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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』
Int.08:黒の衝撃/飛焔、圧倒的な力⑧
しおりを挟む 愛美の撃墜した≪ヴァンガード≫を最後に、自分を残し味方が全て≪ライトニング・ブレイズ≫に撃墜されたことは、尚も雅人のJS-16G≪飛焔≫と剣を交え続けていたマスター・エイジも知るところだった。
『……思ったより、長持ちはしませんでしたね』
元々そんなに大した連中を引き連れて来たワケではないから、殲滅されるのは最初から織り込み済みだ。しかしここまでの速さで全滅するのはマスター・エイジにとっても予想外というか、完全に想定外だった。
『彼らの介入は、些かイレギュラーが過ぎていたということでしょうか』
眼前で身構える漆黒の≪飛焔≫の機影をシームレス・モニタ越しに見据えながら、マスター・エイジがひとりごちる。その肩に描かれた、雷光と焔を模る部隊章に視線を行かせながら。
『死神部隊、噂には聞いていましたが。噂以上の手練れのようですね、これは』
黒い≪飛焔≫の左腕アーム・ガトリングから飛んでくる25mm徹甲砲弾を自身の蒼い≪飛焔≫に横っ飛びに避けさせつつ、マスター・エイジがまた独り言みたく呟く。
(どちらにせよ、この辺りが分水嶺ですか)
内心でそう思いながらも、しかしマスター・エイジは再び自身の蒼い≪飛焔≫が持つ対艦刀で、相対する漆黒の≪飛焔≫の刃と斬り結ぶ。もう少しだけ、こうして奴と剣を交えていたいというのが本音だった。
『ですが、退き際を見誤るワケにはいきません』
と、マスター・エイジは諦めるような独り言を呟くと。斬り結んだ格好のまま大きく後方に飛び退いて、手にしていた対艦刀を左腰のハードポイントへと戻してしまう。
「……何のつもりだ」
右腕側のアーム・ガトリングを展開し追撃の構えを取りつつ、警戒するような声音で雅人が言う。すると、
『逃げるつもりです』
ニッと小さな笑みを浮かべれば、マスター・エイジは自身の≪飛焔≫が両肩に取り付けたスモーク・ディスチャージャーを発射させた。
「っ!?」
一瞬にして目の前、蒼い≪飛焔≫の周囲が白い煙に包まれたものだから、雅人がほんの少しだけ狼狽える。
「逃がすか!」
しかし雅人は此処でマスター・エイジを逃がすまいと、対艦刀を左手に持ち替えさせ右腕のアーム・ガトリングを白煙の中目掛けて当てずっぽうに撃ちまくった。
目の前で炊かれたスモークはただのスモークでなく、センサー攪乱用の対レーダー・スモークなものだから、雅人の≪飛焔≫は白煙の中にマスター・エイジの蒼い≪飛焔≫の確かな居場所を掴んでいるワケじゃない。だから今はとにかく逃がすまいと、当てずっぽうに撃ちまくっているのだ。
アーム・ガトリングの回転する砲身から撃ち放たれる25mm口径徹甲砲弾が白い煙を引き裂き、その中へと殺到していく。しかし幾ら撃っても手応えは得られず、雅人は苛立ちからか唇の端を小さく噛んだ。
「チッ……!!」
ともすれば、黒い≪飛焔≫の音響センサーが捉えるのは、雷鳴にも似たジェット・エンジンの稼働音だ。間違いなくマスター・エイジはあの煙の中でフライト・ユニットの翼を広げ、今まさに逃走を図ろうとしている……!
だが、迂闊に煙の中へ突入するワケにもいかない。煙に巻かれてマスター・エイジの居場所を見失ってしまえば、それこそ奴の思う壺だ。
(手詰まり、か)
今の状況を鑑み、雅人は内心で冷静な判断を下していた。
恐らくはマスター・エイジ、最初から適当なタイミングで離脱する腹づもりだったのだろう。自分たち≪ライトニング・ブレイズ≫の介入は奴にとって完全なイレギュラーではあっただろうが、しかし元の計画には変わりないはずだ。
『それでは死神の諸君、ごきげんよう。いずれまた、何処かで逢えれば幸いです』
とした時にそんな声がオープン回線で聞こえれば、白い煙の中から飛び出す銀翼の姿を雅人は≪飛焔≫の真っ赤なカメラ・アイ越しに見ていた。
天高く飛び上がるそのフライト・ユニットを背負った蒼い背中に向かい、雅人は逃がすまいとアーム・ガトリングを展開した右腕を突き立てる。しかしフライト・ユニットの全開出力は追い切れず、すぐにマスター・エイジの≪飛焔≫はアーム・ガトリングの射程範囲外へと遠ざかっていってしまう。
「……チッ」
天高く飛び往く蒼い機影を一瞥しながら、雅人は小さく舌を打つと≪飛焔≫の右腕を下ろす。そうしてアーム・ガトリングのカヴァーを閉じていれば、丁度そのタイミングで、漸く省吾の≪閃電≫が傍に着地し合流してきた。
『ありゃ? もう終わっちゃってたり?』
「……逃げられたよ、アイツには」
『あらら、そりゃ残念』
おどけるように大袈裟なジェスチャーをするそんな省吾に「そっちは片付いたのか?」と雅人が訊くと、
『んー、そろそろ愛美ちゃんも全部平らげた頃じゃねーの? 俺とクレアちゃんの取り分は全部片付いちまったし』
「そうか……」
省吾の報告を聞き、雅人が小さく息をつく。
『――――ブレイズ・シードよりブレイズ全機へ、作戦区域内の敵機掃討を確認しました。撃墜・六、離脱・一。周囲に他の脅威は認められません。作戦終了、お疲れ様でした』
