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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』

Int.22:黒の衝撃/桐生省吾①

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 多少前後し同じ頃、奇妙なことに白井もまた、別の≪ライトニング・ブレイズ≫隊員と校舎内の廊下でバッタリと出くわしていた。
「んお?」
 見慣れない顔だからすれ違いざまに誰かと思ってその≪ライトニング・ブレイズ≫隊員の男の顔をチラリと横目で見ていれば、その視線に気付いた男は間の抜けた声を上げながら立ち止まり、ぽかーんとした顔で白井の方に振り返ってくる。
「……俺の顔に、なんか付いてるっスか?」
 そんな風に物凄く妙な反応をされてしまったものだから、白井も戸惑って立ち止まり。そうして自分もまた男の方に振り返りながら言えば、すると男は「いやいや」とニヤニヤしながら首を横に振る。
「もっしかして君ぃ、A-311小隊のパイロットちゃんかしら?」
「は、はあ」戸惑いながらも頷く白井。「そうっスけど」
「あ、やっぱりぃ? だと思ったんだよねー。この時期に校舎ウロついてるなんざ、やっぱ訓練小隊の関係としか思えなかったのよさ」
 なはは、なんてお気楽に笑う男の反応がイマイチ気に掛かり、白井はまだまだ困惑の色を濃くしたままで「……そういうアンタは?」と逆に訊いてみた。
「あ、俺?」すると、男はパーマっぽい茶髪のロン毛をゆさゆさと揺らしながら、待ってましたと言わんばかりな反応をする。
「俺、桐生省吾きりゅう しょうご。昨日の夜に君らの前へ颯爽登場した≪ライトニング・ブレイズ≫の斬り込み隊長ね。一応中尉階級だけど、まあンな細かいコト気にしなくて良いからっさ」
「≪ライトニング・ブレイズ≫……」
 昨日の特殊部隊だ、と白井は此処に来て漸く気が付いた。昨日は完全に錯乱していたからあの後の記憶はどうにも薄いのだが、突然降ってきた黒い四機のTAMSに小隊が窮地を救われたことは覚えている。確か降ってきたその特殊部隊の名が、今この男が言った≪ライトニング・ブレイズ≫だったはずだ。
「昨日はどうも。あんま覚えてないけど、助けられた覚えはあるっスよ」
 合点がいった白井が礼を言えば、すると男――省吾は「気にしない、気にしなーい!」と、大声でガハハと笑いながら白井と肩なんか組んでくる。
 そんな省吾の風貌は、有り体に言ってかなりチャラい雰囲気だった。ブライアン・メイを彷彿とさせるようなパーマっぽいくりくりに縮れた茶髪のロン毛をだらしなく垂らしていて、顔立ちは整っている方だがやはりチャラそうな雰囲気がどうにも滲み出ている。体格は180cm手前ぐらいと白井より少し大きく、≪ライトニング・ブレイズ≫の部隊章が縫い付けられたフライト・ジャケットを羽織った格好をしていた。
「……それより、君が?」
 と、そうした折に省吾は唐突に声のトーンを低く、語気をシリアスな色にガラリと変えてくるものだから、白井は思わず「えっ?」と戸惑ってしまう。
「いや、色々と話には聞いてるのよ。……幼馴染みだかを亡くした奴が一人居るって、そう聞いてるからさ」
「……っ」
 ――――まどかの、まあちゃんのことか。
 俯いた白井が言葉を詰まらせれば、その反応から大体を察した省吾は「やっぱね」と察するみたいに頷いて、
「ンな俺で良かったらさ、話ぐらい聞かせてくれよ」
「……わざわざ、桐生さんに話すことだなんて」
「省吾でいいよ」再びニッと笑いながら、省吾が言う。
「こういう時はさ、地蔵にでも話しとくのが一番なのよ。どうせ殆ど見ず知らずの俺なら、愚痴聞き地蔵ぐらいにはなれるだろ?」
 こんなチャラついたノリなのに、しかし肩を組んだまま小さく見下ろしてくる省吾の笑顔を向けられていると、まるで古い付き合いの兄貴分に引っ張られているような、何故かそんな錯覚を白井は覚えてしまっていた。
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