エージェント・サイファー

黒陽 光

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Execute.04:陰謀、そんなものは関係ない -Secret Intelligence Agency-

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「ここまでの流れで何となく分かっているとは思うけれど、あの噂は本当だ。グローバル・ディフェンス社の非合法部門は、現実として存在している」
 零士たちの顔で何となくどこまで読んだかを察していたらしいシャーリィが、マールボロ・ライトの煙草を吹かしながらでそう、冷たい顔をして言った。
「というか、その存在はSIA自体も前から知っていたことなんだ。別に何も問題はないから、今の今まで放置してきたんだけれどね」
 そんなシャーリィの言葉を聞きつつ、零士とノエルは更に資料を読み進めていく。グローバル・ディフェンス社の暗部について、その核心が記述されている一文を。
 ――――グローバル・ディフェンス社の非合法部門は、実在している。
 その規模について、SIAでも明確な数を把握しているワケではないが。少なくとも二五〇人程度……一個中隊規模が存在するのは、まず間違いないことで。末端の鉄砲玉めいた連中も勘定に入れるのであれば、一個大隊程度の人数は満たしているかもしれない。
 高度な訓練を受けたオペレータたちを中心にした、この非合法部門の傭兵たちを相手にすること。そんなこと、正直に言って特殊部隊を相手にするのと感覚的には変わらない。パリでの戦いとは比にならないぐらいの激戦になることは、二人が想像する前から既に明らかだった。
 だが、その非合法部門の傭兵たちの中でも、特に厄介と思われる二人。非合法部門の部隊長、及びその副官の二人がシャーリィの手でリストアップされ、零士が手にし、ノエルと一緒になって視線を落とすその資料の中に記されていた。
 まず一人目が、アンドリュー・エヴァンス。元英陸軍特殊部隊SASの曹長という経歴を持つ男で、非合法部門の屈強な兵たちを部隊長として束ね上げる強者つわものだ。仲間内での通称は、ファースト・ネームを短くして"アンディ"とある。歳こそ四〇をとうに過ぎたような年齢だが、イラクやアフガンの熱砂の砂漠、それに数々の表沙汰になっていない戦いをSAS時代に経験してきた、正真正銘の猛者もさだ。
 そして二人目が、副官の桑木達也くわき たつや。こちらは名前から察せられる通りに日本人なのだが、彼に関してはちょっと癖のある経歴があるようだ。
 桑木は日本人で、一般的な中流家庭の次男として生まれた男だった。だが高校時代に両親が離婚してしまい、その後は一体全体、何を思ったのか予定していた進学先を蹴っ飛ばし、そのまま陸上自衛隊に入隊している。
 陸自時代はライフル射撃などで特に優秀な成績を残していたらしく、それこそ陸自内部に存在する極秘特務部隊"特務班ゼロ"入りですら、水面下で期待されていたそうだが。しかし桑木は、その程度で収まる男ではなかった。
 毎日がスリルと興奮に満ち溢れるような、そんな刺激的な生き方を求めていた桑木には、言ってしまえば生温いような自衛隊のやり方は肌に合わなかった。入隊から数年で自衛隊を離れた桑木は海外に飛び、一時期はフランス外人部隊への入隊も考えていたそうだが。しかし結局はフリーランスの傭兵として東南アジアの紛争地帯へ、たった一人で飛び込むことを決意した。
 その後、桑木は紛争地帯を幾つも渡り歩き。人生の充実を感じていた頃、彼に転機が訪れた。アンディとの出逢いだ。
 彼にその実力を見初められた桑木は、すぐにアンディと打ち解け合い。そして最終的に彼にスカウトされる形でグローバル・ディフェンス社の非合法部門へと入り、今ではアンディの右腕として副官を務めているほどだそうだ。
「厄介だな……」
「そうだね、この二人は特に強そうだ」
 零士とノエルが、そう話すように。資料にザッと眼を通しただけでも、この二人は厄介極まりない相手だ。本音を言えば相手をせずに済みたいのだが、しかし零士もノエルも、共通して予感があった。彼ら二人と刃を交えることになるという、そんな予感が。
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