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第二章『セカンド・イグニッション/金狼の少女』
Int.06:二人目の来訪者、巴里より愛を込めて①
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「――――噂のクラス代表さん、居るかな?」
普段と変わらぬ何処か気怠い一週間の幕開け、月曜日の空気が一真にとって一変したのは朝も早々。A組の教室の出入り口から聞こえてくる、そんな聞き慣れぬ女の声が飛び込んで来たのが、全ての始まりだった。
「えっ、一真さんのことですかぁ?」
半開きになったドアの向こう、廊下にチラチラと見えるプラチナ・ブロンドの髪をした声の主に、たまたま近くに居た美弥が対応する。
「カズマ……? ああ、そうだね。カズマ・ミロクジくんだ。居る?」
「あ、はい。居ますけど……。御用ですか?」
「まあ、そんなところだね。出来れば呼んで来て貰えると、僕も嬉しいな」
「はいっ、分かりましたぁ。すぐ呼んで来るんで、待っててくださいねぇ」
ともしたやり取りを交わした後で、美弥がとことこと一真の方に歩いてくる。たまたま一真もその話が聞こえてきてしまったので美弥が来るのを席に脚を組んで座りながら眺めていたが、相変わらずのひょこひょこした歩き方はやはり小動物のようだ。背丈がやたらと小っさいもんだから、余計にそう見える。
「おう美弥、俺に何か用事だって?」
「はいっ」一真の近くまで歩いてきた美弥が、元気よく頷く。
「なんか、一真さんに用事みたいです。綺麗な金髪の人でしたよぉ」
「金髪、金髪ねえ……」
なんとなく、思い当たる節がアリアリだ。
「一真よ、其方の知り合いか?」
としていると、今まで他愛のないことを話していた後席の瀬那が首を傾げて言う。それに一真は「いんや」と首を横に振り、
「俺の知り合いじゃないって。――――が、なんとなく予想は付いた。とにかく行ってくるわ。話の腰折っちまって悪いな、瀬那」
一言詫びながら、一真が席を立つ。「気にするでない」という瀬那の言葉を背中越しに耳へ挟みつつ、一真は美弥に先導されながら例の金髪ちゃんの方へと歩いて行った。
「あっ、一真さん連れて来ましたよぉ!」
声を掛けながら、美弥が教室の引き戸を開ける。それに続いて一真も廊下へ出ると、そこに立っていたのは――――。
「――――へえ、君が噂のA組クラス代表さんか」
何もかもを見透かしてしまうみたいにクールな顔付きをした、白く透き通りすぎる肌をした少女だった。
美弥の言った通り、髪は混じりっ気なし、正真正銘本物の金糸みたいなプラチナ・ブロンドだ。比較的短めに切り揃えた糸のようにきめ細かい髪が、廊下の窓から差し込む日差しを透かしながら、吹き込む微風に穂先を揺らしている。アイオライトのような蒼をした瞳はじっと一真を一点に見据えたまま、捉えて放そうとしない。
「……ああ、弥勒寺一真。知っての通りだろうけども」
背中の向こう側までをも見透かすような視線に一真は少しばかり警戒の念を抱きつつ、慎重に口を開く。目の前に立つこの金髪の少女は瀬那やステラと同じ士官学校の女子用制服を着ているから辛うじてここの訓練生だと分かるが、しかしあまりに白い肌やそのプラチナ・ブロンドの髪は、明らかに己と同種の人間ではない。
(やっぱり、噂のもう一人の交換留学生か……)
「ああ、悪かったね。警戒させてしまったのなら謝るよ。
――――僕はエマ、エマ・アジャーニ。出身はフランス。噂には多分聞いたことあると思うけど、欧州連合軍からの交換留学生だよ。一応、C組の代表やらせて貰ってる」
一真がそう思った途端、フッと表情を緩めたその少女は自身をそう、エマ・アジャーニと名乗った。
「やっぱり、か。それじゃあ、ミス・アジャーニ?」
「よそよそしいし、僕のことはエマでいいよ、カズマ」
先程とは裏腹に表情を柔らかく綻ばせながら、彼女――エマに口を挟まれる一真。
「じゃあ、エマよ。敵情偵察ってワケかい?」
「うーん、それもあるけど。どっちかっていうと、単純に気になったからかな?」
「気になった? 俺をか?」
「うん」一真の方に一歩近寄りながら、エマが肯定する。「あのステラ・レーヴェンスに勝ったって男に、僕も興味があってね」
「そりゃ光栄。つっても、遅かれ早かれ君とは戦うことになるがね」
「だから、さ」もう一歩を一真の方に近寄らせながら、もう一度エマが頷いた。
「折角こうして戦える機会が出来たんだ。お互いのことを少しぐらい知ってからの方が、良いと思ってね」
「ま、一理あるな」
「それにしても……」
かと思えば、手を伸ばしたエマが突然、一真の顎先にスッと指を触れさせるものだから、驚いて一真は思わず固まってしまう。
