SIX RULES

黒陽 光

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第六条(上):この五ヶ条を破らなければならなくなった時は――――

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 主装備をベネリM4自動ショットガンへと切り替えたハリーは、そのまま階段を探し廊下を突き進んでいく。
「――――悪いけれど、中の間取りまでは分からない。間取りに関するデータは、何処にも転がってなかった」
 そうして油断なく歩きながら、ハリーの頭の中で出発前にミリィ・レイスから告げられたそんな言葉が過ぎる。ハリーはこの屋敷の間取りをまるで知らぬままで、此処に乗り込んでいたのだ。
 一応、今まで通った場所は頭の中で地図を作っている。だが根本的な間取りが分からない以上、どうしても行き当たりばったり感は否めない……。
「出たとこ勝負、ってワケだ」
 そんな独り言をハリーが呟けば、その瞬間に背後から強烈な殺気を感じ。思わず膝立ちになりながら上半身だけでハリーが振り返ると、今まさに仕掛けようと一人の傭兵がサブ・マシーンガンを携え飛び出してくる所だった。
「良い勘してるな、俺!」
 奴が引鉄を引くよりも早く、ハリーの方がベネリM4をブッ放していた。12ゲージのダブルオー・バックショット散弾に胸を撃ち抜かれた男が派手に後ろへ吹っ飛んで、壁に激突すると後頭部を強打する。
 が、それに怯まず何人もの男たちが次々と押し寄せてきた。ハリーは「チィッ!」と大きく舌を打ちながら走り出し、手近に見えた厨房へと飛び込む。
 ゴロゴロと床を転がりながら厨房へとハリーが突っ込むと、しかし厨房の中に人の気配は無かった。道具が中途半端で放り出されている辺り、料理人たちは騒ぎに気付いて逃げ出した後なのだろうか。
「こっちだ!」
 と、そんなことを考えている間も無く、追っ手の連中が雪崩込んでくる。上手く弾を遮れそうなステンレスの調理台の裏へと隠れたハリーは、その横から半身と銃身を乗り出しながらほくそ笑んでいた。
(軍用規格の七発チューブ弾倉に、薬室に一発とゴースト・ロードで一発。合計九発で、残りは八発ってトコか……)
 ベネリM4の残弾を頭の中で反芻しながら、ハリーは奴らが飛び込んで来るのを今か今かと待ち構える。
 だが――――。
「っ!?」
 飛び込んで来たのは、敵の姿では無く。カランコロンと音を立てて床を転がる、破片手榴弾だった。
(ヤベえ……!)
 血の気が引くのを感じながら、ハリーは無自覚の内に引鉄を絞っていた。アレが爆発すればひとたまりもないという思いが、彼の身体を自然と動かしていたのかもしれない。
 だが、幸運なことに――敵にとっては不運なことに、ハリーが今構えているベネリM4が撃ち放つのは散弾だった。面を屠るように拡散する散弾は床を転がる破片手榴弾に命中し、その弾殻を出入り口の向こう側、廊下の方へと向けて思い切り吹き飛ばしてしまう。
 そして、廊下の向こう側から恐慌する悲鳴にも似た複数の声が聞こえた直後――――出入り口の向こう側、廊下の方で凄まじい爆発が巻き起こった。
 手榴弾の爆発だ。爆風と衝撃波がハリーの方まで伝わってきて、思わずハリーはステンレスの調理台の陰に身を縮こまらせる。爆発の衝撃波を浴びた厨房は天井に吊す蛍光灯の半分近くを割られてしまい、その破片がハリーにも頭上から降り注ぐ。
「危ねえ、危ねえ……」
 背中に浴びた蛍光灯の破片を振り落としながら、ハリーが恐る恐るといった風に調理台から顔を出す。此処から見えるだけでも、廊下が酷い有様になっているのが見て取れた。
「俺にとっての幸運の女神様とやら、随分と尻軽みたいで助かったぜ」
 冗談みたいなことを独り言で呟きつつ、ハリーはベネリM4を肩付けしたまま右手を放し、腹に巻いたシェルホルダーから取り出した一発のショットシェルをショットガンの下から突っ込み、補給しておく。こうして暇を見ては補弾出来るのが、従来型チューブ式弾倉のショットガンの利点だ。
