43 / 131
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
第一章:深紅の欠片、目覚めの刻は足音もなく忍び寄る/03
しおりを挟む一方、セラの方はといえば。アンジェたちと別れた後ですぐに帰路に就き、学園からそう遠くない距離にある自宅マンションへと戻ってきていた。
「…………」
玄関ドアの施錠を解き、ドアを開けて玄関へ。バタンと閉じたドアをまた施錠し直した後でローファー靴を脱ぎ、そのまま廊下を歩いてリビングルームの方へと進んで行く。
遮光カーテンが閉め切られているせいで、無駄に広いリビングルームの中は薄暗かった。
セラはカーテンを開けてリビングルームの中に光を取り込むと、右肩に掛けていた重たいスクールバッグを傍にあったソファへと雑に放り。そのままセラは隣にある自室のドアを開けて、中に入ると制服も脱がないままにベッドへと寝転がった。
「ふぅー……っ」
ベッドの上に横たわると、重たい表情も少しだけ綻ぶというもの。ベッドに寝転がったセラは暫くの間、何をするでもなくただぼうっと、見慣れた自室の天井を寝転がった格好で眺めていた。
――――このマンションの一室、当然ながらP.C.C.Sが用意したものだ。
神代学園へと編入する折、折角なら学園の近くに住んだ方が色々と便利だろうと、例の総司令官……石神時三郎が気を利かせて用意したのが、今こうしてセラが暮らしている部屋だった。
独り暮らしならワンルームかそれに毛が生えたぐらいのもので良かったのだが、しかし石神は妙に気を利かせて……やたらと広い部屋を用意してくれた。
だから今、こうしてセラが暮らしている部屋は……実を言うと、独りで住むにはあんまりにも豪華すぎて、そして広すぎる部屋なのだ。持て余しているなんてレベルじゃなく、使っていない部屋が幾つもある。
こんなに広い部屋を用意するなんて、余計なお節介ではあったが……しかし困らないといえば困らない。大は小を兼ねるではないが、これぐらいスペースにゆとりがあった方が精神的にも落ち着くのは事実だ。独り暮らしには少しばかり広すぎる部屋を用意した、そんな石神の判断も……あながち間違いではないというか、要らぬ世話というワケでもなかったらしい。
「…………」
そんな広い部屋の、広い自室の中。ベッドに横たわっていたセラはやはり天井をぼうっと眺めたまま、額を軽く腕で覆ってみたりなんかして。そうしながら、セラはふとこう思っていた。
(アンジェ……どうして、アタシに嘘なんかついたのよ)
理由なんて、分からない。分かるはずがない。
実を言うと、アンジェと戒斗があの場に居たことを……商店街でウィスタリア・セイレーンと共に居たことを、セラはP.C.C.Sに報告していなかった。
どう考えても報告すべきだと、報告義務を怠っていると理性では分かっているのだが、でも……不思議とセラはそうしなかった。そうしたくなかったのだ。
どうしてだろう、と自分のことながらセラは不思議に思ってしまう。
(ひょっとして……アタシがアンジェのことを、友達だと思っているから?)
