7 / 88
Execute.01:少年、ゼロの狭間に揺蕩う -Days of Lies-
/01-6
しおりを挟む
小雪と別れた零士が、独りVT250Fを走らせる。踊るタコメーターと連動して高鳴る鼓動のようなエンジン・サウンドを聴きながら走る街道は、既に陽が殆ど没していて。夕方と夜の境界線上に立たされた夕闇の中、零士はヘッドライトの光でその夕闇を切り裂きつつ、シャーリィに指定された先へと急いだ。
「……此処か」
そして、辿り着いた先は海沿いの工業地帯だった。東京湾を望む埠頭の外れに零士が辿り着いた頃には、すっかり辺りは暗くなっていて。しかし天高くそびえる幾多もの工場から煌々と照り付ける煌びやかな灯りが、零士の立つ辺りまでもを柔らかく照らしている。
そんな大工場たちの灯りを遠目に眺めながら、零士はエンジンを切ったVT250Fを手で押し。適当な人目に付きづらいところへバイクを隠せば零士はヘルメットを脱ぎ、そして自分のスクールバッグの中をおもむろに弄り始めた。
「今回の状況なら、これで十分か」
スクールバッグの奥の奥、中敷きの裏へ巧妙に隠していた仕事道具たちの姿がチラリと眼に映れば、零士はニヤリと釣り上がる口角を抑えきれない。
そんなスクールバッグの奥深くから零士の手で引っ張り出されたのは、一挺の拳銃と一本の折り畳みナイフだった。
――――シグ・ザウエルP220-SAO。
照り付ける大工場の煌びやかな灯りですら反射しないそれは、零士が好んで使う自動拳銃。名門シグ・ザウエル製の高精度にして信頼の置ける拳銃だ。大口径の.45ACP弾を八発収める弾倉を持ち、フレームにはアクセサリ取り付け用の20mmレールが彫られていて、延長された重心の銃口には、サイレンサー取り付け用のネジまでもが切ってあった。グリップパネルは、零士の趣味でローズウッド材の木製パネルに交換されている。
そんなP220-SAOのフレーム部分にあるレールに、零士は続けて取り出したシュアファイア社製のX300フラッシュライトを、そして銃口部には細長いサイレンサーをねじ込んだ。弾倉の中身を確認してから、スライドを引き初弾装填。親指でサム・セイフティを跳ね上げ、制服スラックスとベルトの間に差し込んでおく。
「……ま、コイツに頼る羽目にならないことを祈ろう」
呟きながら、零士が次に左尻のポケットに収めるのが、先に述べた折り畳み式のナイフだ。ベンチメイド社製のモデル・9050AFO。バネ仕掛けでブレードが飛び出す、所謂"飛び出しナイフ"という奴だ。切れ味と耐久性を両立したATS-34ステンレス鋼の優れたブレードを持つこのナイフもまた、零士の愛用品だった。
「さてと、面倒なおつかいに出掛けようか」
また独り言を呟きながら、そんな物騒な仕事道具を身に着けて。零士は薄暗い夜の工業地帯を歩き出した。
コツ、コツと、学園指定な安っぽい運動靴のソールがアスファルトの地面を叩く足音が小さく響く。人の気配がまるで無い、寂れたゴースト・タウンのような倉庫街の方へと足を踏み入れながら、一人分の足音が寂しく木霊する。
「……此処か」
そうして歩くこと五分少々。立ち止まりひとりごちる零士が見上げる先にあるのは、大きな倉庫だった。
まるで戦闘機を格納しておくハンガーのような大きさだ。屋根の高さも結構あり、建物で数えるなら二階建て半から三階建てぐらいの高さはあるだろう。そのぶんだけ幅も広く、かなりの量の物資を保管しておけるスペースがあることは疑う余地もない。それこそ戦闘機が丸々一機や、分解してしまえば大型の輸送機すら仕舞っておけるほどに。
だが、そんな倉庫の外壁には派手に赤錆が走っていて。安っぽいトタンか何かの壁材のあちこちに腐食で小さな穴が空いている辺り、寂れているといった形容の仕方が正しいような有様だった。明らかに長いこと使われていた形跡が無く、空き家ならぬ空き倉庫といった趣きだ。
「ま、居るよなやっぱり」
そんな空き家……もとい、廃倉庫だが、不思議なことに倉庫の電灯の一部が灯されているのが零士からも見て取れた。上の方にある小窓から、少しの灯りが漏れ出ている。シャーリィの情報によれば使われなくなって久しい倉庫らしいから、こんな風に誰かの気配があるのは明らかにおかしい。
使われていない倉庫に、誰かが居る。ということは即ち、例の引ったくり犯が情報通りに此処に居るということだ。潜伏しているのか、単に溜まり場にしているのか。
どちらにせよ、この状況は零士にとって好都合だ。これぐらいの閉鎖空間がおあつらえ向きに出来上がっているのならば、逃がすような下手を踏まずに済む。シャーリィが簡単な仕事と、おつかい程度だと言っていたのも頷ける。まして、相手はどう考えても戦闘技術のある相手ではないのだから尚更だ。
小さくほくそ笑みつつ、零士は倉庫の正面へと回り。閉まっている大きな扉をほんの少しだけ開け、廃倉庫の中の様子を覗き見、中から聞こえてくる会話に聞き耳を立てる……。
「……此処か」
そして、辿り着いた先は海沿いの工業地帯だった。東京湾を望む埠頭の外れに零士が辿り着いた頃には、すっかり辺りは暗くなっていて。しかし天高くそびえる幾多もの工場から煌々と照り付ける煌びやかな灯りが、零士の立つ辺りまでもを柔らかく照らしている。
そんな大工場たちの灯りを遠目に眺めながら、零士はエンジンを切ったVT250Fを手で押し。適当な人目に付きづらいところへバイクを隠せば零士はヘルメットを脱ぎ、そして自分のスクールバッグの中をおもむろに弄り始めた。
「今回の状況なら、これで十分か」
スクールバッグの奥の奥、中敷きの裏へ巧妙に隠していた仕事道具たちの姿がチラリと眼に映れば、零士はニヤリと釣り上がる口角を抑えきれない。
そんなスクールバッグの奥深くから零士の手で引っ張り出されたのは、一挺の拳銃と一本の折り畳みナイフだった。
――――シグ・ザウエルP220-SAO。
照り付ける大工場の煌びやかな灯りですら反射しないそれは、零士が好んで使う自動拳銃。名門シグ・ザウエル製の高精度にして信頼の置ける拳銃だ。大口径の.45ACP弾を八発収める弾倉を持ち、フレームにはアクセサリ取り付け用の20mmレールが彫られていて、延長された重心の銃口には、サイレンサー取り付け用のネジまでもが切ってあった。グリップパネルは、零士の趣味でローズウッド材の木製パネルに交換されている。
そんなP220-SAOのフレーム部分にあるレールに、零士は続けて取り出したシュアファイア社製のX300フラッシュライトを、そして銃口部には細長いサイレンサーをねじ込んだ。弾倉の中身を確認してから、スライドを引き初弾装填。親指でサム・セイフティを跳ね上げ、制服スラックスとベルトの間に差し込んでおく。
「……ま、コイツに頼る羽目にならないことを祈ろう」
呟きながら、零士が次に左尻のポケットに収めるのが、先に述べた折り畳み式のナイフだ。ベンチメイド社製のモデル・9050AFO。バネ仕掛けでブレードが飛び出す、所謂"飛び出しナイフ"という奴だ。切れ味と耐久性を両立したATS-34ステンレス鋼の優れたブレードを持つこのナイフもまた、零士の愛用品だった。
「さてと、面倒なおつかいに出掛けようか」
また独り言を呟きながら、そんな物騒な仕事道具を身に着けて。零士は薄暗い夜の工業地帯を歩き出した。
コツ、コツと、学園指定な安っぽい運動靴のソールがアスファルトの地面を叩く足音が小さく響く。人の気配がまるで無い、寂れたゴースト・タウンのような倉庫街の方へと足を踏み入れながら、一人分の足音が寂しく木霊する。
「……此処か」
そうして歩くこと五分少々。立ち止まりひとりごちる零士が見上げる先にあるのは、大きな倉庫だった。
まるで戦闘機を格納しておくハンガーのような大きさだ。屋根の高さも結構あり、建物で数えるなら二階建て半から三階建てぐらいの高さはあるだろう。そのぶんだけ幅も広く、かなりの量の物資を保管しておけるスペースがあることは疑う余地もない。それこそ戦闘機が丸々一機や、分解してしまえば大型の輸送機すら仕舞っておけるほどに。
だが、そんな倉庫の外壁には派手に赤錆が走っていて。安っぽいトタンか何かの壁材のあちこちに腐食で小さな穴が空いている辺り、寂れているといった形容の仕方が正しいような有様だった。明らかに長いこと使われていた形跡が無く、空き家ならぬ空き倉庫といった趣きだ。
「ま、居るよなやっぱり」
そんな空き家……もとい、廃倉庫だが、不思議なことに倉庫の電灯の一部が灯されているのが零士からも見て取れた。上の方にある小窓から、少しの灯りが漏れ出ている。シャーリィの情報によれば使われなくなって久しい倉庫らしいから、こんな風に誰かの気配があるのは明らかにおかしい。
使われていない倉庫に、誰かが居る。ということは即ち、例の引ったくり犯が情報通りに此処に居るということだ。潜伏しているのか、単に溜まり場にしているのか。
どちらにせよ、この状況は零士にとって好都合だ。これぐらいの閉鎖空間がおあつらえ向きに出来上がっているのならば、逃がすような下手を踏まずに済む。シャーリィが簡単な仕事と、おつかい程度だと言っていたのも頷ける。まして、相手はどう考えても戦闘技術のある相手ではないのだから尚更だ。
小さくほくそ笑みつつ、零士は倉庫の正面へと回り。閉まっている大きな扉をほんの少しだけ開け、廃倉庫の中の様子を覗き見、中から聞こえてくる会話に聞き耳を立てる……。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

夢の中でもう一人のオレに丸投げされたがそこは宇宙生物の撃退に刀が重宝されている平行世界だった
竹井ゴールド
キャラ文芸
オレこと柊(ひいらぎ)誠(まこと)は夢の中でもう一人のオレに泣き付かれて、余りの泣き言にうんざりして同意するとーー
平行世界のオレと入れ替わってしまった。
平行世界は宇宙より外敵宇宙生物、通称、コスモアネモニー(宇宙イソギンチャク)が跋扈する世界で、その対策として日本刀が重宝されており、剣道の実力、今(いま)総司のオレにとってはかなり楽しい世界だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる