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第四章『ファースト・ブラッド/A-311小隊、やがて少年たちは戦火の中へ』

Int.73:ファースト・ブラッド/吉川ジャンクション迎撃戦・Phase-2③

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『前衛各機、着剣用意』
 錦戸はそう告げながら、自機もまた左腰の対艦刀を抜き放ち、右手マニピュレータの片手のみで構える。左手には、銃剣の付いた93式突撃機関砲が握られていた。
「ちょっと待ってくださいよ、教官! 着剣って……!」
『グダグダ抜かしてる暇、あるかよ!』
 着剣の指示に狼狽する国崎の言葉も半ばに、一真はそれを無理矢理制しつつ、自分も両手マニピュレータに対艦刀を構えた。すぐ傍に設置されている補給モジュール・コンテナから補給したもので、両腰の予備ハードポイントには、予備でもう二本ほどの対艦刀をぶら下げている。背中のサブ・アームの両方にマウントするのは、やはり突撃散弾砲だ。
『確かに、この状況なら下手に砲撃戦をした方が、不利っぽいわよね』
 尚も狼狽し続ける国崎の横で、先んじてここまで退いていたステラ機もまた、両手で00式近接格闘短刀を逆手に握り直していた。背中の突撃機関砲は、新しい物に交換済みで、弾倉の補給も済んでいる。
「しかし、レーヴェンス! アーチャーが残ってる中で接近などしたら……!」
『――――いや、そうとも限らぬ』
 国崎の言葉を遮るように、横から口を挟んできたのは瀬那だった。彼女もまた右手の突撃機関砲――グレネイド・ランチャーが付いていた方を足元に棄てていて、補給モジュールから引っ張り出した対艦刀を右手に握っている。左手側の銃剣突き突撃機関砲は、相変わらずだ。
『そうだね。アーチャーが大量に残ってるなら、接近戦を仕掛けた方が却って効果的だ』
 続けてそう言うエマも、同様に補給モジュールから出した対艦刀を左手に、そして右手側には93B式支援重機関砲を握り締めている。
 不敵な笑みを浮かべるエマから滲み出る異様な説得力は、彼女が世界最大の激戦区、熾烈な欧州戦線を戦い抜いてきたエース・パイロットが故だろうか。尤も、彼女が実戦経験者であることを、国崎は知る由もないのだが……。
『乱戦状況なら、敵がそのまま盾になる。上手くアーチャーの射線を乱せれば、同士討ちも狙えるからね。それに、アーチャーのマシーン・ガンを多少喰らったところで、TAMSの装甲はビクともしないよ』
「そ、そう、なのか……?」
 戸惑いながらの国崎がそう問えば、エマは『うん』と微笑しながら、小さく頷き返してみせた。
『まあ、緊張する気持ちも分かるけどね。僕も、最初は君と同じような感じだったから』
「……想像できないな、今のアジャーニからだと」
『でも、最初は皆そんなものさ』
 ニコッと小さな柔らかい笑みを浮かべながらエマにそう言われれば、国崎もフッと軽い笑みを返し。そうしながら「……分かった」と頷くと、
「こうなってしまった以上は、俺も覚悟を決めよう……。どのみち、奴らを屠らなければ、俺たちが死ぬまでのことだ」
 半分独り言のようにそう呟きながら、国崎は漸く左手マニピュレータで対艦刀を抜き放つ。突撃機関砲は相変わらず右手に持ったままで、左肩に担いでいた対殻ロケット砲は、既に錦戸の撤退支援の際に使ってしまっていた。
『あら♪ やーっとやる気になってくれたのねぇ、国崎くんったら♪』
 そうすると、そんなことを言いながら一歩前へと踏み出してくるのは美桜と、そして彼女の駆るダークグレー塗装のJS-1Z≪神武・弐型≫だ。
『ならぁ、先陣は私が切らせて貰おうかしら。宜しいですよね、錦戸教官?』
『え、ええ。哀川さんがそう仰るなら、構いませんが』
 いつも通りの調子で、しかも軽いウィンクなんか交えつつ美桜はそう言うものだから、錦戸は戸惑いながらそう頷き。その後で、
『……しかし、貴女は中衛遊撃。やはり、前衛の我々に任せて貰った方が』
