SIX RULES

黒陽 光

文字の大きさ
上 下
67 / 108
第五条:仕事対象に深入りはしない。

/5

しおりを挟む
「そ、そんな……っ!? そんな、そんなことって……っ!?!」
 ユーリ・ヴァレンタインの口から"ワルキューレ計画"の全貌を、父・雄一と亡き母・優子が関わっていた次世代高度諜報システムの全貌を聞かされた和葉は、文字通り絶句していた。
 ――――まさか、パパとママがそんなことに関わっていただなんて。
 動揺が隠せない。悪人相手に隙を見せちゃいけないのに、動揺が抑えきれない。心臓がバクバクと爆発しそうなぐらいに心拍数を上げ、呼吸は自然と荒くなってしまう。
(まさか、ママが死んでからパパがおかしくなった原因って……!?)
 きっと、あの"ワルキューレ・システム"とやらのせいだ。今の時点で、和葉はそう確信していた。
 話を聞く限りの、娘の立場としての単なる推測でしかないが――――きっと、父は死に物狂いだったのかも知れない。母が残した唯一の心残りともいえる、その"ワルキューレ・システム"の完成を何としても成し遂げる為に。
 父すらも死んでしまった今となっては、二人が何を考えていたのか、その真相は完全に闇の中だ。
 だが、きっとそうなんじゃないかと。和葉の中では、安心感にも似た奇妙な確信があった。親子だから分かるというか、娘だから分かるというか。両親の抱えていた秘密を知った今となっては、幼き頃に稀に母が漏らしていた不可解な言動も。そして、母の死後に狂ったようにおかしくなった父の行動も、その全てが腑に落ちてしまうのだ。
「どうだ、これで分かっただろう」
 困ったような、哀しいような、怒るような、安心するような、安堵するような――――。そんな複雑な感情が渦巻き入り乱れて爆発し、知らず知らずの内に微かな涙すら流してしまっていた和葉の頭上から、さも誇らしげな風なヴァレンタインの声が降ってくる。
「それを私に説明して、この後はどうするつもりなのかしらね……!?」
 そんなヴァレンタインの方を今一度見上げて、和葉は敢えて気丈な風に振る舞いながらそう言ってみせる。するとヴァレンタインは「決まってるさ」と小さく口角を釣り上げ、
「君の母が生前、君に託したモノを頂く。ワルキューレの岩戸を開く鍵を、"ノートゥングの鍵"をね」
「ママが……――――っ!?」
 ――――まさか。
 そう思った直後、ヴァレンタインの手が無防備な和葉の胸元へと伸びる。そしてやはりというべきか、ヴァレンタインは彼女が首に提げていたペンダントを取り上げてしまった。
「返して、返してよっ!」
「これが君を攫った目的だからね、返すわけにはいかない」
 涙目になりながら和葉は叫ぶが、しかしヴァレンタインはほくそ笑むのみで、まるで小さな子供を適当にあしらうような態度でニヤニヤと和葉に言う。
「返しなさいよっ! それは……! それは、ママが私に遺してくれた、たった一つの……っ!!」
「そう、君のママがたった一つ、残してくれた鍵だ。ワルキューレの固く閉ざされた岩戸を開く為の、私の為にある、ただひとつのね」
「違うっ!」叫ぶ和葉。「それは、それはそんなものなんかじゃ……!」
「見ていれば分かるよ、今にね」
 最後にニッとほくそ笑めば、ヴァレンタインはくるりと踵を返し。丁度和葉の目の前にあった部屋の扉の方へと歩いて行ってしまう。
「それでは、私はこの辺りで失礼させて貰うよ。――――二人とも、彼女の監視は君らに一任するよ」
 後の二人へ投げ掛けたその言葉を最後に、ジェーン・ブラントとかいう愛人にしか見えない女を伴いヴァレンタインはさっさと部屋から出て行ってしまった。
「なんで、なんでよ……っ!!」
 出て行くヴァレンタインの白いスーツに包まれた背中を、和葉はただ、憎らしげな眼で見送ることしか出来なかった。その美しいルビーのような紅い瞳に、ほんの少しの涙をにじませながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい

どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。 記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。 ◆登場人物 ・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。 ・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。 ・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

ドラゴンズ・ヴァイス

シノヤン
ファンタジー
前科持ち、無職、低学歴…誰からも忌み嫌われた少年”霧島龍人”は、謎の女性に導かれ未知の世界へと招かれる。現世と黄泉の狭間にある魑魅魍魎が住まう土地…”仁豪町”。そこは妖怪、幽霊、そして未知の怪物「暗逢者」が蠢き、悪意を企てる混沌の街だった。己の生きる意味は何か、答えを見つけようと足掻く一匹の龍の伝説が始まる。 ※小説家になろう及びカクヨムでも連載中の作品です

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

処理中です...