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第七章『ティアーズ・イン・ヘヴン/復讐は雨のように』

Int.25:淡路島奪還作戦・Phase-1/ランディング・アプローチ

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 ――2017年 10月21日 淡路島北東部・旧淡路市沿岸 1514時――

 砲火と爆裂、地響きを伴い曇天の下に響き渡る中、孤島は再び戦火に焼かれる運命を辿る。
 米軍のB-1B"ランサー"、及びB-52H戦略爆撃機による先行爆撃実施を皮切りとして、日本国防軍、在日米軍、そして国連軍の上陸部隊が島を目指し大挙して押し寄せていく。
 洋上の強襲揚陸艦から発進した兵員輸送車には完全武装の歩兵がすし詰めになり、そしてホバークラフトには戦車とTAMSたちが積まれ、その脚で再び淡路の地を踏む瞬間を今か今かと待ち望んでいる。青々としながらも荒く波を立てる瀬戸内海を全て埋め尽くさんばかりの数と勢いで、上陸部隊が島に迫る。
 勿論、それを察知した敵――幻魔たちの方もまた、主にアーチャー種を初めとした飛び道具持ちが洋上の上陸部隊へ向け応戦を始めていた。だが放たれる飛び道具のその大半は、彼らの目を逸らす為の陽動として撃ち込まれる砲撃に向いてしまっている。神戸などに展開した特科の野砲とMLRS、そして洋上の国防海軍の新ヤマト型の大型強襲戦艦と、そして米軍のアイオワ級戦艦ミズーリの主砲による飽和攻撃だった。
 陽動の砲撃が絶え間なく行われているからか、上陸部隊はその損害を比較的少なく――しかし多少の被害を受けながらも、順調に海岸線へ向けて距離を詰めている。
 そんな彼らの上を低空、或いは高空で飛んでいくのは、翼を持つ者たちだ。高空よりは米海軍の原子力空母より発進したF/A-18F"スーパー・ホーネット"、そしてF-14E"ストライクキャット"が急降下気味に厚い雲を突き抜けて現れ、群がる幻魔たちの頭上へ爆弾を叩き落としていく。
 そして低空、上陸部隊のほぼ真上といった低空を、凄まじいターボジェット・エンジンの雷鳴のような轟音を立てて過ぎ去っていく、十三機の翼を持つ人型の機影があった。強襲揚陸艦ヒュウガより発進したTAMS部隊、京都A-311訓練小隊と≪ライトニング・ブレイズ≫の十三機だ。
『頭は俺たちで抑える。ヴァイパー各機は俺たち四機から離れるな』
 編隊の先頭を往くのは、データリンク通信でそう呼びかける雅人のG型≪飛焔≫、愛美と省吾のC型≪閃電≫、そしてクレアの≪雪風≫といった、いずれも光を反射しない漆黒の色をした≪ライトニング・ブレイズ≫の四機だ。その後ろを、錦戸や一真を初めとしたA-311小隊の面々が続き、更に最後尾に慧たちハンター2小隊のAH-1S対戦車ヘリが追従するといった具合だった。
『ケツ持ちはしっかり頼んだよん、皆々様方ってね』
『更にそのケツ持ちがアタシらや、安心して突っ込みぃ』
 省吾が冗談めかして言えば、更に飛んでくるのは慧の関西弁だ。二人とも、それぞれ形は違うといえ場慣れしているからか、敵地突入の真っ只中だというのに緊張の色をまるで声に見せていない。
『ヴァイパー01より各機。我々はブレイズとともにこのまま突入、ヘルファイアとロケットの掃射で海岸線を一掃した後、着地します。
 ……03、綾崎さん。各機へ索敵情報のデータリンク共有を』
 A-311小隊の先頭付近を飛ぶ、黒灰色のJSM-13D≪極光≫より飛んでくる錦戸の指示に、瀬那は『03、心得た』と短く答える。
『ヴァイパー03、広域スキャニング・モードを前方指向で起動。データリンクでの共有を開始する』
 そうすれば、瀬那は自身の乗る、藍色をしたタイプF改の高感度センサー類をフル稼働。さらに前方のみに方向を絞った強力な索敵で得たデータを、HTDLC(高度戦術データリンクシステム)でA-311とブレイズ、他の十二機とリアルタイムで共有を始める。
『……ヴァイパーズ・ネストよりヴァイパー03、大型のみを絞る作業はこちらで行います。各機はマスターアームをオンに、突入準備を。到達三十秒前に米軍機による支援爆撃が行われますので、注意してください』
 指揮統制役のCPオフィサー、星宮・サラ・ミューア少尉の冷静沈着な薄い声が続けて聞こえれば、一真は「ヴァイパー02、了解」と短く返し。コクピットの正面コントロール・パネルにある火器安全装置、マスターアーム・スウィッチのトグル式スウィッチを、安全状態のSAFEから解除のARMへと指先で弾いた。
『……予想はしていたけれど、大物だけでも凄い数ね』
