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Execute.04:陰謀、そんなものは関係ない -Secret Intelligence Agency-
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追加の資料もひとしきり読み終えれば、零士もノエルも、二人とも大した言葉も発さぬまま、ただただ無言のままだった。
「……読み終えたようだね。まあ、色々と思うところもあるだろう」
そんな二人の様子を見て、資料に眼を通し終えたと気付いたシャーリィが、やはり口にマールボロ・ライトの煙草を咥え、吹かしながらで二人に向かってそう声を掛ける。
「思うところもあるだろうが、これが君ら二人の任務であるコトには変わりない」
「分かってるよ」と、ノエルが言った。「独りだったら自信ないけれど、レイと一緒なんだ。僕は大丈夫だって、そう確信してる」
「その意気だよ、ノエル」
ノエルの言葉にシャーリィはニッ、と小さく口角を釣り上げる。その後でシャーリィは煙草の灰をトントン、と吸い殻が山のように積み重なった灰皿の上に落とせば、半ばまで燃え尽きた煙草を咥え直し。そうしてから、顔色を急にシリアスな色へと戻し、二人に向かってこう告げた。
「こんな大それた陰謀を阻止することこそ、それこそSIAがSIAたる、最大の存在意義だ。
……今のこの世界は、微妙なパワーバランスの元で漸く成り立っている。それこそ、一セントの硬貨を乗せただけで。それだけで世界の天秤は、容易にバランスを崩してしまうんだよ」
「だからこそ、俺たちが動く」
真剣な表情のシャーリィに倣い、零士もまた表情を真顔に近いようなモノにしつつ。そう、彼女の言葉に付け加えるみたく言った。
「そうだろ、シャーリィ?」
「その通りだ。世界が保つ、私たちが護ってきた微妙な均衡を崩しかねないような存在を、『サイプレス』を許容するワケにはいかない」
サイプレス、その名は確かイトスギの別名だったはずだ。そしてイトスギの花言葉といえば「死」。或いは「絶望」……。
全く、どうしてこう皮肉が効いた名前を付けてくれたものだろうか。世界の様相を破壊しかねないウィルス兵器の名が、それが示す花言葉がそんなものだなんて。偶然かも知れないが、あまりに出来すぎていて。零士はそれを思うと、思わずフッと皮肉めいた笑みを浮かべてしまっていた。
「そして零士、ノエル。こんな困難な任務を遂行できるのは、SIAでも君たち二人しか居ないんだ。SIA最強のエージェント、コードネーム・サイファー。そして……ミラージュ。この任務は、君たち二人でしか成し遂げられない。
……君たち二人に、こんなことを押し付けてしまうのは、あまりに酷かも知れないが。零士、ノエル。世界の命運は、君たち二人次第なんだ」
後半の方を紡ぐシャーリィの口調は、まるで二人に対して詫びるかのような、切ない色をしていた。
そんな言葉を聞いて、ノエルが真剣な表情のまま、無言を貫く傍ら。零士はまたフッと皮肉めいた笑みを浮かべると、組んでいた脚を左右逆に組み直しながら、目の前の白衣を羽織る彼女に向かって言う。
「どんな陰謀があろうと、それで世界がどうなろうと。そんなもの、俺には関係ないし、知ったことじゃない。
――――だが、これがシャーリィ、アンタの命令であるのなら。これが俺たちの仕事であるのなら、俺はそれを果たすまでだ」
ニッと不敵な笑みを浮かべ、零士は言った。
すると、その隣でノエルもまた小さく微笑み。一瞬だけ隣の零士と横目で目配せを交わし合うと、彼の言葉に続き彼女もこんなことを口走る。
「僕も同じだよ、シャーリィ。世界がどうとかは、正直言ってどうでもいい。けれど、レイが行くって言うのなら。レイが行くのなら、僕はそれについて行く」
だって、もう彼と。彼と別れたくはないんだから。いつだって僕は、彼の背中を護る、護ってみせる。そう、決めたんだから――――。
笑顔のままに言い放った言葉の裏に、浮かべる笑顔の裏に。そんな意味をノエルが潜ませていれば、そのアイオライトの双眸が視る視界の中、シャーリィもまたフッと小さく笑った。「よかろう」と、何処か満足げに。
「じゃあ、早速だけれど。週明けぐらいには……そうだな、火曜日ぐらいには日本を発って貰う」
「で、目的地は?」
零士が訊くと、シャーリィは「慌てるな」とそれを制し。一呼吸の間を置いてから、それから二人に任地を告げた。
「場所はイタリアは南、地中海に浮かぶ美しきシチリア島だ。此処にリシアンサス・インターナショナル社が買収した製薬会社のラボがある。
そこでの君らの目的は、製薬会社ラボに保管されている『サイプレス』のサンプルと、膨大な研究資料の破壊。加えて、出来ることなら開発者・芙蓉誠一の抹殺だ」
――――新たな戦い、世界の命運を賭けた戦いが始まる地は、地中海に浮かぶ楽園。
