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Execute.02:巴里より愛を込めて -From Paris with Love-
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ひとまず隠れた薄暗い部屋を出て、二人は気を払いつつも二階の廊下を何食わぬ顔で歩き。順調に階段のすぐ傍までやって来たが、しかし不運に見舞われたのは丁度そんな折だった。
「――――おい、待てそこの二人」
後ろから、低い男の英語が聞こえてくる。立ち止まった二人が平静を装いつつ恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは黒人と白人、二人組の警備員だった。
(しまった、何処でミスった?)
『……済まない、君らの後ろにある十字路だ。丁度カメラの死角に入っていて、警告できなかった』
冷や汗とともに零士が内心でひとりごちるのと、インカムからミリィ・レイスの申し訳なさげな声が聞こえてくるのは、ほぼ同時だった。
「……レイ」
「皆まで言うな、何とか切り抜けてみせるさ……」
焦燥した横顔ながら気丈な声音でノエルに囁きかけられ、零士はそれに囁きで応じる。そうしている間にも警備員の二人は近寄ってきていて、また彼らが零士たちに注ぐ視線も、疑り深い色をしていた。
「こんなところで何をしてる」
「いやあ、ちょいと彼女をお手洗いに連れて行こうと思っていましてね。ですが生憎と道に迷ってしまって。丁度助けが欲しかったところなんです、助かります」
零士は何食わぬ顔で、ヘラヘラと作り笑いなんか浮かべて見せつつ言い返す。しかし警備二人の顔色はまだ、疑り深いような具合だった。
(見たところ、精々拳銃ぐらいか……。装備は大したことないな。この距離で不意打ちに対応出来る奴とも思えない)
この疑り深さと警戒心の強さは流石に民間軍事会社、グローバル・ディフェンス社の警備員というだけのことはある。後ろに控えた黒人の相棒が、さりげなく右腰のホルスターに手を掛けている辺り、こういった状況下の訓練もよく施されているのだろう。零士が不審な動きを見せれば、すぐに拳銃を抜いてホールドアップ出来るように身も心も構えているようだった。
(とはいえ、相手が悪かったな)
そう、彼ら自体の練度は決して悪くない。寧ろ高いぐらいだ。こんな所の警備に当てているのが勿体ないぐらいに優れた人材と云えよう。それこそ合衆国大統領のボディーガード、シークレット・サービスに着けても問題ないぐらいの高い練度の二人だ。
だが、それでも今回に限っては相手が悪すぎた。何せ今、彼らが相対しているのは、ただの人間ではない。SIAの中でも最強と噂される顔のない凄腕エージェント・サイファーと、そして新米ながら実力がある……らしいミラージュの二人なのだ。彼らには悪いが、此処で息の根を止めさせて貰う。
「……」
「……」
さりげなく零士がチラリと目配せをすれば、ノエルもまたほんの僅かに頷き返してくれた。
――――分かった、最悪の場合は僕がバックアップを。
彼女の頷きと視線には、そんな意図が込められていることを、零士は暗黙の内に汲み取り。そしてまた視線を目の前の警備員に向け直すと、ヘラヘラとした作り笑いを再び浮かべた。
「怪しいな……。悪いが、招待状を拝見できるか?」
と、零士から数メートルの距離にまで近づいてきた警備員が、招待状の提示を求めてくる。警戒心は深い。
「ええ、分かりましたよ――――」
ニコニコと笑みを絶やさず、零士は快諾し。そしてサッと右腰に手をやった瞬間――――漂う空気が、一気に赤く燃え上がった。
「ッ……!」
瞬間、零士の右手が姿を消した。警備員は違和感を感じた瞬間に、左の脇腹に火箸を突っ込まれたような熱い激痛を感じる。
神速の抜き撃ちだった。まるで西部劇に出てくる荒野のガンマンのように、零士が腰溜めに構えたPx4ストーム自動拳銃が火を噴き。サイレンサーで押さえ込まれた銃声を微かに響かせて、目の前に立っていた警備員の横腹を突き刺したのだ。
「ん、なくそ……!」
脇腹を撃ち抜かれた警備員は、しかし膝を折らず。尚も気丈に抵抗しようとホルスターに手を伸ばすが、
「!」
そのままの姿勢で零士がPx4を連射する。三発を腰溜めのまま続けざまに発砲し、腹に二発、胸に一発をブチ込む。一切狙いを付けない格好ながら全て致命傷に繋がるバイタルゾーンを撃ち抜かれたその白人警備員は、遂に力なく膝を折った。
「野郎っ!」
「遅い!」
零士が仕掛けたと同時に、後ろに控えていた黒人の警備員が罵声とともにホルスターからグロック19自動拳銃を抜き、構えた。崩れ落ちる最初の一人の向こう側から現れた零士と、構えた拳銃の銃口同士が交錯する。
Px4とグロック19、サイレンサーで抑えつけられた銃声と、耳をつんざく9mmパラベラム強装弾の激しい銃声とがほぼ同時に響き、共鳴し合う。
「――――ッ」
後ろの警備員がグロックから撃ち放った弾は、零士のすぐ傍を掠めただけだった。掠めた衝撃で散った髪の欠片が、ふわりと宙を舞う。
しかし対照的に、零士の視界の中では。グロックを構えていた男は浅黒い眉間に小さな紅い華を咲かせると、途端にバタリと崩れ落ちた。力なく倒れ、床に血溜まりを作り始めたその黒人警備員は、どう見ても即死だった。
「――――おい、待てそこの二人」
後ろから、低い男の英語が聞こえてくる。立ち止まった二人が平静を装いつつ恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは黒人と白人、二人組の警備員だった。
(しまった、何処でミスった?)
