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第五条:仕事対象に深入りはしない。
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「そ、そんな……っ!? そんな、そんなことって……っ!?!」
ユーリ・ヴァレンタインの口から"ワルキューレ計画"の全貌を、父・雄一と亡き母・優子が関わっていた次世代高度諜報システムの全貌を聞かされた和葉は、文字通り絶句していた。
――――まさか、パパとママがそんなことに関わっていただなんて。
動揺が隠せない。悪人相手に隙を見せちゃいけないのに、動揺が抑えきれない。心臓がバクバクと爆発しそうなぐらいに心拍数を上げ、呼吸は自然と荒くなってしまう。
(まさか、ママが死んでからパパがおかしくなった原因って……!?)
きっと、あの"ワルキューレ・システム"とやらのせいだ。今の時点で、和葉はそう確信していた。
話を聞く限りの、娘の立場としての単なる推測でしかないが――――きっと、父は死に物狂いだったのかも知れない。母が残した唯一の心残りともいえる、その"ワルキューレ・システム"の完成を何としても成し遂げる為に。
父すらも死んでしまった今となっては、二人が何を考えていたのか、その真相は完全に闇の中だ。
だが、きっとそうなんじゃないかと。和葉の中では、安心感にも似た奇妙な確信があった。親子だから分かるというか、娘だから分かるというか。両親の抱えていた秘密を知った今となっては、幼き頃に稀に母が漏らしていた不可解な言動も。そして、母の死後に狂ったようにおかしくなった父の行動も、その全てが腑に落ちてしまうのだ。
「どうだ、これで分かっただろう」
困ったような、哀しいような、怒るような、安心するような、安堵するような――――。そんな複雑な感情が渦巻き入り乱れて爆発し、知らず知らずの内に微かな涙すら流してしまっていた和葉の頭上から、さも誇らしげな風なヴァレンタインの声が降ってくる。
「それを私に説明して、この後はどうするつもりなのかしらね……!?」
そんなヴァレンタインの方を今一度見上げて、和葉は敢えて気丈な風に振る舞いながらそう言ってみせる。するとヴァレンタインは「決まってるさ」と小さく口角を釣り上げ、
「君の母が生前、君に託したモノを頂く。ワルキューレの岩戸を開く鍵を、"ノートゥングの鍵"をね」
「ママが……――――っ!?」
――――まさか。
そう思った直後、ヴァレンタインの手が無防備な和葉の胸元へと伸びる。そしてやはりというべきか、ヴァレンタインは彼女が首に提げていたペンダントを取り上げてしまった。
「返して、返してよっ!」
「これが君を攫った目的だからね、返すわけにはいかない」
涙目になりながら和葉は叫ぶが、しかしヴァレンタインはほくそ笑むのみで、まるで小さな子供を適当にあしらうような態度でニヤニヤと和葉に言う。
「返しなさいよっ! それは……! それは、ママが私に遺してくれた、たった一つの……っ!!」
「そう、君のママがたった一つ、残してくれた鍵だ。ワルキューレの固く閉ざされた岩戸を開く為の、私の為にある、ただひとつのね」
「違うっ!」叫ぶ和葉。「それは、それはそんなものなんかじゃ……!」
「見ていれば分かるよ、今にね」
最後にニッとほくそ笑めば、ヴァレンタインはくるりと踵を返し。丁度和葉の目の前にあった部屋の扉の方へと歩いて行ってしまう。
「それでは、私はこの辺りで失礼させて貰うよ。――――二人とも、彼女の監視は君らに一任するよ」
後の二人へ投げ掛けたその言葉を最後に、ジェーン・ブラントとかいう愛人にしか見えない女を伴いヴァレンタインはさっさと部屋から出て行ってしまった。
「なんで、なんでよ……っ!!」
出て行くヴァレンタインの白いスーツに包まれた背中を、和葉はただ、憎らしげな眼で見送ることしか出来なかった。その美しいルビーのような紅い瞳に、ほんの少しの涙をにじませながら。
ユーリ・ヴァレンタインの口から"ワルキューレ計画"の全貌を、父・雄一と亡き母・優子が関わっていた次世代高度諜報システムの全貌を聞かされた和葉は、文字通り絶句していた。
――――まさか、パパとママがそんなことに関わっていただなんて。
動揺が隠せない。悪人相手に隙を見せちゃいけないのに、動揺が抑えきれない。心臓がバクバクと爆発しそうなぐらいに心拍数を上げ、呼吸は自然と荒くなってしまう。
(まさか、ママが死んでからパパがおかしくなった原因って……!?)