とした時に飛び込んで来る通信は、中隊付けCPオフィサーの星宮・サラ・ミューアの報告だ。
「ブレイズ01、了解」
作戦終了を告げる報告に雅人が短く頷けば、夜闇に包まれる街には漸くの静寂が訪れようとしていた。
『……思ったより、長持ちはしませんでしたね』
元々そんなに大した連中を引き連れて来たワケではないから、殲滅されるのは最初から織り込み済みだ。しかしここまでの速さで全滅するのはマスター・エイジにとっても予想外というか、完全に想定外だった。
『彼らの介入は、些かイレギュラーが過ぎていたということでしょうか』
眼前で身構える漆黒の≪飛焔≫の機影をシームレス・モニタ越しに見据えながら、マスター・エイジがひとりごちる。その肩に描かれた、雷光と焔を模る部隊章に視線を行かせながら。
『死神部隊、噂には聞いていましたが。噂以上の手練れのようですね、これは』
黒い≪飛焔≫の左腕アーム・ガトリングから飛んでくる25mm徹甲砲弾を自身の蒼い≪飛焔≫に横っ飛びに避けさせつつ、マスター・エイジがまた独り言みたく呟く。
(どちらにせよ、この辺りが分水嶺ですか)
内心でそう思いながらも、しかしマスター・エイジは再び自身の蒼い≪飛焔≫が持つ対艦刀で、相対する漆黒の≪飛焔≫の刃と斬り結ぶ。もう少しだけ、こうして奴と剣を交えていたいというのが本音だった。
『ですが、退き際を見誤るワケにはいきません』
と、マスター・エイジは諦めるような独り言を呟くと。斬り結んだ格好のまま大きく後方に飛び退いて、手にしていた対艦刀を左腰のハードポイントへと戻してしまう。
「……何のつもりだ」
右腕側のアーム・ガトリングを展開し追撃の構えを取りつつ、警戒するような声音で雅人が言う。すると、
『逃げるつもりです』
ニッと小さな笑みを浮かべれば、マスター・エイジは自身の≪飛焔≫が両肩に取り付けたスモーク・ディスチャージャーを発射させた。
「っ!?」
一瞬にして目の前、蒼い≪飛焔≫の周囲が白い煙に包まれたものだから、雅人がほんの少しだけ狼狽える。
「逃がすか!」
しかし雅人は此処でマスター・エイジを逃がすまいと、対艦刀を左手に持ち替えさせ右腕のアーム・ガトリングを白煙の中目掛けて当てずっぽうに撃ちまくった。
目の前で炊かれたスモークはただのスモークでなく、センサー攪乱用の対レーダー・スモークなものだから、雅人の≪飛焔≫は白煙の中にマスター・エイジの蒼い≪飛焔≫の確かな居場所を掴んでいるワケじゃない。だから今はとにかく逃がすまいと、当てずっぽうに撃ちまくっているのだ。
アーム・ガトリングの回転する砲身から撃ち放たれる25mm口径徹甲砲弾が白い煙を引き裂き、その中へと殺到していく。しかし幾ら撃っても手応えは得られず、雅人は苛立ちからか唇の端を小さく噛んだ。
「チッ……!!」
ともすれば、黒い≪飛焔≫の音響センサーが捉えるのは、雷鳴にも似たジェット・エンジンの稼働音だ。間違いなくマスター・エイジはあの煙の中でフライト・ユニットの翼を広げ、今まさに逃走を図ろうとしている……!
だが、迂闊に煙の中へ突入するワケにもいかない。煙に巻かれてマスター・エイジの居場所を見失ってしまえば、それこそ奴の思う壺だ。
(手詰まり、か)
今の状況を鑑み、雅人は内心で冷静な判断を下していた。
恐らくはマスター・エイジ、最初から適当なタイミングで離脱する腹づもりだったのだろう。自分たち≪ライトニング・ブレイズ≫の介入は奴にとって完全なイレギュラーではあっただろうが、しかし元の計画には変わりないはずだ。
『それでは死神の諸君、ごきげんよう。いずれまた、何処かで逢えれば幸いです』
とした時にそんな声がオープン回線で聞こえれば、白い煙の中から飛び出す銀翼の姿を雅人は≪飛焔≫の真っ赤なカメラ・アイ越しに見ていた。
天高く飛び上がるそのフライト・ユニットを背負った蒼い背中に向かい、雅人は逃がすまいとアーム・ガトリングを展開した右腕を突き立てる。しかしフライト・ユニットの全開出力は追い切れず、すぐにマスター・エイジの≪飛焔≫はアーム・ガトリングの射程範囲外へと遠ざかっていってしまう。
「……チッ」
天高く飛び往く蒼い機影を一瞥しながら、雅人は小さく舌を打つと≪飛焔≫の右腕を下ろす。そうしてアーム・ガトリングのカヴァーを閉じていれば、丁度そのタイミングで、漸く省吾の≪閃電≫が傍に着地し合流してきた。
『ありゃ? もう終わっちゃってたり?』
「……逃げられたよ、アイツには」
『あらら、そりゃ残念』
おどけるように大袈裟なジェスチャーをするそんな省吾に「そっちは片付いたのか?」と雅人が訊くと、
『んー、そろそろ愛美ちゃんも全部平らげた頃じゃねーの? 俺とクレアちゃんの取り分は全部片付いちまったし』
「そうか……」
省吾の報告を聞き、雅人が小さく息をつく。
『――――ブレイズ・シードよりブレイズ全機へ、作戦区域内の敵機掃討を確認しました。撃墜・六、離脱・一。周囲に他の脅威は認められません。作戦終了、お疲れ様でした』
とした時に飛び込んで来る通信は、中隊付けCPオフィサーの星宮・サラ・ミューアの報告だ。
「ブレイズ01、了解」
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