「あのステラに勝っちゃうなんて、君は何者なんだい?」
「……何者も何も、ただのしがない訓練生さ。少しばかり知識のある、ミリタリー・マニアのな」
「ふーん……?」
一真の顎先に指を触れさせながら、蒼い瞳で彼の顔を見上げるエマが小さく首を傾げる。なんだか後ろで美弥が「はわわわわ……!」なんていつもの慌てる反応を示している気がするが、今はそれどころじゃない。
「――――カーズマっ! って、あれ? エマじゃない。どうしたのこんなトコで?」
なんてやり取りをしていると、廊下を歩いてきたステラが背中から一真に飛びつこうとして、しかしエマも居ることに気付くときょとんとした顔を浮かべてそう言った。
「やあ、ステラ。奇遇だね」
「ステラ、彼女とは知り合いなのか?」
「え? あー、うん」困惑する一真の言葉に、ステラが肯定する。
「同じ交換留学生だからね。今期には僕とステラの二人しか居ないし、だから自然とね」
スッと一真からさりげなく一歩引いたエマが代わりに説明すると、「そういうこと。全部エマに言われちゃった」と、一真の横に回ったステラも頷いた。
「そういうエマは、カズマと知り合い?」
エマは「ううん」と首を横に振り、
「ついさっき、初めて顔合わせしたところ。どうやらお互い決勝でぶつかりそうだから、今の内にステラを倒したっていう彼の顔を、拝んでおきたくてね」
「ふーん? にしては、随分と近かったけどね、アンタたち」
ニヤニヤと何か意味深なことを言い出すステラに「そんなんじゃないよ」とエマも半笑いで言葉を返す。
「――――っと、もうこんな時間か。HR近いし、僕は教室に戻るね。カズマ、また後で逢えるかな?」
「勿論だ」腕に巻いた細身の時計をチラリと見たエマの言葉に、二つ返事で肯定する一真。
「俺は決勝まで出る。君と戦うのが楽しみだ」
「僕もだよ。試合を見ている限り、君は中々にやり手っぽいしね」
「確か、エマの試合は今週よね?」
そんなステラの言葉に、エマが「うん」と肯定する。
「相手はB組。カズマに、それにステラも。良かったら見に来てくれると僕も嬉しいな」
「暇があれば、だけどな。出来る限りは見に行くように心がけておくぜ」
と一真が言うのと同じくして、HR開始五分前を告げる予鈴が鳴り響いた。
「おっと、もうこれ以上は時間が許してくれないみたいだね。じゃあカズマ、それにステラも。また後で」
「ああ」
「エマ、また後でねー」
C組の教室の方へ立ち去っていくエマの背中を見送った後で、一真とステラもA組の教室に戻っていった。
普段と変わらぬ何処か気怠い一週間の幕開け、月曜日の空気が一真にとって一変したのは朝も早々。A組の教室の出入り口から聞こえてくる、そんな聞き慣れぬ女の声が飛び込んで来たのが、全ての始まりだった。
「えっ、一真さんのことですかぁ?」
半開きになったドアの向こう、廊下にチラチラと見えるプラチナ・ブロンドの髪をした声の主に、たまたま近くに居た美弥が対応する。
「カズマ……? ああ、そうだね。カズマ・ミロクジくんだ。居る?」
「あ、はい。居ますけど……。御用ですか?」
「まあ、そんなところだね。出来れば呼んで来て貰えると、僕も嬉しいな」
「はいっ、分かりましたぁ。すぐ呼んで来るんで、待っててくださいねぇ」
ともしたやり取りを交わした後で、美弥がとことこと一真の方に歩いてくる。たまたま一真もその話が聞こえてきてしまったので美弥が来るのを席に脚を組んで座りながら眺めていたが、相変わらずのひょこひょこした歩き方はやはり小動物のようだ。背丈がやたらと小っさいもんだから、余計にそう見える。
「おう美弥、俺に何か用事だって?」
「はいっ」一真の近くまで歩いてきた美弥が、元気よく頷く。
「なんか、一真さんに用事みたいです。綺麗な金髪の人でしたよぉ」
「金髪、金髪ねえ……」
なんとなく、思い当たる節がアリアリだ。
「一真よ、其方の知り合いか?」
としていると、今まで他愛のないことを話していた後席の瀬那が首を傾げて言う。それに一真は「いんや」と首を横に振り、
「俺の知り合いじゃないって。――――が、なんとなく予想は付いた。とにかく行ってくるわ。話の腰折っちまって悪いな、瀬那」
一言詫びながら、一真が席を立つ。「気にするでない」という瀬那の言葉を背中越しに耳へ挟みつつ、一真は美弥に先導されながら例の金髪ちゃんの方へと歩いて行った。
「あっ、一真さん連れて来ましたよぉ!」
声を掛けながら、美弥が教室の引き戸を開ける。それに続いて一真も廊下へ出ると、そこに立っていたのは――――。
「――――へえ、君が噂のA組クラス代表さんか」
何もかもを見透かしてしまうみたいにクールな顔付きをした、白く透き通りすぎる肌をした少女だった。