「とにかく、階段を目指さないとだ」
 蛍光灯の破片を振り払いながら立ち上がると、ハリーは入ってきたのとは別の出入り口から厨房を後にしていく。
「っ!?」
 そうして再び廊下を歩き出したのも束の間、今度は曲がり角で敵の一団と鉢合わせしてしまった。
「ッ……!」
「うおっ!?」
 苦い顔を浮かべるハリーと、突然出くわしたことに驚く傭兵の男。二人揃って互いに銃口を向け合おうとするが、ハリーの方が数瞬速かった。
 ダァン、と重い銃声が木霊して、男の腹に対し超至近距離でベネリM4から撃ち込まれた散弾がめり込んでいく。腹の肉を文字通り吹き飛ばしながら男が激しく後方へと吹っ飛んでいけば、ハリーは間髪入れずに曲がり角から飛び出した。
 曲がり角の向こう側に居た四人を、ベネリM4の連射で一気に撃ち倒す。ダンダンダン、とハイテンポで連続して撃ち放たれる12ゲージ径ダブルオー・バックショット散弾の撒き散らす鉛玉の豪雨は、書いて字のまま死の豪雨、といったところだ。
 そしてハリーが七発全てを撃ちきり、ショットシェルのプラスチック製の空薬莢がカランコロン、と小気味の良い音を立てて床を転がる頃。彼の目の前に転がっていたのは、人だった何かとしか言いようがないぐらいにぐちゃぐちゃに引き裂かれた、ミンチのように砕けた人体四つ分の破片だった。
「ふぅ……」
 とりあえず一息つきながら、ハリーはその死骸を乗り越えて更に奥へと進んでいく。また銃床を肩に付けたまま右手を放し、ショットシェルの補弾も忘れない。一発は後退したボルトキャリアの間から薬室へ放り込んでおき、その後でチューブ弾倉に七発を装填。最後に両手を使い、一発を上手いことシェルキャリアを押し下げながら咥え込ませてボルトを前進させた。こんな具合に"ゴースト・ロード"のテクニックも使ったから、これで残弾は再び九発になる。
「さてと……」
 そうしてハリーは歩き続け、遂に二階へと続く階段を見つけ出すことが出来た。しかし――――。
「ウオォォッ!!」
 その階段の踊り場に隠れていた一人が、意を決してハリーの頭上から飛び込んで来る。「ぐっ!」と呻き声を上げながら、ハリーはそのまま床に押し倒されてしまった。
 上に跨がられ、マウントを取られた格好だ。ハリーは仕方なしに一旦ベネリM4から手を放すと、殴られる前に男の両手首を掴む。そしてそれをハンドルにするようにして上手く機転を利かせつつ、男の鼻先へ向けて思い切り頭突きを叩き込んだ。
「うぐうっ」
 鼻骨が折れ、仰け反った男が痛みで一瞬だけ隙を見せる。その隙を突いてハリーは渾身のちからで男の身体を投げ出し、逆にマウントを取る格好をしてみせた。
「ッ――――!」
 男の首を膝で押さえ付けながら、床に転がったベネリM4を手繰り寄せたハリーが咄嗟に階段の方へ振り向き、何発もブッ放す。すると、踊り場の向こうでハリーを撃ち殺そうと拳銃を構えていた四人が散弾を直撃を喰らい、吹き飛びながら絶命する。
「チッ」
 咄嗟の行動のために弾の消費も気にせず連射しまくったせいで、折角装填した九発を全て使い切ってしまった。
 ハリーは舌を打ちつつ立ち上がり、そうしながら床に転がる男の胸を靴底で踏みつける。そうしながら左手でシェルホルダーから取り出した一発を薬室に放り込み、ボルトストップを押し込んで薬室閉鎖。
「や、やめ……!」
 自らが何をされるか悟った足元の男が、今更ながらに命乞いをする。
「やめない」
 だが、ハリーは冷酷に引鉄を絞った。至近距離で12ゲージ散弾の直撃を浴びた男の顔面が文字通り吹き飛び、ハリーは頬に小さな返り血を浴びる。
「…………」
 その返り血をスーツジャケットの袖で拭いながら、ベネリM4へショットシェルを左手で再装填しつつ、ハリーは足元の死骸に一瞥もくれぬままに階段を駆け上がっていった。更なる敵の気配を、間近に感じながら。
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