『……済まない、君らの後ろにある十字路だ。丁度カメラの死角に入っていて、警告できなかった』
冷や汗とともに零士が内心でひとりごちるのと、インカムからミリィ・レイスの申し訳なさげな声が聞こえてくるのは、ほぼ同時だった。
「……レイ」
「皆まで言うな、何とか切り抜けてみせるさ……」
焦燥した横顔ながら気丈な声音でノエルに囁きかけられ、零士はそれに囁きで応じる。そうしている間にも警備員の二人は近寄ってきていて、また彼らが零士たちに注ぐ視線も、疑り深い色をしていた。
「こんなところで何をしてる」
「いやあ、ちょいと彼女をお手洗いに連れて行こうと思っていましてね。ですが生憎と道に迷ってしまって。丁度助けが欲しかったところなんです、助かります」
零士は何食わぬ顔で、ヘラヘラと作り笑いなんか浮かべて見せつつ言い返す。しかし警備二人の顔色はまだ、疑り深いような具合だった。
(見たところ、精々拳銃ぐらいか……。装備は大したことないな。この距離で不意打ちに対応出来る奴とも思えない)
この疑り深さと警戒心の強さは流石に民間軍事会社、グローバル・ディフェンス社の警備員というだけのことはある。後ろに控えた黒人の相棒が、さりげなく右腰のホルスターに手を掛けている辺り、こういった状況下の訓練もよく施されているのだろう。零士が不審な動きを見せれば、すぐに拳銃を抜いてホールドアップ出来るように身も心も構えているようだった。
(とはいえ、相手が悪かったな)
そう、彼ら自体の練度は決して悪くない。寧ろ高いぐらいだ。こんな所の警備に当てているのが勿体ないぐらいに優れた人材と云えよう。それこそ合衆国大統領のボディーガード、シークレット・サービスに着けても問題ないぐらいの高い練度の二人だ。
だが、それでも今回に限っては相手が悪すぎた。何せ今、彼らが相対しているのは、ただの人間ではない。SIAの中でも最強と噂される顔のない凄腕エージェント・サイファーと、そして新米ながら実力がある……らしいミラージュの二人なのだ。彼らには悪いが、此処で息の根を止めさせて貰う。
「……」
「……」
さりげなく零士がチラリと目配せをすれば、ノエルもまたほんの僅かに頷き返してくれた。
――――分かった、最悪の場合は僕がバックアップを。
彼女の頷きと視線には、そんな意図が込められていることを、零士は暗黙の内に汲み取り。そしてまた視線を目の前の警備員に向け直すと、ヘラヘラとした作り笑いを再び浮かべた。
「怪しいな……。悪いが、招待状を拝見できるか?」
と、零士から数メートルの距離にまで近づいてきた警備員が、招待状の提示を求めてくる。警戒心は深い。
「ええ、分かりましたよ――――」
ニコニコと笑みを絶やさず、零士は快諾し。そしてサッと右腰に手をやった瞬間――――漂う空気が、一気に赤く燃え上がった。
「ッ……!」
瞬間、零士の右手が姿を消した。警備員は違和感を感じた瞬間に、左の脇腹に火箸を突っ込まれたような熱い激痛を感じる。
神速の抜き撃ちだった。まるで西部劇に出てくる荒野のガンマンのように、零士が腰溜めに構えたPx4ストーム自動拳銃が火を噴き。サイレンサーで押さえ込まれた銃声を微かに響かせて、目の前に立っていた警備員の横腹を突き刺したのだ。
「ん、なくそ……!」
脇腹を撃ち抜かれた警備員は、しかし膝を折らず。尚も気丈に抵抗しようとホルスターに手を伸ばすが、
「!」
そのままの姿勢で零士がPx4を連射する。三発を腰溜めのまま続けざまに発砲し、腹に二発、胸に一発をブチ込む。一切狙いを付けない格好ながら全て致命傷に繋がるバイタルゾーンを撃ち抜かれたその白人警備員は、遂に力なく膝を折った。
「野郎っ!」
「遅い!」
零士が仕掛けたと同時に、後ろに控えていた黒人の警備員が罵声とともにホルスターからグロック19自動拳銃を抜き、構えた。崩れ落ちる最初の一人の向こう側から現れた零士と、構えた拳銃の銃口同士が交錯する。
Px4とグロック19、サイレンサーで抑えつけられた銃声と、耳をつんざく9mmパラベラム強装弾の激しい銃声とがほぼ同時に響き、共鳴し合う。
「――――ッ」
後ろの警備員がグロックから撃ち放った弾は、零士のすぐ傍を掠めただけだった。掠めた衝撃で散った髪の欠片が、ふわりと宙を舞う。
しかし対照的に、零士の視界の中では。グロックを構えていた男は浅黒い眉間に小さな紅い華を咲かせると、途端にバタリと崩れ落ちた。力なく倒れ、床に血溜まりを作り始めたその黒人警備員は、どう見ても即死だった。
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