『いいんですよぉ♪』しかし、美桜はそんな錦戸の言葉を、たった一言で一蹴する。
『私ったら後方で引きこもってばっかりだったし、ステラちゃんとカズマくん助けに行くのも、二人に任せっきりでしたからね。損耗度合いで言えば、一番軽いんですよぉ、私って♪』
 そう言えば、錦戸は『……ううむ』と唸り、
『……分かりました。貴女にお任せしましょう、哀川さん』
『やったぁ♪ ありがとうございます、教官♪』
 錦戸の許可を得れば、美桜は口ではそんな風に喜びつつも、しかし両手マニピュレータが握る93式突撃機関砲、その下部に吊した銃剣を鈍く光らせる。
 それに加えて、美桜の≪神武・弐型≫は腰に対艦刀を二本、背中のサブ・アームに一真機が使っていたのと同じ88式75mm突撃散弾砲を二挺も懸架しているのだ。これだけ見れば中衛というより、完全に前衛の斬り込み隊長役の装備にしか見えない。
 そういう意味で、美桜の装備は突撃戦に適していた。損耗率と疲労度を鑑みると、確かに美桜以上に先陣を切るのに適した者は存在しない。だからこそ、錦戸も彼女が斬り込み役を担うのを認めたのだろう。
『――――スカウト1よりヴァイパー各機、お客さんのお出ましだ。残り六十秒で敵の残存戦力が森から出る。かなりの数だ、気を付けろよ』
『ヴァイパー01、了解しました。――――少佐、宜しいですね?』
 最終確認めいた錦戸の言葉に、西條から『無論だ』と頷く声が飛んでくる。
『承知しました。ならば、是が非にでも平らげてみせましょう』
 ニッと小さな笑みを浮かべながら、錦戸が頷き返す。そんな錦戸の顔付きは、普段見るあの好々爺めいた温和な顔付きのままだった。
『残り、およそ三十秒! ――――さあ、敵のお出ましだ!』
 とすれば、飛んでくるそんなスカウト1の報告に『了解です』と錦戸は頷けば、
『ヴァイパー01より各機、参るとしましょう。――――全機、突撃掃討戦用意ッ!!』
 錦戸が右手の対艦刀を構えれば、『ヴァイパー02、了解! ――――やってやろうぜ』と、それに呼応するのは一真だ。ニッと不敵な笑みを浮かべながら、彼もまた、両手に握り締める一対の対艦刀を握り直す。
『03、承知した』
『ヴァイパー04、了解ウィルコ。借りは返させて貰うわ、ペイバック・タイムよっ!』
『ヴァイパー05、同じく了解。ステラ、意気込むのも良いけれど、空回りしないようにね』
『エマ、アンタに言われんでも分かってるわよっ!』
 何故か顔を真っ赤にしたステラに凄い剣幕で言い返され、エマは『あははっ』と笑う。
「……09、了解」
 そうして次に国崎がそう頷くと、『あらあら♪』とこちらに機体の首を振り向かせるのは、やはり美桜だ。
『大丈夫よぉ♪ 国崎くんの面倒は、私が見てあげるから♪』
「哀川……っ! お、お前に面倒を見られるまでもないわっ!」
『はいはい、頑固さんねぇ♪ ――――ヴァイパー10、了解。腕が鳴るわね♪』
 そうしていれば、遂に敵の軍勢が彼女らの前に姿を現す。
『――――来た!』
 スカウト1の声に呼応するように、森から飛び出してくるのは赤茶色に染め上がった大地――いや、凄まじい量の軍勢だった。
 ゴルフ場の木をなぎ倒し、大地を、田畑を踏み荒らし、迫ってくる軍勢。その中にハーミット種の姿は無かったが、しかし大多数のアーチャーとグラップル、それに小型のソルジャー種がまだ、五体満足でその軍勢の中に混ざっている。
『お出ましですか……! ――――ヴァイパー各機、メイン・ディッシュの到着ですッ!』
 錦戸がそう告げれば、少しだけ弛緩していた空気は、自然とまた引き締まっていく。群がるあの軍勢に、誰もが圧倒されていた。
『さて、参りましょうか……! 全機、突撃――――ッッ!!』
 そう叫び、号令を告げれば。錦戸と、続けて美桜機が大地を蹴り、突撃を開始。背中のメイン・スラスタを出力最大で吹かし、弾丸のような速度で地を這い、敵陣の中へと斬り込んでいった――――!!
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