激闘の幕が、開こうとしていた。椿零士、そしてノエル・アジャーニにとっての、運命の転換点となる、そんな戦いの幕が。
(Execute.04『陰謀、そんなものは関係ない -Secret Intelligence Agency-』完)
「……読み終えたようだね。まあ、色々と思うところもあるだろう」
そんな二人の様子を見て、資料に眼を通し終えたと気付いたシャーリィが、やはり口にマールボロ・ライトの煙草を咥え、吹かしながらで二人に向かってそう声を掛ける。
「思うところもあるだろうが、これが君ら二人の任務であるコトには変わりない」
「分かってるよ」と、ノエルが言った。「独りだったら自信ないけれど、レイと一緒なんだ。僕は大丈夫だって、そう確信してる」
「その意気だよ、ノエル」
ノエルの言葉にシャーリィはニッ、と小さく口角を釣り上げる。その後でシャーリィは煙草の灰をトントン、と吸い殻が山のように積み重なった灰皿の上に落とせば、半ばまで燃え尽きた煙草を咥え直し。そうしてから、顔色を急にシリアスな色へと戻し、二人に向かってこう告げた。
「こんな大それた陰謀を阻止することこそ、それこそSIAがSIAたる、最大の存在意義だ。
……今のこの世界は、微妙なパワーバランスの元で漸く成り立っている。それこそ、一セントの硬貨を乗せただけで。それだけで世界の天秤は、容易にバランスを崩してしまうんだよ」
「だからこそ、俺たちが動く」
真剣な表情のシャーリィに倣い、零士もまた表情を真顔に近いようなモノにしつつ。そう、彼女の言葉に付け加えるみたく言った。
「そうだろ、シャーリィ?」
「その通りだ。世界が保つ、私たちが護ってきた微妙な均衡を崩しかねないような存在を、『サイプレス』を許容するワケにはいかない」
サイプレス、その名は確かイトスギの別名だったはずだ。そしてイトスギの花言葉といえば「死」。或いは「絶望」……。
全く、どうしてこう皮肉が効いた名前を付けてくれたものだろうか。世界の様相を破壊しかねないウィルス兵器の名が、それが示す花言葉がそんなものだなんて。偶然かも知れないが、あまりに出来すぎていて。零士はそれを思うと、思わずフッと皮肉めいた笑みを浮かべてしまっていた。
「そして零士、ノエル。こんな困難な任務を遂行できるのは、SIAでも君たち二人しか居ないんだ。SIA最強のエージェント、コードネーム・サイファー。そして……ミラージュ。この任務は、君たち二人でしか成し遂げられない。
……君たち二人に、こんなことを押し付けてしまうのは、あまりに酷かも知れないが。零士、ノエル。世界の命運は、君たち二人次第なんだ」
後半の方を紡ぐシャーリィの口調は、まるで二人に対して詫びるかのような、切ない色をしていた。
そんな言葉を聞いて、ノエルが真剣な表情のまま、無言を貫く傍ら。零士はまたフッと皮肉めいた笑みを浮かべると、組んでいた脚を左右逆に組み直しながら、目の前の白衣を羽織る彼女に向かって言う。
「どんな陰謀があろうと、それで世界がどうなろうと。そんなもの、俺には関係ないし、知ったことじゃない。
――――だが、これがシャーリィ、アンタの命令であるのなら。これが俺たちの仕事であるのなら、俺はそれを果たすまでだ」
ニッと不敵な笑みを浮かべ、零士は言った。
すると、その隣でノエルもまた小さく微笑み。一瞬だけ隣の零士と横目で目配せを交わし合うと、彼の言葉に続き彼女もこんなことを口走る。
「僕も同じだよ、シャーリィ。世界がどうとかは、正直言ってどうでもいい。けれど、レイが行くって言うのなら。レイが行くのなら、僕はそれについて行く」
だって、もう彼と。彼と別れたくはないんだから。いつだって僕は、彼の背中を護る、護ってみせる。そう、決めたんだから――――。
笑顔のままに言い放った言葉の裏に、浮かべる笑顔の裏に。そんな意味をノエルが潜ませていれば、そのアイオライトの双眸が視る視界の中、シャーリィもまたフッと小さく笑った。「よかろう」と、何処か満足げに。
「じゃあ、早速だけれど。週明けぐらいには……そうだな、火曜日ぐらいには日本を発って貰う」
「で、目的地は?」
零士が訊くと、シャーリィは「慌てるな」とそれを制し。一呼吸の間を置いてから、それから二人に任地を告げた。
「場所はイタリアは南、地中海に浮かぶ美しきシチリア島だ。此処にリシアンサス・インターナショナル社が買収した製薬会社のラボがある。
そこでの君らの目的は、製薬会社ラボに保管されている『サイプレス』のサンプルと、膨大な研究資料の破壊。加えて、出来ることなら開発者・芙蓉誠一の抹殺だ」
――――新たな戦い、世界の命運を賭けた戦いが始まる地は、地中海に浮かぶ楽園。
激闘の幕が、開こうとしていた。椿零士、そしてノエル・アジャーニにとっての、運命の転換点となる、そんな戦いの幕が。
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