「ううん……そんなの、あり得ない」
一瞬思ってしまったセラだったが、しかし直後にひとりごちてそれを否定した。
「友達なんて、必要ない。アタシのすべきことは、ただ……バンディットをこの世から殲滅すること、ただそれだけ。他でもない、このアタシ自身の手で…………」
独り言を呟きながら、セラは自分自身の愚かな思考に苛ついていた。
一瞬でも、こんなことを思ってしまった自分が情けない。為すべきことを見失いかけていた自分を、セラは酷く恥じていた。
だって――――あの日、確かに誓ったのだから。もうこれ以上、こんな哀しみは繰り返さないと。もう、これ以上……自分の周りで、誰も死なせやしないと。
「ん……」
そうしてセラが独り悶々と思考の渦に囚われていると、するとベッドの上へ雑に放っていたスマートフォンが着信音を鳴らし始めた。
震えるそれを手繰り寄せ、画面を見てみると……液晶画面に映し出された着信相手は、篠宮有紀だった。
「…………なによ」
『やあセラくん、ちょっと君に報告しておくべきことがあってね。少しだけ、時間大丈夫かい?』
「ええ……問題ないわ」
億劫そうに電話に出てやると、すると電話を掛けてきた有紀の要件はどうやら報告のようだった。普段通りの飄々とした調子ながら、僅かに真剣そうな声音を聞く限り……P.C.C.Sというか、神姫とバンディットにまつわる報告だろう。割と真面目な話らしい。
『まずひとつ。当然といえば当然だが、やはりあの謎の神姫については何も分からなかったよ』
「……でしょうね」
『だから、セラくんに新しい任務だ。今までの任務と並行する形で、君の方でも彼女に関しての調査を進めて欲しい。尤も……そう簡単に尻尾を掴ませてくれるような相手ではないだろうが。
まあ、あくまで形式上の話さ。新しく分かったこと、気が付いたことがあれば報告して欲しい……つまりはそれだけだよ』
「それで、二つ目は? あるんでしょう、その口振りだと」
やはり何処か億劫そうな調子のセラの声を聴き、電話口の有紀は『無論だ』といつも通りのニヒルな調子で頷き返し。そうしてから、話を続けていった。
『二つ目だ。また……バンディットの犯行と思しき、幾つかの死体が上がったよ』
――――バンディットの、犯行。
「…………詳しく聞かせて頂戴」
その言葉を聞いた途端、今まで面倒そうに緩んでいたセラの双眸はキッと鋭くなり、寝転がった格好からバッと上体を起こした彼女の顔もまた……至極シリアスな色に塗り変わっていた。
『犯行現場は真夜中、峠の頂上。この峠はドリフトのちょっとした名所でね。毎晩走り屋連中が峠を攻めにやって来るので有名だったんだが……上がった死体というのは、その走り屋連中なんだよ』
「…………」
『運良く逃げ延びた、唯一の目撃者が居てね。その彼が証言するに……峠を攻めている最中、ヒルクライムを終えて仲間たちと頂上に集まり、皆で缶珈琲を飲みながら休憩していたそうだ』
「そこに、バンディットが現れた」
先読みしたセラの言葉を、有紀は『その通りだ』と言って肯定する。
『突然、何の前触れもなく化け物が現れたそうだ。どこからともなく現れたソイツは、腕に生えていた鎌のような刃物で仲間の身体をズタズタに斬り裂いて殺してしまったらしい。尤も、彼自身は仲間が殺されている隙に自分の180SXに飛び乗って逃げられたから、今も五体満足で生きているようだが。
……それで、暗かったからよく見えなかったそうだが。しかし……自分たちに襲い掛かった化け物は、カマキリみたいな見た目の奴だったそうだよ』
――――有紀の説明した状況を整理すると、こんな感じだ。
ある真夜中、走り屋の聖地みたいになっている峠道。その頂上に集まっていた走り屋たちが突然、謎の怪物に襲われた。
その怪物というのは腕に鎌のような刃物を生やしていて、証言した生存者以外の走り屋たちをその鎌で斬り殺してしまったと。真夜中で周囲が真っ暗だった上、混乱しながら逃げるのに必死だったから、細かいところまでは分からないが……しかしその怪物は、カマキリのような見た目をしていたと。
有紀が電話越しにセラへと説明した状況を簡単に整理すると、そういうことだった。
「蜘蛛の次、今度はカマキリか……」
そんな有紀の説明を聞いて、セラが参ったように溜息交じりに呟く。
『とにもかくにも、君の方でも一応警戒しておいてくれたまえ。勿論、ソイツに遭遇次第、君の手で撃滅して貰いたい』
「分かってるわ。……それじゃあ有紀、話が終わったならもう切るわよ。今から少しだけ横になるから」
『おや、珍しい。体調が優れないのかね?』
意外そうな声のトーンで訊き返してくる有紀に、セラは「そんなんじゃない」と面倒くさそうに返し。その後でこう言葉を続けた。
「……ただ、少し考えることが多すぎて、頭がパンクしそうだからよ」
そう言ったのを最後に、セラは一方的に電話を切り、そのままスマートフォンをベッドの上に放り投げた。
すると、また寝転がったセラは……今度はベッドの上で横向きになって小さく丸まり。そして重い瞼を閉じながら、彼女は小さくこんなことを呟いていた。
「…………神姫は、アタシたちだけで十分なのよ」
――――と、何処か悲痛にも聞こえるような呟きを。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる