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Execute.02:巴里より愛を込めて -From Paris with Love-
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「ジルベール・シャンペーニュ、それにベアトリス・ブランシャールか……」
零士がひとしきり読み終えた後、封筒を渡されたノエルが同じくミリィ・レイスの用意した資料を読み込みながら。今回仕留めるべき標的二人の詳細を眺めつつ、深刻そうな顔でひとりごちていた。
「厄介だね」
そう言うノエルが視線を落とす先、手元にある資料には、丁度標的たちの顔写真が添付された詳細資料がある。ノエルはそれを見下ろしながら、やはりひとり深刻な面持ちで呟いていた。
――――ジルベール・シャンペーニュ、
フランスはパリ在住の資産家で、今回の任務に於ける零士とノエルの暗殺対象の一人だ。ここ五年ほどは貿易関係にも手を出しているようで、ミリィの調べによれば武器密輸などの非合法な黒い部分への関与も疑われているようだ。
添付されていた写真にあるシャンペーニュの容姿は、オールバック風の短い金髪にフレームレスのスマートな眼鏡を掛けているといった風。年頃は三〇代後半か四〇代ぐらいだろうか。ずる賢そうな、それこそ資産家と名乗るのに相応しいような、そんな小賢しい顔をしている。
とはいえ、こちらのジルベール・シャンペーニュに関しては特に脅威にはならないだろうとノエルは、そして零士も同様に判断していた。軍歴もなく、特にこれといって訓練を受けた形跡もない。二人の実力を持ってすれば、暗殺は容易な相手だ。
それよりも問題は、もう一人の女傭兵にある。
「ベアトリス・ブランシャール――――」
ノエルがひとりごちたその名は、シャンペーニュと共謀する傭兵にして、もう一人の暗殺対象の名だった。
ベアトリス・ブランシャール。女だてらに腕利きの傭兵として世界を股に掛ける腕利きの要注意人物だ。出身はフランスのようで、アラブ系かアフリカ系の移民の血が混じっているのか、添付された写真にある彼女の肌は浅黒かった。髪も黒く、身長は一七〇センチほどの長身らしい。
自前の傭兵部隊を率いる彼女は主に中東や東南アジアを中心として暴れ回ってきたらしいが、何故シャンペーニュみたいな資産家と組むことになったかについては不明なようだった。ただ、彼女とシャンペーニュが東欧でのテロ活動と情勢混乱、そしてそれに乗じたシャンペーニュのビジネス・チャンスを目論んでいることは明らかだ。
とまあ、ブランシャールの目的はさておくとしても。こちらに関してはかなりの脅威だとノエル、そして零士が共通して認識している。脇も硬いだろう。正面から行くにしても、殺すには骨の折れる相手だ。
ミリィの寄越してきた情報には、二挺拳銃の名手だと記述されている。あの狭い屋敷の中で二挺拳銃を振り回されてしまえば、かなり面倒になることは眼に見えている。
まして傭兵部隊を率いる身だけあって実戦経験も山のように積んでいて、殺しにも慣れている女だ。今回の主なターゲットといえば、彼女の方になるだろう。どのみちブランシャールと彼女の部隊が無ければ、シャンペーニュがテロの斡旋を画策することなど出来やしない。
「とりあえず、現段階で僕から君たちにあげられる情報はそのぐらいだ。また何か分かれば追加で連絡するけれど、多分これ以上は無いかな。あまり期待しないで欲しい」
「いや、助かるよミリィ。十分すぎるぐらいに良い仕事だ。ウィザード級の腕前は、まだ鈍ってないらしいな」
零士が礼を言うと、ミリィは「おだてないでよ」と表情はクールながら、しかし少しだけ照れたような仕草を見せる。
「……まあ、今日はそれを渡したかったんだ。要件はそれだけだから、僕はこの辺りでお暇させて貰うよ」
そして、ミリィは随分と短くなったフィリップ・モーリスの煙草を口から離せば、その火種を灰皿に押し付けて揉み消し。ハンチング帽を再び被りながら席を立つ。
「零士、連絡先は前のままかな?」
「ああ」立ち上がったミリィをほんの少しだけ見上げながら、頷く零士。「いつもの仕事用の携帯だ、前と変わらない」
「そうか、分かったよ。じゃあね零士、それにノエルも。仕事が無事に成功すること、僕も祈らせて貰う」
最後に、やはりクールな微笑みとともにそう言い残し。ミリィ・レイスはカフェから去って行った。
「レイ、この後はどうする?」
ミリィが去って行った後、封筒に収め直した資料をテーブルの傍らに置き、紅茶の残りに口を付けながらでノエルが問うてくる。それに零士は「そうだな」と頷いて、
「一旦、車を取りに戻ろう。予定通り、仕事現場の下見だ」
「うん、分かった。また運転は僕で良い?」
「ノエルに任せるさ。パリはどうにもおっかなくて、とてもじゃないが乗り回す気にならん」
「あはは……それは同感かも」
その後、ほんの僅かだけをカフェでゆっくり過ごし。二人は店を出ると、一旦セーフハウスのアパートの方へと戻ることにした。
零士がひとしきり読み終えた後、封筒を渡されたノエルが同じくミリィ・レイスの用意した資料を読み込みながら。今回仕留めるべき標的二人の詳細を眺めつつ、深刻そうな顔でひとりごちていた。
「厄介だね」
そう言うノエルが視線を落とす先、手元にある資料には、丁度標的たちの顔写真が添付された詳細資料がある。ノエルはそれを見下ろしながら、やはりひとり深刻な面持ちで呟いていた。
――――ジルベール・シャンペーニュ、
フランスはパリ在住の資産家で、今回の任務に於ける零士とノエルの暗殺対象の一人だ。ここ五年ほどは貿易関係にも手を出しているようで、ミリィの調べによれば武器密輸などの非合法な黒い部分への関与も疑われているようだ。
添付されていた写真にあるシャンペーニュの容姿は、オールバック風の短い金髪にフレームレスのスマートな眼鏡を掛けているといった風。年頃は三〇代後半か四〇代ぐらいだろうか。ずる賢そうな、それこそ資産家と名乗るのに相応しいような、そんな小賢しい顔をしている。
とはいえ、こちらのジルベール・シャンペーニュに関しては特に脅威にはならないだろうとノエルは、そして零士も同様に判断していた。軍歴もなく、特にこれといって訓練を受けた形跡もない。二人の実力を持ってすれば、暗殺は容易な相手だ。
それよりも問題は、もう一人の女傭兵にある。
「ベアトリス・ブランシャール――――」
ノエルがひとりごちたその名は、シャンペーニュと共謀する傭兵にして、もう一人の暗殺対象の名だった。
ベアトリス・ブランシャール。女だてらに腕利きの傭兵として世界を股に掛ける腕利きの要注意人物だ。出身はフランスのようで、アラブ系かアフリカ系の移民の血が混じっているのか、添付された写真にある彼女の肌は浅黒かった。髪も黒く、身長は一七〇センチほどの長身らしい。
自前の傭兵部隊を率いる彼女は主に中東や東南アジアを中心として暴れ回ってきたらしいが、何故シャンペーニュみたいな資産家と組むことになったかについては不明なようだった。ただ、彼女とシャンペーニュが東欧でのテロ活動と情勢混乱、そしてそれに乗じたシャンペーニュのビジネス・チャンスを目論んでいることは明らかだ。
とまあ、ブランシャールの目的はさておくとしても。こちらに関してはかなりの脅威だとノエル、そして零士が共通して認識している。脇も硬いだろう。正面から行くにしても、殺すには骨の折れる相手だ。
ミリィの寄越してきた情報には、二挺拳銃の名手だと記述されている。あの狭い屋敷の中で二挺拳銃を振り回されてしまえば、かなり面倒になることは眼に見えている。
まして傭兵部隊を率いる身だけあって実戦経験も山のように積んでいて、殺しにも慣れている女だ。今回の主なターゲットといえば、彼女の方になるだろう。どのみちブランシャールと彼女の部隊が無ければ、シャンペーニュがテロの斡旋を画策することなど出来やしない。
「とりあえず、現段階で僕から君たちにあげられる情報はそのぐらいだ。また何か分かれば追加で連絡するけれど、多分これ以上は無いかな。あまり期待しないで欲しい」
「いや、助かるよミリィ。十分すぎるぐらいに良い仕事だ。ウィザード級の腕前は、まだ鈍ってないらしいな」
零士が礼を言うと、ミリィは「おだてないでよ」と表情はクールながら、しかし少しだけ照れたような仕草を見せる。
「……まあ、今日はそれを渡したかったんだ。要件はそれだけだから、僕はこの辺りでお暇させて貰うよ」
そして、ミリィは随分と短くなったフィリップ・モーリスの煙草を口から離せば、その火種を灰皿に押し付けて揉み消し。ハンチング帽を再び被りながら席を立つ。
「零士、連絡先は前のままかな?」
「ああ」立ち上がったミリィをほんの少しだけ見上げながら、頷く零士。「いつもの仕事用の携帯だ、前と変わらない」
「そうか、分かったよ。じゃあね零士、それにノエルも。仕事が無事に成功すること、僕も祈らせて貰う」
最後に、やはりクールな微笑みとともにそう言い残し。ミリィ・レイスはカフェから去って行った。
「レイ、この後はどうする?」
ミリィが去って行った後、封筒に収め直した資料をテーブルの傍らに置き、紅茶の残りに口を付けながらでノエルが問うてくる。それに零士は「そうだな」と頷いて、
「一旦、車を取りに戻ろう。予定通り、仕事現場の下見だ」
「うん、分かった。また運転は僕で良い?」
「ノエルに任せるさ。パリはどうにもおっかなくて、とてもじゃないが乗り回す気にならん」
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