ち上がり、部屋にあるデスクの上に放ってあった車のキーをバッと掴み取った。
「戒斗さん……?」
「遥……暫くの間、アンジェのことを頼む」
戒斗の唐突な行動に戸惑いながら遥が見上げると、戒斗は彼女に背を向けたまま、低く絞り出すような声音でそう告げて。そうすれば彼はそのまま車のキーを片手に握り締め、自室を出て行こうと歩き出す。
「カイト……?」
だが、その時になってアンジェが目を覚まして。ぼんやりとした瞳で彼の背中を見つめながら、やはり疲れの滲んだ声で彼女は戒斗の背中を呼び止めた。
「……アンジェ」
呼び止められ、立ち止まり。一瞬チラリと振り返った戒斗はベッドの上に横たわるアンジェの姿を僅かに見つめながら、苦虫を噛み潰したように悔しそうな顔を浮かべると。すると彼は再びアンジェから視線を逸らし、背を向けたままで呟いた。
「……すまない、今は独りにしてくれ」
そう呟いて――――戒斗は今度こそ部屋を出て行ってしまう。
戒斗が出て行った後、薄暗い彼の自室の中。残された遥は神妙そうな顔でいつまでもドアの方を眺めていて、そして目覚めた遥はぼんやりとした顔で小さく首を傾げる。
「カイト……どうしちゃったのかな…………?」
「……戒斗さん、何をそんなに思い詰めて」
出て行った彼の苦悩を、大いなる力を持つ二人が理解出来るはずもなかった。持たざる者の苦しみを、彼がアンジェを心の底から愛しているが故の歯痒さと、そんな彼のどうしようもない苦しさを――――。
「――――アンジェ!!」
それから数時間後。遥の報せを受けて自宅に飛んで帰ってきた戒斗が、二階の自室の扉を蹴破るような勢いで激しく開けながら、血相を変えた顔で住み慣れた部屋の中へと飛び込んでいく。
「……戒斗さん」
すると、日没後の薄暗い部屋の中に飛び込んで来た戒斗を、遥が神妙な面持ちで出迎えてくれて。そんな彼女のすぐ傍ら、普段戒斗が使っているベッドには……アンジェが静かに横たわっていた。
「遥、アンジェの具合は……!?」
「今は眠っているだけです。生命に別状はありません」
「そうか……」
血相を変えて部屋に飛び込んだ戒斗は、そのままアンジェの眠るベッドの傍にしゃがみ込んで。どうしたものかとオロオロしていた彼だったが……しかし生命に別状はないという遥の言葉を聞くと、少しだけ安堵した様子でふぅ、と息をつく。
「それで……遥、何があった?」
そうしてひとまず落ち着いた後で、しかし戒斗はシリアスな表情を崩そうとしないまま、チラリと横目の視線を向けながら遥に問いかける。
すると遥は「話せば長くなってしまいますが」と前置きをしてから、さっきのことを――――バンディットとの交戦、赤と黒の神姫の乱入と、アンジェが自分を抱えて逃がしてくれたことを戒斗に説明した。
「そんなことが……」
「はい。アンジェさんは私をあの方と戦わせないために、慣れない超加速を使って……私のために、無理をさせてしまいました」
「いいや……きっと、遥のせいじゃない。アンジェらしいよ。アンジェは優しいから……多分、遥とその神姫が争うのを見たくなかったんだ」
「……アンジェさんが仰っていました、神姫同士でいがみ合う理由なんてどこにもないって。私も……そう思います。出来ることなら、あの方と争いたくない。
でも、私は戦ってしまう。降りかかる火の粉を払うように、向こうがその気で来てしまえば……私は、戦ってしまうんです。
だからアンジェさんは、きっと私より心が強いんだと思います。もし仮に私がアンジェさんと同じ立場だったとして、きっと私には……あんな風に割って入って止めること、できっこない」
「…………」
どこか自嘲じみた調子で呟く遥の声を聴きながら、戒斗は至極複雑そうな顔で傍らのベッドで眠るアンジェの顔を見た。
すぅすぅと寝息を立てて眠る彼女は、一見すると安らかな寝顔のようにも思えたが……しかし、隠しきれない疲労の色がそこかしこに滲み出ている。慣れない領域での超加速を無理に行使したから、今のアンジェは言ってしまえば過労状態のようなものなのだ。
どうしてそんな無理をしたのか。理由は簡単だ。
――――遥とその神姫が戦うところを、見たくなかったから。
遥は現れたその神姫のことを、悪いヒトのようには見えなかったと言っていた。きっとアンジェの眼にも同じように映っていたのだろう。その赤と黒の神姫……ガーネット・フェニックスが悪人でないことを、彼女もまた見抜いていたのだ。
だからこそ、アンジェは遥たちを戦わせたくはないと思った。
その時の状況を聞く限り、あのままいけば二人の再戦は避けられなかっただろう。遥のことだ、上手く切り抜けてガーネット・フェニックスを撒くつもりだったのだろうが……アンジェはそれすらも拒んだのだ。
戦わせたくない、神姫同士でいがみ合う姿なんて見たくない。
だから――――アンジェは自分の特性、誰も追いつけない神速を最大限に生かせるヴァーミリオンフォームの超加速の力を行使したのだ。刃を交えぬままに場を収める為に、遥とガーネット・フェニックスを戦わせない為に…………。
そんなアンジェの気持ちは、遥の話と……そして何よりも、今目の前にある彼女の寝顔が物語っていた。
「……アンジェ」
故に戒斗は、これほどまでに複雑そうな表情を浮かべている。彼女がどこまでも真っ直ぐだからこそ……それを蚊帳の外から見ていることしか出来ない戒斗は、心配と悔しさと無力感を織り交ぜた、そんな複雑そうな顔をしているのだ。
――――分からない。
どうしていいのか、自分がどうしたいのか。何もかもが分からない。
「っ……!」
頭の中がぐちゃぐちゃになって、戒斗は思わず眠るアンジェの顔からクッと目を逸らし。すると彼はおもむろに立ち上がり、部屋にあるデスクの上に放ってあった車のキーをバッと掴み取った。
「戒斗さん……?」
「遥……暫くの間、アンジェのことを頼む」
戒斗の唐突な行動に戸惑いながら遥が見上げると、戒斗は彼女に背を向けたまま、低く絞り出すような声音でそう告げて。そうすれば彼はそのまま車のキーを片手に握り締め、自室を出て行こうと歩き出す。
「カイト……?」
だが、その時になってアンジェが目を覚まして。ぼんやりとした瞳で彼の背中を見つめながら、やはり疲れの滲んだ声で彼女は戒斗の背中を呼び止めた。
「……アンジェ」
呼び止められ、立ち止まり。一瞬チラリと振り返った戒斗はベッドの上に横たわるアンジェの姿を僅かに見つめながら、苦虫を噛み潰したように悔しそうな顔を浮かべると。すると彼は再びアンジェから視線を逸らし、背を向けたままで呟いた。
「……すまない、今は独りにしてくれ」
そう呟いて――――戒斗は今度こそ部屋を出て行ってしまう。
戒斗が出て行った後、薄暗い彼の自室の中。残された遥は神妙そうな顔でいつまでもドアの方を眺めていて、そして目覚めた遥はぼんやりとした顔で小さく首を傾げる。
「カイト……どうしちゃったのかな…………?」
「……戒斗さん、何をそんなに思い詰めて」
出て行った彼の苦悩を、大いなる力を持つ二人が理解出来るはずもなかった。持たざる者の苦しみを、彼がアンジェを心の底から愛しているが故の歯痒さと、そんな彼のどうしようもない苦しさを――――。
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