きっと、あの"ワルキューレ・システム"とやらのせいだ。今の時点で、和葉はそう確信していた。
話を聞く限りの、娘の立場としての単なる推測でしかないが――――きっと、父は死に物狂いだったのかも知れない。母が残した唯一の心残りともいえる、その"ワルキューレ・システム"の完成を何としても成し遂げる為に。
父すらも死んでしまった今となっては、二人が何を考えていたのか、その真相は完全に闇の中だ。
だが、きっとそうなんじゃないかと。和葉の中では、安心感にも似た奇妙な確信があった。親子だから分かるというか、娘だから分かるというか。両親の抱えていた秘密を知った今となっては、幼き頃に稀に母が漏らしていた不可解な言動も。そして、母の死後に狂ったようにおかしくなった父の行動も、その全てが腑に落ちてしまうのだ。
「どうだ、これで分かっただろう」
困ったような、哀しいような、怒るような、安心するような、安堵するような――――。そんな複雑な感情が渦巻き入り乱れて爆発し、知らず知らずの内に微かな涙すら流してしまっていた和葉の頭上から、さも誇らしげな風なヴァレンタインの声が降ってくる。
「それを私に説明して、この後はどうするつもりなのかしらね……!?」
そんなヴァレンタインの方を今一度見上げて、和葉は敢えて気丈な風に振る舞いながらそう言ってみせる。するとヴァレンタインは「決まってるさ」と小さく口角を釣り上げ、
「君の母が生前、君に託したモノを頂く。ワルキューレの岩戸を開く鍵を、"ノートゥングの鍵"をね」
「ママが……――――っ!?」
――――まさか。
そう思った直後、ヴァレンタインの手が無防備な和葉の胸元へと伸びる。そしてやはりというべきか、ヴァレンタインは彼女が首に提げていたペンダントを取り上げてしまった。
「返して、返してよっ!」
「これが君を攫った目的だからね、返すわけにはいかない」
涙目になりながら和葉は叫ぶが、しかしヴァレンタインはほくそ笑むのみで、まるで小さな子供を適当にあしらうような態度でニヤニヤと和葉に言う。
「返しなさいよっ! それは……! それは、ママが私に遺してくれた、たった一つの……っ!!」
「そう、君のママがたった一つ、残してくれた鍵だ。ワルキューレの固く閉ざされた岩戸を開く為の、私の為にある、ただひとつのね」
「違うっ!」叫ぶ和葉。「それは、それはそんなものなんかじゃ……!」
「見ていれば分かるよ、今にね」
最後にニッとほくそ笑めば、ヴァレンタインはくるりと踵を返し。丁度和葉の目の前にあった部屋の扉の方へと歩いて行ってしまう。
「それでは、私はこの辺りで失礼させて貰うよ。――――二人とも、彼女の監視は君らに一任するよ」
後の二人へ投げ掛けたその言葉を最後に、ジェーン・ブラントとかいう愛人にしか見えない女を伴いヴァレンタインはさっさと部屋から出て行ってしまった。
「なんで、なんでよ……っ!!」
出て行くヴァレンタインの白いスーツに包まれた背中を、和葉はただ、憎らしげな眼で見送ることしか出来なかった。その美しいルビーのような紅い瞳に、ほんの少しの涙をにじませながら。
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