『ヘルファイア持ってきて正解だったみたいですね、クレアちゃんっ』
 そして、数秒後には大型種にのみ絞られて表示される敵の数と位置情報をコントロール・パネルのディスプレイ上に見たクレアが呟けば、愛美にそう言われ。続けてクレアはそれに『ええ』と返すと、
『場所を絞って撃ち込めば、これだけの数のヘルファイア、ロケットと一緒に使えば着地ポイントぐらいは開けるわね。
 ……サラ、誘導サポートはしっかり頼むわ』
『分かっています、ブレイズ04』
『ミサイルの有効射程、間もなく入りますっ!』
 クレアとサラの会話に割って入るみたいな美弥の報告が聞こえるのと、十三機がフライト・ユニットのパイロンに吊すヘルファイア・ミサイルが目標ロックの態勢に入ったのは、ほぼ同時のことだった。
「ターゲット・ロック……!」
 四発のランチャーを介し、十三機が各機八発ずつを吊したヘルファイア・ミサイルがそれぞれの目標に狙いを定め、ロック・オンしたという表示が、耳障りにも聞こえるアラート音とともにシームレス・モニタ内へ赤いターゲット・ボックスとなって映し出される。十三機が吊す全てのミサイルがそれぞれ別の目標を捉えていることは、サラの言葉を聞くまでもなく分かっていることだった。
『各機、交戦を許可します』
 そして、サラの言葉が聞こえると同時に。A-311もブレイズも、各々が握る操縦桿のミサイルレリース・ボタンを力強く押し込んでいた。
「ヴァイパー02、ライフル!」
 ライフル――対地ミサイル発射。
 その符号を一真が叫ぶと同時に、純白のタイプF改が背負う銀翼、そこにランチャーを介して吊されていた八発のAGM-114Lロングボウ・ヘルファイア対戦車ミサイルが火を噴き、白煙を軌跡としながらそれぞれ違った目標へと向けて凄まじい勢いで撃ち出されていく。
 一機につき八発という恐ろしいほどの量で、大量のヘルファイアが白い尾を引き海岸線に向けて吸い込まれるように飛んでいく。傍から見る分には綺麗な光景にも見えるが、しかし撃ち出した本人としては、どうにも複雑な気持ちにもなってしまう。
 そうしてA-311、ブレイズの各機から撃ち出されたヘルファイア・ミサイルは、その内幾つかはアーチャーαなどのレーザーによる迎撃で撃ち落とされてしまった。だが撃ち放ったヘルファイアの七割近くが海岸線に到達し、激しい火柱を上げる。吹き飛んだのはいずれもハーミットのような、厄介な連中ばかりだった。
『こちらヴァイパーズ・ネスト、ミサイルの着弾を確認』
『ブレイズ01より各機、ロケット斉射開始だ! 撃ちまくって俺たちの道を拓け!』
『ヴァイパー01、こちらも撃ち方を始めてください。着地ポイントが確保出来なければ、このまま海水浴になってしまいますから』
『米軍機、爆撃アプローチ開始を確認しましたっ!』
 美弥の声が響く中、ブレイズ、そしてA-311の全機が吊すハイドラ70無誘導ロケットが海岸線に向けて撃ち込まれていく。この調子で撃ち続けていれば、きっと終わる頃には海岸線の地形はまるで変わってしまうだろう。一真はそう思いつつも、しかし撃ち出されるロケット弾の描く光の軌跡を、綺麗だとすら思ってしまっていた。
 そうしている内に、二機の米海軍の艦載機、F-14Eストライクキャットが海岸線を横切るようにして、低空気味でアプローチを仕掛けていた。
 ギリギリまで引き付けてから、吊していた二千ポンド級のMk.84無誘導爆弾を投下。そうすればストライクキャットは急激に機首を上げ、アフター・バーナーを吹かしつつの急加速と同時に一気に高度を上げ、雲の上目掛けて離脱していく。その背後で巨大な爆発が巻き起こり、主にソルジャー種などの小型種を初めとした比較的柔らかい幻魔たちが、海岸線の地形と一緒になって一気に吹き飛んだのは言うまでもない。
『よし、海岸が開けてきた……! 各機、減速開始! 突っ込むぞ、俺たちブレイズが先陣を切る!』
 雅人の号令と同時に、ハイドラ・ロケットの斉射をやめたA-311とブレイズの編隊はフライト・ユニットのスロットルを緩め、エアブレーキを展開しつつ減速を開始する。着地すべき海岸、ミサイルや爆撃によって滅茶苦茶に吹き飛んでしまい、幻魔たちの死骸だらけで死屍累々といった様相を見せる淡路の海岸は、もうすぐ目の前にまで迫っていた。
「ここからが、正念場だ……!」
 一真はひとりごちりながら、自然と操縦桿を握る手に力が籠もってしまうのを抑えきれないでいた。今まで経験したこともないような激戦、遂にそこへ足を踏み入れたのだという実感と、そしてここからが本当の戦いなのだと認識したが故に抱く、一抹の緊張が故に。
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