美弥の言った通り、髪は混じりっ気なし、正真正銘本物の金糸みたいなプラチナ・ブロンドだ。比較的短めに切り揃えた糸のようにきめ細かい髪が、廊下の窓から差し込む日差しを透かしながら、吹き込む微風に穂先を揺らしている。アイオライトのような蒼をした瞳はじっと一真を一点に見据えたまま、捉えて放そうとしない。
「……ああ、弥勒寺一真。知っての通りだろうけども」
背中の向こう側までをも見透かすような視線に一真は少しばかり警戒の念を抱きつつ、慎重に口を開く。目の前に立つこの金髪の少女は瀬那やステラと同じ士官学校の女子用制服を着ているから辛うじてここの訓練生だと分かるが、しかしあまりに白い肌やそのプラチナ・ブロンドの髪は、明らかに己と同種の人間ではない。
(やっぱり、噂のもう一人の交換留学生か……)
「ああ、悪かったね。警戒させてしまったのなら謝るよ。
――――僕はエマ、エマ・アジャーニ。出身はフランス。噂には多分聞いたことあると思うけど、欧州連合軍からの交換留学生だよ。一応、C組の代表やらせて貰ってる」
一真がそう思った途端、フッと表情を緩めたその少女は自身をそう、エマ・アジャーニと名乗った。
「やっぱり、か。それじゃあ、ミス・アジャーニ?」
「よそよそしいし、僕のことはエマでいいよ、カズマ」
先程とは裏腹に表情を柔らかく綻ばせながら、彼女――エマに口を挟まれる一真。
「じゃあ、エマよ。敵情偵察ってワケかい?」
「うーん、それもあるけど。どっちかっていうと、単純に気になったからかな?」
「気になった? 俺をか?」
「うん」一真の方に一歩近寄りながら、エマが肯定する。「あのステラ・レーヴェンスに勝ったって男に、僕も興味があってね」
「そりゃ光栄。つっても、遅かれ早かれ君とは戦うことになるがね」
「だから、さ」もう一歩を一真の方に近寄らせながら、もう一度エマが頷いた。
「折角こうして戦える機会が出来たんだ。お互いのことを少しぐらい知ってからの方が、良いと思ってね」
「ま、一理あるな」
「それにしても……」
かと思えば、手を伸ばしたエマが突然、一真の顎先にスッと指を触れさせるものだから、驚いて一真は思わず固まってしまう。
「あのステラに勝っちゃうなんて、君は何者なんだい?」
「……何者も何も、ただのしがない訓練生さ。少しばかり知識のある、ミリタリー・マニアのな」
「ふーん……?」
一真の顎先に指を触れさせながら、蒼い瞳で彼の顔を見上げるエマが小さく首を傾げる。なんだか後ろで美弥が「はわわわわ……!」なんていつもの慌てる反応を示している気がするが、今はそれどころじゃない。
「――――カーズマっ! って、あれ? エマじゃない。どうしたのこんなトコで?」
なんてやり取りをしていると、廊下を歩いてきたステラが背中から一真に飛びつこうとして、しかしエマも居ることに気付くときょとんとした顔を浮かべてそう言った。
「やあ、ステラ。奇遇だね」
「ステラ、彼女とは知り合いなのか?」
「え? あー、うん」困惑する一真の言葉に、ステラが肯定する。
「同じ交換留学生だからね。今期には僕とステラの二人しか居ないし、だから自然とね」
スッと一真からさりげなく一歩引いたエマが代わりに説明すると、「そういうこと。全部エマに言われちゃった」と、一真の横に回ったステラも頷いた。
「そういうエマは、カズマと知り合い?」
エマは「ううん」と首を横に振り、
「ついさっき、初めて顔合わせしたところ。どうやらお互い決勝でぶつかりそうだから、今の内にステラを倒したっていう彼の顔を、拝んでおきたくてね」
「ふーん? にしては、随分と近かったけどね、アンタたち」
ニヤニヤと何か意味深なことを言い出すステラに「そんなんじゃないよ」とエマも半笑いで言葉を返す。
「――――っと、もうこんな時間か。HR近いし、僕は教室に戻るね。カズマ、また後で逢えるかな?」
「勿論だ」腕に巻いた細身の時計をチラリと見たエマの言葉に、二つ返事で肯定する一真。
「俺は決勝まで出る。君と戦うのが楽しみだ」
「僕もだよ。試合を見ている限り、君は中々にやり手っぽいしね」
「確か、エマの試合は今週よね?」
そんなステラの言葉に、エマが「うん」と肯定する。
「相手はB組。カズマに、それにステラも。良かったら見に来てくれると僕も嬉しいな」
「暇があれば、だけどな。出来る限りは見に行くように心がけておくぜ」
と一真が言うのと同じくして、HR開始五分前を告げる予鈴が鳴り響いた。
「おっと、もうこれ以上は時間が許してくれないみたいだね。じゃあカズマ、それにステラも。また後で」
「ああ」
「エマ、また後でねー」
C組の教室の方へ立ち去っていくエマの背中を見送った後で、一真とステラもA組の教室に戻っていった。
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